竈門炭治郎に憑依   作:宇宙戦争

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柱との模擬戦後

西暦1915年(大正4年) 6月

  

 模擬戦が終わった直後の蝶屋敷の道場。

 

 周囲の人間は2人の激しい戦いを目撃したのもそうだが、それ以上に蟲柱が負けたという現実が信じられないのか、シーンと静まり返っている。

 

 だが、当事者である2人の内、炭治郎は落ち着いた様子で先程のカナヲの時と同じようにカナエから手拭いを受け取っていた。

 

 

「・・・疲れたな」

 

 

 炭治郎はそう言いながら余裕そうな風貌を見せていたが、内心では冷や汗を掻いていた。

 

 

(危なかった。もう少し向こうの動きが速ければ、負けていたのはこっちだったな)

 

 

 あの勝負は本気ではなかったとはいえ、全力は尽くしていた。

 

 しかし、それにも関わらず負けそうな展開が何回も来たということは、自分としのぶの実力はそれほど離れていないことになる。

 

 

(何が悪いんだ?やはり手加減していたからか、それとも何か別の要因があるのかな?)

 

 

 炭治郎は色々と可能性を考えてみるが、やはり思い浮かばない。

 

 まあ、自分の欠点など、自分ではなかなか気づかないものであるから当然であったが、このまま放っておくと実戦の場で予期せぬ不備が起こることになりかねなかったので、早めに見つけておきたかった。

 

 しかし──

 

 

(勝った状態で聞いても嫌みにしかならないだろうなぁ)

 

 

 炭治郎はそう思う。

 

 こういうときは周囲に聞くのが一番なのだが、勝った自分が聞いたところで嫌みにしかならないだろうことは容易に予想できる。

 

 また、勝った人間の悪い点など、見ている側がやっている側よりよほど実力が上でなければ挙げられないが、この場にそれほどの実力者は居ない。

 

 

(・・・ひたすら鍛練を重ねるしかないか)

 

 

 しかし、それではやることは何時もと変わらない。

 

 進歩の無いような気がする自分に、炭治郎は内心でため息をつかざるを得なかったが、そんなことを考えていた時、1人の人物が声を掛けてきた。

 

 

「なあ、さっきの呼吸。俺にも教えてくれないか?」

 

 

「ん?」

 

 

 そう言われて声がした方向に振り向く炭治郎。

 

 

「君は・・・」

 

 

 そこには霞柱である時透無一郎とそっくりな顔立ちな顔立ちをした少年──時透有一郎の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻

 

 炭治郎が蝶屋敷の道場にてしのぶに勝利していた頃、産屋敷邸では鬼殺隊隊のトップである産屋敷輝哉が音柱であり、柱の中で随一の情報収集能力を持つ宇髄天元より、ある報告を聞いていた。

 

 

「そうか、人間の協力者がね」

 

 

 それは鬼に協力する人間についてだった。

 

 無限列車の例を見てからも分かる通り、鬼に協力する人間というのは一定数存在している。

 

 それは血鬼術に操られている者だったり、何らかの取引を経て協力している者も居り、中には炭治郎のように鬼が肉親だということで護ろうとする人間も居た。

 

 しかし、呼吸が使えないこともあって、育手無しで呼吸を身に付けた炭治郎や伊之助のような例外を除いては大した脅威にはなっていないのもまた事実だったのだ。

 

 ・・・これまでは。

 

 

「はい、直接の脅威はありませんが、ここ最近は鬼側も人間を活用して情報収集を行っているらしく、一般隊士の下弦襲撃が増加しており、被害は知っての通り甚大です」

 

 

 そう、仮に直接の脅威は無くとも、情報収集や鬼殺の妨害など活用する手段は幾らでもある。

 

 原作では何故か鬼側はあまり積極的にこれをやりたがらなかったが、この世界では無惨が日の呼吸のトラウマが激発したことによって却って冷静な思考を行っていた為、那田蜘蛛山の戦い以降、積極的にこういう行動をやり出していたのだ。

 

 その結果、一般隊士の前に下弦の鬼が出てくる事態が頻発して起こっており、一般隊士は原作を越える被害を出していた。

 

 もっとも、下弦の鬼側もカナヲが数日前に下弦の陸を倒した例からも分かる通り、逆に返り討ちに遭ったり、運悪く柱と遭遇して討伐(例えば、1週間前に風柱によって討伐された新・下弦の壱であった轆轤など)されたりしているので、地味に被害を被っていたりするが、すぐに補充されたりしているので、あまり意味がないし、原作で無惨に理不尽にも処刑された鬼も居るので、それを考慮すれば差し引き0どころか、マイナスとなってしまう。

 

 おまけに前述した鬼殺の妨害をした者によって討伐を担当した隊士が殺されたり、逆に隊士が鬼共々協力者を斬り殺したという例もあり、鬼を殺すことはできても、人を殺すことに抵抗のある隊士達がPTSDに掛かる例が続出しており、深刻な問題を引き起こしている。

 

 まあ、これは戦う人間でありつつも、一般的な感性を持つ炭治郎からしてみれば、『元人間である鬼を普段から斬り殺しておいて何を今さら』という話だったのだが、残念ながらその一般論は異常者の集まりであるこの鬼殺隊では通用していなかった。

 

 

「だから、その協力者の集団を根こそぎ殲滅しよう、ということかい?」

 

 

「おっしゃる通りです。既に連中の正体は“万世極楽教”という宗教団体であることが分かっています。御館様の許可さえ頂ければ、既に話をつけている何人かの柱と共に鬼共々殲滅いたします」

 

 

 そして、今、宇髄が進言していたのは自分を含めた数名の柱を投入して、鬼の協力者の団体である万世極楽教の教団員を殲滅しようという作戦だった。

 

 ちなみにこの際に数名の柱を投入するのは、毎回下弦の鬼が出てくるような状況からして、万世極楽教が十二鬼月の上弦、あるいは無惨本人が直轄する宗教団体なのではないかと目されていた(実際、万世極楽教は上弦の弐が統括していたりするので、この推理は間違いではない)からだ。

 

 更に言えば、作戦自体も非常に合理的な代物ではある。

 

 なにしろ、宗教団体に対して話し合いによる説得は困難であるのは歴史が証明しているし、そうでなくとも鬼と戦っている途中にそのような余裕は無いからだ。

 

 だが、これに対して御館様は首を横に振る。

 

 

「いや、駄目だ。確かに天元が調べたのならその情報は事実だろうけど、やはり人間を殺すことは許可できない」

 

 

 一見、綺麗事にも見える意見で却下する輝哉だが、別に綺麗事だけで反対しているわけではない。

 

 鬼殺隊は政府非公認の武装組織だが、政府側にはその存在を知られている。

 

 でなければ、軍や警察などの協力者を作るのはほぼ不可能だろう。

 

 しかし、実を言えば鬼殺隊という組織は政府関係者の中にはその存在を危険視する者も存在している。

 

 まあ、これだけの武装集団を完全に危険視しなかったら、逆に頭が大丈夫か心配になるのだが、それでも黙認されていたのは鬼側との戦いに巻き込まれたくないという思惑があったからだ。

 

 だが、ここで幾ら鬼側に与する人間達とはいえ、団体単位で人間を殺傷してしまえば、政府内に鬼殺隊を危険視する者が増え、もしかしたら鬼殺隊に対して政府や軍が自分達の傘下に入るように要求してくるかもしれない。

 

 特に今は戦時下(第一次世界大戦中)であるので尚更だ。

 

 そして、それを拒否してしまえば、最悪は陸軍と戦争、仮にそこまで行かなくとも今後の鬼殺隊の活動に何らかの制限が掛かってしまうだろう。

 

 それは今の鬼殺隊の現状を鑑みれば、あまりにもよろしくない。

 

 

「しかし、このままでは・・・」

 

 

「分かっているよ。だけど、ここは堪え忍ぶときだ。ここでこちらが下手な行動を起こしてしまえば、それは鬼舞辻を喜ばせるだけで終わってしまう」

 

 

 そう言って宇髄を宥める輝哉。

 

 とは言え、このままなにもしないのは流石に不味いために対案を提案する。

 

 

「私の方で警察の方に手を回して万世極楽教の教団員を逮捕するように要請してみるよ。人間の拘束とかそういうのは彼らがやる方が良い。手柄も立てられるから、彼らの顔も立つだろうしね。天元はその万世極楽教を支配している鬼の正体を突き止めてくれ」

 

 

「・・・承知しました」

 

 

 宇髄は少々不満げではあったが、輝哉の言うことにも一理有る上に対案を提示されたことで引き下がり、輝哉の提案に従うことにした。

 

 この一週間後、宇髄は情報収集の一環として彼の嫁3人と、たまたまそこら辺を歩いていた使えそうな隊士2名(善逸と伊之助)の計5人を万世極楽教へと潜入させることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そして、音柱・宇髄天元と彼の嫁である3人のくの一が上弦の弐との激闘の末に敗死したという報告がもたらされたのは、それから更に2週間後の話だった。


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