とりあえず新しい就職が決まりましたので投稿を再開します。
今までと勤務時間とかも変わって慣れるまで投稿頻度は下がるかもしれませんがそこは目を瞑っていただきたいと思います。
一応次回投稿までの間隔は1週間を目途に考えています。
タマムシシティでのロケット団アジト強襲を終えて翌日。俺は今、再びマサラタウンを訪れている。マチスに要望していたオーキド博士への対談要望が通ったからだ。ポケモン研究の権威と呼ばれる程の人なので対談が叶うまでもっと時間が掛かると思っていたのだが、まさかマサキやシルフカンパニーよりも早く対談ができるとは思わなかった。
しかし実情を知ればそこまで不思議なことでもなかった。オーキド博士はポケモン研究の黎明期に結果を出してポケモン研究の先駆けとなった研究者だが、はっきり言って黎明期以降の研究の発展についていけていない。
個人的に唯一の成果と考えていいのはポケモン図鑑の開発くらいだ。ポケモンはそれぞれの種類によって内容の異なる微弱な電磁波のようなものを常に放出しているらしく、ポケモン図鑑はその電磁波を読み取り、図鑑内のデータを参照して表示する機械らしい。
ポケモン図鑑開発以外の研究の内容は科学的、技術的な観点は殆ど無く、根性でポケモンの生活をひたすら観察するというもの。ポケモンリーグの歴史を考えれば遥か昔からポケモンはいた筈だが、一緒に生活するとかひたすら観察するということをやった研究者がオーキド以前にいなかったのが驚きだ。当然、書かれた論文や研究内容も各ポケモンの生態や習性に関するもの。俺が知りたかったのはポケモンという生き物が遺伝子上どのような生物なのかという事とモンスターボールがどのような原理でポケモンを捕獲するかであって、ポケモンの習性ではない。
事前情報でがっかりしながらも実際に会ってみたが、実態は研究者というよりもポケモン大好きおじさんだ。ポケモンの習性を観察するためと称してポケモンと一緒に生活してそれをレポートとして書いているだけ。正直に言えば隠居した爺さんがポケモンと生活して日記を書いているだけにしか見えない。話をしてみてもポケモンの生態は興味深いだのポケモンは不思議に包まれているだの言うだけで実になる話どころか分かっていることすら殆ど無い。
ポケモンの育成について話をさせられることも想定していたが、ポケモンはそれぞれが望む環境で伸び伸びと育てるのが良いという方針らしく、ポケモンを育てて強くするということに関しては研究対象としていなかった。なんでもポケモンを育てることに関しての研究は研究者の中では禁止事項という暗黙の了解があるらしい。ポケモンの成長の原理や強くする手段を確立してしまうとそれ以降のトレーナーがその育て方しかしなくなり、ポケモンの個体差や本来の習性などを無視する可能性があるからだとか。
ポケモンリーグの理念と相反している気もするが、それでもオーキド博士とポケモンリーグにつながりがあるのは、オーキド博士が強いトレーナーを見出す能力に長けていると言われているからだ。元チャンピオンのレッドと現ジムリーダーのグリーンを見出したということでポケモンリーグからも一目置かれている。個人的にはたまたま研究所をマサラタウンに立てたオーキド博士よりも数少ない子供の中からレッドとグリーンを輩出したマサラタウンという土壌に目を付けた方が良いとは思うが。
結局、事前情報で薄々分かっていた通り、確認したい事は全く聞くことが出来ずに対談は終了した。望む情報が得られるのなら二日でも三日でも話をするつもりだったし、何なら研究の手伝いもできる範囲でするつもりだったが、結果は半日程度で対談は終わり。もうオーキド博士に会う事も無いだろう。
強いて成果と言えるのはポケモン図鑑を貰ったくらい。便利は便利だが既にルビーサファイアくらいまでのポケモンの大半を憶えている身としてはそこまで必要な物でもない。そのポケモン図鑑も既にデータが入った誰かのお古。しかもデータを確認した中に一匹だけ気になるデータが登録されている。
No000 けつばん
初代ポケモンではバグを使った場合にのみ入手できたポケモンだ。もしかすると未発見のポケモンを図鑑に読み取らせた場合に表示されるのかもしれないがオーキド博士に尋ねれば未発見のポケモンでもこのような登録にはならないらしい。ならば図鑑の元の持ち主は誰かと聞けば元チャンピオンレッドがチャンピオンを辞めた際に返納されたものだそうだ。
考えられる可能性は三つ。一つはこの世界にけつばんというポケモンが存在している可能性。だがこの可能性はほぼゼロ。そもそも図鑑を作ったオーキド博士が知らない時点で図鑑に登録することなんてできない。
二つ目はポケモン同様に俺が図鑑を持ったことで何らかの影響を与えてバグが発生した可能性。特に問題はないがもしこれならポケモンの異常を解決するための手がかりになるかもしれない。
最後はレッドが図鑑に何かをしていた場合。機械をいじって壊しただけなら問題は無い。しかしもしレッドが何らかの手段でけつばんを出現させたなら話は変わってくる。けつばんは本来この世界にいないだろう存在。ゲームにおけるバグをこの世界で出現させるとすれば手段も影響も一切が不明。望み薄ではあるが元の世界に帰るヒントが得られる可能性はある。現状では根拠と言えるものもないが、けつばんを知るレッドがもしかすると同じ境遇である可能性もある。そうなれば協力体制が敷けるかもしれない。あくまで可能性でしかないが。
少々気にかかることはあったが、オーキド博士との対話は大した結果が得られずに終わったのは事実だ。ポケモンの謎の不調に関しては他の研究者やマサキ、シルフカンパニーなどに期待するしかなくなった。
今の時刻は正午前後。できることは色々とあるがせっかくマサラタウンまで来たのだから近くのジムへの挑戦だろうか。南に行けばグレンジム、北に行けばトキワジムとニビジムがある。近さだけならグレンジムかトキワジムだがゲーム終盤のイメージの所為かどうも強いイメージがある。いずれは挑戦しないといけないが今である必要はない。ただしグレンジムもトキワジムもそれぞれメリットはある。
まずグレンジムはリーダーのカツラが元研究員という設定であること。うろ覚えだがミュウツーを生み出すための研究に参加していたとかだったはずだ。オーキド博士と違ってポケモンを遺伝子的に研究していたなら望む話が聞ける可能性がある。ただし話をするにも基礎知識がないので最低でも数日から数週間、場合によっては数か月単位で通って勉強する必要があるかもしれない。
トキワジムに行くメリットは地面タイプのポケモンの使い方の確認。ゲームならじしんやじわれなんかの使える技があったが、この世界だとそれらの技が封印されている。覚えている範囲だとまともに使えそうな技があなをほるとすなあらしくらいしかない。個人的に地面タイプは相手の有利なフィールドを破壊するという点ではかなり重宝しそうな気がする。ドザエモンがいるので地面タイプの戦い方というのを確認しておきたい。ただしこれはトキワジムに限った話ではない。グレンジムなら炎をニビジムなら岩をセキチクジムなら毒をそれぞれの使い方を知りたい。
暫く悩んだ末に出した行先はグレンジム。相応の時間が掛かるとしても今ある悩みの一つを解消できる可能性を考えた結果だ。つくねを出してグレンタウンに飛ぶ。
数十分空を飛んで辿り着いたグレンタウンは言葉を繕わなければ寂れたとか廃れたという言葉がしっくりくる。いくらかの民家はあるが生活感どころか人の気配すらなくポケモンセンターが一軒建っているだけ。かつてはそれなりに人がいたが廃れて人が離れていった雰囲気が漂っている。そして一番の問題は目的のジムが無いことだ。グレンジムというからにはグレンタウンにあるはずだがどういう事だろうか。
仕方なくポケモンセンターに入ってジョーイさんに話を聞けばグレンジムは火山の噴火で消滅したので今はふたごじまに移設したらしい。そんな噴火の記録のある火山の麓にポケモンセンターを残しているとはその決定をした人は何を考えているのだろうか。そんな場所で笑顔で接客ができるジョーイさんも何か思うことはないのだろうか。
ともかくジムが移設したのならもうこんなところに用はない。ジョーイさんに礼を言って今度はふたごじまへと飛ぶ。最初はカツラに話を聞きつつジム挑戦をするだけのつもりだったが、ふたごじまとなれば確認しておきたいことがある。
ゲームでは固定エンカウントだった伝説と準伝説のポケモンがこの世界ではどうなっているのかだ。ふたごじまの洞窟の内部構造なんか覚えてないのでしらみつぶしに探すことになるが、もしかするとフリーザーがいるかもしれない。もしフリーザーがいるのであれば既に誰かが発見していそうな気もするが一応確認しておきたい。今はまだ確認すらできていないがいつか俺のフリーザーが自然に生きたいと望むならふたごじまのフリーザーは邪魔になる恐れがある。その時に始末する為にも存在の確認は必要だ。当初の予定からは外れるがいつか直面する問題の解決策を事前に用意できるならしておいた方がいい。
そんなことを考えながら空の旅を楽しんでいる内にふたごじまに到着した。これがまた見事に何も無い。一応グレンジムと数件のプレハブ小屋があるが後は山だけ。他のジムはそれなりの大きさの町に建てられて自治のような活動をしていたがこんな場所でそんな活動ができるとも思えない。ジムの設立場所に関して規定があるのかは分からないがグレンタウンやふたごじまのような辺境の地を選ぶ理由が分からない。グレンジムだけ他と比べて異質な感じがするがジム設立当時の担当者が金でも握らされたのだろうか。
そんなどうでもいいことを考えつつもグレンジムに入れば視界に広がるのはむき出しの岩。粗削りの鋭い石柱が立ち並ぶ様は鍾乳洞に近い。
(岩? 炎のジムだから最悪溶岩があるくらい想像してたが……洞窟内部でも表現してるのか? ゲームでもこんなんだったか? なんかもっと研究所みたいなイメージがあったが)
ジム内の様子をまじまじと眺める誠に白衣を着た一人の男が声をかけてくる。
「やあ、ジム挑戦かい?」
「ああ、はい、まあそうですね」
「そうかい。じゃあルール説明をしてもいいかな?」
「お願いします」
「このグレンジムには五人のジムトレーナーがいるから、皆が出す問題に答えてね。正解するかバトルで勝てば先に進めるよ」
「はあ、問題ですか」
「そうだよ。簡単な問題ばかりだし、間違えてもバトルで勝てばいいからね」
「分かりました」
「じゃあ早速第一問! キャタピーは進化するとバタフリーになる! はいかいいえで答えてくれ!」
「間にトランセルが挟まりますけど最終的にはバタフリーに進化しますね」
「はいかいいえで答えてくれ!」
「じゃあ、はいで」
「正解! 先に進んでいいよ!」
「……あの……」
「なんだい?」
「さっきみたいな言葉遊び交えた問題っておかしくないですか? 進化したらトランセルだとか言ってバトルになりそうなんですけど。そんな問題ばっかりなんですか?」
「まあ……言いたいことは分かるんだけどね。僕らもカツラさんが考えた問題を出してるだけだから……」
「……大変ですね」
「そうなんだよ。カツラさんは良い人で尊敬できるんだけどセンスに関してはちょっとね……」
「……じゃあ先に進みますんでこれからも頑張ってください」
「あぁ、ごめんね愚痴を言っちゃって。君もジム挑戦頑張ってね」
「はい、それじゃあ」(ジムトレーナーも大変だな。ジムリーダーが変な奴だと下にも影響が出るのか……いやそれは普通の会社でも一緒か)
そこからもグレンジムトレーナーの出す問題に答えつつ、ジムの奥へと進んでいく。二問目以降の問題はひっかけ要素はなく認定バッジの数、タイプ相性、技マシンの種類に関する問題だったが〇×の二択でなくとも答えられるレベルの問題しか出なかった。
(戦わなくていいのは嬉しいが問題はもう少しどうにかならんのか。元研究者ならもう少し何かあるだろ)
そんな不満を抱えながら岩肌に沿って進んでいたところで唐突に視界が開く。岩肌がむき出しなのに変化はないが地面だけはきれいに舗装された広々とした空間。そこにサングラスとスキンヘッドがトレードマークの男性が立っている。
(カツラ……この世界イケメンばっかりだからなんか親近感が湧くな。日本なら間違いなくイケオジではあるがこの世界だとあんまり……やっぱり髪か。俺も最近おでこが気になってきてるからな。この世界育毛剤とかあるんだろうか。生え際の後退を遅らせるとか謎技術とかないかな)
「うおおぉいっ! よくぞ来た挑戦者!」
「お久しぶりです。カツラさん」(うるせぇな。本部の時とキャラ違いすぎだろ)
「君が来るのを待っていたぞ! さあ熱い戦いをしよう!」
「聞きたいこともあったんですけど、まあお話は勝負の後ででも」(どっちが素だ?)
「うむ! 儂のポケモンは全てを焼き焦がす強者ばかりだ! さあかかってきなさい!」
「ルールの方は?」
「む? ルールは……そうだな。うむ! オーソドックスな三対三のシングルス! アイテムの使用は三回までだ!」
「分かりました。ステージはここで?」
「そうだ! ここは特別頑丈に作ってある! 遠慮はいらんぞ!」
「はい。では始めましょう」
「うおおーす! やけどなおしの準備はいいか! いくぞ!」
話し合いの余地もなくジム挑戦が始まったが問題は無い。どちらにせよ戦う予定だった。バトルと話し合いどちらが先か変わるだけだ。
事前の確認は無かったが選出予定はドザエモン、ユカイ、つくねにする。ドザエモンは弱点を突く事が出来るので確定として後は状況次第でユカイかつくねをデンチュウに切り替える。
(まずは様子見だ。カスミで良く分かった。ジムリーダーは大抵苦手属性をカバーするポケモンを用意してる。弱点を付けるドザエモンは温存する。先発は……ユカイも捨てがたいが……素早さのあるつくねにするか)
「つくね! お前は自由だ! 行ってこい!」
「行け! マグカルゴ!」
つくねを選出した誠に対して、カツラの先発はマグカルゴ。溶岩がカタツムリの形を成して岩を背負ったような生き物の体は常に流動していて想像以上に見た目が気持ち悪い。
(マグカルゴ、見るからに体が溶岩だな。直接攻撃だとこっちもダメージが来そうだ。近接の多いつくねより遠距離多めのユカイにすべきだったか)
「マグカルゴ! スモッグ!」
カツラが指示した瞬間、マグカルゴの背負った岩のような殻から一目で有害と分かる紫色の煙が大量に噴き出す。
(いきなりだな。相手の姿も見えん。かぜおこしでも使えれば……できない事は今はいい。ひとまずはできることをしなければ)
「つくね! 一旦下がってこうそくいどう! 備えろ!」
「マグカルゴ! かたくなる!」
(ちっ! 積み技かよ。様子見するつもりが裏目に出た。積み技を重ねられたら最悪三縦……ドザエモンに交代するか? いや、まだ一回だ。レベル差を考えればまだ問題ない。交代で技を重ねられる前に倒す)
「スピードスターだ! とにかく数を撃ち込め!」
つくねの三つの口から放たれた星がスモックの中に飛び込み、破砕音を響かせる。カツラに動きはない。
(回避の指示は無し。もう煙の中から移動したか? 位置を見失ったか)
「つくね! やめ! こうどくいどうをしつつ周囲を警戒!」
「マグカルゴ! かたくなる!」
双方が積み技の指示を出す硬直状態。違いは一つ。方や位置を補足され、方や相手を見失っていることのみ。
(落ち着け。位置を見失ったがどうせ攻撃の瞬間には姿を現す。こちらのポケモンの方が強い。姿を見せてからで十分対処できる)
誠は周囲を見渡すがマグカルゴの姿は見えない。その間にもカツラはマグカルゴにかたくなるとドわすれの指示を出し、つくねはこうそくいどうを続ける。
(どこから来るか考えろ。相手の戦法は視界を奪ってからの積み技。俺が好む戦法に近い。俺ならどうする? 強さの差を考えれば正面は避ける。側面、後方、頭上、足元のどれかだ。側面と後方は俺の視界に入ってる。頭上は確認してるが姿はない。なら足元か? マグカルゴってあなをほる使えたか? 使えると仮定しよう)
誠は周囲を警戒する。一か所に焦点を合わせずにステージ全体に目を向けマグカルゴの体色である赤色を探す。しかしステージ上で動くものはつくねと漂うスモッグのみ。
(やっぱりいない。何処行った? 視界に入らない場所……は地中かスモッグの中か。カツラは回避指示は出してなかったがスモッグの中か? カツラは移動の指示も出してない。積み技の時間を稼がれた可能性はある。確認しなければならない。この際多少のダメージは無視だ)
「つくね! スモッグに突っ込め! 何かいればトライアタックでぶっ飛ばせ!」
「ほう、ようやく気付いたか。でも勇敢と無謀は違うぞチャレンジャー。ジャイロボール!」
「! 避け」
誠は咄嗟に指示を出すが、既にスモッグに突っ込もうとしたつくねはマグカルゴのジャイロボールを受けて弾き飛ばされている。よりにもよって素早さの値で威力が変わるジャイロボール。つくねが相手の方向に疾走していた事に加えてこうそくいどうで素早さの底上げまでした事までも裏目に出ている。
だが攻撃を受けたつくねは即座に立ち上がり戦闘態勢に入っている。むしろ攻撃を受けた憤りからか攻撃を受ける前よりもやる気を感じる。
「くそが」
上手く嵌められた事で誠はつい本音を口に出してしまう。
(一番嫌なカウンター食らった。幸いにもつくねはそれなりのダメージは食らったが様子を見る限りだとまだ戦える。手玉に取られた感じはあるが状況は悪くない。相手の位置も確認できた。つくねもやる気になってる。あれだけの好条件で技を食らっても戦闘可能な時点で相手のレベルはそこまで高くはない。相手のシナリオ通りに進んでるのは不安要素だがここはレベル差でごり押す。最悪つくねは使い潰す想定で一匹だけでも道ずれにする)
「つくね! スモッグに向けてはかいこうせんを一発!」
「むっ! マグカルゴ! まもる!」
つくねの首の一つからはかいこうせんが放たれる。残る二つの頭からも放たれる事が分かったとしてもスピードスターのように受けることは出来ない。
(まもるか。避けると思ったがそれならそれでいい)
「もう一発はかいこうせん!」
「避けろ! マグカルゴ!」
「逃がすな! 回避先にもう一発!」
「まもるだ!」
(回避を挟めばまもるが使えるのか。でも別に構わない。既に一発目を撃った頭は反動から回復済みだ。反動で動けなくても固定砲台にはなる)
「もう一発」
「躱せ!」
「もう一発」
「くっ! まもる!」
「もう一発」
「ぐぬっ! 回避しながらスモッグ!」
回避行動を取りながら再びマグカルゴの殻から煙が噴出し、その姿を覆い隠す。
「(同じ手にかかるかよ)続けろ! もう一発!」
「いわなだれ!」
「(回避を捨てて相打ち狙いか? つくねは反動で動けない。受けるしかない)耐えろ!」
頭上から落ちてくる岩の雪崩につくねが押しつぶされる。自分が食らっている訳ではないのに岩に閉じ込められる光景を見てあの横穴で感じた恐怖が頭を過ぎる。バトルと割り切って耐えろとは言ったものの気分の良いものではない。
「無事か!」(強化されたジャイロボールに弱点のいわなだれ、これは流石に無理か)
誠は積み重なった岩山へ呼びかけるが反応はない。
「駄目か」(戦闘不能か。マグカルゴを倒せていればいいが、もし倒せてなければきついかもしれない。巻き返しはできると思うが気を引き締めなおさないと。それにしてもたかが目隠しと思ってたが相手にすると厄介だ。次は上手くやらなければ)
誠はつくねが戦闘不能になったことを理解して次の段取りを考える。もし巻き返しが難しいようなら今回の勝利を諦めて戦力確認を重視する方向に舵を取ることも視野に入れなければならない。
「何をしとるんだ馬鹿者!」
突然聞こえてきた叱責に強制的に考えを止められる。今はジム挑戦の最中、集中しなければならない。考え事をすると没頭する癖は直さなければならないと分かってはいるがこればかりはどうにも治せそうもない。
「すいません。考え事をしてまして」
誠は自身の態度について謝罪をするが、そんな態度を見て更にカツラは怒気を強める。
「お前っ! もういい! ブーバーンいけ! いわくだきだ!」
カツラの出したブーバーンがつくねを押しつぶしている岩を砕き始める。その行動を見てようやく誠もカツラの怒りの理由に気づく。そして同時につくねの状態が危険であることにも。
「(やば、考え事してる場合じゃなかった)ドザエモンお前は自由だ! いわくだきで岩を砕け!」
崩落に巻き込まれたあの日のミルタンクの姿が頭を過ぎる。ブーバーンが既に大半の岩を砕いていたため、ドザエモンが僅かに残った岩を砕けばその下からつくねの姿が見えてきた。血まみれではあるが体に欠損が無いことに内心でほっとする。
「戻れ!」
モンスターボールから放たれた光線がつくねに当たり、つくねの姿がフィールドから消える。モンスターボールの仕組みは分からないが、ボール内のポケモンはボールに入った状態のままになる。ひとまずはこれ以上状態が悪化する心配はなくなった。
(どうするか。とりあえずボールに入れたから時間の問題は無い。問題は無いが……ジム挑戦を続けていいものか。ボールに入ったということは死んではいないと思うが。どうする? できれば早めに回復してやりたい。だが現状で相手の手持ちの確認もできてない。次回のジム挑戦を見据えるならここは続行すべきか……)
「もういい。挑戦は中止だ。帰りなさい」
「え?」
唐突なカツラのジム挑戦中止宣言に呆気にとられて間抜けな声が出てしまう。しかし理由は何でもいい。悩んでいた内容の答えを向こうから切り出してくれたのだから便乗すればいいだけだ。
「すいません。こちらから切り出そうと思っていたところでした」
「勘違いするなよ若造。言いたいことは幾らでもあるがもういい。出ていきなさい」
「ええ、それでは」
「さっさと出なさい。お前の様な奴はポケモントレーナー失格だ。ジム挑戦の権利もない」
「また日を改めて挑戦に来ます(確かにつくねの事は俺の失敗だがそこまで言われることか。お前がいわなだれなんて危険な技を使ったんだろうが)」
「ジム挑戦の権利も無いと言っただろう! お前のような奴を認めることは無い!」
「(まずいな)確かにつくねの事は俺の失敗でした。ですがまた挑戦に来ますよ」
「……問題だ。君はポケモンの事をどう思っているんだね。言ってみなさい」
「……」(意地の悪い質問だ……求めている答えは何となく分かる。家族や仲間、友達、おそらく求められている答えはこの辺りだ。だが今その答えは言えない。岩に押しつぶされたつくねを即座に助けようとしなかった俺が今言っても説得力がない。かといって道具や戦力なんて答えられる質問でもない。答えが分かってるのに答えられない質問だ)
「これは儂から君への問題だ。宿題にしておくから次に来るまでに答えを出しなさい」
「……はい」
「おほん。少々興奮してしまったが過ちを恐れぬのも若者の特権。ポケモンと向き合い、しっかり考え、大いに悩み、躓いたら相談して、そして答えが出た時にまた来なさい」
「ええ今日はすいませんでした」
「その言葉は儂ではなくポケモンにかけてやりなさい」
「……そうですね」
「起きてしまった過ちは変えることはできん。大事なのは過ちを過ちと認めて次回に生かす事だ」
「……はい。考えてみます」
「うむ。君が答えを見つけられることを祈っておるよ」
グレンジムから外へと出る。まだ日は高い。
(カツラとの話し合いも出来ず、ジム挑戦も失敗、次回挑戦に条件まで付けられた。対して得たものはカツラが使用するポケモンの一部と戦闘法が確認できただけ。明らかなマイナスだ。オーキドからも碌な話は聞けてないし、上手くいかない事は重なるもんだ。まあこうなった以上は仕方ない。とりあえずポケモンセンターでつくねを回復させよう)
ポケモンセンターの無いふたごじまからグレンタウンへ移動するためにつくねのモンスターボールに伸ばしかけた手を止める。つくねが戦闘不能になっているため空を飛ぶことのできるポケモンを所持していない。
(やばい。つくねの代わりがいない。誰も空を飛べない。一応メンバーに入れたドククラゲはいるが海上で襲われることを考えると海は渡りたくない)
このまま諦めてドククラゲで海を渡るか、グレンジムでカツラに頼み込んでつくねをどうにかして回復してもらうか、また一つ悩みが増えた。
暫く書いてなかったせいで誠君がどんな思考してたか思い出せない。
まあその日の気分によって思考に多少の変化はあるということで。