PhantasyStarOnline2:Extra story Episode of まリス 作:今井綾菜
真っ先に驚いたのはちゃんとエアポート、キャンプシップの発艦港があったことだった。
惑星ハルコタン、事前に調べた限りではオラクル船団との関係はほぼ無く、現地神がいる影響もあって他の惑星と違い独立した生態系と執政を行なっているという。
スリスの補助を行いながら着艦を済ませてキャンプシップの火を落とす。
計器をはじめとする機器の電源が落ちていることを確認してシートから立ち上がる。
先に外に出ていたあるふぃに続いてあたしとスリスも続いてキャンプシップから外に出ていく。
機内から見た通りの、いやそれ以上の絶景があたしの目に入った。
視界いっぱいに広がる桜並木、風に吹かれて枝が揺れてひらひらと花びらが落ちてその花びらがあたしたちを吹き抜けるように通り過ぎていく。
先に船から降りていたあるふぃは雅な服を纏った少女と笑いながら話している。
「まリス、彼女がこの星の現地神である“灰の神子”スクナヒメです。くれぐれも失礼のないように」
「あの人が……?」
「ええ、あのように大らかな御仁ではありますがその身に纏う神性はこの星に祀られる災神と同等のものです。恐れ慄けとは言いませんが最低限の礼儀は尽くしなさい」
「うん、わかったよ」
スリスから注意をもらったところであるふぃがあたしたちを手招く。
隣に立つスクナヒメはスリスを見て微笑み、あたしを見て訝しげな表情をする。
「……?えっと……」
あんまりにもじっと見つめられるものだからどうしたらいいかわからずそんな声がつい口から漏れる。
「ああ、気にするでない。お主の持つフォトンがあまりにも蝉時雨と似ていたものでな」
「そんなに似てるの?」
おもしろそうに笑いながらスクナヒメはあたしの問いかけに答える。
「そうさな、姉妹とは聞いていたが此処まで性質が似ているフォトンとは思っておらなんだ。だが……うむ、お主のフォトンは少し特殊な流れもあるように見えてな」
「それはアレだろう。ただでさえ稀有な光属性のフォトンに私や蝉時雨、ミカエラを上回る武器を9つも扱う規格外の才能、これなんかも少しは影響している筈だぞ」
それは以前からスリスやミカエラにも言われていた。
あるふぃはあたしのコレを才能だと褒めてくれるが、客観的な面から見れば9つも扱うというのはコレまでの歴史上存在しないというのだ。
以前説明されたが、一つ扱えれば素質があり、二つ使えれば秀才、三つ使いこなせれば天才の域に存在する。
その天才の域にいるのがスリス、あるふぃ、ミカエラの3人であることもその説明とこの数年3人と関わって来たことで理解しているつもりだった。
「ほう、9つもか……それは面白いことを聞いたな。ああ、そういえば自己紹介がまだだったな。妾はスクナヒメ、この星で灰の神子と呼ばれるものよ。以後、よろしく頼むぞ?」
「あっ、まリス……です。あたし……えっと私こそよろしくお願いします」
「カカッ!そう畏まらずともよい!妾は堅苦しいのは好かんからな!妾のことは特に気にせず普段通りに話せばよい!」
あまりにも慣れない喋り方をすればスクナヒメだけではなくあるふぃやスリスまで俯きながら笑っている。
意地が悪いなと思いながらもあたし改めて彼女へと手を差し出した。
「そ、そうなんだ。じゃあよろしくねスクナヒメ」
「うむ、此方こそこれが良き縁であることを願っておるぞ」
差し出した手はしっかりと握り返されたのだった。
****
場所は変わりあたしはスリスとあるふぃと別れて街のはずれにやってきていた。
調査をするのは明日だと言われていたのでせっかくならばこの星を見て回ってこいとあるふぃに言われて歩き回っていたが気がつけば人気のない丘の方までやってきてしまったようだ。
だが、その丘には先客がいたようであたしがたどり着いた瞬間に二つの視線があたしへと向く。
「この場所に人が来るなんて思ってなかった。貴女があるちゃんが言ってた蝉時雨さんの妹さんになるのかな?」
黒髪の少女が先に口を開いた。
その通りだと頷いて、彼女たちへと近づくために歩き出す。
「あたしはまリス。蝉時雨の妹であるふぃはあたしの先生になるのかな」
「なるほど、私はアリス。アリス・ローズマリー、スクナヒメ様に仕える次期黒の巫女です」
「よろしくねアリス、そして貴女は」
「アリシアです。アリシア・アーデルハイト、アリスと同じくスクナヒメ様に仕える次期白の巫女です」
「そっか、よろしくねアリシア」
軽く自己紹介を済ませて手を握る。
二人がつい先ほどまでそうしていたように空を見つめればそこには満天の星空が広がっていた。
「……綺麗」
「ここはハルコタンで1番星空が綺麗に見える場所なんです」
「私とアリスと、あともう一人友達がいるんですけど三人の秘密の場所ではあったんですが……ふふ、四人になっちゃいましたね」
「もしかしてお邪魔しちゃった?」
そんなことは微塵も思ってないのに、まリスはおちゃらけた様子でアリシアに問いかける。
彼女は更にクスクスと笑って首を横に振った。
「この景色を知る人が増えるのはいいことですよ。陽が登っている間は満開の桜並木を歩き、陽が沈み夜の帳が下りればこうして星空を眺める。まリスさんがこの星を見てもう一度来たいと思っていただければ嬉しいです」
「あるちゃんみたいにしょっちゅう来るのはどうかと思うけどね」
「うん、それはあたしも思う」
あるふぃがナウシズにいない時の殆どがこの星に来ていることはこの星にきてよく分かった。
「本当に綺麗な星だね、ハルコタンは」
「私たちの自慢できる星だから」
本当に心の底からそう思ったのだ。
だからこそ、この星で違法研究をしているという人たちを許すことができなかった。
「そういえば」
「え?」
「私とアリスがまリスさんの任務をサポートすることになりました。その調査するための施設への道は私たちもしっかりと把握してますし、この星で行われていたという違法研究の正体も知る必要があるだろうと」
「まあ、あるちゃんの話を聞く限り碌でもない研究がされてたのは間違いないよねって話はしてたけどね。それでも私たちの民が研究に利用されてたならケジメはつけさせないと」
研究施設へと案内してくれるのはありがたい。
この二人は先ほど自分で口にした役割に見合う覚悟を持っているのだろうと思うのと同時に二人の言葉の端々から薄寒いものを感じる。
「けど、ほら戦闘とかになったら」
「あっ、大丈夫です。私もアリシアもそれなりに強いので自分の身は自分で守れますから」
はにかむ様に笑う二人に釣られる様にあたしも笑った。
もっとも、この翌日にこの二人の言葉の意味を知ることになるのだがいまのあたしはそんなこと知る由もなかった。