昂次元ゲイム ネプギア SISTERS GENERATION 2   作:ゆーじ(女神候補生推し)

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#03 イストワール

 部屋を出たネプギア達。

 

部屋の中は薄紫のメルヘンチックで女の子らしい甘い匂いがした部屋だが、外に出るとオフィスビルのようなガラス張りで無臭な通路が広がっている。

 

いくつか絵画や置物などの嗜好品のようなものがあるが、先程の部屋からすれば別世界のようだった。

 

 

 ネプギア達が居た部屋はプラネテューヌにある象徴的建造物の【プラネタワー】内のネプギアの自室であった。その為に少女趣味な部屋だったのだ。

 

プラネタワーは象徴の他にも政治機関も担っており、ネプギアの私室があるフロア以外は役所のような作りになっている。そして教祖のイストワールもこのタワーの中にいるのだ。

 

 

「こっちだよ」

 

 

 ネプギアがそう言って通路を進んでいくと、三人もその後に着いて良く。

 

ネプギア達はイストワールに話を聞くためにイストワールが居ると思われる彼女の執務室に向かった。

 

 

***

 

 

 ネプギア達四人はプラネタワー内を移動して、イストワールの執務室を訪れていた。

 

部屋の前のプレートには教祖室と書かれており、その横には在席を示す緑のランプが点いていた、

 

ネプギアが扉の横にあるインターホンの呼び出しボタンを押すと【ピンポーン】とチャイムの音が鳴る。

 

 

「いーすんさん、少しお時間ありますか?」

 

 

 ネプギアがインターホンの横のマイクに向かって話しかけると、「ネプギアさん、なにか御用でしょうか?」とスピーカーから、落ち着いた女性の声が聞こえてくる。

 

 

「いーすんさんの書いた絵本のことで聞きたいことがあるんです」

 

 

 ネプギアがマイクに向かって言うと、「わかりました。今開けます」と返事が返ってきた。

 

同時に自動ドアが【プシュ】と音を立て横にスライドして開く。

 

ネプギアが、「失礼します」と言いながら室内に入る。

 

続いて、「おじゃまします」とユニも入り、「おっじゃましまーす!」とラムが入って、「おじゃまします(もじもじ)」と最後にロムが入って行くと扉が自動で閉まる。

 

 

「みなさん、お揃いでしたか」

 

 

 室内から先程スピーカーから聞こえてきた落ち着いた声がネプギア達にかけられる。

 

しかし、室内に人影は見当たらない。

 

 

 十畳ほどの部屋にあるものは中央の机とそれ用の四つの椅子、あとは奥にある業務に使うであろう椅子と机。

 

絵画や置物も置いてあり、教祖が仕事をするに相応しい威厳のある部屋だ。

 

しかし、奥の業務机の上にはこの部屋にはやや不釣り合いな金色の髪の毛をした女の子の人形が置いてあった。

 

開いた本に腰をかけた50センチ程の大きさの人形だ。

 

 

「私が書いた絵本というのは、【ゲイムギョウ界の歴史】のことですね」

 

 

 なおもネプギア達に声がかけられる。

 

その声の発生源は金色の髪の人形のようだった。

 

よく見ると、その人形は瞬きをしている。

 

 

「あいかわらず、ちっちゃいわねー」

 

 

ラムが人形に声をかけると、「かわいい(どきどき)」とロムもそれに続く。

 

すると、「ありがとうございます」と人形が微笑み、お礼を言う。

 

口もしっかりと動いており、紛れもなく先程までのイストワールの言葉は彼女が発したものだ。

 

 

 そう。この人形こそがプラネテューヌの教祖の【イストワール】なのである。

 

人形のように見える彼女は人工生命体。

 

ゲイムギョウ界には人工生命体を作り出す技術があり、イストワールはプラネテューヌの古代の女神が作りだしたものである。

 

 

 大きさ以外は人間そのもので、少しウェーブのかかった金色の髪をツインテールにし、瞳の色は青。

 

小さな姿に合わせて体形も凹凸の無い少女のものであった。

 

服装はナースキャップのような帽子をかぶり、紫色のオフショルダーのワンピースに緑色のネクタイを締めて白いニーソックスをはいている。

 

普通の人間と一番違うのは背中に浮かぶ薄紫色の蝶のようで機械的な形をした光の羽である。

 

 

「どうしてあの本を書こうと思ったんですか?」

 

 

 ネプギアがイストワールに質問をすると、イストワールが腰かけていた本と一緒に机の上から浮かび上がる。

 

小さいイストワールの基本的な移動手段は宙に浮いて移動することである。

 

ゲイムギョウ界には魔法と呼ばれる技術があり、イストワールが宙に浮くのは魔法の力で重力を調整し、同じく魔力を推進剤にして動いているのだ。

 

イストワールのような小さく軽い物体なら暫くの間浮いていることが可能だが、人間サイズとなると難しくなる。

 

その為、魔法があるこの世界でもネプギア達の移動手段は足を使った歩行である。

 

 

 宙に浮かんだイストワールは滑るように前進するとネプギア達の目の前でピタリと止まって、その場で浮遊する。

 

 

「立ち話もなんですし、まずはお座り下さい」

 

 

 イストワールがそう勧めると、ネプギア達四人は中央にある四つの椅子に腰かける。

 

イストワールはネプギア達が座ったことを確認すると口を開く。

 

 

「あの本を書こうとしたきっかけは、四年前のうずめさんの事件があってからですね」

 

 

イストワールがそう言うと、「やっぱり、皆さんの記憶が操作された時の為ですか?」とネプギアがイストワールの言葉に対して質問をする。

 

 

「そうです。あの件によってこういった別媒体の記録も必要だと感じました。なので三年かけて記録を整理した際にこの本を書いたのです」

 

 

 イストワールの答えに、「でも、記録も消したって言わなかったっけ?」とユニが首を傾げる。

 

イストワールは落ち着いた声で、「そうですが、どれか一つでも難を逃れることができれば残ります」と答え、「バックアップみたいなものですね」とネプギアが頷く。

 

四年前に、先述した天王星うずめとの出会いから始まる一連の事件で、ゲイムギョウ界全体の歴史からうずめが女神だった頃の記録と記憶が抹消されていることが発覚したのだ。

 

イストワールはそれを憂いて、今後同じようなことがないようにこのような本を書いたと言うのだ。

 

 

「それに、ネプギアさんが大分お仕事が出来るようになってきたので、私の負担もかなり減りましたし」

 

 

 イストワールがネプギアに向かってニッコリと微笑みながら言うと、「そんな、私なんてまだまだですよ……」とネプギアが恥ずかしそうに謙遜をする。

 

ユニはそんなネプギアを見ながら腕を組み、「むむっ……アンタもなかなか頑張ってるみたいね。アタシも負けてられないわ」とネプギアに対してのライバル心を燃やしているようだ。

 

 

 ネプギアはG.C.1996年の生まれだが、G.C.2006までは殆どプラネタワー内で箱入り娘のように暮らし、イストワールの手伝いをする程度であった。

 

彼女が外界に出て本格的な女神の活動を始めたのは、G.C.2009の犯罪組織との戦いの旅からである。

 

旅に同行した友人のアイエフとコンパに仕事であるクエストのことなどを一から教わりつつ、仕事をこなしてきたのだ。

 

後に、時間の流れが違う神次元に行った際に二十年近い仕事の経験を積み、ネプギアの女神としてのキャリアは三十年近くになる。

 

真面目で努力家の彼女は地道に積んだ経験で、ここ最近はイストワールを唸らせる程の仕事ぶりを見せている。

 

 

 ユニはネプギアと同じくG.C.1996年の生まれでネプギアよりは早く仕事を始めているが、神次元へ行っておらすネプギアと二十年近い経験の差がある。

 

しかし、ネプギアは自分が神次元で積んだ経験を惜しみなくユニに伝え、ユニもネプギアに負けじと努力を続けたことにより、二人の差は大きく開いてはいない。

 

 

 ロムとラムはネプギア達より少し遅れたG.C.2000年の生まれで、ネプギアと同じく仕事を始めたのがG.C.2009となる。

 

彼女達もユニと同じようにネプギアから色々と教わってはいるが、ユニほどネプギアに対するライバル心がないので、色々とネプギアとユニに頼ることが多い。

 

 

「あと、なりより一人でも多くの人にゲイムギョウ界の歴史を知ってもらいたいとの思いからです」

 

 

 イストワールは話を続けながら、椅子に腰かけた四人の女神候補生達を見渡す。

 

 

「皆さん、この本で少しはゲイムギョウ界の歴史のことが分かっていただけましたか?」

 

 

 イストワールは穏やかな声で四人の女神候補生に対して質問をする。

 

 

「うん! わかった!」

 

 

 ラムがいち早く元気よく左手を上げて言い、「それに楽しかった(うきうき)」とロムがそれに続く。

 

 

「やっぱり、ラステイションが一番だってことがよくわかりました」

 

 

 ユニが腕を組んで鼻高々に言うと、「そう言っていられるのも今の内よ。すぐにルウィーが狂い咲くんだから!」とラム言い、「狂い咲くよ!」とロムも続く。

 

 

「狂ってどうするのよ……」

 

 

 ユニが呆れ顔で溜息をつくと、「それを言うなら返り咲きだよ」とネプギアがフォローする。

 

 

「ふふふ……狂い咲きも間違いではありませんが、この場合は返り咲きが正しいでしょう」

 

 

 イストワールは仲良くしつつも競争心を忘れない女神候補生達に対して、嬉しそうな微笑みを浮かべながら言う。

 

 

「もう一つ言うと、私の容量の限界と言うこともあります」

 

 

 イストワールはそう言って話を戻す。

 

 

「そっか、いーすんさん長生きですもんね」

 

 

 ネプギアが納得したように言うと、「プラネテューヌの始まりから歴史を記録してるんだから、膨大なデータ量になりますよね」とユニも続く。

 

 

「はい、それに以前は記録と女神様の補佐をしていたのですが、ネプテューヌさんが女神様になってから、補佐どころか国政全体まで見なくてはならない有様になりまして……」

 

 

 イストワールはそう言って【頭が痛い】と言わんがばかりに右手を額に当てる。

 

ユニはすべてを察したよう額に右手をあてながら、「あー……」と声を上げ、「お姉ちゃんがいつも迷惑かけてごめんなさい」ネプギアが平謝りする。

 

 

「どういうこと?」

 

 

 ロムが首を傾げると、「わたしも分からなーい!」とラムが左手を上げる。

 

 

「えーと、いーすんさんはお姉ちゃんが仕事してくれないから、いっぱいいっぱいなの」

 

 

 ネプギアが説明をすると、「どれぐらい、いっぱいいっぱいなの?」とロムが質問してくる。

 

ネプギアは右手をあごにあてて数秒考え込む。

 

 

「例えるなら、前は本を読んでるだけでよかったのが、今は本を読みながら洗濯して掃除してご飯作って買い物にも行かないといけなくなっちゃったんだよ」

 

 

 ネプギアが例えで説明をすると、「はわわ、大変そう」とロムがあわあわと驚きをあらわにする。

 

ラムは腕を組んで、「孫の手も借りたいってヤツね」と自信満々に言うが、「それを言うなら猫の手よ」とユニに訂正を受けてしまう。

 

 

「この前も次元移動の反動で熱暴走してしまいましたし」

 

 

 イストワールはそう言って肩を落とす。

 

イストワールには別の次元に干渉できる能力が備わっており、先述した神次元や零次元で事件が起きた時もその能力でネプギア達を助けている。

 

しかし、その能力はイストワール自身を酷使するようで、使った後にイストワールが不具合を起こすことがある。

 

 

「でも、あの時はサンシローの入魂パッチでしたっけ? あれで何とかなりましたし」

 

 

 ネプギアはそう言ってイストワールをフォローする。

 

しかし、イストワールの表情は暗く、「更に言うと、記録の整理が追い付かずウラヌスさんのことまでド忘れした上に古の女神様と間違ってしまうなんて恥ずかしいです」と肩を落とす。

 

ウラヌスはうずめの次の女神であり、一世代前の女神となる。

 

ネプギア犯罪神と戦った際に、過去に犯罪神と戦った彼女の経験談が犯罪神を倒す鍵となったのだが、その存在をルウィーの教祖の西沢ミナに言われるまで気付かなかったのである。

 

長きに渡って歴史を記録してきたイストワールは定期的に記憶を整理する必要があるのだが、その量が増えすぎて整理が追い付かずに記憶が混乱していたのだ。

 

 

「ド忘れなんて誰にでもありますよ。ウラヌスさんも気にしてないって言ってくれたじゃないですか」

 

 

 ネプギアが再びイストワールをフォローする。

 

ウラヌスは肉体を失った意識だけの存在で、ネプギア達が犯罪神を倒して後は、以前より彼女の意識が住んでいたギャザリング城にとどまり続けている。

 

ギャザリング城に住み着いたモンスターはネプギア達女神候補生が駆除して、綺麗に掃除をした後に、今はプラネテューヌの職員が数人城に駐在してお供え物や掃除をしている。

 

ネプギアも度々ウラヌスの元を訪れて、今のゲイムギョウ界やプラネテューヌの状況を話したり、女神としてアドバイスを貰ったりしている。

 

 

 ネプギアのフォローにイストワールは首を静かに横に振り、「いいえ、毎回毎回あのような失態を晒すわけにはいきません」と答える

 

 

「そういうことで、少しでも容量を空ける為に過去の記録の別端末への移動と共に、このような紙にも記録を残しているんです。これらがこの絵本を書いた理由です」

 

 

 イストワールがそう締めくくると、「私に何か手伝えることがあったら言って下さい。なんでもしますから」とネプギアが提案する。

 

姉のネプテューヌのせいで苦労を掛けている償いもあるのだろう。

 

 

「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」

 

 

 イストワールが丁寧に一礼すると、ラムが突然左手を上げ、「ねーねー! 容量が足りないなら増やせばいいじゃない」と言う。

 

ロムも両手をポンと叩いて、「うん、すごいラムちゃん天才」とそれに同意する。

 

 

「増やすって……そう簡単にできるものじゃないでしょ」

 

 

 ユニが首を傾げ不思議そうな顔で言うと、「そうだね、私もいーすんさんみたいな人工生命体のことはよく分からないし」とネプギアも困惑顔をする。

 

機械やコンピューター全般に詳しいネプギアだが、今のところ人工生命体に対しての知識はあまりないようだ、

 

 

「だったら、勉強すればいいじゃない」

 

 

 ラムが事もなげに言うと、「ネプギアちゃんならできるよ、イストワールちゃんを魔改造できる(こくこく)」とロムも続けて言う。

 

二人の言葉に、「魔改造……いーすんさんを魔改造……」とネプギアは考え込んでしまう。

 

その横でユニが、「アンタ、本当に魔改造とかリミッター解除とか、そーゆーキーワードに弱いわね……」と肩を落としながら呆れる。

 

ネプギアの機械好きは前述した通りだが、最先端の技術を持つプラネテューヌの力を駆使するネプギアの改造は魔改造じみた方向に向かうことが稀にある。

 

魔改造とは、時にいろんな意味で無理があったり、常軌を逸した改造のことをいう。

 

 

「あの……できれば【魔】は無い方向でお願いします」

 

 

 イストワールが冷や汗を流しながら提案してくると、「あ、ごめんなさい。つい……」正気に戻ったネプギアが苦笑いを浮かべる。

 

 

「……ですが、そうですね」

 

 

 イストワールは少し考えてからそう言うと、「ネプギアさんがもう少し大人になったら、私の設計図を見てもらってバージョンアップをしてもらいましょうか」と続ける。

 

イストワールはプラネテューヌの初代女神の頃から存在しているが、今まで彼女をバージョンアップできる程の知識と技能を持った人物は存在しなかった。

 

その為に、イストワール自身が作った細かなアップデートに留まっている。

 

 

「本当ですか!」

 

 

 喜びの声を上げるネプギアに、「ええ」と優しく微笑むイストワール。

 

ネプギアの知識と技能、そして人格を信頼している目だった。

 

 

「えっと、胸をミサイルにしてもいいですか!」

 

 

 ネプギアが小さくガッツポーズをして興奮気味にイストワールに言い寄ると、イストワールは肩を落として、「やっぱり、考え直させて下さい」と言う。

 

 

「じょ、冗談ですよ、冗談!」

 

 

 ネプギアが胸の前で両手を振りながら言うと、「アンタのは冗談に聞こえないのよ」とユニが呆れながら右手で額を抑える。

 

 

「イストワールを作った女神様って、どんな人なの?」

 

 

 ラムが質問すると、「わたしも気になる(こくこく)とロムが頷き、「確かプラネテューヌの昔の女神様でしたよね?」とユニがそれに続く。

 

ネプギアがあごに指を当てながら、「えーと、SG三姉妹でしたっけ?」と言う。

 

 

「はい、プラネテューヌの初代女神のサウザンドハート・ワンのソレイユ様、その次女のサウザンドハート・ツーのルナ様、そして三女のサウザンドハート・スリーのエルデ様がSG三姉妹と呼ばれています」

 

 

 イストワールが答えると、「SGってなに?」とロムが質問し、「スーパーグレードとか?」とラムが首を傾げる。

 

 

「SGはシザシー・ジェネシス【Syzygy Genesis】の意味で、シザジーは、地球、太陽、月の三つが一線上に並んだ配置のことで、ジェネシスは創世を意味します」

 

 

 イストワールがそう言うと、「なるほど、太陽のソレイユと月のルナ、そして地球のエルデで、プラネテューヌの始まりだから創世なのね」とユニが腕を組みながら納得したように頷く。

 

 

「創世ってなに? ソーセージの仲間?」

 

 

 ラムが首を傾げると、ネプギアが「創世はね、世界を最初に作ることって意味があるの。だから、プラネテューヌを作った女神様達だから創世って言われているんだよ」と説明する。

 

ロムがネプギアの説明に、「ふんふん(こくこく)」と頷く。

 

 

「私を作ったのは三女のエルデ様になります。ルナ様もソレイユ様も関わりましたが、殆どはエルデ様です」

 

 

 イストワールが説明を続けると、「どんな方だったんですか?」とユニが質問をする。

 

 

「エルデ様は、優しく、穏やかで 少し甘えん坊なところがあって 機械をいじるのが好きな女神様であり優秀な研究者でもありました」

 

 

 イストワールが話を続けると、「優しく、穏やかで 少し甘えん坊なところがあって 機械をいじるのが好き……誰かに似てるような……」とラムが腕を組んで考え込む。

 

ロムは思いついたように両手をポンと叩くと、「それって、ネプギアちゃん?」と言う。

 

 

「そうですね、よく似ていますね」

 

 

 イストワールが静かに頷く。

 

彼女はネプギアの顔を眺めながら、ネプギアとエルデの姿を重ねているようだ。

 

 

「そう言えば超レア素材に、森羅万象ってこの世のありとあらゆる情報が詰まっていると言われているデータ結晶のエルデクリスタルってありますよね。何か関係あるんですか?」

 

 

 ネプギアはそんなイストワールの意図には気づかず自分の思いついたことを質問する。

 

 

「よくお気づきになられましたね。お察しの通り、エルデクリスタルはエルデ様が発見したことにより、その名前が付けられた名前です」

 

 

 イストワールはそう言いながら右の手のひらを開くと、そこから三人の女性のホログラムが現れ、「これがSG三姉妹の方々です」と説明する。

 

 

「これは、ネプギア? それにネプテューヌさんにプルルートさんも」

 

 

 ユニはホログラムを見ながら驚いたように言う、ユニが言うようにその三人はネプギア達が女神化した時の姿によく似ていた。

 

ちなみにプルルートとは別の世界のプラネテューヌの女神である。

 

 

「でも、ちょっと違うわ」

 

 

 ラムがそう言うと、「うん、髪型とか少し違う」とロムがそれに続く。

 

 

「私に似た人は同じロングだけど小さいお団子が二つあるし、お姉ちゃんに似た人はおさげが一本だし、プルルートさんに似た人は眼鏡かけてベレー帽かぶってるね」

 

 

 ネプギアが目立った違いを解説し、「やっぱり、同じプラネテューヌの女神だから似てるんでしょうか?」と質問をする。

 

イストワールは小さくうなずくと、「そうですね。次の世代のマース様はうずめさんに似ていましたし」と答える。

 

 

 

「ところで皆さん、先日ゲイムギョウ界は新作期を迎えましたが、鍛錬の方は怠っておりませんか?」

 

 

 イストワールが話を変えて、女神候補生の四人に向けて質問をする。

 

すると、「しんさくき? 何かの収穫?」とラムが首を傾げ、「……こないだお姉ちゃんがそんな感じのこと言ってた気がする」とロムが少し自信なさそうに言う。

 

 

「新作期って言うのはね、ゲイムギョウ界の住人の強さがリセットされちゃう時期のことを言うの。具体的に言うとレベルが1に戻ることなんだよ」

 

 

 ネプギアは考え込んでいるロムとラムに対して丁寧に説明をする。

 

【レベル】とはゲイムギョウ界の強さの基準で、鍛錬や戦闘訓練、それに実際の戦闘で敵を倒すことで得られる【経験値】を基準値まで得ることで上昇する。

 

それに合わせて【攻撃力】や【体力】や【技量】などの心身の能力値が上がっていくのである。

 

 

「えー! レベルが1に戻るなんて、今まで上げてきたレベルはー!」

 

 

 ラムが口を尖らせて抗議すると同時に、「無駄になっちゃうの(しくしく)」とロムが悲しそうな顔をする。

 

 

「ただ戻るだけではないのよ。リセットされる前の強さを基準に初期能力や成長率が上がって、リセットされる前は使えなかった技能が使えるようになったりするのよ」

 

 

 ユニはロムとラムを落ち着かせるよう、いつもより優し気な声で言うと、「だから無駄にはならないわ」と励ますように言う。

 

 

「だから、新作期前のレベル99より新作期後のレベル99の方が遥かに強くなるんだよ」

 

 

 ネプギアが続けて説明をすると、「日本一から言わせれば【転生】するってことらしいわ」とユニが付け加える。

 

転生とは生まれ変わることではあるが、【日本一】という以前にネプギア達と共に戦った友人がこの現象のことをそう呼んでいる。

 

彼女の好きなゲームに、同じようにレベルを何度もリセットしてキャラクターを強くしていくものがあり、そのシステムが転生と呼ばれていたのでそこから引用したようだ。

 

 

「その様子じゃアンタ達は気付いてないでしょうけど、今まで新作期は二回もあったのよ」

 

 

 ユニが少し呆れながら言うと、「ロムちゃんもラムちゃんも新しい必殺魔法憶えて、凄く強くなったでしょ」とネプギアが続けて説明をする。

 

すると、「「そういえば」」とロムとラムが声を揃えて柏手を打つ。

 

 

「私も最初は怠けていたからレベルが下がったのかなって慌てたから、気付かないもの無理ないよ」

 

 

 ネプギアがそう言ってフォローする。

 

彼女が初めて新作期を迎えたのは犯罪組織との戦いの二年後である。

 

その頃のネプギアは犯罪神を退けて平和となった世界で、やや怠惰な生活を甘受していた。

 

 

「怠けていてもレベルは下がりますよ。特にネプテューヌさんみたいな人は」

 

 

 ネプギアの言葉にイストワールがやや厳しい声色で忠告する。

 

彼女はネプギアの姉であるネプテューヌの怠けぶりに常日頃頭を悩ませており、こういう話になるとつい彼女の名前が出てしまう。

 

 

「あはは……お姉ちゃんの場合は成長力がもの凄い反面、怠ける時はとことん怠けるから一気にレベルが下がるんですよね……」

 

 

 正直なネプギアはフォローになってるかなってないか分からない発言をしてしまう。

 

 

「ロムさんもラムさんも難しいことは考えずに、ネプギアさんとユニさんと一緒に成長していただければ問題ありませんよ」

 

 

 イストワールは気を取り直してロムとラムに向けて優しく言うと、「わかったわ! みんなで、切磋琢磨するのね!」とラムが元気よく言う。

 

 

「おや? 難しい言葉を知っていますね」

 

 

 イストワールがラムの言葉に感心をすると、「ネプギアちゃんとユニちゃんに教えてもらったの(にこにこ)」とロムが嬉しそうに言う。

 

 

「そうですか。みなさん、その調子でお願いしますね。ゲイムギョウ界の未来はみなさんの双肩に掛かっているのですから」

 

 

 イストワールが微笑みながら言うと、「双剣? わたし達の武器は杖よ」ラムが不思議そうに首を傾げる。

 

 

「武器の剣じゃなくて、体の肩よ」

 

 

 ユニが説明すると、「双肩って言うのは、責任や義務を負うもののたとえで、私達がゲイムギョウ界の未来を肩に乗せてかついでるって感じかな」とネプギアが続ける。

 

 

「おみこし?(わっしょいわっしょい)」

 

 

 ロムが嬉しそうに言うと、「おまつり大好き! わたし達に任せて! わっしょいわっしょい!」とラムがそれに続く。

 

ロムとラムはおみこしを担ぐ真似をしてリズムをとって楽しそうに踊っている。

 

ちなみにラムの言う双剣とは短めの剣を二刀流すること、ゲイムギョウ界では人気のある武器なので同じように勘違いする子供もいるかもしれない。

 

 

「でも、私達の双肩って言いますけど、どっちかって言うとそれはお姉ちゃん達のことじゃないですか?」

 

 

 ネプギアがそう言って首を傾げると、「ネプテューヌさんは毎日ぐーたらしてますし、他の女神様もご自分の趣味が関わると仕事がおろそかになりがちなので……」とイストワールは肩を落として言う。

 

守護女神達はネプテューヌを除いて不真面目ではないのだが、自分の趣味に確固たるプライドをもっており、それに没頭しすぎると国が傾いたりする。

 

また気位が高い上に個性も強く、他人の風下に立つことを快しとしないので協力させるにも一苦労する。

 

仲が悪い訳ではないのだが、四人が四人とも【自分がこそがナンバーワン】と譲らないのである。

 

そんな彼女達が協力する場合は、大体ネプテューヌが厄介ごとに首を突っ込み他の三人を巻き込んで引きずる形になる。

 

そのように扱いの難しい守護女神達に対して、ネプギアを中心に純粋で素直な女神候補生達の方に期待してしまうのも仕方ないことなのかもしれない。

 

 

 その後、 女神候補生達はイストワールを交えて会話を続け、ユニとロムとラムの三人は帰宅時間になり、それぞれの国へ帰って行った。

 

 

 このお話はネプギアを中心とする女神候補生達がゲイムギョウ界で巻き起こる事件を力を合わせて解決していく物語である。

 


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