音楽好きとスクールアイドル。Zero to One 作:はくたか
「…ふぅ。」
地区大会当日を迎え、鹿角家の三兄妹は楽屋にいた。律は缶コーヒーを飲みながらスマホを見ている。
「…ん、Aqoursが会場に着いたってよ。迎えいってくる。」
「わかりました。寒いのでお気をつけて。」
律は立ち上がり…イヤホンをしている理亞の頬に缶をピタッとつけた。
「あっつ!!何するの兄様!」
そしてイヤホンを外し、耳元でそっと呟いた。
「大丈夫。今までやってきた事を信じて。私もいる。」
「兄様…」
「ごめんな邪魔して。ちょっと出てくる。」
「うん!」
楽屋の外に出ると理亞からメッセージが。
[兄様、緊張ほぐしてくれてありがとう!]
律は缶コーヒーを飲み干し、Aqoursのもとへ向かった。
「大丈夫だよな、きっと…」
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その頃Aqoursメンバーは、律が来るのを待っていた。
「律くん、もうすぐ来るって。」
「寒いずら…」
「あっ、来たよ!」
律が走ってやってきた。
「皆、久しぶり!」
「久しぶり!元気そうで安心したよ。」
「おかげさまでね。ささ、案内しますよ。」
「え、どこにずら…?」
「会いたくない?Saint Snowに。」
律に案内され、Aqoursのメンバーは楽屋の前までやってきた。
「聖良?Aqoursの皆を連れてきた。」
「ありがとうございます。入ってください。」
「失礼しま〜す…」
「お久しぶりです。」
「ごめんなさい、本番前に…。」
「いいえ、今日は楽しんでいってくださいね。皆さんと決勝で戦うのは、まだ先ですから。」
「はい。そのつもりです。」
「もう決勝に進んだ気でいるの?」
「ものすごい自信ずら。と、ものすごい差し入れずら…。」
「お2人とも、去年の地区大会も圧倒的な差で勝ち上がってこられたし…。」
「もしかしてまた見せつけようとしてるんじゃないの?自分たちの実力を。」
「果南ちゃん…その発言、取り消して。」
「え?」
「発言を取り消せって言ったんだよ!」
律は果南の胸倉を掴んで睨みつけた。
「実力を見せつけて何が悪い?私達は生半可な気持ちでやってない!もちろん、Aqoursの皆もそうだと思うけど、スクールアイドルは遊びじゃないんだよ!」
「律!落ち着いてください!」
「ご、ごめん。取り消すよ…。」
「…こっちこそごめん。カッとなってしまった。」
「…Aqoursは格段にレベルアップしました。今は紛れもない優勝候補ですから。」
「優勝候補…」
「あの時は失礼な事を言いました。お詫びします。次に決勝で会う時は…Aqoursと一緒に、歴史に残る大会にしましょう!」
「はい!」
千歌と聖良は固く握手を交わした。
「じゃあ私はこれで失礼するよ。」
「律くんどこ行くの?」
「帰る。」
「え、ちょっと…」
言葉を遮るように、律はドアを閉めた。
「…すみません、うちの兄が…。」
「律くんがあんなに怒るところ、初めて見たずら。」
「果南さん、あなたも言い方を考えてください。」
「ごめん…。」
「じゃあそろそろ本番ですので、私達は席に行きましょう。」
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「…もしもし。どうしたルビィちゃん?…え?ごめん、もう1回言ってくれる?…優勝はSugar wing?わかった、教えてくれてありがとう。」
ルビィからの電話が切れたと同時に扉の開く音がした。
「兄様!!ごめんなさい!!私のせいで…私のせいで…!」
「理亞!」
律は理亞を思い切り抱きしめた。
「私がミスしたせいで…全部台無しにした…!!」
「…理亞はよく頑張ったよ。今は泣いていいから。」
「うん…ごめんなさい…!!」
「謝らなくていいよ。よく頑張ったね。」
理亞が泣き疲れて眠るまで、律は慰め続けた。
「何か出来ないかな…。」
律は考えた。理亞のために何か出来ないか。しかし、何も浮かばず、そのうち彼も眠りについた。
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数日後
「ライブ!?」
『兄様声大きい!』
「すまん。」
『それで、律さんに協力して欲しいんです!』
「ルビィちゃん!?」
『声大きいってば!音割れてる!』
「ごめん。」
『兄様、協力してくれる?』
「もちろんだよ。喜んで。」
『ありがとう!』
『よろしくお願いします!』