竈門炭治郎→言うまでもない。
嘴平伊之助→原作よりもやや弱い(炭治郎の強さに憧れてそれに追い付こうとして強くなってはいるものの、やはり煉獄の死が無かった為に強くなろうという気力が今一歩足りないため)。
我妻善逸→原作よりも弱い(炭治郎の強さに自信を無くしている上に、煉獄の死が無かった為に強くなろうという気概が湧いていないため)
栗花落カナヲ→原作と変わらない。
同期組は原作と比べると微妙ですね。炭治郎は明らかに原作より強いものの、他のかまぼこ隊は原作より弱くなっているし、不死川玄弥に至っては死んでいるし。
◇
「ご苦労様、凄いわね。こんなにあっさりカナヲに勝つなんて」
炭治郎に手拭いを差し出しながら、カナエはそう話し掛けてくる。
ちなみに彼女はリハビリの結果、既に現役復帰一歩手前の段階まで回復しており、炭治郎は一度カナエに模擬戦を申し込んだことがあったのだが、完調でないことを理由に断られていた。
「いえ、まだまだですよ。思ったより苦戦してしまいましたし」
予想外の技を使われたとはいえ、炭治郎にとって幻日虹を使ったのは想定外だった。
上弦の鬼を撃退している自分の腕なら、それを使わなくても勝てると思っていたからだ。
しかし、実際に試合をしてみると、自分が慢心していたことを思い知らされ、炭治郎はカナヲのことを『さすが原作で天才少女と言われただけある』と改めて見直していた。
「それに、これからしのぶさんとの試合もありますからね」
「ああ、そうだったわね。でも、しのぶは強いわよ。力はないけど、速さだけだったら既に私を越えているから」
「ええ、分かっていますよ」
炭治郎はそう言いながら、対戦相手となるしのぶのことを考える。
胡蝶しのぶは原作の上弦の弐曰く『今まで会ってきた柱の中でも最速』とのことだ。
それはつまり、この鬼殺隊の中でも最速である可能性が高く、少なくともカナエよりは速いという事でもある。
原作と比べると、どれ程の強さなのかは原作のしのぶに実際に会ったことがないから分からないが、おそらく戦闘技術そのものに関しては大して変わりはないだろう。
となると、彼女の速さに対抗出来るということは、それより遅い他の柱には容易に対応できるということでもある。
おそらく、この試合が自分が柱になる資格があるかどうかの登竜門。
少なくとも炭治郎はそう考えていた。
「なら良いけど。あっ、しのぶが構え始めているわね」
「本当ですね。じゃあ、いってきます」
「ええ、行ってきなさい。柱の速さを十分に味わってね」
カナエはそう言って道場の中央にて待つしのぶの下に向かう炭治郎の姿を見送りながら、審判の位置へと着いた。
◇
「始め!」
そのカナエの号令と共に、ほぼ同時に動き出す両者。
そして、最初に攻撃を繰り出したのはまたしても炭治郎だった。
日の呼吸 陸ノ型 日暈の龍・頭舞い
炭治郎がまず繰り出したのは、戦場を激しく駆け回りながら刃を振るう技だった。
流石に道場内だとそんなに激しくは動き回れないが、それでも素早く動けば相手を撹乱することは可能だ。
ちなみに一応大怪我をしてしまうのは不味いとして手は抜いていたものの、相手が柱であることもあり、最初のカナヲの時とは違って力を入れており、下弦の鬼をギリギリ殺せる程度までには全力を出していた。
しかし、逆に言えば、力はそこそこしか入れていないこともあって、しのぶは難なくこれをかわし、反撃の手を加える。
蟲の呼吸 蜻蛉の舞い 複眼六角
6つの方向からの連続突き。
蟲の呼吸は基本、突き技しかないが、これはしのぶの刀の毒で鬼を殺すというコンセプトがそうさせている。
ちなみにこういった連続した技、突き技というのは連撃技が少ない日の呼吸にとっては地味に嫌な存在だったが、今の炭治郎にはこれに対する対抗策があった。
日の呼吸 拾肆ノ型 生生陽天
炭治郎は水の呼吸 拾ノ型を参考にして編み出したオリジナル技でこれを迎撃する。
更に相手の筋肉や骨格を見ることで動きを事前に予測できる透き通る世界も合わさったことで、炭治郎は容易にしのぶの突きを弾く事に成功した。
「!?」
あまりにもあっさりと弾かれた為に少しだけ驚いたしのぶだったが、流石柱と言うべきかすぐさまバックステップを取って体勢を整える。
柱の中でもかなり速い部類と言われているのは伊達ではなく、炭治郎が反撃しようとした頃にはしのぶはその間合いの外に居た。
(思ったよりも速いな)
炭治郎はそう思いながら、木刀を構え直し、相手の出方を見る。
すると──
蟲の呼吸 蜈蚣の舞い 百足蛇腹
低い姿勢での高速移動。
ある意味で日暈の龍・頭舞いにも似ているが、こちらは移動に特化しているため、より撹乱の精度が高い。
そして、この技は技の特性上、使う人間の背が低いほど効果が発揮されやすい技なので、しのぶにはピッタリの技であり、やられている方はなかなか反応がしづらく、それは透き通る世界に入っている炭治郎も同じだった。
その為、しのぶは炭治郎の懐にあっさりと入ることに成功し、そこから次の技を繰り出す。
蟲の呼吸 蜻蛉の舞い 複眼六角
先程と同じ技。
しかし、今回は懐近くに入られたこともあって、流石の炭治郎も迎撃は不可能だった。
その為──
日の呼吸 拾壱ノ型 幻日虹
回避を選択する。
カナヲ程ではないにしろ、彼女も目が良いためにいきなり現れた残像に混乱し、一旦動きを止めてしまう。
そして、その隙を炭治郎は見逃さない。
日の呼吸 壱ノ型 円舞
両手を使っての円を描くような横凪ぎ。
そのまま彼女の首元に剣を突きつけようとするが、直前で力を弱めるタイミングが早かったのか、幻日虹の影響から脱していたしのぶは回避行動に移り、この攻撃を回避してしまった。
(やるな。それに思ったよりも強い。これが柱の力か)
炭治郎は改めて柱の力を見直す。
下弦以上、上弦以下の実力というのが原作を知っている人間の柱への評価であったが、よくよく考えれば煉獄でさえもあの上弦の参の頸をあと一歩で取るところまでいっているので、強さには個人差が存在し、中には上弦を単独で撃破する者まで居たのだ。
そして、しのぶはそんな柱の中でも上位に入る素早さを誇る。
腕力が弱いのが欠点とはいえ、それは鬼を相手にした場合に露呈する欠点であり、それより脆い人間相手であればあまり欠点になり得ない。
・・・ということは、対人戦の場合、しのぶは柱の中でも一気に上位に躍り出る実力を持っているという事になる。
(なんで、そんな簡単な事に気づかなかったんだ、俺は)
炭治郎は内心で自分の迂闊さに舌打ちしつつ、まだ戦いは終わっていないと思い直し、こちらから攻撃に移ろうとしたが、その前にしのぶが勝負に出た。
蟲の呼吸 蜂牙の舞い 真靡き
強烈な踏み込みによる超高速の突き。
それは手加減しているとはいえ、下弦程度ならば反応しきれずに確実に喰らうであろう速さだった。
(速い!だけど──)
これくらいなら反応できる。
炭治郎はそう思いながら、迎撃の技を繰り出した。
日の呼吸 参ノ型 列日紅鏡
左右横の高速2連撃。
主に迎撃に使われる技であり、このような状況では最適な技だった。
そして、一撃目でしのぶの刀を弾いた後、二撃目で彼女の首元を狙ったが、それが首元に到達する前にしのぶは飛び上がる。
「ちっ!」
舌打ちする炭治郎だが、逆に言えばこれはチャンスだとも考えた。
足場のない空中ではこちらの攻撃を回避する術など無いのだから。
しかし、勝負を決めに来たのはしのぶも同じであり、彼らはほぼ同時に技を繰り出した。
蟲の呼吸 蝶の舞い 戯れ
日の呼吸 肆ノ型 灼骨炎陽
宙を舞って複数の突きを放つ技と日の風を相手に浴びせる技が衝突する。
しかし、しのぶの出した技は蝶の群れによる残像効果があるとはいえ、接近技。
対して、炭治郎の技は中距離技であり、おまけに空中であることもあってしのぶは一方的にその攻撃を喰らってしまう。
更に日の風は人間にはほとんど効果が無いとはいえ、目眩まし程度にはなるので、しのぶは相手の姿を見失った。
透き通る世界でもあれば話は別だっただろうが、彼女にそんなことは出来ない。
「! どこ!?」
先程まで居た場所に炭治郎が居ないことに気づいたしのぶは慌てて炭治郎を探す。
しかし、次の瞬間、いつの間にか接近していた炭治郎が彼女の首元に剣を突き付けた事で、この戦いは一気に終幕を迎えた。
「そこまで!」
──そして、カナエの号令が鳴ると共に、炭治郎と蟲柱の戦いは炭治郎の勝利という形で終了した。