今回は三人称視点にしてみました。
第4Q、新入生チームの攻撃から始まる。マッチアップから確実性を取って緑間のスリーを選択し、これを決める。
そして帝光、いや虹村の攻撃。1度も止められていない攻め方を選ばない理由はない。
「まだやるか、懲りないやつめ」
「…………」
(……考えるのはやめだ。目の前の動きに集中しろ、経験が身体を勝手に動かす。初手の反応に全神経を尖らせろ……)
この時、無意識に白河は虹村と距離を取った。その気になれば、虹村は容易くシュートを打てるはずだが、全く打つ気配がない。一瞬、驚いた様子を見せたが疑問はすぐに警戒に変わる。
「あんなに離れてるのに、なぜ虹村さんは打たないのだよ?」
「んなもん見りゃわかんだろ、ワクの間合いに入ってっからだ」
「バカな……
「つーか、むしろさっきまでが近かったんだよ。向こうのPGにゼロ距離で守ってたの引きずっていつもより間合いが近くて反応が遅れてただけだ。それで無意識に感覚の狂いを自覚して考えすぎてやられてたってところか」
第3Qまでとの違いを察した虹村は、細かなフェイクを入れて様子を見てリスクを感じ取ったのかボールを戻した。消極的にも見えるが、勝っているのにわざわざ危ない橋を渡ることもない。
西園も同様に、攻撃の意思は見せつつもすぐには仕掛けてこない。パスを受けた他の上級生もアクションは起こさない。
(ン──……
ショットクロックが10秒を切った時点でボールを持っていた西園が仕掛ける。このままパスを回すだけでは埒が明かないと判断したからだ。
マークの赤司は常に自身の間合いを取り続けるのが上手く、どんな動きにも対応出来るディフェンスで臨機応変に守る。ただ、今回は僅かに隙を見せていた。
小さくクロスオーバーを刻みながら軽くジャンプ、着地と同時に一気に加速して左から抜きにかかる。
(ぶち抜いた!)
1歩目で赤司の横に並び、最高速度に乗りかけたところでボールを保持していた左手が空を切った。ボールは西園の前を横切り、赤司の手元へと跳ねる。
この
「ン──……マジか」
西園からボールを奪ったのは白河、単に横から弾かれたのだがこれに慢心や油断は決してなかった。
西園は赤司と右ウィングの位置で1on1を仕掛けて左側からドライブ、その瞬間をトップで虹村のマークに付いていた白河に狙われた訳だがその距離も優に
(まさか意図的に隙を作った? いや、それがどうであれ白河の守備範囲があれほど広いとは……)
異常に長いのは脚も同様。そこにフットワークの軽さとウィングスパンに大きな手も合わさり、一般的なプレイヤーよりも多くの選択肢を残したまま広い範囲を守ることが出来る。
(インターバルで何があったかは知らんが第3Qで虹村を止められずに生まれていた焦りが消えて、冷静さと集中力を取り戻している。俺とマッチアップしていた時よりも更に自身の長所を活かした本来のスタイルがこれか!)
そこからレギュラーチームは攻めあぐね、スコアが停滞する。白河の守備範囲を考慮して最も影響を受けないコーナーに虹村を配置。その逆サイドからの攻撃を試みるがそれでも白河の存在感は消えなかった。
ドライブ後の逆サイドへの
インサイドには187センチの緑間、2メートルの紫原のどちらかが必ず待ち構えている。2人への誘導を本能で察してセンスでこなす青峰と高いバスケットボールIQで制限する赤司が外のシュートを簡単に打たせない。
オフェンスの終わり方が悪いことで新入生はカウンターが増え、守護神の安達がゴール下に構える前に速い攻撃で楽に得点を重ねていく。
対称的な展開が続き、ジワジワと点差が詰まっていく。この流れに特に呑まれていったのはレギュラーの司令塔西園だった。
第3Q序盤でのマッチアップに先程のヘルプ、白河のディフェンス力を最も身をもって体感している彼のプレーに迷いが生まれ、持ち前の積極性を欠き、スピードに乗れない。司令塔の不調はチームにも伝達し、強気なアプローチが出来なくなっている。このような展開の為のエース・虹村は白河のディフェンスを抑えるために自身の攻撃機会を削られており、最大の個を潰されていた。白河がマークに付くだけで自然とボールタッチが減り、点を取る以前の状況に持ち込まれていた。
「ヒロ!」
西園のミドルジャンパーは赤司のチェックが入り、リングに嫌われる。しかし落ちたボールを必ず回収出来ていない。ゴール下で副主将の安達がリバウンドを奪い、捩じ込む。
「あ〜……鬱陶しい」
身長やウィングスパン、身体能力面では紫原にアドバンテージがある。しかし経験とフィジカル、細かな
平面のディフェンスが機能しているにも関わらずリバウンドを取れなければあまり意味を成さない。
「紫原、リバウンドを取るよりも安達さんを抑えることに専念してくれないか」
「え〜……」
「安達さんに取られなければこっちがリバウンドを取れる確率は格段に上がる。そしてそれが出来るのは唯一身長で安達さんに勝っている紫原しか居ない」
「そんなメンドーなことしなくても俺が勝てばいいんじゃん。大体、
リバウンド争いを避けることが敗北だと感じることも提案を拒む理由だろう。バスケットへの情熱はないが、プライドの高い彼がはいそうですか、と従うはずもなかった。
それを見て赤司も説得にかかる。
「劣勢で終盤を迎えてる今、優先されるのは個の思想ではない。それに、このまま挑み続けたところで安達さんを正面から出し抜くことは不可能だ」
「うるさいなぁ〜。試合はどうでもいいけどこのままやられっぱなしで終わりたくないだけだから、関係ないじゃん。俺が勝てば試合も勝てるでしょ」
聞く耳を持たない紫原をこのまま説得するか、諦めて他の方法をなんとか模索するか。いずれにしよ、素早く判断しなければならない。
「じゃ
「あまり図に乗るなよ?」
「……!」
「チームの勝利と個人の我儘、どちらが優先事項かは一目瞭然だ。どれだけプレイヤーとして優れていようと、チームとして害であるなら不要だ。今すぐこの場を去るか、黙って従うか選べ」
「 何言って……」
「……赤司?」
諭すような物言いから命令へと変わった。同時に2人は目の前の赤司が
「
「……ハァ、やっぱいーや。今回は譲るけど、負けたら承知しないかんね」
威圧に怯んだか、争うことが面倒になったのか紫原が折れた。
「白河、引き続き虹村さんへの警戒、それと隙を見てリバウンド争いにも加わってくれ。互いのセンターを無力化した状態なら君が最も確率が高い」
「……わかった」
「リバン!」
今回は紫原がボールに飛びつかず安達をリバウンド争いに絡ませない。代わりに緑間がリバウンドを抑え、カウンターに転じる。
センター以外がハーフコートを超え、速攻とはいかないがディフェンスが完全に整ってはいない状況、個で揺さぶればそこから崩せる。
「青峰」
マークがズレて虹村から開放された青峰、クロスオーバーで左右に揺さぶり、相手が付いて来れなくなった瞬間に切り込んで悠々とレイアップを決める。
これで72-81、点差を再び1桁に戻した。
「当たれ!」
赤司の指示でオールコートプレスをかける。ここで勝負をかけ、一気に追いつくつもりだろう。
「舐めるなよ!」
だが、即席チームでは連携が上手く取れないことを見越し、安達が青峰へスクリーンをかけ、虹村をフリーにさせる。青峰も懸命に追い縋るが、2人以上のプレーではやはり虹村に軍配が上がった
「ま、だろうな」
……かに見えたが、青峰はマークを剥がされないことではなくある位置に誘導することが目的であった。
前後左右、全方位への広大な守備範囲は場所を問わず牙をむく。虹村が見つけたスペースは彼のテリトリー。
「しまっ……!」
「赤司!」
白河がインターセプト、ボールはトップで構えている赤司の元へ。スリーを狙うが西園がブロックを狙う。
冷静にフロアを見渡し、胸の位置でボールを止めてゴール下へ弾丸パス。“完璧なパス”を受けた紫原はワンドリブルでゴールを向いてダンクを叩き込む。
「クソっ、貸せ! 俺が運ぶ」
素早くインバウンドを入れて西園の打開力にレギュラーチームは託した。それを見て白河がマークを代わる。他の4人が上がり、オールコートでの1on1。ここを抜いてしまえばスピードに乗った西園は止められない。
(守備範囲なんて関係ねえ! 懐をぶち抜けば
チェンジオブペースで一瞬の溜めを作り、右側から抜きにかかる。あっという間に接近して前に躍り出たが、ボールは失っていた。
「速いけど……入ったでしょ俺の
ボールを前に放ると、後ろから走り込んできた青峰が合わせ、リムに捩じ込む。
続くインバウンドでもスティール、緑間がスリーを決めて7連続得点。遂に1ポゼッション差にまで迫った。
だが時間は残りは30秒を切った。時間とスペースを使ってフロントコートへボールを運び、レギュラーは虹村に全てを託した。これに白河が真っ向から挑む。
「さて、
「ええ、そうですね……」
本当は今回で終わる予定でしたが詰め込みすぎるのも、と思ってここで切りました。
先の構想は浮かんでるので早く更新できると思います。
次回でやっと紅白戦終わります()