竈門炭治郎に憑依   作:宇宙戦争

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那田蜘蛛山 弐

西暦1915年(大正4年) 2月 那田蜘蛛山

 

 大男を倒した後、炭治郎と伊之助は次の鬼を討伐するために村田達とは別れ、更に山の奥へと進んでいった。

 

 

(さて、母蜘蛛は既に殺したから、残りは累と父蜘蛛、姉蜘蛛。あともしかしたら兄蜘蛛も居るな)

 

 

 思ったより敵の数が残っている現状に炭治郎は少々眉をしかめつつ、それぞれへの対処方法を考える。

 

 

(まず姉蜘蛛と父蜘蛛は問題ないな。日の呼吸の威力なら、一刀両断出来る。まあ、姉蜘蛛はともかく、伊之助には父蜘蛛はきついかもしれないけどね)

 

 

 炭治郎はそう思いながら、伊之助を見る。

 

 彼の技能は原作と変わらず、まだ全集中・常中は出来ていない。

 

 教えることも出来たのだが、ここで実力不足を実感させることも伊之助を成長させる一助になるかもしれないと、敢えて教えなかったのだ。

 

 人は悔しさをバネに成長するのだから。

 

 逆に言えば、どれ程の天才でも悔しさが無ければ、精神的には成長できないのだ。

 

 

(まあ、それはともかく、今は次の敵だな)

 

 

 そう思いながら、伊之助と共に次の敵を探す炭治郎。

 

 そして、その甲斐有ってか、この数分後、炭治郎と伊之助は原作通り、姉蜘蛛と遭遇することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 炭治郎達が姉蜘蛛と遭遇していた頃、鬼殺隊のトップである輝哉の命令で、水柱である冨岡義勇と蟲柱である胡蝶しのぶの両名は那田蜘蛛山へと向かっていた。

 

 ちなみに後続にはしのぶの継子である栗花落カナヲと隠の部隊が控えている。

 

 そして、しのぶは隣に居る冨岡にこう話し掛けた。

 

 

「ねぇ、冨岡さん?」

 

 

「・・・なんだ?」

 

 

「あなたの師の鱗滝という人物から御館様に提案されたという全集中・一点。あなたは出来ましたか?」

 

 

 全集中・一点。

 

 それは鱗滝左近次が御館様に提出した呼吸方法で全集中の呼吸をギリギリまで高めて一気に解放するといった芸当だ。

 

 しかし、御館様経由で柱にまで伝わっていたものの、しのぶは未だに出来ていない。

 

 まあ、そもそも提案者である鱗滝左近次ですら未完成な有り様だったので、出来なかったとしても責められる要素は何も無いのだが、しのぶにとってこれはある種の希望と言えた。

 

 しのぶは鬼の頚が斬れない。

 

 理由は簡単で、それが出来るだけの腕力が無いからだ。

 

 まあ、呼吸を使えば普通の人間の頚くらいは斬れるのだが、その程度でははっきり言ってどうにもならない。

 

 その代わりと言ってはなんだが、毒を使って鬼を殺すことで討伐数を増やし、柱として認められていたのだが、この鬼の頚を斬れないという事実はしのぶにコンプレックスを植え付けるには十分だった。

 

 しかし、この全集中・一点はほんの一時的ではあるが、全集中をする時より爆発的に身体能力を向上させることが出来ると聞く。

 

 それならば、自分も鬼の頚を斬れるようになるかもしれない。

 

 そんな希望をしのぶは抱いていたのだ。

 

 ・・・もっとも、現実は厳しいものであり、この全集中・一点が伝えられてから、柱達は必死で会得を行おうとしていたのだが、未だ誰も会得できていない。

 

 しのぶ自身も肺を目一杯鍛えて全集中を行うなどしていたが、やはり従来の全集中とほとんど変わらない結果しか出てこなかったのだ。

 

 その為、柱の中には机上の空論だとして、会得を諦める者も居た。

 

 

「聞けば、鱗滝さんというのは冨岡さんの師匠だそうじゃないですか。であれば、冨岡さんは会得していたりするんでしょうか?」

 

 

「俺は出来ていない」

 

 

 冨岡はきっぱりとそう言った。

 

 

「・・・そうですか」

 

 

「・・・」

 

 

 しのぶの残念そうな顔を見て、冨岡は炭治郎の事を言おうか迷った。

 

 この全集中・一点は炭治郎によって生み出されたものであるのは冨岡も鱗滝の手紙から既に知っている。

 

 喋るのが嫌いな冨岡だったが、炭治郎の名前くらいは出してやっても良いかとも一瞬だけ考えたが、彼は鬼を連れている関係上、鬼殺隊内でその存在が表沙汰になっては困る人間であるのも事実。

 

 やはり、ここは黙っておくべきだろうと、冨岡はその考えを引っ込めた。

 

 

(すまん、胡蝶)

 

 

 冨岡は心の中で胡蝶にそう謝っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日の呼吸 弐ノ型 碧羅の天

 

 

 

 伊之助は呆然とした様子で、炭治郎によって頚を切り落とされ、崩れ落ちて灰となる父蜘蛛を見ながらこう呟く。

 

 

 

「す、すげぇ・・・」

 

 

 

 あれから姉蜘蛛と接触した炭治郎と伊之助だったが、姉蜘蛛の方は脇目も振らずに2人から逃亡という選択肢を取る。

 

 原作通りならば、そこから姉蜘蛛が父蜘蛛をけしかけ、姉蜘蛛自身は2人を撒くことに成功しているのだが、放っておくと後顧の憂いになる上に、後からやって来る蟲柱──胡蝶しのぶに毒によって苦しんで死ぬなどという結末になるのは、流石に可哀想だと判断した炭治郎が姉蜘蛛に追い付き、背後から斬撃した結果、姉蜘蛛の頚は切り落とされ、原作よりも早く姉蜘蛛は退場した。

 

 その後、川の辺りで父蜘蛛が襲撃してきて伊之助が仕掛けたのだが、肉体そのものが硬かった為か、原作通りに刃は通らず、逆に窮地に陥りかけ、最終的に炭治郎が日の呼吸を使ってその頚を切り落としたという訳だ。

 

 そして、それを見た伊之助はこう思った。

 

 

(こいつ、つええ)

 

 

 伊之助の炭治郎の評価は最初、“悪い奴ではない”という程度のものであり、それほど強いとは思っていなかった。

 

 いや、正確には自分よりちょっとばかり強いとは思っていたのだが、大して差はなく、そのうち追い抜けるだろうと伊之助は考えていた。

 

 しかし、今回のこの父蜘蛛の討伐によって伊之助はその考えを改める。

 

 こいつは正真正銘の強い奴だ、と。

 

 

(何時か倒してぇな)

 

 

 認めたくはないが、今の自分では炭治郎には敵わない。

 

 それは今回の父蜘蛛の件で嫌でも実感させられた。

 

 まあ、そうでなくとも、子分だと思っていた為、よっぽどの事がない限り挑むつもりはなかったのだが、やはり強い奴を倒したいという思いは捨てられなかったのだ。

 

 しかし、前述した通り、今の自分では炭治郎には勝てないので、この山から帰還したらまた修行仕直そう。

 

 伊之助は心の中でそう決めていた。

 

 そして、そんな伊之助の心情など露知らず、炭治郎は残った那田蜘蛛山の敵について考える。

 

 

(姉蜘蛛と父蜘蛛も片付けたから、あと残っているのは下弦の伍ともしかしたら兄蜘蛛か。さて、どうしよ──)

 

 

 

ボッゴオオオン

 

 

 

 炭治郎が何事かを考えていた時、凄まじい轟音が遠くの方から響いてきた。

 

 

「ん?なんだ?」

 

 

 伊之助はその方向を向きながら首を傾げる。

 

 しかし、炭治郎の方は何が起きたかの察しがついていた。

 

 

(今のはおそらく霹靂一閃・六連。ということは、善逸が兄蜘蛛をやったか)

 

 

 炭治郎はそう思ったが、展開が原作とは違っている可能性もあったので、チラッと伊之助を見ながら善逸の救援に向かわせることを考えた。

 

 

「伊之助」

 

 

「ん?」

 

 

「ここからは二手に別れよう。伊之助はあっちの爆発のあった方に行ってくれ。俺はもう少し上に登ってみる」

 

 

 と言いながらも、これですんなり了承してくれるとは炭治郎も思っていないので、更なる煽り文句を頭の中で思案する。

 

 が──

 

 

「・・・良いぜ」

 

 

「は?」

 

 

「だからいいぜ。俺はあっちの爆発のあった方に行けば良いんだな?よっしゃあ!任せろ!」

 

 

 そう言うと、伊之助は先程の爆発源の方へと向かっていく。

 

 炭治郎はそれを見送りながら、少し拍子抜けしていた。

 

 

(なんだ?あれ?もう少し意地を張るかと思っていたんだけど・・・)

 

 

 原作を見るに、嘴平伊之助という存在はよく意地を張る人物として描かれている。

 

 だからこそ、簡単に人の言うことを聞いたりはしないと思っていたし、現に先程まではそんな感じだった。

 

 にも関わらず、さっきの伊之助はあっさりと自分の言うことを聞いたのだ。

 

 炭治郎は首を傾げるのも無理はなかった。

 

 

(何か心境の変化でもあったのかな?)

 

 

 炭治郎はそう思いながらも、下弦の伍を探しに山の上へと登っていった。


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