竈門炭治郎に憑依   作:宇宙戦争

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日柱の復帰

西暦1915年(大正4年) 10月 産屋敷邸

 

 

「──そうか。戻ってきてくれるか」

 

 

 産屋敷邸にて、竈門炭治郎と輝哉は2ヶ月ぶりの対面を果たす。

 

 原作ではこの頃の炭治郎は上弦の陸との戦いの後遺症で眠っており、輝哉はその見舞いに訪れていた頃だったが、この世界ではそうはなっていないものの、原作通り床に伏す寸前の状態だった。

 

 なので、今回の対面を妻であるあまねは自分でやると言ったのだが、誠意を見せるために輝哉は炭治郎と一対一で話すことにしたのだ。

 

 

「ええ」

 

 

 炭治郎は素っ気なく返事をする。

 

 正直言えば、絶対に戻りたくはない。

 

 出来ればカナヲと雲取山で何時までも幸せな生活をしたいというのが本音だったのだが、肝心のカナヲに鬼殺隊士に戻る意思がある以上はどうしようもないのだ。

 

 まあ、それも当然であり、炭治郎のように何もかもを無くして復讐しようという気力が薄れているならばともかく、蝶屋敷という帰る場所と護るべき場所がある彼女はどうしても鬼殺隊という組織に縛られてしまう。

 

 その為、彼女を護りたいという意思がある炭治郎は鬼殺隊に戻らざるを得ないのだ。

 

 おまけに鬼舞辻無惨の脅威が去っていない以上、また襲撃を受けて彼女を失う可能性もある。

 

 つまり、どのみちカナヲや自分の生活を護ることを考慮すれば、鬼殺隊以外に頼れる組織が無いのだ。

 

 その理不尽で屈辱的な事実に、炭治郎は腸が煮え繰り返るような感覚を覚えるが、無惨を倒すまでの辛抱と、今はじっと我慢することにした。

 

 

「・・・それで俺の柱の席はまだ空いていますよね?」

 

 

「勿論だ。すぐにでも復帰できるように手配しておくよ。今は柱が7つに減ってしまったからね。本当に良かった」

 

 

「7つ?」

 

 

 炭治郎はいぶかしむ。

 

 自分が去った後の柱は元の通りの9つだった筈だ。

 

 しかし、先月に冨岡が死んだので、今の柱は8つとなっていると炭治郎は考えていたのだが、どうやら冨岡の他にも誰かが何らかの理由で欠けることになったらしい。

 

 

「ああ、炭治郎は知らなかったね。実は──」

 

 

 輝哉は炭治郎が去った直後に獪岳という隊士が鬼になり、風柱が獪岳に喰われたことを話す。

 

 

(マジかよ。予想以上にヤバイ状況じゃないか)

 

 

 あまりにも斜め上な方向に嫌な空気となっている現状に、炭治郎は冷や汗を流す。

 

 獪岳は原作でも下弦の壱以上、上弦の陸以下と評された鬼だ。

 

 それで風柱を喰ったということは、間違いなく上弦に相応しい力を手に入れているだろう。

 

 

(今の上弦は俺が猗窩座と半天狗を倒してから、その穴埋めとして鳴女を入れたと考えて6体か。対して、こちらは俺を入れて柱が8人。それも音柱、風柱、水柱を欠いた状態、か)

 

 

 改めて状況を確認する炭治郎の評価はやや鬼側が有利という判定だった。

 

 まあ、向こうは上弦2体に対して、こちらは柱を3人も失っているのだからそう判定するのも無理はなかったが。

 

 

「それで炭治郎が戻ったとしても柱の枠が1つ空いているから、カナヲか善逸を新たな柱として任命しようかと考えているんだけど・・・」

 

 

「? カナヲはともかく、なぜ善逸を?」

 

 

 炭治郎は首をかしげる。

 

 カナヲはまだ分かる。

 

 階級が甲であるし、十二鬼月も倒しているので柱となる条件は満たしているのだから。

 

 だが、善逸はカナヲの話ではまだ下級隊士であるし、十二鬼月も倒していない筈だ。

 

 柱に推薦される意味が分からない。

 

 

「ああ、これも説明していなかったね。善逸は先日、下弦の壱を単独で倒しているんだよ。それで下級隊士ではあるけど、柱の候補の1人として名が上がっているんだ」

 

 

「なるほど。しかし、規定を鑑みた場合、最有力候補としてはカナヲですね?」

 

 

「うん。それで炭治郎はどちらを推薦したら良いと思う?」

 

 

「・・・何故、それを俺に?」

 

 

 炭治郎は輝哉の意図がよく分からずに眉をしかめる。

 

 そもそもこの鬼殺隊のトップは輝哉。

 

 柱の穴埋めなど、彼が考えれば良いことであり、一柱にすぎない自分では精々柱への推薦くらいしか出来ない筈だ。

 

 そう思う炭治郎だったが、そんな彼に対して輝哉はこう言った。

 

 

「うん、まあ、炭治郎が一番彼らの力量を分かっていそうだから、かな」

 

 

「そうですか」

 

 

 そう言いながら、炭治郎は考える。

 

 

(おそらく、ここで善逸が鳴柱になるか、カナヲが花柱になるかが決まるってことか。まあ、どっちが柱がなるにしても俺にとってあまり意味があるとは思えないが、ここはやはり──)

 

 

「・・・俺としてはカナヲを花柱に就任させることを推薦します」

 

 

「ほう?それで良いのかい?」

 

 

 輝哉は意外そうな顔をする。

 

 てっきりカナヲを危険に晒さない為に善逸を鳴柱に就任させると思っていたからだ。

 

 

「ええ、どっちにしても鬼殺隊士である以上、危険性は変わりませんから。それならカナヲの望むであろう方にと思いまして。・・・ただ、1つだけお願いがあります」

 

 

「分かった、聞こう。叶えられる願いだったら叶えておく」

 

 

「これは彼女が望んだらで構わないんですが・・・彼女を俺の屋敷に住まわせてくれませんか?どのみち蝶屋敷の再建には時間が掛かるのでしょう?」

 

 

 炭治郎は先日襲撃された蝶屋敷についてそう指摘する。

 

 今の蝶屋敷は一言で言って半壊状態だった。

 

 鬼の襲撃によってあちこちの部屋や屋根は壊れている上に、戦闘によって壁にまで被害が及んでおり、中には柱(家の方)がぶったぎられている場所まである始末だ。

 

 建て直すのには少なくとも2ヶ月は掛かる。

 

 いや、それ以前の問題として、位置がバレた以上、拠点を移動させなければならないだろう。

 

 つまり、新しい拠点が出来るまで蝶屋敷は事実上の機能停止となるため、その間だけでも炭治郎はあの雲取山の時のようにカナヲと一緒に暮らしたかった。

 

 更に言えば、禰豆子の時の反省から、出来るだけ彼女を手元に置いておきたいという思惑も炭治郎にはある。

 

 

「あとはなるべく任務も一緒で」

 

 

「・・・なるほど。その程度なら構わないよ。そのように任務を組み込んでおこう」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「うん。あとこれはあくまで参考程度に聞きたいのだけど、炭治郎は何処が狙われると思う?」

 

 

「・・・は?」

 

 

「これは捕らえた万世極楽教の教団員から引き出した情報なんだけどね。最近の鬼達は禰豆子に執着しているらしくて鬼殺隊の重要施設を探し出すように命じられているらしい。つまり、彼らは禰豆子が死んだことをまだ知らないということだ。そして、鬼殺隊の重要施設を探す理由。これは言うまでもなく邪魔な鬼殺隊に打撃を与えたいという思惑と禰豆子がその重要施設の何処かに居るのではないかと無惨が思っているからだろう。となると、次に襲撃される可能性が高いのはこの産屋敷邸を含めた鬼殺隊の重要施設の何処かということになる」

 

 

「・・・」

 

 

 炭治郎は黙ってその推測を聞く。

 

 

「そして、炭治郎に聞いたのは、何処が狙われやすいかということだよ。はっきり言ってそういったことは私には分かりづらい。そういった重要施設はここ何百年も襲われてこなかったら、なかなか読みにくくてね」

 

 

「・・・御館様の勘では読めないんですか?」

 

 

「一応、読めはする。だが、この戦況は完全な勘頼りは許されないからね。他人の意見も聞きたいと思っていたんだ」

 

 

「・・・・・・そうですか。ちなみに他の柱には聞いたんですか?」

 

 

「いや、炭治郎が初めてだよ」

 

 

 その輝哉の言葉に、炭治郎は他の柱ではなく、自分にそれを聞いてきた理由がだいたい想像がついた。

 

 今の柱はたいていの人間が御館様に忠誠を誓うのと同時に盲信している。

 

 その為、前線での指揮能力こそ高いが、何処に鬼が出現すると予測されるかなどの戦略単位だと、なまじ御館様の先見の明というほぼ的中率100パーセントな代物があるからか、思考放棄しがちだ。

 

 まあ、なにもしなくても当たるのと、苦労して当てるのであれば、人間は前者を選びがちになるので、これは仕方ないのかもしれないが、逆に言えばこれは仮に産屋敷一家が無くなった場合、鬼殺隊は機能停止する可能性が高いことを意味しているので、決して他人事ではない。

 

 

「・・・」

 

 

 炭治郎は答えるべきかどうか迷う。

 

 実を言えば心当たりはあるし、根拠もあるので、そこが襲われることはほぼ確実と炭治郎は見ている。

 

 しかし、だからと言ってそれが本当になるとは限らない。

 

 既に狭霧山や蝶屋敷など、原作では戦場にならなかった場所が戦場になったりしているのだから。

 

 炭治郎の言った場所の予測が外れて、いきなりこの産屋敷邸が襲撃されるということも十分ありうるのだ。

 

 

「どうかな?何か心当たりはあるかな?」

 

 

「・・・おそらく、刀鍛冶の里だと思います」

 

 

 だが、それでも炭治郎は言うことに決めた。

 

 何故かと言えば、もし本当にその場所に敵が来て、その時に自分が居ないなどという事態になるのも、それはそれで困るからだ。

 

 ましてや、刀鍛冶の里という日輪刀を造る炭治郎にとっても重要すぎる場所であれば尚更だった。

 

 

「ほう、どうしてそう思うんだい?」

 

 

「現在の鬼殺隊の重要施設の中では一番、人の通りが多く、特定されやすいからです」

 

 

 炭治郎はそれっぽい根拠を説明するが、実際は原作知識からだった。

 

 原作では今から1ヶ月後に刀鍛冶の里編が始まり、里が襲撃される。

 

 そして、原作でこの里を特定したのは上弦の伍の玉壺(この世界では上弦の参に繰り上がっている)であり、この世界でも玉壺は未だ討伐が確認されていない以上、原作と同様に攻めてくる可能性は大いにあると炭治郎は読んでいた。

 

 が、さすがに原作知識の事は話せないし、禰豆子を殺された事での鬼殺隊への反感もあって、聞かれたとしても話すつもりは一切無い。

 

 

「そうか。じゃあ、常駐している隊士を増やそうかな」

 

 

「そうした方が良いんじゃないですか?」

 

 

 すぐにやられるでしょうけど。

 

 そう言いたかった炭治郎だったが、流石にそれを口に出すのは不味いと、全力で口の中でその言葉を呑み込む。

 

 

「ありがとう、参考になったよ」

 

 

「・・・ああ、それと刀鍛冶の里ですけど、来月辺りに1度訪れようと思っていますので、その辺りの手配はよろしくお願いします」

 

 

「うん、分かったよ。今日はありがとう。他に要望が無ければ、もう帰っても構わないよ」

 

 

「・・・では、失礼します」

 

 

 炭治郎は感情を籠らない声で素っ気なく告げると、足早にその部屋から出ていった。


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