竈門炭治郎に憑依   作:宇宙戦争

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蝶屋敷防衛戦 弐

西暦1915年(大正4年) 10月 蝶屋敷

 

 

「もう!静かにしてください!!」

 

 

 夜中の蝶屋敷。

 

 そこでは鍛練をしていた階級(つちのと)の隊士・嘴平伊之助が蝶屋敷で働く看護婦・神崎アオイに怒られていた。

 

 

「うっせぇ!アカイ!!俺は鍛練してんだ!!邪魔すんな!!」

 

 

「アオイです!だいたいもう夜中で患者さんは寝ているんです!!今、鍛練されるのは非常に迷惑なんですよ!!」

 

 

 伊之助の怒鳴り声に対して、アオイも負けじと怒鳴り返す。

 

 確かに今は夜中であり、こんな時間に鍛練をされるのは非常に迷惑であるのは確かであり、アオイの意見は圧倒的に正しい。

 

 だが、この時、伊之助は焦っており、アオイの言葉はあまり耳に届いていなかった。

 

 自分が炭治郎に負けているのはあの那田蜘蛛山の時から分かっており、更に6月の音柱との任務によって自分の力不足を実感し、本格的な鍛練を行って強くなっているのは実感していたが、同様に鍛練していた善逸は伊之助よりも更に強くなっていたのだ。

 

 これは音柱の件に加えて、世話になっていた育手が自分の兄弟子のせいで亡くなってしまい、その仇を打ちたいという思いが強くなっていた事が起因している。

 

 おまけにその強さは炭治郎には及ばないまでも、五感組(ただし、玄弥は既に死んでいるが)の中ではカナヲを越える第二位と呼べるレベルになっており、あと少し鍛練と経験を積めば柱に届くまでの実力というところまで上がっており、結果的に伊之助が死んだ玄弥を除く五感組の中で一番弱くなっていたのだ。

 

 伊之助はそれをよく実感しており、こうして夜にも鍛練を行うようになっていた。

 

 

「うっせぇ!指図すんじゃねぇ!!俺は強くなりてぇんだよ!!」

 

 

「だからってこんな時間にされても・・・ああ、もう!なんでこんな時に限ってしのぶ様も善逸さんも居ないのよ!!」

 

 

 アオイは自分の言うことを聞かない伊之助に頭を抱える。

 

 ちなみにこういう時は何度かあり、いつもはしのぶや善逸が何とかしてくれたのだが、あいにく今は2人とも任務の為にこの屋敷には居ない。

 

 

「まったく。明日の朝には炭治郎さんが来るっていうのに・・・」

 

  

 実は彼女は炭治郎が明日来るのを相当楽しみにしていた。

 

 あんな形で鬼殺隊を出ていってしまってはいたが、アオイ個人は彼に対してかなりの好印象を未だに抱いていたからだ。

 

 しかし、伊之助がこうして面倒を起こしてくれると、その高揚していた気分も下がってしまう。

 

 その事も彼女を苛立たせていた。

 

 

「とにかく。後でしのぶ様にはこの事を──」

 

 

「騒がしいねぇ」

 

 

「「!?」」

 

 

 突如声が聞こえ、それに反応した2人はそちらの方を向く。

 

 すると、その向いた方向──蝶屋敷の屋根の上には、いつの間にか現れた1体の鬼が居た。

 

 

「えっ・・・」

 

 

 それを目にした瞬間、アオイの体はガタガタと震え始めた。

 

 彼女は過去に家族を殺され、その憎しみから鬼殺隊に入ろうとしたのだが、結局、その時の恐怖が完全には拭えず、最終選別を突破したものの正式な隊士になることはなく、カナエの誘いで蝶屋敷に配属されたという経緯がある。

 

 要するに鬼に対して恐怖の感情を向けていたのだ。

 

 しかも、相手は左右の目に上弦・弐と書かれた十二鬼月の次席というのもあって、堪らず彼女はその場にへたり込んでしまう。

 

 

「おやあ?腰を抜かしちゃったのかな?まあ、大丈夫だよ。今回はちょっと時間が取れないから、そんな人は恐怖を忘れさせる為に一瞬で食べてあげられるよ」

 

 

「あっ?何言ってんだ、お前」

 

 

 上弦の弐の意味深な台詞に伊之助はそう返すが、その言葉の意味は直後に分かることになった。

 

 

 

べペン

 

 

 

 いきなり琵琶の音が鳴る。

 

 すると、障子が現れ、また1体の鬼が現れる。

 

 そして、それだけではない。

 

 

 

べペン、べペン、べペン、べペン、べペン、べペン

 

 

 

 琵琶の音の数と共に、障子がどんどんと増えていき、その度に鬼が現れる。

 

 その鬼達は童磨程強いわけではなかったが、これだけの数をいきなり揃えられると、好戦的な伊之助と言えども唖然とせざるを得ない。

 

 そして、鬼の数が40を少し越えるところに達した時、その琵琶の音は止んだが、そこには童磨とそれに率いられる鬼の軍団が存在した。

 

 

「ふふっ。さて、鬼のみんな。この屋敷に居る人達を存分に喰らっておくれ。ああ、ただし女の子は俺のために取っておいてね。それ以外は柱だろうと、好きにして貰って構わないから」

 

 

 童磨がそう言った直後、鬼達は一斉に蝶屋敷の屋根を突き破ると、蝶屋敷の中へと侵入する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──後に蝶屋敷防衛戦と言われることになる戦いはこうして幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃあああ!!助けてくれぇ!!」

 

 

「なんでこんなところに・・・鬼、が・・・」

 

 

 隊士達の悲鳴があちこちで聞こえる。

 

 40体を越える鬼の群れにいきなり襲撃された蝶屋敷は大混乱に陥っていた。

 

 当然だろう。

 

 ここが医療施設ということで安心して寝ていれば、いきなり多数の鬼が天井から現れて自分達を襲ってきたのだから。

 

 しかも、動かすことすら出来ない怪我人もこの屋敷には存在している。

 

 なんとか反応できた隊士も、寝耳に水を突っ込まれた状態であった事も合間って頭があまり働いていない上に、昨今の鬼殺隊士は全集中・常中はおろか、通常の全集中の呼吸ですら大した威力が出せていない。

 

 もっとも、通常の全集中の呼吸の威力不足については皮肉にも無惨の戦略によって下弦やそれに近い鬼の一般隊士襲撃が相次いだ事による戦闘経験の蓄積によって解決しつつあったが、それでも全集中・常中を身に付けている人間は、柱を除いても一般隊士全体で50人程しか居ないのが現実だ。

 

 おまけに鬼の数が多いのもあって、突然の襲撃に対応することが出来ず、次々と蝶屋敷に入院していた隊士はやられていく。

 

 

「「「きゃあああ!!」」」

 

 

 そんな中、蝶屋敷で働く三幼女達は突然の鬼の襲撃に隊士以上になんとかすることが出来ていなかった。

 

 まあ、隊士でもなく、全集中の呼吸を使えるわけでもない彼女達に突如襲ってきた鬼に対処しろなどというのは無理難題そのものなので、そういう意味では仕方のないことだったのだが、あいにく現実というのは仕方ないでは済まされない事も多い。

 

 しかし、そんな彼女達にとって幸いだったのは、鬼達が童磨の命令通りに女の子は襲わないようにされていたことだ。

 

 これは無惨が童磨に指揮権を預ける過程で一時的に一部の鬼の制御を彼に譲っていた事からそうなったのだが、それが幸いする形となって彼女達の命の危機を救っていたという訳である。

 

 そして、それはカナエも同様だった。

 

 

「くっ!どうすれば・・・」

 

 

 女性という事で三幼女同様に襲われていなかったカナエは物陰に隠れつつ、歯痒い思いをしながら入院している隊士達が蹂躙されている光景を見つめていた。

 

 今の彼女はその気になれば戦える。

 

 しかし、彼女は現在、妊娠3ヶ月の妊婦であり、安定期はもう少し先だ。

 

 いや、仮に安定期に突入していたとしても、呼吸を使った戦術をその状態で駆使するとなると、あまりにも危険が大きすぎる。

 

 どう考えても赤ん坊が流れる可能性の方が高い。

 

 しかし、もしお腹の子の父親である不死川実弥が生きていれば、終わった後に自らの深い傷を負うと分かりつつも、戦闘を行ったかもしれない。

 

 ・・・夫にも苦しみを分けられるという醜い打算を持ちつつ。

 

 だが、現実には不死川実弥は2ヶ月前に亡くなっており、お腹の子はその忘れ形見だ。

 

 不死川の事を本当に愛していた彼女には、その子供を捨てるという選択肢はどうしても出来なかった。

 

 

(どうすれば良いの・・・)

 

 

 彼女は途方に暮れる。

 

 だが、そんな時、彼女はあることを思い出した。

 

 

(・・・あら?確か今の蝶屋敷にはあの人が──)

 

 

 そして、彼女がその人物の名前を思い出そうとしていたその時──

 

 

 

炎の呼吸 壱ノ型 不知火

 

 

 

 突如現れた炎の呼吸の使い手によって、1人の隊士を襲っていた鬼の頸があっという間に跳ねられた。

 

 

「大丈夫か!?」

 

 

「あっ。は、はい!!大丈夫です!!」

 

 

「それは良かった!では、俺は皆を助けに行くから、君も出来れば加勢してくれ!!人手が足りない!!」

 

 

「り、了解しました!」

 

 

「うむ!では!」

 

 

 そう言って男はその場から立ち去り、次の敵に向かって進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、この屋敷には居たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つい先日に怪我を負ったものの、明日には退院を迎える筈だった1人の柱が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その人物は劇場版で活躍し、本来ならば5ヶ月前に戦死していた筈だったが、炭治郎の介入によって運命を歪められた結果、生き残っていた男──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 炎柱・煉獄杏寿郎だった。


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