竈門炭治郎に憑依   作:宇宙戦争

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兄妹の語らい

西暦1915年(大正4年) 7月 蝶屋敷

 

 

「あれ?カナエさん、どうしたんですか?」

 

 

 日柱になった翌日。

 

 炭治郎は与えられた日屋敷に拠点を移していたが、日輪刀はこの前の狭霧山での上弦との連戦によって遂に歯零れしており、今は刀鍛冶の里に送って修理させている為、任務は降りてきておらず、はっきり言って暇だった。

 

 その為、炭治郎は蝶屋敷に遊びに来ていた(ちなみに禰豆子は日屋敷でお昼寝中)のだが、なにやら調子が悪そうなカナエに声を掛けたのだ。

 

 

「あっ、炭治郎君。ごめんなさい、ちょっと調子が悪くて・・・」

 

 

「そうですか」

 

 

 そう言いながら、炭治郎は透き通る世界を通してカナエの中を見てみる。

 

 炭治郎に医学知識はないが、内蔵に何かが出来ていたりすれば、この方法ですぐ分かるからだ。

 

 

「あっ・・・」

 

 

 すると、炭治郎はあるものを発見した。

 

 

「どうしたの?炭治郎君」

 

 

「えっ?ああ・・・その・・・」

 

 

 カナエの問いに、なにやら言いづらそうにしている炭治郎。

 

 すると、辺りを見回しながら小声でこう言った。

 

 

「カナエさん・・・あなた、妊娠していますよ」

 

 

「・・・へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、炭治郎君の言う通り、妊娠ですね。ええ、間違いなく」

 

 

 カナエの検診を終えたしのぶはそう診断を下す。

 

 ・・・顔に青筋を浮かべながら。

 

 ちなみに炭治郎はヤバい空気を察したのか、カナエを連れてきた後に早々に退出している。

 

 

「そう、なんだ。・・・参ったわね」

 

 

「いや、“参ったわね”じゃないでしょ!!なんで妊娠してるのよ!!」

 

 

 しのぶは何時もの口調を崩しながらそう怒鳴る。

 

 まあ、姉が突然妊娠などすればそうなるのも当然ではあったが。

 

 

「て言うか、相手は誰なのよ!!炭治郎君・・・じゃないわね。あの子はカナヲに気があるみたいだし」

 

 

 一瞬、ここにカナエを連れてきた炭治郎を頭に思い浮かべたしのぶだったが、すぐにそれはないと否定した。

 

 本人はあまり自覚していないようだったが、炭治郎がカナヲに好意を向けているというのは蝶屋敷の面々はよく知っている。

 

 今は妹の事で手一杯という様子だったが、妹を人間に戻すことさえ出来れば、周りに目を向ける余裕ができてカナヲに対する恋心を自覚するのも時間の問題だと胡蝶姉妹は思っており、そんな彼がカナヲどころか、妹すら裏切りかねない行為をするとは到底思えなかった。

 

 まあ、実際、炭治郎とカナエは友人としては仲が良かったりしていたが、はっきり言って炭治郎のタイプではなく、恋心という意味での好意は全く向けていなかったりするので、しのぶの推測は正しい。

 

 しかし、そうなるとカナエのお腹の子の父親が誰かという問題が改めて浮上してしまう。

 

 

「しのぶ、ちょっと声が大きいわよ。カナヲが聞いていたらどうするの?」

 

 

 カナエは軽く非難の言葉を口にする。

 

 そう、実は炭治郎がカナヲに好意を持っているのと同様に、カナヲもまた炭治郎に好意を持っているということを胡蝶姉妹はよく知っており、今は前述したように妹の関係もあって両片想いだが、今のしのぶの言葉が聞かれれば、後々炭治郎に余計な迷惑が掛かってしまうことは間違いない。

 

 

「誰のせいだと思っているのよ・・・」

 

 

 そう言ってしのぶは頭を抱え出す。

 

 まあ、元々の問題事を持ってきたのはカナエなので、そんな彼女から非難されたところで、しのぶとしてはこういう反応をするしかないだろう。

 

 しかし、このままでは話が進まないので、しのぶは改めてお腹の子の父親を聞くことにした。

 

 

「姉さん、真面目に聞くけど、お腹の子の父親は誰なの?まさか、心当たりはないなんて言わないわよね?」

 

 

「・・・」

 

 

 しのぶの厳しい視線を交えての詰問に、カナエは沈黙を以て返す。

 

 どうやら相当言いたくはないらしい。

 

 ここで普通の医者ならば、これ以上問い詰めるのは余計なお世話になるだろうが、あいにく実妹であるしのぶとしてはこのままで済ませる訳にはいかなかった。

 

 

「姉さん、真面目にもう一度聞くわよ。お腹の子の父親は誰なの?」

 

 

 しのぶはもう一度真剣な目でカナエに問う。

 

 カナエが体を許した相手だ。

 

 お腹の子が分からないなどということはまず無い。

 

 そう確信してのことだった。

 

 そして、そんなしのぶの視線に根負けしたのか、遂にカナエは口を開いた。

 

 

「・・・・・・くん」

 

 

「えっ?」

 

 

「不死川君よ。この子の父親は」

 

 

 ──その後、毒入りの注射器片手に風柱邸に突撃した蟲柱の少女が居たという噂が立つことになるが、真偽は定かではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西暦1915年(大正4年) 8月 日屋敷

 

 

「もうすぐ定例の柱合会議か・・・」

 

 

 炭治郎はもうすぐやって来るであろう定例の柱合会議に思いを馳せた。

 

 正直言って緊張している。

 

 原作の炭治郎は結局柱になることはなく、物語はそのまま終了したので、柱合会議に参加することなど無かった。

 

 しかし、この世界の自分は上弦を討ち取って柱となり、こうして日柱として柱合会議に参加してしようとしている。

 

 それほど柱になるのには興味がなかった炭治郎であるが、実際になってみると感無量だった。

 

 

「緊張しているの?お兄ちゃん」

 

 

 そんな炭治郎に対してそう言ってくるのは、つい先日、人間に戻った(・・・・・・)炭治郎の1つ下の妹である竈門禰豆子だった。

 

 彼女は珠世としのぶが原作よりも早く共同研究を行ったのもあって、原作よりも4ヶ月も早く人に戻り、こうして炭治郎の前に立っている。

 

 この時点で炭治郎が鬼殺隊に居る理由は消滅しているので、その気になれば抜けることもできたのだが、一応、禰豆子を人間に戻してくれた恩があることと鬼舞辻無惨が今後も自分達を狙ってこないという保証は無かった為に、鬼殺隊に居残っていたのだ。

 

 

「禰豆子か。当たり前だろう。一応、この鬼殺隊で一番偉い連中なんだから」

 

 

「でも、お兄ちゃんの方が強いんでしょう?」

 

 

「そういう問題じゃないんだよ」

 

 

 禰豆子の言葉に、炭治郎はそう言って返す。

 

 そして、炭治郎の言う通り、実力があるとか、そういう問題ではないのだ。

 

 確かに自分は他の柱に比べて実力はあるだろうし、仮に自分以外の9人の柱が自分に一斉に襲い掛かってきたとしても、3人くらいは道連れに出来る自信がある。

 

 しかし、お偉いさんの邂逅というのはそれなりに礼儀が必要だ。

 

 そして、自分で言うのもなんなのだが、そんな礼儀が自分に身に付いているとは到底思えなかった。

 

 

「大丈夫だよ。だって、“あの”風柱の人だって柱として認められているんだよ。それなのにお兄ちゃんが認められない筈がないよ」

 

 

 少々含みを持たせた言い方で、禰豆子は風柱を引き合いに出す。

 

 やはり刺された恨みは簡単には忘れることができないのだろう。

 

 

「・・・ああ、そうだな」

 

 

「ところで、お兄ちゃん。カナヲちゃんとは最近どうなの?」

 

 

「えっ?」

 

 

 炭治郎はキョトンと首を傾げた。

 

 ちなみに禰豆子は人間に戻ってからカナヲと友達関係を築いており、お互いに“ちゃん”付けで読んでいる。

 

 

「カナヲちゃんのこと、好きなんでしょう?」

 

 

 禰豆子は兄に対してそう尋ねるが、今まで妹を守ることが第一だった炭治郎は今一つ実感が湧かない。

 

 

「そう、なのかな?よく分からないや」

 

 

 炭治郎はそう言いながら、カナヲの事を思い返す。

 

 栗花落カナヲ。

 

 天才的な才能を持つ少女剣士であり、原作では炭治郎と結ばれる少女でもある。

 

 しかし、この世界ではその通りになるかどうかは分からない。

 

 既に歴史は変わってしまっているのだから。

 

 

「よく分からないって・・・気づいていないの?お兄ちゃん、カナヲさんと話すときが一番穏やかそうにしていたよ」

 

 

 そう、炭治郎自身は気づいていなかったが、彼は基本的に同じ鬼殺隊の仲間には厳しい目を向けていた。

 

 何故なら、いつ妹に危害を加え始めても可笑しくない人間ばかりだったからだ。

 

 しかし、そんな中でも仲の良い人間はおり、善逸や伊之助、カナエ、そして、カナヲは炭治郎が数少ない心を許す人間たちだった。

 

 

「・・・」

 

 

「まだ実感が湧かないって顔してるね。じゃあさ、こんな想像をしたらどう?例えば、他の男の人がカナヲさんと結ばれて結婚した時とか」

 

 

 妹にそう言われて、炭治郎はその時を想像してみた。

 

 カナヲが自分の知らない男と手を結び、キスをして結婚して抱かれ、やがてその男との子供が産まれる。

 

 ・・・想像するだけでヘドが出る。

 

 

「・・・嫌だな」

 

 

「そうでしょ?それが恋なんだよ、お兄ちゃん」

 

 

「なるほどね」

 

 

 そう言われて意外にストンと来る炭治郎。

 

 どうやら気づかないうちにカナヲの事を好きになっていたらしい。

 

 

「私はもう人間に戻ったし、これからはお兄ちゃんが好きなように時間を割いても良いんだよ?」

 

 

 禰豆子はそう言って、もう自分は大丈夫だと主張する。

 

 何時からか、何処か腹黒いところも見せ始めた兄ではあるが、それでも禰豆子にとってはかけがえのない大事な家族であったし、鬼と化した自分を守ってくれた優しい兄だ。

 

 しかし、自分にかまけすぎて自分の幸せや他人を切り捨てるという冷たい面も見せ始めていたので、これからもそうならないためにも兄には幸せになって欲しいというのが禰豆子の願いでもあった。

 

 

「・・・そうだね。そうしてみるのも良いかもしれない」

 

 

 禰豆子の言葉を聞いて、炭治郎はそう考えた。

 

 依然として鬼相手に油断できないという現実は変わらないが、人間に戻った以上、鬼殺隊に対して必要以上に警戒する必要はないだろうし、むしろ余計なお節介になりかねない。

 

 そうなってしまえば、当然、禰豆子を幸せにするという自分の思いからは遠ざかるので、これからは同じ鬼殺隊士にも、もう少し柔らかい態度で接するべきなのだろう。

 

 ・・・ただし、善逸は例外として考えるが。

 

 

「うん、そうだね。そうしてみよう。ありがとう、禰豆子」

 

 

「いいえ。どういたしまして」

 

 

 炭治郎の言葉に、禰豆子はニッコリと笑いながらそう言った。

 

 そして、翌日から炭治郎は鬼殺隊に対しての警戒を解きながら、少しずつ笑顔を向け始めるようになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──その数日後に任務先で鎹烏が凶報を運んでくるまでは。




この時点(西暦1915年8月)でのかまぼこ隊及びカナヲの階級

竈門炭治郎 柱(日柱。鬼殺隊で最高の階級)

我妻善逸 辛(かのと。一般隊士10階級の内の8番目の階級。つまり、炭治郎の8つ下)

嘴平伊之助 庚(かのえ。一般隊士10階級の内の7番目。つまり、炭治郎の7つ下)

栗花落カナヲ 乙(きのと。一般隊士10階級の内の2番目。つまり、炭治郎の2つ下)

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