昂次元ゲイム ネプギア SISTERS GENERATION 2   作:ゆーじ(女神候補生推し)

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#93 アイスブレスの恐怖

「ガアアアアア!」

 

 

 不意打ちされ、挑発され、ZOCで行動を制限された上に無視されたフェンリルは怒り心頭で大きく息を吸い込む。

 

 

「っ! みんな下がって!」

 

 

 その行動に危機感を感じたネプギアは仲間達に下がるように言う。

 

 

「うん!(いそいそ)」

 

 

 大急ぎで後ろに下がるロム。

 

プラエが、「ネプギアお姉さん!」と心配そうな声を出すが、「私に構わず、早くっ!」とネプギアが叫ぶと、「うん」と大人しくロムの後を追って下がる。

 

ラムは、「ほら、ファミ通も!」とファミ通の手を引きながら下がって行く。

 

 

「フォォォォォォ!」

 

 

 フェンリルが息を吐きだすと、白い強烈な冷気が襲い掛かる。

 

 

「アイスブレスっ!?」

 

 

 ネプギアが驚きの声を上げる。

 

アイスブレスとはモンスターが使用する氷属性の必殺技の一つ。局地的な吹雪が対象を襲う。

 

ネプギアは左手に防御の魔方陣を張りアイスブレスに備える。

 

 

「危なかった(ふぅー)」

 

「ギリギリセーフ!」

 

 

 後ろに下がったロムとラムとプラエとファミ通はアイスブレスの範囲から外れて被害を免れた。

 

 

「ああっ! ネプギア様が!」

 

 

 ファミ通が悲鳴を上げると、「ネプギアお姉さん!」とプラエも叫ぶ。

 

 

「くうっっ!」

 

 

 フェンリルがロムやラム達を追わないように、前衛で足止めをしていたネプギアは動くことが出来ずアイスブレスの吹雪に飲み込まれる。

 

左手の魔法陣を盾にして必死に耐えるネプギア。

 

 

「ォォォォォ……」

 

 

 ファンリルのアイスブレスが止まる。

 

アイスブレスの範囲内の地面は完全に凍っていた。

 

ネプギアもアイスブレスを受ける前の位置には立っていたが、ところどころ凍り付いており攻撃を受け止めた左手は完全に凍っていた。

 

 

「……ううっ……」

 

 

 ネプギアは1,315ダメージを受けてHPゲージが半分以下になって黄色になってしまう。

 

 

「か、体がっ……動かない」

 

 

 更にアイスブレスの追加効果で凍結している為、体が上手く動かない。

 

 

「ガアアアア!」

 

 

 好機と言わんがばかりにネプギアに体当たりを仕掛けてくるフェンリル。

 

 

「きゃああああ!」

 

 

 避けることも防御することも出来ずに吹き飛ばされてしまうネプギア。

 

630のダメージを受けてHPゲージが真っ赤になり、吹き飛ばされたままぐったり倒れ込んでしまう。

 

 

「ネプギアちゃん!」

 

「ネプギア!」

 

 

悲鳴を上げるロムとラム。

 

 

「……」

 

 

 ロムとラムの叫びにもネプギアはピクリとも反応しない。

 

プラエは顔面蒼白で、「そんな……」と両膝をついてしまう。

 

このままタンク役のネプギアが倒れてしまえば部隊は総崩れの危機となる。

 

 

「ウォォォォン!」

 

 

 勝ち誇ったような雄叫びを上げるフェンリル。

 

【次はお前達だ】と言う目でロムとラムとプラエを睨みつける。

 

 

「ひぃん(びくびく)」

 

「な、なによ! アンタなんか全然怖くないんだからね!」

 

「……ネプギアお姉さん、助けて……」

 

 

 ロムとラムとプラエは震えながら後ずさる。

 

 

 フェンリルはじりじりと近づいてくる。

 

 

「しっかりしなさいアンタ達! ネプギアが何の為にアンタ達を後退させたと思ってるの?」

 

 

ズキューン!

 

 

 叱咤の通信と共にユニの援護射撃が飛んでくる。

 

 

「落ち着いて、ロムの魔法か生命の欠片でネプギアを回復させなさい」

 

 

 ユニがそう言うと、「私が食い止めるよ。その間にネプギア様を」とファミ通が一歩前に出て武器を構えて戦闘態勢を取る。

 

生命の欠片とは戦闘不能から回復するアイテムだ。高価ではあるが、このような時の為に必要なので重宝されている。

 

 

「グルルルル……」

 

 

 フェンリルはファミ通に構わずに近づいてくる。

 

 

 フェンリルが、吹き飛ばされて倒れているネプギアの横を通り過ぎようとした時。

 

 

 突然ネプギアが飛び起きる。

 

 

 ネプギアは一瞬の内にフェンリルの横腹に潜り込む。

 

 

「龍昇けぇぇぇぇぇぇん!!!」

 

 

 ネプギアが叫ぶと同時に、フェンリルの横腹に強烈なアッパーパンチをお見舞いする。

 

 

「ギャウンッ!!」

 

 

 不意を突かれたフェンリルはクリティカルヒットとハイドアタックで1,623のダメージを受けて大きく上空に吹き飛ばされる。

 

ネプギアのHPゲージは真っ赤だが、僅かにHPが残っていたのだ。

 

 

「プラエちゃん!」

 

 

 ネプギアはフェンリルが吹き飛んでいる間に素早くプラエに声を掛けると、「うん! ヒールドリンク」とプラエが鎖で回復アイテムをネプギアに渡す。

 

ネプギアは素早くそれを飲むとHPゲージが三割ほどまで回復する。

 

しかし、まだゲージの色は赤い。

 

 

「ネプギアちゃん!」

 

 

 ロムはその姿に喜びの声を上げ、「もう! 心配したんだから!」とラムは少し怒りつつもネプギアの無事を喜んでいる。

 

ユニは、「まったく……ヒヤヒヤさせてくれるわね」と通信で呟いた。

 

 

「くっ……」

 

 

 だが、ネプギアのダメージは深いようでガクリと片膝を着いてしまう。

 

更にアイスブレスの影響で、まだ所々凍りついていようで体に氷が張り付いていた。

 

 

「は、早く立て直して……」

 

 

 ネプギアは苦悶の表情でロムとラムに指示を出す。

 

 

「うん!」

 

 

 ロムは両手を合わせて回復魔法の詠唱を始める。

 

 

「ライトアクアシャインウオーターウィルオーウィスプウンディーネ……」

 

 

 呪文を唱えると同時に、ペンネルがロムの足元に青白い光の魔法陣を描く。

 

ダメージが大きすぎてネプギアのヒールでは回復量が不足しているので、回復の専門家であるロムの強力な魔法で一気に癒そうというのだ。

 

 

「ガオオオオン!」

 

 

 起き上がったフェンリルは、そうはさせまいと、ロムに狙いを定める。

 

 

「まだ私はやられていませんよ!」

 

 

 しかし、ネプギアはダメージと凍結で自由に動かない体を何とか動かしつつ、フェンリルの前に立ちはだかり動きを止めようとする。

 

ロムの方は強力な魔法だけあって詠唱に時間がかかるのだ。

 

 

「たあっ!」

 

 

 ネプギアはフェンリルを足止めする為に果敢に斬りかかる。

 

 

「グゥゥゥ!」

 

 

 フェンリルは530ダメージを受けて怯むが、「ガウッ!」とネプギアに前足で反撃をする。

 

 

「きゃっ!」

 

 

 フェンリルの引っかき攻撃で356ダメージを受けて、ネプギアの赤いHPゲージが更に減少する。

 

あと一撃食らえばHPは確実にゼロになってしまうだろう。

 

ネプギアはそれでもフェンリルの前に立ち塞がる。

 

 

「グルルル……」

 

 

 唸り声を上げて次の攻撃に備えるフェンリル。

 

 

(次に攻撃したら、反撃で倒されちゃう……でも、ヒールを使う隙もないし、プラエちゃんからアイテムを受け取る隙もない……)

 

 

 緊張した顔でフェンリルに対峙するネプギア。

 

 

ズキューン!

 

 

 そこに銃声が響き、フェンリルの頭に銃弾が当たり452ダメージが当たる。

 

ユニの狙撃である。

 

 

「ネプギアに近づかないでよ! エクスプロージョン!」

 

 

ドカン! ドカン! ドカン!

 

 

 同時にラムが杖を掲げると、フェンリルの周囲に大爆発が起こる。

 

【エクスプロージョン】は炎系の攻撃魔法、大爆発が対象を包む。

 

フェンリルは534ダメージを受けつつ、爆発の炎から逃れる為に後ろに飛びのく。

 

 

「もっとネプギアお姉さんから離れて!」

 

 

 プラエが両指の鎖をフェンリルに向けて放つ。

 

鎖は一本一本正確にフェンリルを追い立てて、フェンリルに回避を強要させる。

 

 

「ウゥゥゥゥ!」

 

 

 あと一歩のところで邪魔が入り悔しそうな唸り声を上げるフェンリル。

 

 

「ヒール!」

 

 

 三人の攻撃でフェンリルが怯んだ隙に再度HPを回復するネプギア。

 

HPゲージが三割ほどまで回復する。

 

 

「まだまだ!」

 

 

 HPを回復したネプギアは、再びフェンリルに駆け寄って斬りかかる。

 

ネプギアは、深入りはせずに足止めを重視して、ダメージを受けたらユニとラムとプラエが一斉に攻撃をして、ネプギアがヒールを使う隙を作る。

 

ネプギアのHPゲージが真っ赤のままでジリ貧な状態なのだが、意思疎通の取れた四人の連携には安定感があった。

 

四人はこのコンビネーションでロムの魔法が完了するまでの時間を稼ごうというのだ。

 

 

「凄い! 土壇場でこの粘り!」

 

 

 先程まで武器を構えていたファミ通だが、四人の連携に見惚れながらメモを取る。

 

 

「ネプギア様はガッツもあるんだね」

 

 

 ファミ通はメモを取りながらギリギリのところで踏ん張るネプギアの姿を見て感嘆の声を上げる。

 

そのネプギアの周囲には薄紫色のオーラが纏われていた。

 

 

 【ガッツ】と言うのは根性のことだが、ゲイムギョウ界では能力の一つとして存在する。

 

HPゲージが著しく減少することで発動する力で、底力や火事場の馬鹿力に相当する能力である。

 

ネプギアの周囲の薄紫色のオーラが発動している証拠だ。

 

攻撃力や防御力のパラメーターが上昇するので、通常より高い戦闘能力を発揮できる。

 

立ち上がった際の強烈な龍昇拳もガッツの賜物であろう。

 

倒されるギリギリの状態ではあるが、上手く利用することで逆転をすることができる。

 

 

「そうか! ガッツを活かすために中途半端な回復はせずにHPゲージをレッドゾーンで維持しているのか」

 

 

 ファミ通はあごに手を当てながら、ふむふむと頷く。

 

ネプギアの計画的なガッツを使用した戦術に感心しているようだ。

 

 

「グガアアア!!」

 

 

 しつこく攻撃と小規模な回復を繰り返すネプギアに対して、怒りの声を上げるフェンリル。

 

既に回復魔法を唱えているロムは眼中になく、血眼になってネプギアに粘着する。

 

 

「しかも、これはヘイトコントロール!」

 

 

 ファミ通は続けざまに感嘆の声を上げる。

 

【ヘイト】とは憎悪を意味する言葉だが、ゲイムギョウ界ではパラメーターの一種として存在する。

 

ヘイトの数値が高くなると、敵に狙われやすくなる。

 

主にモンスターの嫌がる行動をすると上昇する。

 

基本的にはモンスターは回復と弱点攻撃を嫌がる。

 

最初は回復魔法を使おうとしたロムに対してヘイトが上昇したが、すぐさまネプギアが立ちはだかり、こまめな回復としつこい攻撃を繰り返すことによってロムよりネプギアの方がヘイトが高くなったのだ。

 

その為、フェンリルはネプギアを狙いだしたのだ。

 

 

 もし、ネプギアが逃げ腰で自分の回復を重視していたら、隙を突かれてフェンリルがネプギアのZOCをすり抜けてロムを襲ったかもしれないのだ。

 

このように。打たれ弱いキャラが狙われなくなるように、打たれ強いキャラが自分のヘイト値を上げて、敵の攻撃を自分に集中するようにする戦術がヘイトコントロールと言う。

 

タンク役には必須のテクニックである。

 

 

「ちりょうだよ!」

 

 

 ネプギアのヘイトコントロールのお陰で無事に回復魔法の詠唱を終えたロムが魔法を発動させる。

 

【ちりょうだよ】は体力を回復させ状態異常も直す水属性と光属性の合体回復魔法。

 

以前は状態異常の回復のみだったが、新作期を経てHPの回復も出来るようになっていた。

 

 

「ありがとう! ロムちゃん!」

 

 

 ネプギアは光り輝く青い水色の光に包まれる。

 

水の力でHPを回復し、光の力で状態異常を浄化するのだ。

 

 

「よしっ! これで大丈夫!」

 

 

 ネプギアHPが最大まで回復しゲージが緑色になる。

 

更に凍結していた部分も回復した。

 

 

「立て直し成功(ぶいっ)」

 

 

 Vサインを決めるロム。

 

ネプギアのHPが全快したことにより窮地を乗り切れた喜びの声だ。

 

 

「グルルルル!」

 

 

 対して悔しそうに唸り声を上げるフェンリル。

 

 

「どうやら今のが氷の息が必殺技みたいね。けど、ここに居れば届かないわよ」

 

「怖くない(ぐっ)」

 

 

 ロムとラムはアイスブレスが届かない今の位置に留まる。

 

 

「やーいやーい! 届かないでしょ~」

 

「あんかんべー(べろべろ)」

 

 

 更にロムとラムは調子に乗ってフェンリルを挑発する。

 

 

「ロムさん、ラムさん、調子に乗りすぎかも……」

 

 

 プラエが少し引き気味にそう言うと、「いいのよ。こういう時はこうやるのが一番なんだから」とラムが言い、「プラエちゃんも一緒にやろ」とロムが誘ってくる。

 

プラエは、「えと……」と一瞬戸惑うが、「べ……べろべろばーー」とややぎこちなくフェンリルに挑発をする。

 

こういう挑発行為もヘイトを上げることになるのだが、そこはネプギアが上手くコントロールしている。


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