キリのいいところまで書こうとしたら過去最高の文字数になりました。なんと一万字超えです。
病室で誠は一人考える。
(ミルタンクが死んだ。これは事実として受け止めるしかない。本音を言えば信じたくない。しかし実際に今この手の中にミルタンクの骨がある。ジョーイさん達がグルになってミルタンクが死んだことにした可能性もゼロではないが限りなく低い。あの村とは状況が違う。わざわざ手の込んだ真似をしてまでミルタンクを手に入れるメリットが思いつかない。骨の中に角もある。はっきりと覚えている訳ではないが確かミルタンクの角はこんな形だった。他のミルタンクの骨を用意してまで俺のミルタンクの生存を隠さなければならない状況が思いつかない。やはりミルタンクが死んだのは事実だろう)
誠はミルタンクが生存している可能性を考えるが幾ら考えても死を肯定する考えしか出てこない。
誠の人生において他人の死とは縁のないものでは無かった。祖父母はベビーブームと呼ばれる世代の人間だったためその兄弟姉妹は多く、今までに参加した親族の葬儀は2桁になる。また警察や保険会社という職業柄、事件や事故による遺体なんてものは見飽きるほど見ており解剖に参加したのも一度や二度ではない。当然家族を失い、残された者はそれ以上にもう数も覚えていない程に見てきた。そして何より、罪を追求する仕事をしてきたため、自分に罪を暴かれて自殺した人間もいる。最初は自分が追い込みすぎて殺してしまったのだと気に病んだ。しかし自殺した者の遺族と話して責められた時にふと気付いたのだ。
(なぜ俺が謝る必要があるのか。そもそも罪を犯したのは相手だ。そしておとなしく逮捕されればいいのに死を選んだのも相手だ。俺は真実を明らかにしただけで悪いことはしていない)
自分の行いは間違っていない。間違っているのは相手の方だ。一度気付いてしまえばもう気にならなくなった。直接的に死に誘導するようなことこそしなかったが、最終的に相手が死を選択したとしても、その後の事務処理が面倒だとしか感じなくなった。結果として他人の死はより身近なものになっていく。直接的に殺した訳でもなければ殺意があったわけでもない。それでも間接的に他人を殺めることに慣れてしまえば死への忌避感も薄れていく。そうなれば学生時代の友人だろうが警察の同期だろうが親族だろうが死んだとしてもまあ悲しいかなという程度にしか感じられなくなった。
普通の人よりも多くの死を見てきた。様々な死因の遺体を観察してきた。周りの者の死を受け入れても動揺しない精神を身に付けた筈だった。
なのにミルタンクの死を受け入れることができない。
しかし誠にはミルタンクの死を受け入れられない自分を受け入れることもできない。誠は今までの自分の人生に自信を持っている。両親と一緒に過ごせなかった幼少期、大した思い出のない学生時代、人を疑うことばかり覚えた警察時代、他人を追い込み間接的に死に追いやることを経験した会社員時代、その全てが今の自分を作り上げている。ミルタンクの死を受け入れられない自分がいれば、昨日までの他人の死を受け入れてきた自分を否定することになってしまう。今までに出会ってきた、家族を失って悲しみにくれるだけで今後の建設的な話がなにもできないと馬鹿にしていた遺族達と何も変わらない。たった一つの出来事で今まで積み重ねてきた自分が崩れ、変わってしまうことが許せない。優秀ではない自分の判断ミスでミルタンクを失ったのだと認める訳にはいかない
だが考えれば考えるほどに今までの自分が崩れていく。冷静で優秀だったはずの自分の根本が揺らいでいく。本当に優秀だったなら今なぜ自分は一人なのか。本当に冷静な判断ができていたのか。なぜ大切な者を失ったのか。ひたすらに自問自答を繰り返す。建設的な考えなどかけらもなく過去の後悔をただひたすらに。そしてようやく考えは収束していく。
なぜ瀕死の重傷を負ったポケモンが回復すると思っていたのか。
なぜ会って間もない村人を信用してしまったのか。
なぜ今の自分が独りなのか。
答えは簡単だった。
この世界を甘くみていた。それだけの事だ。
所詮は子供向けゲームやアニメの世界だと思って、自分の大切な物が失われるはずがないと勝手に決めつけていた。
ロケット団みたいな悪の組織ですら命までは奪わないと考えて、それ以外の人達を勝手に善人と思い込んでいた。
この世界にはポケモンがいるが元の世界との違いはそれだけだ。この世界には元の世界となんら変わらない人間が生活している。
元の世界と変わらない人間と文明があるのに悪人が居ない訳がなかったのだ。根本から勘違いをしていた。
急にこんな世界に来た所為で忘れていた。人間は嘘をつく生き物だと。人間は規律で縛られているだけで根は悪なのだと。
ここは日本となんら変わりない現実だ。ゲームやアニメのような生優しい世界ではなかったのだ。
誠の答えは間違いではない。常識を知らずに人を大して疑うこともない社会の悪意も知らない青年なんて者がいれば悪人からすれば格好の餌だ。しかしこの答えはミルタンクの死の責任を受け止めきれない誠が他の何かに責任を転嫁するための言い訳に過ぎない。ポケモンの死が自分だけの責任ではないと思うことができればその対象は何でも良かったのだ。誠はその責任の対象に世界を選んだに過ぎない。自分だけの責任ではない。今の誠が欲していた答えはこれだった。
だが誠なりの答えは出た。悶々としていたミルタンクの死の責任の所在が明らかになったことで誠は後悔に一先ずの区切りをつけた。これからの事を考えなければならない。
そんな誠がまず真っ先に考えたのは復讐ではなく自己保身だ。ミルタンクという唯一の支えを失ったことは誠自身が考える以上に大きな傷跡を残している。誠は奪うことよりもこれ以上奪われないことに重きを置く。
考えた末に出した結論はまずこの世界の知識を得ることだ。何も知らずに行動した結果がこれだ。対象を知らなければ予測も出来ない。
思い込めば単純な誠は行動を開始する。まずはジョーイさんを呼んだ。本当に近くの部屋にいてくれたのだろう。少し大きい声で呼んでみればまだ日も上らない時間なのにすぐに駆けつけてくれた。それだけの事で誠にはこのジョーイさんを信じてもいいかもしれないという考えが浮かぶが即座にその考えを振り払う。この世界に来て今までの自分を曲げて人を信じた結果が今なのだ。日本にいた時の自分通りならこうはならなかった。やはり今までの自分は間違っていなかったのだ。人を信じて大切なものを奪われるような阿呆に戻るわけにはいかない。信頼するのは利益で繋がれる相手だけで十分だ。
心配してくれるジョーイさんに若干の罪悪感を抱きつつも落ち着いたことを告げて、自分の治療とミルタンクを弔ってくれたことに礼を述べる。礼を口に出せばもうミルタンクが戻ってこないことを実感するが今は感傷は後回しだ。
まずは確認しなければならないことがある。そう治療費の問題だ。今の自分は正真正銘の一文無し。退院時に高額の治療費を払えなんて言われた場合、無銭で治療を受けたとして逮捕なんてことになりかねない。が、これはジョーイさんに聞けば無料とのこと。有難いことだがなんの理由もなしに無料ですと言われても信じ難いので理由を聞いたところ、ポケモンリーグの支援を受けてポケモンセンターの利用料金を無料になっているらしい。この世界は社会も経済もポケモンがいなければ成り立たない程にポケモンと密接に関わっているらしく、そのポケモンの治療や回復の技術を独占して金儲けをしようものなら社会そのものが破綻するそうだ。それに金の話をすると旅をしているトレーナーというのは旅先の町に金を落とす収入源であり、経済の循環という観点からポケモンリーグから保護の対象として扱われているらしい。問題点としては旅を推奨することで小さな町では少子高齢化が進んでいる事だそうだ。
実際にどこかの組織から金が出ていると分かれば安心できる。真っ先に金の話というのは情けない限りだが。
次に確認するのは現在地だ。これもジョーイさんに聞けば直ぐに分かった。現在地はクチバシティだそうだ。クチバシティと言えば豪華客船の港があることとジムリーダーがマチスであること、あとはおしょうというカモネギを交換してくれる人がいることしか覚えていないが……いやこの考えは駄目だ。ここはゲームじゃないきちんと確認しなければならない。なのでジョーイさんに町のことを聞いてみたところ町の特徴としては港があることとマチスがクチバシティのジムリーダーだということを教えて貰えた。そういう情報がゲームと現実をごちゃ混ぜにしそうなので以後気をつけよう。
そして難問はここからだ。今後の身の振り方を考えなければならない。最終目標はあの村の奴らを全員殺すこと、そしてこの世界で生き抜いて、可能なら元の世界に帰ることだ。だがそのためには先立つものが必要になる。戦力と金だ。戦力はポケモンを捕まえればなんとかなる。問題は金だ。一般的なトレーナーの金策を聞かなければならない。しかしこれには至極当然の無慈悲な回答が待っていた。町で金を稼ぐなら働くしかないと。当たり前の回答だった。働き口を紹介して貰えないかと聞いてもポケモンセンターはきちんと知識を持った人にしか手伝える仕事もないらしいし、そもそもジョーイさんの雇う権限もないと断られた。医療の仕事なのだからご尤もなお言葉だ。
一応トレーナー同士のバトルで金銭を掛けれるそうだが俺にはポケモンがいない。いたとしてもバトルの強さの基準が分からないので気軽には手を出せないだろう。
一応退院まであと一週間程を予定しているのでそれまでは問題ないとの事だが、今はそれが外にほっぽり出されるまでの期限にしか聞こえない。それまでになんとかしなければ。
今後を思い悩むとジョーイさんから他にポケモンは居ないのかと質問が飛んできた。よく考えるとボックスにポケモンがいるか確認していないことに気付く。恐らくボックスはないだろう。この世界の人間では無いのだ。だがこちらに来た時にポケモンを持っていたのだからもしかするとボックスもあるかもしれない。これは後ほど確認ということでジョーイさんには後で確認すると告げる。もしポケモンがいれば今後がかなり楽になるのだがあまり楽観的に考えない方がいいだろう。
最後にジョーイさんにこの地方のことを知りたいのでそういう事が書かれた本がないか尋ねると図書館があるとのことだった。図書館に行っていいかと聞くとあと3日は絶対安静と言われたので代わりに本を借りてきて欲しいとお願いしたところ夜はしっかりと眠ることを条件に了承してもらえた。知識は絶対に裏切らない力だ。勉強しておいて損をすることはない。特に法律関係の本は読んでおきたい。法律というのは作る奴と勉強している奴の味方だからだ。法律を知れば自ずと法の抜け道も分かる。どういった行為が罰せられるかを知ることはどこまでの行為なら罰せられないか、どんな行為なら罰に問うことができないかを学ぶことと同義だ。法や規則で身分が保障されている以上、法も規則も破りたくない。法を破っておきながら法の恩恵に与るのは難しいのだから、法を破るのは法で得られる権利を全て捨ててでも行動しなければならないと覚悟が決まった時だけだ。それに法律を学べば過去にどのような事件があってその法律が制定されたかも見えてくるものだ。法律が多いということはそれだけ過去の悪人が新しい手法の悪事を働いたということに繋がるので大まかな悪人のレベルと治安が分かる。日本のように六法全書や裁判の判例集、あとは裁判の判決に対する新聞社の反応の切り抜きなんかがあれば理想だ。だからこそ法令関係は自分の目でしっかりと見定めて本の選別をしたいので、これは退院してから自分で探すことにする。
ジョーイさんも部屋を出ていった。日が昇ればやることが舞い込んでくる。寝ぼけて間違った知識を覚えるなど唯の阿呆だ。日が昇るまで少しだけ横になろう。今なら少し眠れそうだ。
誠は自覚なく骨を抱えたままベッドに横になる。夜が過ぎていく。
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日が昇る。結局、誠はあれから一睡もできなかった。これまで4日間も眠っていたのだ。色々あったが結局は起きてから僅か数時間のこと。再び眠ることができる程ではなかった。
だが朝になれば状況が変わる。夜のようにおとなしくベッドに入っていなければならない訳でもない。点滴を付けたままベッドから立ち、体を動かす。背中が痛い。寝すぎて体が固まっている。後は左腕だ。言われていた通り殆ど動かないのに痒みとも痛みともつかない感覚だけは残っている。他に異常は感じない。筋肉痛がないのは意外だが4日もベッドで寝ていればその間に過ぎるものなのだろうか。
そんな病室を最初に訪れたのはジュンサーさんだった。夜のうちに登録をしてくれたそうでトレーナーカードを持ってきていた。ありがたく受け取る。トレーナーカードはカードというよりは手帳だった。写真と名前や出身地等が書かれ空いているスペースは多分バッジをつけておくのだろう8つの穴が空いている。トレーナーIDという10桁の数字が書かれている。何に使うのか聞くと各種施設の利用の時の身分証明とボックスを使用する際のログインに使用するらしい。このIDは今日発行されたばかりのものでこれをパソコンに打ち込むことで未使用のボックスを紐付けされて、以降はこのIDとパスワードでログインできるようになるそうだ。これでボックスの中にポケモンが入っているという可能性はなくなったが、新規開通のボックスには餞別として傷薬が一つ入っているらしいので退院したら取っておこうと思う。御礼を言うとジュンサーさんは何かこまったことがあれば言ってねと去っていった。もし法律に関して本を読んで分からないことがあれば聞きに行く事を選択肢に入れておく。
次に病室に来たのはジョーイさんだ。10冊くらい本を抱えている。なかなかに分厚い本もあるが何故かクチバシティの観光雑誌も混じっている。ジョーイさんなりのジョークかと思ったが、町の簡単な歴史なんかが書いてあるから持ってきたそうだ。だが流石に港の成り立ちなんかは覚えても役に立ちそうにない。もっと現代社会の成り立ちとかポケモンリーグの活動と歴史みたいな本が良かったのだが伝え方を間違えただろうか。よくみればほとんどがクチバシティの歴史に関するものだ。クチバシティの町会議の議事録が一番分厚いがこれは役に立つのだろうか。目を通さずに返却するのも悪いので流し読み程度には目を通そうと思うが、今後もジョーイさんに借りる本を任せるのは流石にまずいと分かる。1週間しかないのに港の歴史なんか学ぶ余裕はないのだ。何とかジョーイさんに頼み込んでリハビリということで介助にラッキーを一匹連れて行くことを条件に図書館に行くことを許可してもらえた。
とりあえず午前中はジョーイさんの借りてきた本を流し読みしてみたが、見事なまでに収穫はない。港の創設の歴史や豪華客船の停留地になるまでの外回りの努力なんかは読み物としては面白いのだが、今欲しい情報ではない。議事録も予算だの漁獲量と言った情報や港に停留する豪華客船に収益の大半を依存する町の経営が危険だという議論がある程度だった。強いて収穫を言うなら町長の罷免なんて話がなかったので町の中で派閥争いはなさそうだと分かったくらいだろうか。
とにかく図書館に行こう。ジョーイさんの借りてきた本とにらめっこしても収穫がない。ジョーイさんに声を掛けてラッキーを貸してもらい、ラッキーに案内されて図書館に行く。クチバシティの町並みは思ったより町って感じだった。客船が停泊する港があるのだから当然なのだが飲食店と土産物屋が多く、店の建物の二階が住居になっている建物が殆どだ。どうしてもゲームの町並みを思い出してしまうが、この考えは早く捨てないと致命的な失敗を犯してしまいそうな気がするので忘れるように努める。
目的地である図書館はちょっと大きめのプレハブ小屋だった。図書館というよりは役場の資料倉庫って感じだろうか。中に入れば申し訳程度に司書さんがいたが暇なのかうたた寝をしている。本を盗もうとする人がいたらこの女性だけで何とかできるとは思えないが口を挟むことでもないだろう。司書さんを起こして法律や歴史書の棚を教えてもらい本を探すがここで予想外の自体が起きた。歴史書はいくらかあるのだが、法律に関する本が二冊だけしかなかった。一冊は六法全書のような法令を纏めた本なのだがこれも数年どころではないくらい年季を感じるボロボロの状態だ。法律なんて毎年何かしら改定される。何十年も前の法律を勉強しても役に立たないわけではないがやはり最新版のものでなければ実践には堪えられない。何とか最新のものが欲しいので司書さんに最新のものがないか尋ねたところで更に驚愕の事実が判明する。この本が30年程前に発行されて以降、一度も法律が変わっていないらしい。法令に関する本は最新の物が発行されると各町に配布されるそうなのだが少なくとも今の司書になってから13年間は配布が来てないそうだ。ポケモンリーグ公認のジムがあるこの町に届かないということはありえないので30年前から法律が変わっていないということになる。そこまで言われるといっそ興味が湧いてくる。30年もの間何一つ変える必要のない法律というのがどのようなものなのかと。法令の本と歴史書を借りて病院に戻る。じっくりと腰を据えて法令を確認して穴を探しておかなければならない。頭の良い奴は法律の穴を上手く突いてくるのだから、そういう奴に騙されないようにこちらも穴を見つけておかなければならない。
それから3日間はとにかく本を読んだ。途中どれだけ恐怖を感じる内容があったとしても、難解な内容があったとしても目を皿にして全文に目を通す。
まず、歴史に関してはポケモンリーグの成り立ちについて学べた。ポケモンリーグの発足時期は明らかになっていないが当初の発足目的は簡単に言えば戦闘に意欲を示すポケモンの遊び場だ。トレーナーは黎明期には狩人として人に協力的なポケモンを従えて野性のポケモンを狩る狩人のようなことをしていたそうだ。その中で狩った野生ポケモンの中からトレーナーに付き従うポケモンが現れたが、そういったポケモンは定期的に戦闘をさせないと暴れることがあったらしい。その戦闘意欲解消の場として作られた会合が後のポケモンリーグとなっている。長い歴史の中でポケモンリーグはポケモンのストレス発散の場から真剣勝負の舞台となり、今では名誉あるチャンピオンを生み出す場となっている。主役がポケモンから人間に代わっていっている点を考えれば裏では結構な額が動いていそうだ。そしてポケモンセンターと警察機構はポケモンリーグの下位組織だ。ポケモンセンターはポケモンリーグからポケモンの回復手段の使用を委託され全国で活動しており、その費用は満額上位組織であるポケモンリーグから出ている。警察機構は元は狩人をしていたトレーナーが集まってできた自警団のようなものがポケモンリーグからの支援を受けるようになり、いつの間にか管理下に置かれた形だ。この二つの組織は日本で言えば全国展開の国営病院と公務員って認識でいいだろう。
次に問題の法律だ。これは本当に危うい。読めば読むほど理解し難い内容だった。
まずポケモンに関する法律だ。これはポケモンの飼育や取り扱いに関しての法律が大半だった。ポケモンの飼育に関して成長できる環境を用意することや面倒を見ること、簡潔に言えば捕まえたら放置なんかせずに責任持って育てましょうって内容を事細かに書いてあった。これは別にいい。
取り扱いに関しては工事や発電にポケモンを使う際の申請や労働時間。街中での飼育に伴うサイズ重量の上限設定。空を飛ぶや怪力を使用する際にジムを突破してトレーナーとしての力量を示すことなどが書かれている。これも別にいい。
というよりポケモンに関する法律はそれほどおかしくない。法的に人と同レベルの権利があるわけでもないが無機物レベルに権利が無い訳でもない曖昧でグレーな立ち位置なのが気にかかるが生き物を扱うなら法令の過大解釈がしにくいこのくらいの法律でいいだろう。
問題は人に関する法律だ。これがやばい。
はっきり言えば犯罪の要件も罰則もほとんど記載がなく、皆で助け合いましょうとか悪いことはしないようにしましょうとか幼稚園のお約束みたいな事が小難しい言葉で書かれているだけだ。これでは犯罪の線引きなんか有って無いようなものだ。過大解釈もやり放題でジュンサーさんやポケモンリーグのお偉いさんが黒と判断したら有罪。白と判断したら無罪だ。もし悪の組織がポケモンリーグのお偉いさんになればなんでもやりたい放題の凄い法律だ。しかも罰則の記載もない。死刑制度は無さそうだが文脈を見る限りは反省するまで拘留し続けますだ。極論を言えば、食い逃げみたいな軽微な犯罪でも反省してないと判断されれば終身刑もありえるし、殺人や国家転覆みたいな重罪でも反省したと判断されれば一日で外に出る可能性すらある。それの判断をするのもポケモンリーグと警察だ。そりゃ法律変えれるような権力者からすれば思い通りになんでも出来るこの法律を弄る必要なんかないだろう。
その上で判断に困るのはこの法律が人の善性に基づいたものかポケモンリーグという圧倒的強者の力で作られたものかだ。元の世界なら確実に後者だ。独裁国家にこういう法律はあるだろう。ただそれだとあまりにも町の人達が呑気過ぎる。どの世界にも現状に不満を抱く奴はいるだろうし、この世界にいるかは分からんが自称有識者みたいな奴がいればこんな爆弾放って置かないだろう。そういう奴は消されてる可能性もあるがさすがにこれはあまりにもだ。そうなれば前者の可能性もあるがそっちの方が国としては心配だ。下手したら法律として機能しないレベルだ。場合によってはできる限り人の世を離れて山奥で生活する方がいい可能性すらある。
悩ましいが流石に法律を変えるなんてのは無理だ。ポケモンリーグが強権を持っているのは分かったがその内部の組織図すら情報がない。この町に町長がいるくらいだから下手したら三権分立みたいになってて別組織が法律を作ってる可能性すらある。これはどうしようもない。
だがとりあえずあの村の事でジュンサーさんに相談するのは無しだ。襲われてポケモン奪われたとなれば逮捕は確実だが反省の判断をするのはあのジュンサーさんだ。生きるために仕方なくとか泣き落としでこられたらあっさり釈放しかねない。
ポジティブに考えればあの村を滅ぼしても奪われた仲間を取り戻すためとかミルタンクの仇討ちと泣きながら言えばあっさり釈放してくれる可能性もあるが。
とにかく法律については考えるのはやめよう。知識は得れたけど使えそうになかったで終わりだ。
法律があんなのだった所為で疲れが出てきた。まだ今後のことも何も決まってないのにこの有様だ。こんな様で本当にミルタンクの仇が取れるのだろうか。もう絶対安静の期間も終わって町に出る許可も出ている。本来なら賃金のために急いで仕事を探さなければいけない時期だ。今日はもう夕方だが明日からは一先ず目先の生活の為に仕事を探さなければならない。気が滅入る。
そう考えながら伸びをした誠の手に触れたのはトレーナーカードだ。何気なくトレーナーカードを眺める。ポケモンも持っていないのにトレーナーの証明書を持っているなんてのもおかしな話だ。バッジを付ける穴は8つあるが一つも付いているバッジがないのか物悲しい。ふと思う。本来なら皆とバッジを集めるために旅をして、この穴を埋めていったかもしれないと。現実にそうはならなかったのは理解しているが想像は膨らんでいく。やはり諦めきれない。あの村を滅ぼして皆を取り戻せばまだやり直せる。ミルタンクがいない以上あの頃には戻れないがまだやれることを全てやった訳では無い。なんならまだ何も行動してすらいないのだ。ミルタンクの骨を手に取る。この骨を見ると後悔と怒りが湧いてくる。まだやれる。どんなことをしてでもやってやる。
誠は決意を固め直してトレーナーカードを手に取る。まだボックスを確認していなかった。ポケモンはいなくともせめて使い方は確認するべきだろう。僅かな時間も無駄にしてはいけない。時間を無駄にした所為でミルタンクは死んだのだ。同じ失敗を何度も繰り返すつもりは無い。
ボックスを操作するパソコンはポケモンセンターの入口付近に設置されている。何故かキーボードは元の世界と同じ物だ。日本のことを思い出すが、それよりも文字が読めないから教えてくださいなんて聞く羽目にならなくて良かったという安堵が勝る。元の世界ではパソコンのケーブルを電話線に繋いでいた時代からパソコンに触れていたのだ。一応のプライドはある。
IDを打ち込みパスワードの設定をすればポケモン預かりシステムが起動する。ボックスを整理するのボタンを押す。
表示されたのはボックス1。
そこには大量のポケモンのアイコンが並んでいた。
誠君は一人では生きていけない兎系男子。でもそんな自分が嫌いでつい強がっちゃう。
可愛いですね。
作中の法律や機関の設定は大雑把に作ったものです。法律ガチ勢、ポケモン世界ガチ勢の方からすれば穴だらけだと思いますが、そこは二次創作ということでお目こぼし頂ければと思います。
でも矛盾についてはガンガン指摘してください。
今後の文章量について
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長い、もう少し分けろ(3000字程度
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良しこんなもんでいいぞ(5000字程度
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甘えんなもっと書け(10000字程度