動乱の銀河 〜80年後の英雄伝説〜   作:Kzhiro

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リッテンハイムの騎行 2

「頭ァ!ついに帝国の野郎来やがりましたぜ!数15,000!本格的な討伐艦隊だ!」

 

「シャイセ(クソ野郎)!ついに来やがったか!第二、第三戦闘群を向かわせろ!出鼻を挫く!」

 

アルブレヒト・フォン・リッテンハイム=アルテンブルク侯爵は毒突きながらとりあえずの対処を行った。第二、第三戦闘群総兵力5000はある程度の高性能艦で固められており、奇襲攻撃と時間稼ぎにはもってこいであった。

 

状況は完全に一転した。再征服者の要求通り帝国本土における略奪はある程度は成功した。取り付いたシャンタウ星系においてある程度の財貨をせしめることに成功したのである。その数、辺境1星系分の略奪量のおよそ10倍。彼としても満足のいく数値であった。

 

だが、その最中である。突如鎮圧に向かったと思われる帝国艦隊が出現したのだ。その数およそ15000。なんとか抗することができる数であるが、それでも数の優位性は否めなかった。

 

なんとしてでもシャンタウに展開している地上部隊をさっさと撤収させる必要があった。幸運だったのは大体の略奪が既に終わっていたことであった。が、それでも勝利の宴の真っ最中であり、撤収にはある程度の時間が必要であると見ていた。

 

さっさと戦利品丸ごと撤収するか、最低でも財貨を載せた輸送船団を後方に送らなければならない。さもなくば今後の活動は厳しくなるだろうし、再征服者への上納金すら納められない。

彼は通信兵に別働隊を指揮し、撤収作業の総指揮を行なっているアンスバッハにつなぐように命令した。

 

「おいアンスバッハ!地上軍と略奪品の撤収はまだか!」

 

『今やっているよ!くそっ、フェーレンバッハめ!早く連絡に出てくれ!満足に撤収作業ができないじゃないか!』

 

「チッ!さっさとケツを蹴っ飛ばして輸送船に戻させろ!」

 

「やれやれ、やはりどこまで行っても海賊は海賊ですな。財貨と宴に目がくらんで軍事行動を大きく遅れさせていると見た。」

 

リッテンハイムは恐ろしい目つきで声のした方向に向き直った。そこには、やれやれと言った顔つきのシュネッケンハイム伯がいた。

リッテンハイムはすぐさまその胸ぐらを掴んだ。

 

「てめえ!元はと言えばてめえらが帝国本土に侵入しろと言ったんだろうがよ!」

 

「ああ、言ったとも。しかしそれは貴殿らの実力を最大限見積もった上で言ったことだ。よもや地上軍の撤収すらまともに行えない有様だとはな。これでは盟主殿にどう報告すればいいことやら。」

 

リッテンハイムは思わずシュネッケンハイムの皺まみれの顔を殴り飛ばした。伯爵は思いっきり血反吐を吐いて吹き飛ばされた。

彼の周囲の貴族たちが口々に何をするか、これは反逆だぞ、と喚いていた。

 

「うるせえ!黙って聞いてりゃ何もしてねえ癖に喚きやがってよお!ケチばっかりつけやがって!」

 

リッテンハイムは威圧するような声で元貴族たちを威圧したがそれでも彼らは喚くのをやめないので、やむなく銃を突きつけて黙らせた。

 

「いきなり銃を突きつけるとは野蛮ではないか…」

 

「このことは盟主に報告させていただく。何かしらの責があることを覚悟いたせ」

 

「やはりイルカの子も数世代経てばカエルか…」

 

取り巻きの貴族たちは口々にそんなことを言っていたが彼は無視することにした。その中で一人だけちがう人物が存在していた。殴られて飛ばされたばかりのシュネッケンハイムであった。

 

「…いいのだろうか?一軍の将たる者が戦場を見るのを一旦やめて。」

 

「てめえ…まだ殴られ足りてないようだな。」

 

「スクリーンを見てみろ。私の言葉の意味をすぐ理解できるだろう。」

 

リッテンハイムは言われた通りに戦術スクリーンを見やった。そこには出端を挫くことに失敗し、合計して3500ほどになった第二、第三戦闘群の両部隊が、散り散りになって敗走しているところであった。

 

「敵もさしたるものよ。ワープアウト後すぐさま陣容を整え、速やかな迎撃態勢を整えた。戦術スクリーンを常に見張っていればこのような損害は未然に防げたはずだ。にもかかわらず、貴殿は他のことに気を取られ、一瞬指揮を放棄した。これがその結果だ。」

 

「てめえ…なぜそれを」

 

「先に言わなかった、か?考えられる可能性としてならあったはずだが。奇襲とは、相手を虚をつきいかに戦果を発揮するかにかかっている。戦譜を見るに、敵はワープアウト後陣形を整える動きをしている。失敗は目に見えておったよ。そのことを伝えようとしたが…どうも私は余計なことを言ってしまったようだな。」

 

伯は取り出したハンカチで血飛沫を拭い、立ち上がりながらそう言った。その所作は、どことなく高貴なものを感じさせ、元ではあるが帝国の貴族であったことを窺わせるものであった。

 

「侯よ、卿の艦隊はどこまで大規模だろうが所詮は海賊艦隊に過ぎぬ。統率が取れておらず、だからこそこう言った状況に弱いと見た。だが、卿の艦隊は磨けば光る。これだけの宝、腐らせておくのは大変惜しい上に我々再征服者にとっても著しい不利益になる。…すぐにとは言わないがなんとかして見せようではないか。卿の高貴な血筋にふさわしい、高貴な艦隊にな。」

 

リッテンハイムは、伯の一世一代の演説を苦々しい目で見つめながら拝聴していた。俺の艦隊が、祖母ザビーネ以来脈々と受け継がれていた艦隊が、弱いだと?侮辱とはいい度胸じゃないか。今ここでぶちのめして宇宙に放り出して、この星系に漂っている貴族連合軍将兵の屍にまぜてやろうじゃあないか!

そんなことを考えていたが、腹心の1人が声を上げた。

 

「カシラ、ここは素直に要求を呑みやしょう。今の状況、俺たちだけじゃ厳しすぎやす。使えるものは使うべきでしょう。」

 

「…でもよ、あいつら俺たちの誇りを侮辱しやがった。」

 

「でも今は我慢するときでしょう。第一、再征服者の協力がなければ厳しくやす。そうでもしなければヴァルハラにいるザビーネ様やアルテンブルク様に顔向けができやせわ。ここはグッと堪えるやしょう。」

 

「……………」

 

アルブレヒトは腹心に不満げな顔を向けると、肩を上げて手を取り払い、伯に先ほどの平手ではなく握手を求めた。

 

「不本意だがてめえらの意見に従ってやる。俺たちは何をやればいい?」

 

「簡単な話だ。縦横無尽に戦場を駆け回る海賊艦隊の十八番を使えばいい。なに、我らがやるのは状況を作る手助けだけだ。後は思いっきり暴れればいい。」

 

「…手助けだけか。心細いな。」

 

「すまないな。我らとて限界がある。それにだ。」

 

「なんだ、また何かあるのか?」

 

アルブレヒトはまたこの貴族が何か余計なことを言い出さないか警戒していた。無論、怒りは収まったわけではなく、ふざけたことを言えば殴り飛ばしてやるという算段であった。

 

「ここシャンタウは大義あるリップシュタット貴族連合軍が唯一金髪の小僧の艦隊に唯一の勝利を収めた、因縁の星域。我がシュネッケンハイム家もここに立った。勝利の美酒をもう一杯と行こうじゃあないか。金髪の孺子の子孫どもに、高貴なる弾丸を叩きつけてやれ。」

 

「…はっ、訂正させてもらう。やっぱてめえは面白いやつだ。」

 

侯爵と伯爵は、そう言ってから握手をした。

 

 

 

撃退したはずの敵分艦隊が再度集結を図っている。

 

キルヒアイス大公子ジグムント・フォン・ローエングラム中将がそのような報告を受けたのは、昼食のナポリタン・スパゲッティにありついているときであった。

 

(奇妙な話だな。疲弊も限界だろうに、再度集結を図ろうとするとはな。)

 

ジグムントはスクリーンを見ながらそんなことを考えていた。

 

ジグムントとトレスコウら幕僚陣は、リッテンハイム海賊艦隊は度重なる略奪で疲弊しきっており、先ほどの一連の戦闘で完全に疲弊しきったと考え、後は撤退を待つだけであると踏んでいた。

 

にもかかわらずである。敵艦隊は再度集結を図るような動きを展開しているというのだ。撤退の準備がさほど進んでいないにもかかわらずである。

 

「持久戦に移るつもりか…?」

 

「いや、敵の物資ももはや限界のはずです。そうとは考えにくいでしょうな。」

 

トレスコウはジグムントの問いにそう答えるとふむ、と顎に手を当てて考え込むようにしてスクリーンを見遣った。薔薇の皇女殿下の信頼厚いトレスコウでさえも読みかねる情勢であった。

 

わからない。一体敵が何を仕掛けてこようというのか。

 

なぜ疲弊しているのにも関わらず集結なんて真似をしたのか?集結させて何をしたいのか?持久戦か?揚陸艦隊の撤退までの時間稼ぎが?それとも…決戦を挑むつもりなのか?

 

前二つのパターンはある程度説得力のある推察であった。最後の推察、決戦は…最も考えられないパターンであった。

 

帝国艦隊は練度はもちろんのこと、残存物資、火力、そして疲弊の度合いにおいてリッテンハイム海賊艦隊を凌駕していた。対して海賊艦隊の方はと言えば、おそらくはもう限界が近いのだろう。

 

そんな状態で決戦を行なってみたらどうなるか。これは火を見るより明らかであろう。

 

しかし相手はあの高貴な血を持った狂犬、海賊提督アルブレヒト・フォン・リッテンハイム=アルテンブルクである。窮鼠猫を噛むと言わんばかりに一戦を仕掛けてくる可能性は捨てきれない。

 

「…敵がどう動くかわからない以上、下手に動くと大惨事になりかねない。現在の陣形を維持し、しばらく様子を見る。全艦に戦闘態勢の維持を。」

 

「…相手がどう動くかわからない以上、賢明な判断ですな。」

 

結局、ジグムントは盾を構えて一旦様子を見ることにした。ジグムントは父上がこの様子を見たら情けないだの帝国の男なら突っ込めなどと言い出すだろうなと思ったが、そんなこと今の状況においてはどうでもよかった。

 

やがて、集結が完了したと報告が入ったとき、続いて一つの報告がジグムントの耳に入ってきた。

 

「敵艦隊、動き出しました!……こちらに向けて真っ直ぐ突っ込んできます!」

 

ジグムントは青い目を大きく見開いて驚愕の表情を浮かべた。まさしく青天の霹靂、信じられないといった報告であった。頭の片隅に浮かんだ、ありえないと思っていた事態が本当に当たってしまった。よもや、我が艦隊に対して決戦を仕掛けてこようとは!

 

「全艦に戦闘準備!主砲射程内に入った艦から順次発砲せよ!」

 

トレスコウはジグムントの驚愕の表情を見遣ると、彼の代わりに戦闘命令を発した。いくら皇族とは言え彼はまだ26。大帝は20にして大軍を率いたが、彼の血を継ぐもの全てに大帝の素質があろうはずがない。トレスコウにとってそんなことは織り込み済みであった。

 

鮮やかな光の砲火が宇宙空間を映し出すスクリーン全面を彩る。それはまさしく命を刈り取る光であった。優美な艦形を持つ旗艦テオドリックも遅れて発砲した。

 

艦内は色めきだっていた。帝国男の誉れ、戦場の緊張感に狂喜する者、初めての戦闘に不安と恐怖をあらわにする者、両方を意に介さずに淡々と処理を行う者、さまざまであった。

 

先ほどの海賊討伐の印象が強い戦闘とは打って変わり、今度は万と万が衝突する会戦、艦隊決戦である。ラインハルト大帝や2世少年帝がいたら狂喜していたことであろう。

 

ジグムントはその事実に数秒ほど唖然としていたが、すぐに気を取り直して戦術スクリーンを見遣った。見たところ敵は高速で突っ込んでくるように見える。このままいけば左横合いスレスレを通過するつもりだろう。

 

ヘンドリック・ラン。それは夏にバーラト宇宙軍が見せた機動であった。ギリギリ横合いを最高速ですれ違い、然るべきのちにターンを行って敵の後方を迅速に取る。確かそんな戦術であったはずだ。

 

なら、こちらが取るべき戦術は。

 

「第二、第三分艦隊に命令!艦隊を右方面に移動させよ!残る艦隊は左方面に移動!挟撃を仕掛ける!」

 

敵の横合いに思いっきり火力という火力を浴びせかけてやる!敵が通り過ぎたのと同時に然るべきのちに全速力で前進、態勢を立て直し反転する敵艦隊に相対する。彼の思いついたビジョンはそういうものであった。

 

第二、第三分艦隊と書かれた艦群が咄嗟に動き出す。それと同時に第一、第四分艦隊と書かれた艦群も動き出した。果たして、間に合うのか!?ジグムントの心中はそんなことでいっぱいであった。

 

だが、彼の予想は悪い意味で裏切られた。

 

「敵艦隊、散開!こ、このままだと、我が艦隊と衝突します!」

 

しまった!敵はさらに応用してきたようだ!敵艦隊が咄嗟に四つに分かれ、分裂した艦隊にそれぞれ高速で襲いかかる。衝突は時間の問題であった。

 

鋼鉄と鋼鉄が、まさしく衝突しようとした瞬間であった。ジグムントは、ギュッと目を瞑った。


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