【Skyrim】カジート巡礼の旅   作:Dayline

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7:冒険の手招きに寄られては

 

1

 

…あくる日のウィンターホールド大学。

2人のカジートが、冷たい石床に突っ伏していた。

 

1人は、回復魔法の訓練のため、体力を削りマジカを生み出していた最中。

最初は少しずつ、体から力を抜けていくのを感じつつも回復呪文で気力を取り戻していた。

 

だがすぐ隣にいた回復魔法の講師が

"そんなちまちまやってても、訓練にはなりませんよ!"とハードルを

上げるものだから、意識を失いかけそうになりながらも回復呪文を自分にかけていた。

 

呪文が唱えられなければ体から魂がニルンの月の元に送られてしまうので、

俗にいう"最後のひと踏ん張り"を意図的に繰り返していた結果である。

 

「ほらー、私に回復されては、訓練できないですよ?

死んででも治す勢いで、自力で回復魔法を唱えてください」

 

このノルド気質な考え方は一体何なんだ?

長年スカイリムにいると、たとえブレトンでも

こんな狂った思想に染まってしまうのか?

 

マジカと指先が動かせるだけの気力が戻るのを待ちながら、

マ・ダラーンは己の訓練方法に納得がいっていない様子だった。

 

 

2

 

もう1人は、元素の間で魔法大学のローブが氷と雷と炎で

ボロボロになっていた。破壊魔法で受けたダメージが蓄積され、

ぐったりとしているジェイ・ザルゴの姿だった。

 

(くそ… こんなの…)

 

「あなたの呪文が私がてんで当たらず、

なぜ私の呪文だけがあなたに命中し続けるか、

ここで確認してみましょう」

 

破壊魔法のマスターウィザード、ファラルダは

倒れているジェイ・ザルゴにささやかな回復呪文をかけながら話を続ける。

 

「魔法を打つ際、立ち位置を意識していましたか?

ここ、元素の間は円柱が多くそびえ立っています。

つまりそれだけ、隠れられる場所が多い、ということ」

 

「基本的には陰に身を潜め、わずかばかりに

上半身を傾けて、少しだけ身を乗り出して呪文を放つ。

全身を乗り出すのは、膠着状態になってからですね」

 

「さきほどまでのジェイ・ザルゴ君は、

とにかく必死に攻撃を当てようと、その場から動かず

呪文を連発していましたよね?」

 

「そして、マジカが切れたところで私からの反撃を

まとめて受けてしまったわけです。」

 

「なら… 次は盗賊のように立ち回ろう。

次はジェイ・ザルゴが、先生に打ち勝って見せる」

 

ヨロヨロと立ち上がり、目をシャキッとさせるジェイ・ザルゴ。

その瞳には、まだ闘志が残っていた。

 

 

3

 

「「さて、今日の講習はここまでといたしましょう」」

 

大学の別々の場所で、2人の女教師が偶然に同じタイミングで

講師の完了を告げた時。

 

「「オブリビオンから… 帰ってこれた…」」

 

長く苦しい戦いから解放され、目に光がわずかにもどった

カジートが2人、大学の天井を見上げていた。

 

それはわずか一日。だが永遠に感じるかのように長く、苦しい戦いだった。

ただ、今日の講習で確かに手ごたえを感じたのは間違いなかった。

 

安堵と疲れが入り混じった表情で各々の講師に別れの挨拶をすると、

「明日からは外地実習です。外行きの準備をするように」という

講師からの案内を受けて、移動の徒労と新鮮な環境のつらさ半分、

うれしさ半分の趣で、カジートたちは寝床に戻っていった。

 

 

4

 

「さて、今日からしばらくは外地実習です」

 

そう副学長のミラベル先生に呼び出され、

大学入り口前に突っ立たされたジェイ・ザルゴとマ・ダラーン。

 

「昨日の今日で体中あちこち痛むが、今日はどこへ赴くのかね?」

 

昨日の疲れが取れていない、げっそりとした

表情でジェイ・ザルゴが尋ねた。

 

「はい。お二方にはホワイトランに向かっていただきます。

移動手段は何でも構いません。」

 

移動手段は問わない、と言われてもウィンターホールド発の馬車なんて

ないので、必然的に徒歩しかないのだが、とマ・ダラーンは心の中で突っ込んだ。

 

「というのも、これはコレット講師の依頼でもありまして、

ホワイトランの聖堂にいる、彼女の知り合いが悩みを抱えているようで…」

 

と同時に、ミラベルが懐から手紙を取り出してきた。

 

「大学は今、例の問題の対処で人員が手放せません。

ですから、代わりにあなたたちに対処してもらいます。

詳しいことはこれを読んでください」

 

手紙を受け取った2人は、

ああ、またアンカノが癇癪を起こしたのか…と

半ば諦めの表情で、とぼとぼと大学から離れていった。

 

アンカノは大学に来てからは、些細な問題を見つけては

"サルモールにチクるぞ?"という立ち回りを繰り返す。

介入して、大学で有利に動き回りたい気持ちが透けて見えるし、

さながら姑のようだ。

 

そのため、彼の動きを抑制すべく、大学の講師が常に監視や

話し合いを繰り返し、アンカノをなだめたり、勝手な行動に

映らないか見守らなくてはならない。

加えて、それらがアンカノの気分次第という、非常に面倒な事態だ。

 

「…サルモールの中でも嫌われてるんじゃないか、アイツ」

 

「ジェイ・ザルゴもそう思う。それは間違いない。」

 

あっちでの鬱憤晴らしに、こっちが使われているわけだ。

早く事態を解決して、彼には穏便におかえりいただきたい所だ。

 

 

5

 

さて、今回のホワイトランまでの道行きだが、

ウィンターホールドから南に下り、ウィンドヘルムへ行く道を

右に曲がり、ドーンスターという街へ行くためのペイル地方を通る。

 

そこの道沿いに宿がある、という情報も知っているので一泊。

翌朝、ペイル地方の道をさらに下ってホワイトランへ向かう予定だ。

 

昼前には大学を出たので、

遅くとも吹雪が激しくなる夜前には宿へ到着するはず。

 

まあ何事もないといえば…ある。徒歩の旅にはつきものだが。

 

例えば、野良の狼がこちらの喉笛めがけて飛び込んできたり――

「フンッ!」ジェイ・ザルゴが放った"火の球(ファイアーボール)"が、狼を毛皮から焼き尽くした。

 

他には、気が狂った魔法使いが無理矢理決闘を申し込んできたが―――

 

「効かん!」マ・ダラーンが張る"魔力の砦"が、生半可な魔法攻撃を防ぎぎっては、

「シャーッ!」ジェイ・ザルゴの"サンダーボルト"が、敵のマジカごと削りきって打ち倒した。

 

 

6

 

「ジェイ・ザルゴもそこかしこの魔法使いに決闘を申し込むべきかな」

 

「ファラルダ講師までにしておこう。君まで狂人にならないでくれ…」

 

野良犬はわかる。だが、なんだったんだあの変質者は。

ローブの布切れ1枚の下、何も履いてなかったようだし。

しかもやけに魔法の扱いがうまかった。

 

しかし、それに勝利した、つまり私とジェイ・ザルゴの実力も

伸びてきてはいるのだ。…昨日のおぞましい訓練の中で。

まだまだ成長したいなら、さらにあれを繰り返すしかないのか…

 

成長と同時に、その先の恐怖を想起し、漂う冷気がより一層冷たく感じた。

 

「ところで、すっかり忘れていたが、手紙の内容は?」

 

「おお、そうだ。読んでみるか」

 

マ・ダラーンは受け取った手紙を取り出し、歩きながら読んでみた。

 

"親愛なるコレットへ

 

お元気ですか。あなたが大学に講師になる前、キナレス聖堂へ

足しげく通っていたあの日々が遠く感じます。

 

大学の話、手紙で読みました。騒動に巻き込まれて、

そちらから動けないのは理解しています。

ですが… お願いがあります。聖堂の存続に係る問題です。

 

街にある、ギルダーグリーンの木が数か月前に落雷を受けてから、

死んでしまったかのように眠っています。

今年はまだ1度も、花を咲かせていません。

 

このままでは、あの木目当てに訪れる巡礼者の数も減ってしまいます。

施しをあげるには、その施すための者がいなければ始まらないのに…。

 

もし、あなたたちから、何か手伝いができるのであれば、

なんでもよろしいです。どうか、聖堂に手を差し伸べて…

 

モニカ・ピュア・スプリング"

 

手紙の文章は、短いながらも切実な助けの声を上げていた。

 

「やはり、というかコレット先生はキナレスの巡礼者だったか。

大学ではそんな口ぶりは見せなかったが」

 

キナレス。天候と自然、動物を司る、エイドラの一種。女神である。

司るものがものなので、人間に友好的な逸話が数多く残されている。

 

特にここ、スカイリムでは嵐の女王、カイネの名で親しまれている。

始まりでいえば、帝国紀第一紀。タムリエルに初めて帝国を生み出した

アイレイド(のちのエルフ)種族からの奴隷脱却を願ったノルドの女王が、

ペリナルの名を持つ騎士をカイネから賜り、人民解放の助けになったとか。

 

…つまり言い換えれば、エルフ殺しの英雄である。

ペリナルの名を嫌うハイエルフが多いのは当然。

さらにカジートもペリナルは実は嫌いだ。彼はカジートを

エルフの一種と勘違いして、虐殺した、という伝承が残っている。

 

あまりにも潔すぎたので、止めるためにウマリルという騎士が…

いや話が脱線しすぎた。これ以上はやめておこう。

 

「ちなみにコレット先生だが、回復魔法を

アンデット退散と傷や病気の治療に特化していった時点で、

恵みや施しの側面が強いキナレスからは距離を置き、

純粋に"回復魔法の強み"だけを鍛え上げて、伝授し始めたと」

 

「だが、巡礼者時代は敬虔(けいけん)

信徒内の評判も良かったらしく、此度はそのツテで協力を求めたようだ」

 

「だてに最強・最高・最優と回復魔法を広めまわってはいないね」

 

「神は強しと… ここが"ナイトゲート"か」

 

カジートたちが駄弁っている間に、あたりは暗くなっていた。

目の前には、山道の中にポツンとある、明かりの灯った一件の宿屋があった。

 

 

7

 

宿屋"ナイトゲート"。曾祖父から数えて4代、伝統のノルドが受け継いで経営している宿屋だ。

サービスも悪くなく、男手1人でこの宿屋を経営させ続けられるのが見事だ。

 

「だが、あまりいい顔をされなかったな」

 

ジェイ・ザルゴが飯を頬張りながらマ・ダラーンの方を向く。

 

「まあ、魔法にあまりいい思い出が無かったんだろう。ノルドないしカジートもそうだ」

 

魔法大学のローブを見るなり、怪訝な顔をされればそう思わざるを得ない。

だが、宿屋は珍しく異種族が集って賑やかな様を見せている。

 

横に目をやれば、レッドガードの女性が、

オークの男に嬉々とした表情で詰め寄っている。

聞き耳を立ててみれば…

 

「なら、あのポタージュもスフレも、あなたが考案したものじゃ!?

私が子供の頃、よく食べさせてもらったわ。そうでしょ、ビーム?」

 

「うう、うむ… 確かにレシピは知っているが…」

 

「サルマ。困っているじゃないか。話はその辺にしておけ…」

 

サルマ、と呼ばれた女性を、青いローブを纏ったアルゴニアンの男… おそらく"ビーム"が引き留める。

そして彼女の視線が向こうからこちらへと… 目が合ってしまった。

 

「ほら、みて! 素敵な猫ちゃんたちもいるじゃない!」

 

"まずい"、頭のメッセージに体の反応はすでに手遅れだった。

後ろの"ビーム"から、"すまん"の気持ちを顔の表情から読み取った。

 

8

 

ひょんなことから、暖炉を囲んで、4人での談話が始まった。

 

先ほどから騒ぎ立てていたサルマは、ハイロック出身の貴族の娘。

そのお付きが、アルゴニアンのビーム・ジャ。サルマが幼少の時が見守っている。

 

「して… 内戦下のスカイリムで、なぜ"冒険"に?」

 

「もちろん、お宝さがしよ!金銀眠る財宝を見つけられたら、とっても嬉しいじゃない!」

 

マ・ダラーンは半ば呆れ顔で、ジェイ・ザルゴはわりと同調ぎみに、

そしてビーム・ジャはカジートに対して申し訳なさそうにサルマを見ていた。

 

このお嬢、道楽で冒険をしにきたのだ。わざわざスカイリムに。

それに振り回されているアルゴニアンの構図が出来上がった。

 

「もう、明日には遺跡探索だっていうのに、今日の時点で

いいこと尽くめよ。"美食家"にも会えちゃうし!」

 

美食家? シロディールで聞きなれた単語だ。

 

「あのオークが、まさか"美食家"?」

 

そのオークは宿から出て、夜風に当たりにいったようだが。

 

「サルマの言葉を真に受けないでくれ。彼女の思い込みだ」

 

「でも!"無類の味わい"に出てくる料理の話をしたら、

やけにいい反応で返してくれたわ、あのオーク!

まるで自分で書きましたって言ってるように!」

 

話についていけないジェイ・ザルゴがマ・ダラーンに耳打ちをして、

 

「そんなにすごいのか、"美食家"は?」

 

「少なくとも、シロディールで名前を知らない人はいないね」

 

"無類の味わい"。"美食家”を名乗る人物がタムリエル中を渡り歩き、

究極の一食を求めて現地の郷土料理を独自アレンジした

レシピと日記をしたためた本のシリーズである。

 

"美食家"の正体は不明で、元王宮お抱えシェフだったのか、

はたまた、"美食家"を名乗る調理師集団なのか、謎に包まれてはいるが…

新しい巻が出るたびに、シロディールでは話題に上がり、

その本に記されているレシピが一時流行ったりする程度には人気だ。

 

「宿屋の主人に聞いたら、数か月先まで宿泊料を先払いしてるのよ、彼!

そんなお金持ちがここにいるのには、きっと理由があるに違いないの!

例えば、ソリチュードで料理の腕を披露する予定があったり…」

 

4人の談話は、ほとんどサルマの独占状態で幕を閉じつつあった。

すっかり夜も遅くなる、それぞれの個室で夜を明かそうとする手前、

ビーム・ジャがカジートたちに話しかけてきた。

 

「もしよければ、明日私たちと一緒に遺跡調査へ出かけないか?

彼女の"冒険"に付き合ってあげてほしい」

 

カジート二人は互いの顔を合わせ、まあ数日ぐらいホワイトランへの到着が

遅くなってもいいか、という気持ちで申し出を快諾した。

 

…それがアルゴニアンの罠と知らずに。




*コレット先生が元キナレス信者なのはオリジナルです
*"無類の味わい"に関するシロディールの評判もオリジナルです

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