公子様に過労死寸前まで酷使されたので転職します   作:きのこの山 穏健派

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第六話 亀裂(きれつ)

 

 

 

時刻 18:05 モンド城 団長執務室にて

 

 

「さて、皆集まったな?」

 

 

日が落ちかけ、辺りは薄暗くなり、街灯に明かりが(とも)し始める時刻に差し掛かる。本来ならこの時間帯まで書類仕事や依頼などはやらず、夜間警備や明日の依頼の確認及び整理をして1日が終わるのだがそうはいかなかった....否、()()()()()()()()

 

団長執務室にいる面々の雰囲気は重い空気が漂っていた。

 

 

「ええ、今居るのはこれで全員よ」

 

「ん?アンバーとクレーがいないぞ?」

 

アンバー(飛行免許剥奪常習犯)なら団長が情報収集と捜索及び警戒に行ってるって聞いてないのパイモン(非常食)クレー(無自覚テロリスト)は分からないけど」

 

「・・・・なあ旅人、今ルビに悪意感じたぞ」

 

「それはそうと何があったの?」

 

「オイラを無視するなあっ!!」

 

 

栄誉騎士()は自身の頭をポカポカ叩くパイモン(空飛ぶ非常食)に目も呉れず、ジン団長に緊急召集された理由を聞く。

 

 

「つい先日、冒険者協会から行方不明者の捜索依頼が来た。行方不明者の名前はカルロス。冒険者歴は7年だそうだ」

 

「冒険者歴7年....ベテランじゃないか!」

 

ちょっと静かにパイモン(黙らねぇと喰っちまうぞ非常食)

 

「ピッ」

 

「・・・ごほん、ジン団長続きをどうぞ」

 

「あ、ああ....カルロスはヴァルベリー納品依頼を受けて望風山地に向けて出発したらしい。普段通りなら3時間と少しで帰ってくるそうなんだが....時間を過ぎても来なかった」

 

「・・・・・」

 

「翌日、一向に帰って来ないカルロスを心配したキャサリンがちょうど近くに行く冒険者に依頼したそうだ。結果カルロスの姿は無く、見つかったのは彼の私物の手帳だけだ」

 

「ヒルチャールとか宝盗団の襲撃を受けたの?」

 

「それが分からないんだ。だから今アンバーn」

 

「失礼します、偵察騎士アンバーです」

 

ジン団長が話そうとした時、扉がノックされる音が響き渡った。どうやらアンバーが戻ってきたようだ。

 

 

「ああ、入ってきてくれ」

 

「失礼します。ジン団長、望風山地での情報収集が終わりました」

 

「そうか、では状況報告を頼む」

 

「わかりました、ジン団長」

 

 

この場にいる全員がアンバーへ一言たりとも逃すまいと耳を澄ませた。普段の会議では考えられない....否、普段の会議でもそれ程騒がしくなく静かに行われていたが、この部屋には誰も居ないのではないかと錯覚してしまうほど静まり返るのは初であった。

 

 

「それでは、報告をさせて頂きます。まず望風山地ですが異様なほど静かでした」

 

「異様な?どういうことだ?」

 

「はい、普段であれば野鳥の囀り声や野生動物の鳴き声が聞こえる筈なんですが.....全くと言っていい程聞こえず、姿も見えませんでした」

 

「・・・・・そんな訳がないだろう。あそこには確かヒルチャールも」

 

「それがヒルチャールもいないんです」

 

「・・・なんだと?」

 

「しかもヒルチャールの生活跡すらもないんです....無論、行方不明者の生活跡も」

 

 

ーーーーーまるで初めから此処には誰も居なかったと思う程不気味でした。

 

アンバーの報告を聞いた面々は鳩が豆鉄砲ならぬボンボン爆弾を喰らったように驚いていた。驚くのも無理はない。なんせあそこには、かなりのヒルチャールがいたのだ。それが一瞬にして消えたと言われれば冗談でも言っているのではないかと思われてしまうのも無理はない。

 

若干一名はヒルチャールが居なくなったと聞いて「素材畑が消えた..だと!?」と別の意味で驚き嘆いていた。

 

 

「本当なのだな?」

 

「はい」

 

「・・・・他に変化はあったか?」

 

「いえ、特に何もありませんでした。周辺も(くま)なく探してみたのですが....すいませんジン団長」

 

「そうか...ご苦労だったな、アンバー。少し休憩して来るといい」

 

 

そう告げ、ジン団長はアンバーに休ませようとした時、アンバーの髪に何かがキラリと光った。

 

「あら?アンバー、いつの間にリボン以外の髪飾りを着けるようになったの?」

 

「え?なんのこと?」

 

「おいおい、こいつは驚いたな。とうとうアンバーにも春が来たってのかい?」

 

「? 今は夏だよ?」

 

「ガイアが言ってるのはそういう意味じゃないぞ旅人....」

 

「え?え??」

 

「アンバー、少し触るぞ」

 

「あ、はい」

 

 

ジン団長がアンバーの髪に触れると小さく硬い何かが手に触れた。そっと摘みだすと、それはーーーー

 

 

「ひっ!?蜘蛛!!?」

 

 

ちょうど人差し指にチョコンと乗るほど、とても小さく腹に赤い宝石が埋め込まれている蜘蛛の形をした装飾品だった。

 

 

「成る程。これが光を反射したのか」

 

「え?そうなんですか?」

 

「ああ、ところで此れに見覚えは?」

 

「ある訳ないじゃないですか!こんな悪趣味なもの付けたりしませんよ」

 

「そ、そうか」

 

「ええー....いつの間に付いてたんだろ」

 

 

まだ似たような物が付いていないか、髪を溶かすしながら確認するアンバー。ともかく彼女の物でないのなら紛失品として預かっておくべきかとジン団長が考えているとリサが近づいていき、手にしている蜘蛛の装飾品をじっと見つめていた。

 

 

「ん?なんだリサ?もしかしてお前のなのか?」

 

「いえ、そうじゃなくて....何処かで見た記憶が...」

 

 

「うーん、何処だったかしら」と首を傾げていると突然、扉が勢い良く開かれた。

 

 

「ハァハァ....すいませーん、ジン団長。遅れました!」

 

 

息が荒く、服装が所々乱れているクレーだった。恐らく、急いで来たのだろう。

 

 

「ハァ....クレー、何処行ってたの?」

 

「ううっ.....ごめんなさい」

 

「全く.....いい、クレー?貴女はn」

 

「あっ!!」

 

「ちょっと!クレー!!」

 

 

リサが叱責しようとしたがクレーはそんな事お構い無しにジン団長に駆け寄って行った。

 

 

「ジン団長、それ何処で見つけたんですか?」

 

「これか?まさかクレーの物なのか?」

 

「ううん、クレーのじゃないよ」

 

「なら何故知っている?」

 

「えーとね」

 

 

するとクレーはリュックを降ろし、アレでもないコレでもないと探し始めた、周りを散乱させながら。

 

 

「ちょっとクレー!話はまだおわt」

 

「あった!これだよジン団長!!」

 

 

クレーが取り出したのは『ヒルチャールでもヤバイ(本能的に)と分かる呪具大百科 〜特級編〜』と大々と書かれ、表紙のヒルチャールが某有名画のように両手を頬につけ、叫んでいるであろう本だった。

 

 

「・・・・・なんだこの巫山戯ている本は?」

 

「えっとね、その本にね、ジン団長が持ってるのと同じのがあったの」

 

 

そう言いながらパラパラと本を捲り、お目当てのページを見つけたクレーはジン団長に本を見せた。

 

 

「これだよジン団長!」

 

「・・・・・っ、これは!?」

 

 

本の内容は以下のように書かれていた。

 

『もしこの蜘蛛を見つけたから周囲を警戒せよ。()()が君を監視しているだろう』

 

『もしこの蜘蛛が自身の身体に付いていたならすぐさま振り払い、全力で逃げよ。()()が君の隙を狙い、連れ去るだろう』

 

『もしこの蜘蛛が髪に付いていたなら今すぐ踏み潰せ。さもなければ()()の忠実なる奴隷となるだろう』

 

『もしこの蜘蛛が瞳に宿っているなら手遅れだ。既に()()の勤勉なる奴隷となっているだろう』

 

『もしこの蜘蛛が()()に変身したならば、もはや逃げることは出来ない。大人しく()()の勇敢なる奴隷となり生涯を終える他ない、死にたくなければだが』

 

 

危うくアンバーが何者かの奴隷となる寸前だったと、理解したジン団長は持っていた蜘蛛の装飾品を外にも響き渡る勢いで踏み潰した。ジン団長以外の面々はビクリと驚き、硬直してしまっていた。

 

他に何か情報がないか一心不乱に読んでいると....己の目を疑うほどの()()()()()()が記載されていた。それを見たジン団長は驚きの余り....いや、()()()()()()()と否定していた....ワナワナと身体が震え、現実を、意味を知りたくないと。

 

 

「・・・・・どういうことだ」

 

「じ、ジン?貴女、震えt」

 

「なんでーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ーーーーーーファウルが載っているんだ」

 

 

 

 

洗脳姫と名前が記されている少女の隣に、まるで彼女を守らんとする騎士のように佇んでいる赤黒いデットエージェントの服を着たファウルの姿であった。

 

そして()に対してこう記されていたーーー

 

『洗脳姫の守護者にして“元”ファデュイ精鋭部隊『首狩り』の1人。もし彼に遭遇したのなら命は無いと思え。例え誰であろうと....仮に元仲間であろうと容赦なく処刑するだろう。故に洗脳姫からは、こう呼ばれていた』

 

 

ーーーーー愛しの処刑人、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻不明 ???? にて

 

 

 

 

「La〜La〜La〜LaLaLa〜La〜♪」

 

 

日が暮れ、夜のとばりを歓迎するかのように白髪の少女が、月明かりに照らされながら歌っている。側から見れば年相応のあどけない....守ってあげたいと思わせる姿だが、その必要はない。

 

少女の後ろに何十人もの護衛(奴隷)がいるのだから。

 

 

「La〜La〜LaLaLaLa〜La〜♪」

 

 

今宵は美しい満月が雲一つない星空に浮かび上がっている。まるで少女を祝福する(呪う)かのように。

 

 

「LaLaLa〜La〜♪....ふふっ」

 

 

歌い終えた少女はポケットからある物を取り出す。それは少女が持つには余り似合わない()()()()()()()だった。

 

 

「もう少し...あともう少しすれば会えるから待っててね。そうすればずっとあなたを愛し(壊し)続けてあげるから、ねぇ」

 

 

 

 

ーーーー私の愛しい処刑人(人生を奪った偽善者)

 

 

 

 

そして再び少女は歌う。

この胸に秘めた想い(復讐)をのせて。

 

 

 

 

 

 

 






『ヒルチャールでもヤバイ(本能的に)分かる呪具大百科』シリーズは初級編、中級編、上級編、特級編となっております。

初級編:対象の体調が多少悪くなる程度もしくは少し不幸が起きる(犬のフンを踏む等)。悪戯程度のレベルを引き起こせる呪具。

中級編:対象の体調が悪くなる程度もしくはそこそこな不幸が起きる(財布や家の鍵を紛失する等)。軽症レベルを引き起こせる呪具。

上級編:対象の体調をかなり悪化or簡易催眠もしくはかなりの不幸が起きる(強盗や事故等)。重症レベルを引き起こせる呪具。

特級編:対象の完全な隷属化or死に至らしめる程の体調悪化もしくは凶幸が起きる(殺傷や拉致監禁洗脳等)。死そのもの引き起こせる呪具。

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