ちょっと数人足してみた   作:一汎人

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転校の時間

「聞いてくれ、2週間後に引っ越すことになった」

 

「「………………はい?」」

 

 4月に入って少しした頃の話だ。

 食事の席でいきなり言われた父の言葉は、俺と妹ににかなりの衝撃を与えた。

 いったいどういうことだろうと続きを催促すると、父は母と顔を見合わせた後に、軽くため息をついた。

 

「……今月に入ってからいきなり昇格の話が来たんだ。お前達には悪いと思ってるよ。今まで生まれ育った街から離れるのは苦痛だろう」

 

 俺は別にそんなんでもないけど、妹はどうなんだろうか? 

 

「んー、まあしょうがないや。お父さんは悪くないでしょ。それで、どこに行くの?」

 

 うん、どうやら妹も全然気にしていないようだ。確か友達が沢山いたと思っていたが、割とドライな奴だ。

 

「行くのは椚ヶ丘の辺りだ。お前達には来月から椚ヶ丘中学校に通ってもらうつもりだ」

 

「……マジ?」

 

「マジだ」

 

「……本当? お母さん」

 

「残念ながら、本当よ」

 

「「「「……………………」」」」

 

 沈黙、それがこの場において許されるただ一つの行為であった。

 俺は偏差値の高い進学校に突然放り込まれることによる絶望から、両親は俺たち兄妹をヤベェ進学校に放り込むことによる罪悪感からだ。因みに妹は椚ヶ丘に天敵がいるかららしい。(後から聞いた)

 重たい空気がテーブルに漂ったまま、その日の夕食を終えた。

 

 それからのことは覚えていなかった。

 

 

 ◆

 

 

「きりーつ、れーい、さよーならー」

 

 間延びした声と共に、帰りのHRが終わった。

 父の宣告から1週間くらい経過し、残りの日数もあと数日ということになった。

 転校するということはすでに担任に伝えていたが、クラスメイト(変人共)には打ち明けていない。

 

 それ俺は今とても悩んでいる。来週あたりから始まる新生活についてだ。椚ヶ丘中学校とか恐ろしい学校に行くとか胃が……

 胃痛に苦しんでいると、俺の目の前に3人組が現れた。

 

「なぁ詩音! お前転校するって本当なのかよ!」

「嘘でしょ!? 嘘って言ってよ!」

 

 三人のうち2人が俺に向かって話しかけてきた……というか煩いです。耳元で大声を出さないで。

 

「……なんでも椚ヶ丘に行くらしくてな。お前らとはお別れだ」

「そりゃねぇぜ! まだお前を満足同盟に入れてねぇのに!」

「誰が入るかそんなもの…………」

 

 俺を意味不明な同盟に入れようとしてくる男の名前は神田(かんだ)栄治(えいじ)

 俺の幼馴染その1にして根っからの陽キャ、そして熱血キャラだ。正直暑苦しいので近寄らないで欲しい。

 こいつの父親が自衛隊員らしくて運動神経が以上に良い。体育祭での成績は異常だ。

 ああ、それと野球部の現主将だったな……こいつの投げるボールはレーザービームだからな……恐ろしい。

 異常なまでに激辛料理が好きなので、よく愉悦用麻婆豆腐を作らされる羽目になる。あれ作るだけでとんでもないダメージが入るんだよ。

 因みにこのクラスの男子での人気はNo.1だ。そんな彼が大声を出したらどうなるか? 当然視線が集まります。ゴフッ(重症)

 

「そんな……酷いよ……あの夜の出来事は嘘だったっていうの!?」

「誤解を招く言い方やめろ……ってか俺とお前はそんな関係じゃないだろ……」

 

 およよと泣き真似をするこの女は清水(しみず)麗華(れいか)

 俺の幼馴染その2にしてビッチ、腐女子、レズ、ドMにしてドS、黙ってれば清楚系美少女ととんでもない奴である。

 それと絵が異常に上手いが、油断していると薄い本のような漫画を書かれるので注意した(810敗)

 女も男も両方いけるので、俺含めた幼馴染全員にこのような発言をしている。

 因みに普通に性格も頭もいい奴なのでクラス内人気はそこそこ高く、テストでは3位以内には必ず入っている。納得がいかない。

 そんな彼女が先程の発言をします。さらに視線が集まります。ガハッ(致命傷)

 

「ひぐっ……うぅ……」

「…………………………」

 

 俺の目の前でガチ泣きしているのは天野(あまの)花凛(かりん)

 俺の幼馴染その3にして圧倒的豆腐メンタル。というか豆腐とぶつけたらこいつのメンタルだけが砕けるレベルでマジで弱い。あとよく泣く。非常に泣き虫。中3になっても未だによく泣く。

 甘いものが好きで、ひとまずチョコを与えておけば泣き止む。逆に辛いものや苦いものを渡すとめっちゃ泣く。

 こんなに見てて不安に思える奴だが、こいつの両親が大企業の社長という奴らしく、その会社も様々な分野に展開している。要はヤベェお金持ちだ。

 とても運のいい奴で、不運な俺からしたらとても羨ましい。……考えたら憎たらしく思えてきたのでほっぺでもつねってやろう。

 

「!? いひゃい! いひゃいよ!?」(訳:!? 痛い! 痛いよ!?)

 

 やべ、めっちゃモチモチしてる。てか触り心地いいな。

 

「ひょっひょ!? いいひゃへぇんひはひゃひへ!?」(訳:ちょっと!? いい加減離して!?)

 

 あーあー、なんも聞こえない。

 因みにこいつもこいつで校内の人気が高い。しかし、美少女っちゃ美少女なのかもしれないが、クラスメイトがコイツに向ける感情は恋愛感情とかは一切ない。というか妹とか娘扱いされてる始末だ。

 ではそんな彼女を泣かせたり、ほっぺをつねったり

 

「おう左右田テメェ!」

「何俺たちのむすmゲフンゲフン……花凛に手ェ出してんだゴルァ!」

「羨ましいぞこんちくしょう!」

「それに花凛ちゃんを泣かせるなんて!」

「最ッ低! これはもう左右田君には責任とってもらうしかないわね!」

 

 はい、このようにクラスメイトは全体が騒ぎ始めます。グボァ(overkill)

 

「えっ、ちょっ、まっ」

 

 因みに当の本人はこの光景にあたふたしており、泣き止んでいます。完全に振り回されてやがる。

 

「……で、なんで黙ってたんだ?」

 

 この騒ぎは、栄治が俺に問いかけたことによって収まった。正直助かった。

 

「………………」

 

「先に言っておくが、今日は話すまでお前を帰すつもりはないぞ。すでに扉は制圧した」

 

 言われて見てみると、たしかに教室にある廊下への二つの扉は、クラスメイトは数人によって既に通行不可になっていた。

 どうやらマジで話すまで帰れ無さそうだ。

 

「……あれだ。別に話さなくてもコッソリ転校すれば良いかって思ってた」

 

「「「「「ふざけんな!!」」」」」

 

「!?」

 

 俺が正直にその理由を語ったら、クラスメイト達は俺のことをもみくちゃにした。

 軽く頭をパシッと叩かれたり頬をつねられたりうなじを舐められたり……おい最後。絶対麗華だろ。

 その後も服を引っ張られたり頭を撫でられたりハリセンで叩かれたり鎖骨を舐められたり……ってだから麗華! 

 

「おい! どさくさに紛れて何しやがる!」

 

「ふふん♪ これも私達に話さなかった罰として甘んじて受け入れてね♪」

 

「いやただの変態じゃねぇか!」

 

 こんな奴に俺はテストで負けるのか……納得いかねぇ……

 

 以降、麗華は女子数人に組み伏せられた後も、俺はクラスメイト達にもみくちゃにされていた。しかもそれが引っ越し前日まで続いた。

 

 

 ◆

 

 

 あれから1週間が経過して、引っ越し当日。日曜日という貴重な休日を使って、俺の家族は引っ越すこととなる。ツラい。

 既に荷物はもう纏めてあったり、いくつか送っていたので、後は移動するだけだ。

 

 既に着替え等は済ませており、朝食も取ったところなので今から車に乗り込もうと、住み慣れた家を出て、車に乗ろうとした時だった。

 背後から首根っこを掴まれたので、誰かと思って後ろを見ようとするも、できなかった。

 

「よぉ、詩音。今から出発か?」

 

「……栄治か。ああ、これから行くところだ。お前1人か?」

 

「んなわけねぇだろ。クラスメイト全員できてやったぜ」

 

「「「「「「「「「「ハァイ」」」」」」」」」」

「「「「「「呼んだ?」」」」」」

「「「「「「待たせたな」」」」」」

「アハハッ、逃げれるとおもった?」

 

 ……まさかめっちゃいた。というか鉤括弧の数すごいな。

 

「まああれだ。転校するお前に向けて、お嬢様からお前にプレゼントって奴だ」

 

 そう言って俺から手を離すと、後ろに下がっていった。

 入れ替わるようにして出てきたのは花凛だった。

 

「詩音君……転校しても元気でね」

 

 そう言って、俺に色紙を渡してきた。なんか外野がヤジを飛ばしている気がするが無視しようそうしよう。

 色紙には、クラスメイト全員分の名前とちょっとしたメッセージが書かれていた。頑張れよと言った励ましのメッセージが書いてあったが……その、なんだ。個性を隠そうとしない奴もいた。

 

『俺はまだ諦めてないぞ 神田栄治』

『疼いたらいつでも呼んでね♪ 清水麗華』

 

 前者はいいとして後者……自重しろよ。

 

『忘れないでね 天野花凛』

 

 どうやら花凛のメッセージは普通だったので安心した。

 

 他にも数名個性を隠していない輩がいたが割愛。あと担任も書いてあったけどスルーしておく。「「「「「「酷ッ‼︎」」」」」」

 

 そして中央には大きくメッセージが書かれてあった。なんかヤベェことが書いてそうだなと若干不安に思っていたが、いらない心配だったようだ。

 

『いつでも遊びに帰ってこい馬鹿野郎 クラスメイト一同』

 

「ははっ、冗談キツイぞ」

 

 苦笑しながらもその色紙を持って、俺は車に乗り込む。家族が全員ニヤニヤしたすごく気持ち悪い表情で俺を見つめていた。

 

 

 

「…………何だよ」

 

「「「いやぁ、素直じゃないなぁって」」」

 

「煩い!」

 

 車が発進し、俺に向かってクラスメイトはみんな手を振っていた。相変わらず花梨は泣いていたが。

 それでも、そんな彼ら彼女らも、車が進むに連れてだんだんと見えなくなっていった。

 

 やがてあいつらが見えなくなった。街を出たあたりで、窓の外を見ようとすると、どうやらうまく外の景色を見れないようだ。

 

 こんなにも視界が滲んでいるのだから……




どうも皆様初めまして。らってぃと申します。
ここまで雑な文に付き合っていただき、誠にありがとうございます。そんなあなた方に悲報(もしくは朗報?)があります。

ぶっちゃけここまで長いのは恐らく今回だけです()

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