竈門炭治郎に憑依   作:宇宙戦争

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狭霧山の死闘 参

西暦1915年(大正4年) 7月 狭霧山

 

 

「ヒィィィイイイイイ!!!」

 

 

「待てぇ!!」

 

 

 狭霧山で一体の小さなネズミを刀を持った1人の少年が追い回すという珍妙な光景が起こっていた。

 

 それは鬼が追い掛けられる鬼ごっこ。

 

 あれから“生生陽天”によって分身体の頸以外の部分をバラバラにして敵を分身させないまま時間を稼いだ炭治郎は、半天狗の本体を捜索していた。

 

 すると、5分ほど捜索したところで偶々ある野ネズミが目に入り、それをよく見てみたら半天狗だと分かり、追い回していたというわけだ。

 

 

「何故だ!ワシを可哀想とは思わんのかぁ!!」

 

 

「てめぇみたいなジジイを可哀想と思う馬鹿が居るかぁ!!」

 

 

 炭治郎は思わず本音を漏らしてしまう。

 

 だが、常識的に考えて炭治郎の言うことはあながち間違いでもない。

 

 鬼であるということを差し引いても、可愛い女の子ならともかく、何が悲しくて自分の事を可哀想などと言う頭の可笑しい老人を可哀想などと思わなくてはならないのだろうか?

 

 そんな人間はまず居ないだろう。

 

 ましてや、原作知識で半天狗の人間時代を知っているのなら尚更だ。

 

 いや、そうでなくとも、戦場に出た時点で弱肉強食だと考えているし、そもそもただでさえ急いでいるこの状況でそんなことを考えている余裕などない。

 

 

「無茶苦茶だぞ!貴様ぁ!!」

 

 

 そう言いながら半天狗は急速に巨大化し始め、どう見ても弱い者には見えない2メートルを越える身長の鬼へと変身する。

 

 それは原作でも終盤戦で登場した7体目の分身である恨の鬼だった。

 

 しかし、これは別に本体が巨大化した訳ではない。

 

 本体は依然として野ネズミ程の大きさのままであるし、この鬼の心臓に潜み、これを相手が斬ることで倒したと誤認した隙に一旦逃げる算段を立てていたのだ。

 

 ・・・だが、彼には誤算があった。

 

 それはとてつもなく相手が悪かったということである。

 

 そもそも炭治郎は原作知識からこの鬼の正体を知っていたし、本体がその心臓に居ることも知っていた。

 

 だからこそ、こうなることも想定して、彼はあえて少し離れた位置で追跡していたのだ。

 

 いや、そうでなくとも透き通る世界で丸見えであり、仮に原作知識が無かったとしても本体の大きさが変わっておらず、この分身体の心臓に潜んでいることはすぐに分かっただろう。

 

 更にもう1つ運が悪かった点を挙げるならば、炭治郎がこの狭霧山に来る直前にある技の改良型が完成させていたことだった。

 

 

 

日の呼吸 肆ノ型・改 灼熱業風

 

 

 

 もはや最初の1文字目しか名前の原型が留めていない技。

 

 それは灼骨炎陽のように刀を前に向けて円状に振って日の風を浴びせるのではなく、横に円状に振って日の風を浴びせる技だった。

 

 ちなみにモデルとなったのは“クレヨンしんちゃん”の代々木コージローの技“風車”の回転動作だったりする。

 

 そして、恨の鬼の体はこの技によって発生した凄まじい日の風に晒されることになった。

 

 

「ギャアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 

 人間にとっては然したる効果がない日の炎は鬼にとっては地獄の炎となり、恨の鬼の体はドンドンと焼け焦げていく。

 

 そして、その熱は心臓部に居た半天狗の本体へも伝わり、半天狗は盛大な悲鳴を上げた。

 

 堪らず逃げようとする半天狗。

 

 その甲斐あってか、体中が火炙りを受けたような惨状になりながらも、どうにか外へと脱出することに成功する。

 

 が、同時にそれが命取りともなった。

 

 

 

全集中・一点

 

 

 

 突如、凄まじい勢いで周囲の空気が竜巻のように舞いながら炭治郎の口、正確には肺へと流れていく。

 

 

「なっ!」

 

 

 その凄まじい空気の流れによって小さく軽量である半天狗の体の動きは止まり、それどころかドンドンと炭治郎の方へと引き摺られていった。

 

 

(そんな馬鹿な!?)

 

 

 半天狗はその事実に驚きつつも、それでもなんとか遠ざかるべくもがいたが、その程度ではどうにもならなかった。

 

 そして、炭治郎は全集中・一点を終わらせ、一旦飛び上がると、止めと言わんばかりに技を繰り出す。

 

 

 

日の呼吸 弐ノ型 碧羅の天

 

 

 

 上空からの垂直の斬撃。

 

 半天狗の頸は原作でも分かるように小さいながらも上弦の肆に相応しい程に相当強力なものであったが、流石に日の呼吸+全集中・一点状態という上弦の上位でさえまともに喰らえばあっという間に頸を刈り取られてしまう一撃は流石に防げず、その小さな頭と胴体は見事に切り離された。

 

 

「ば、馬鹿な!!ワシが、ワシがやられたのかぁ!!!」

 

 

 半天狗は信じられないと言わんばかりに声を張り上げるが、体の方はその現実を受け入れるかのように、徐々に崩壊して灰になっていく。

 

 だが、それでも感情では受け入れられないというのがこの半天狗という鬼の本性でもあり、ひたすら生きようともがこうとする。

 

 その様はある意味、彼の主である無惨の姿と、ほとんど同一のものでもあった。

 

 しかし、そんな半天狗の脳裏に突如、ある男の声が響いてくる。

 

 

『手が悪いと申すか!!ならば その両腕を斬り落とす!!』

 

 

『貴様が何と言い逃れようと事実は変わらぬ 口封じした所で無駄だ』

 

 

『その薄汚い命をもって 罪を償う時が必ずくる』

 

 

 それはかつて自分に打ち首の刑の裁定を下したある奉行の男の言葉だった。

 

 しかし、半天狗に人間の頃の記憶は残っておらず、その男の事もほとんど覚えていない。

 

 

(なんじゃこれは。人間の頃の儂か?これは・・・)

 

 

 だが、それでも過去の自分に関係のあることだということはなんとなく察していた。

 

 

(走馬灯か)

 

 

 そして、それが死の直前であるという認識を最後に、半天狗の体はこの世から一切の痕跡を残さずに消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──かくして、100年以上もの間、鬼殺隊が討伐出来なかった上弦の鬼は遂に討伐されることとなった。

 

 それは5ヶ月前の柱合裁判の場で炭治郎が御館様に対して宣言したことが達成された瞬間でもあり、また鬼殺隊と鬼側の戦況に何らかの変化が訪れた瞬間でもあったということを、後に両サイドの者は思い知ることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同時刻

 

 上弦の肆──半天狗の討伐。

 

 それを実際に戦った当事者以外で知ったのは、半天狗を通して戦況を見ていた無惨であり、その情報はただちに童磨へともたらされた。

 

 

(えっ?嘘でしょ。半天狗殿、死んじゃった?)

 

 

 童磨は珍しく驚いていた。

 

 まさか、あの上弦の鬼の中でも持久戦特化の鬼である半天狗がこうも短期間で殺られるなどとは思ってもいなかったからだ。

 

 

(厄介だねぇ。まあ、こっちももうすぐ終わるけど)

 

 

 そう思う童磨の視線の先には、苦しそうに息を吐く鱗滝の姿があった。

 

 童磨の血鬼術・粉凍りにやられたのだ。

 

 からくりを見破られた後、鱗滝と童磨の戦いはあっという間に童磨有利に進む。

 

 そして、姿の見えない存在に関しても童磨の血鬼術である“散り蓮華”によって、愈史郎が作った紙が破壊され、その姿を晒すことになった。

 

 禰豆子に至っては原作と違い、直接的な戦闘経験はほぼ無かった(あったとしても、戦いに介入できるかどうかは別であるが)為、ほぼなにもできず、鱗滝が傷つけられている惨状を見ているしかない。

 

 

(何故だか効きが随分と遅かったけど、あの赫い刀のせいかな?まあ、考えるのは後だ。これであの男を殺して、あとは鬼のあの娘を連れて帰れば・・・ん?)

 

 

 そこまで思ったところで可笑しな点に気づく。

 

 

(あれ?あの娘、何処行った?)

 

 

 周囲を見渡してみたが、いつの間にか禰豆子の姿はない。

 

 いや、それどころか、つい先程まで居た筈の男の鬼の姿も無かった。

 

 

(・・・もしかして、逃げられた?)

 

 

 術の正体を見破ったとは言え、童磨は黒死牟のような透き通る世界など身に付けておらず、姿を消す相手を直接見る術はない。

 

 その為、姿を消しながら逃げられたらどうしようもないのだ。

 

 その事に今更ながら気づき、童磨は冷や汗を流す。

 

 

(待って待って待って。ヤバイよ、それは)

 

 

 童磨は珍しく動揺していた。

 

 なにしろ、上司はかなりの癇癪持ちだ。

 

 しかも、半天狗が殺られた今、かなり機嫌が悪いことは容易に想像がつく。

 

 このまま禰豆子を逃して帰ったりなどすれば、どんな目に遭わされるか分かったものではない。

 

 しかし、だからと言って彼は捜索系の血鬼術を持っているわけではないので探しようがない。

 

 詰み。

 

 その単語が童磨の頭を過った。

 

 

(あー、こりゃダメだね。じゃあ、せめてあの男だけでも葬ろう。そうしないと殺される)

 

 

 童磨は割りと洒落にならないことを思いながら、せめて邪魔してくれた目の前の男だけでも殺そうと決意する。

 

 しかし、先程から考え込んでいる童磨に好機と考えたのか、鱗滝は息苦しくなりながらも、持てる限りの力を動員して斬りかかった。

 

 

 

水の呼吸 拾ノ型 生生流転

 

 

 

 攻撃を重ねる毎に威力が増す技。

 

 鱗滝はこれで決着を着けることにした。

 

 

(後は頼んだぞ。義勇、炭治郎)

 

 

 鱗滝はもはや自分は負けて死ぬと悟っており、せめて禰豆子達を逃がす役目を行い、後の事を義勇や炭治郎に任せようと考えた。

 

 そして、鱗滝が最後の攻撃を童磨に行い、それを見た童磨がかわして一撃を入れようとしたその時──

 

 

 

べペン

 

 

 

 琵琶の音が鳴り響き、何もない空間から障子が出現する。

 

 そして、その直後──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如現れた存在──上弦の壱・黒死牟によって、鱗滝の体は横に真っ二つに切り飛ばされた。




ちなみにクレヨンしんちゃんに出てくる代々木コージロー君ですが、この人物は明らかに一桁の年齢にも関わらず風車という技で水中からプール(25メートルか、50メートルかは知りませんが)の水面を真っ二つにしたりしています。

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