昂次元ゲイム ネプギア SISTERS GENERATION 2 作:ゆーじ(女神候補生推し)
ネプギアが暫くの間クエストを探していると、カウンターに一人の小奇麗な老婆が訪れていた。
「あのぅ……クエストを頼みたいんじゃが……」
老婆はギルドに来るのは初めてのようで、たどたどしく受付の男性に話しかける。
「はい、どのようなご用件で?」
受付の男性が笑顔で丁寧に対応すると、老婆は少し安心したように表情を緩め、「家にある時計を直してほしいのじゃ……おじいさんとの思い出の品でのぉ」と伝える。
受付の男性は、「それなら、時計屋さんに連絡をしてみてはいかがでしょうか?」と勧めてみると、「時計屋は旅行に行っていておらんのじゃ……」と老婆は切なそうに言う。
恐らく朝一番で時計屋を訪れたが、休日のお知らせを見て、途方に暮れワラにすがる思いでギルドを訪れたのだろう。
「でしたら、機械に強い冒険者を探してみますので少々お待ちください」
受付の男性はカウンターのコンソールを操作してギルドに登録している冒険者の一覧を呼び出す。
午後にもなれば、たくさんの冒険者がギルドを訪れ、時計の修理程度なら誰か一人ぐらい手を上げてくれるのだが、今は午前中でしかも開店したばかり。
ギルドの中にはネプギアと受付の男性、そして老婆の三人しかいない。
ネプギアはタッチパネルの操作を止めて老婆と受付の男性のやり取りを遠目に眺めていた。
受付の男性はスマートフォンでクエストを受けてくれそうな冒険者に連絡を取っているようだが、誰も出てくれないようだ。
冒険者の多くは夜遅くまで仕事をしており、朝起きるのは遅い者が多い。
受付の男性が何度目かの電話を切ると、「無理かのぉ……」と老婆が再び切なそうな声を出す。
老婆が肩を落とし背中を丸くする様は、悲しみが漂っていた。
その姿にネプギアはとっさに声を出す。
「あの、私でよければみますけど?」
ネプギアは老婆の切なそうな声に同情して、本当に大切な時計なんだと思い自分から名乗り出たのだ。
老婆が、「おお、お嬢ちゃんできるのかい?」と嬉しそうな声を出す。
しかし、受付の男性はカウンターを出てネプギアに近づくと、「ネプギア様にしていただくような依頼じゃありませんよ」と耳打ちする。
男性の言う通り、女神などの高い戦闘能力を持つ者はモンスター退治などの荒事になるクエストを担当する。
このようなお使いクエストは駆け出しの冒険者などに譲るのが定例である。
「こういうお仕事は新米の冒険者さんに譲るべきなのはわかってますけど、おばあさん困ってるみたいなので……」
ネプギアはそう言うが、「そうは言われてもねぇ……」と受付の男性は難しい顔をする。
受付の男性も心優しいネプギアの気持ちは分かるが、このような雑用クエストを女神にさせたと上に知られたら減俸ものである。
「もう少し待ってもらって……」
受付の男性はネプギアを説得しようとするが、「お願いします。やらせて下さい」とネプギアが大きく頭を下げる。
「わわわ! 頭を上げて下さい、わかりました! お任せしますから」
受付の男性は慌ててネプギアに言う。
女神とも普通にコミュニケーションをとるが、さすがに頭を下げてもらうのは恐れ多いようだ。
心優しく感受性や共感力が高いネプギアは困っている人を助けるためなら、自分の立場も構わずに行動してしまう。
「それでは準備しますので、こちらにご記入をお願いします」
受付の男性はそう言うとA4サイズの依頼書を老婆に手渡すが、「ううん? どう書けばいいんじゃ……」と老婆は困惑顔になる。
「それじゃあ、私が説明しますね。こっちに来て下さい」
ネプギアはそう言うと老婆の手を優しく引いてペンの置いてある机に誘導していく。
「いや~……本当にいい子だな。女神様じゃなければほっておかないんだが」
その姿を見ながら受付の男性はしみじみとつぶやく。
受付で毎日のように真面目なネプギアの仕事ぶりを見ている彼はすっかりネプギアの信者になっているようだ。
その間に、老婆はネプギアの丁寧な説明に従って依頼書の空白を埋めていく。
「お嬢ちゃんは若いのに礼儀正しくて親切じゃのぉ……」
老婆はネプギアを眺めながら嬉しそうな顔で言う。
彼女は親切かつ可愛らしく上品な振る舞いのネプギアのことをすっかり気に入ったようだ。
「ありがとうございます。私もおばあさんのお役に立てて嬉しいです」
ネプギアはそう言いながら、先程の様子からこの老婆は自分が女神だということを知らないようなので、余計な気遣いをさせないよう、このまま言わないことにしようと思った。
テレビなどのメディアに出演しているとはいえ、出ているのは主に姉達守護女神でネプギア達女神候補生はあまりメディアに出ることはあまりない。
その為、知らない人がいても不思議ではない。
老婆は依頼書を埋めて受付の男性に提出すると、男性はキーボードを操作して依頼書の情報を端末に入力していく。
「はい、登録できましたので受注入力して下さい」
受付の男性がネプギアにそう言うと、ネプギアは、「はい」と答えて、右の太ももに付けている専用のケースから携帯ゲーム機型万能デバイス【Nギア】を取り出す。
携帯ゲーム機型万能デバイスとは簡単に言えばスマートフォンである。
先程、受付の男性が持っていたようにゲイムギョウ界にもスマートフォンはあるので、競合する形になっている。
携帯ゲーム機型万能デバイスはスマートフォンに比べて専用のゲームソフトが遊べ、ゲームに関する機能が優れている。しかし、その分他の機能がやや劣るところがある。
その為、子供やゲーム好きの大人は携帯ゲーム機型万能デバイスを好んで使い、その他の人々はスマートフォンを使っている。
ネプギアはNギアに付いているボタンとタッチパネルの操作で素早く、【クエスト】と表示されたアプリケーションを選択する。
すると、【NEW】の表示がされた【時計の修理依頼】の項目にタッチする。
ネプギアはクエストの説明文、期限、報酬額を全て確認した上で【受注する】のボタンをタッチした。
これにより正式にギルドからクエストを受けたことになる。
「はい、受注終わりました」
クエストの受注操作が終わったネプギアはNギアをケースにしまうと、「おばあさん、直す時計はどこにありますか?」と早速クエストに取り掛かるべく老婆に時計のことを聞き始める。
「家にあるんじゃ……大きな古時計でな、おじいさんが生まれた時から百年休まず動いていたんじゃが……」
老婆が説明をすると、「じゃあ、おばあさんの家におじゃましますね」とネプギアが言い、先程と同じように優しく老婆の手を引いて行く。
****
ネプギアは老婆に道案内してもらい街中を進みながら、老婆の夫で先日亡くなったという、おじいさんとの思い出話に耳を傾けていた。
「いいおじいさんだったんですね」
ネプギアがしみじみと老婆に答えながら頷く。
真面目なネプギアは真剣に老婆の話を聞き、あいづちをうったり感想を述べたりしていた。
そうしている内に老婆の家に着いたネプギアは老婆に案内されて、修理する古時計のある部屋に案内される。
確かに古いが綺麗に掃除されておりアンティークとして十分価値がありそうな逸品であった。
老婆の家も上品なアロマの匂いがして、時計の雰囲気とマッチしていた。
「わー、すごく立派な時計ですね」
ネプギアはそう言って素直に関心すると、「じゃあ、さっそく見させてもらいますね」と言ってNギア取り出して操作する。
画面の【ポケット】と表示されたアプリケーションを選択し、【ネプギア特製工作ツール】を選択するとネプギアの手元に工具一式が現れる。
携帯ゲーム機から工具が出てくるのは非常識に見えるが、ゲイムギョウ界では常識である。
これはNギアにインストールされている【ポケット】と呼ばれるアプリケーションによる機能だ。
ポケットはゲイムギョウ界では【アイテム】と呼ばれる様々な道具を、ミニゲートを使用して保管や出し入れをする倉庫サービスの一つ。
グローバルゲートネットワークを通じて、インベントリと呼ばれる倉庫に保管するので大量の保管が可能。
だが、ネットワークがパンクしないようにアイテムの大きさによって出し入れの回数制限が設けられている。
このような便利な携帯端末が流通する前は道具袋にアイテムを保管していた。
冒険者は装備の他に傷薬や鍵などのアイテムを細かく管理し、持ちきれないアイテムを預かる【預かり所】などの商売があったとされている。
「ええと……ふんふん……なるほど」
ネプギアは古時計を分解して構造を確認しながらつぶやく。
「どうかのぉ……直りそうかい?」
老婆が心配そうに尋ねると、「大丈夫です。何個かすり減ったパーツがあるので、それを交換すれば直るはずです」とネプギアが老婆を安心させようと力強く言う。
「おお、頼もしいのぉ~」
老婆もネプギアの言葉に安心したのか嬉しそうに微笑む。
「それじゃあ、私パーツを探しにジャンクショップに行ってきますので少し待っていて下さい」
ネプギアはそう言って立ち上がると、「ジャンクショップ?」と老婆が質問をする。
「ジャンク品って言う、そのままじゃ使える見込みがないパーツや古くて使い道がない品物が売っているんですよ。この時計古いですからピッタリなパーツがあると思います」
ネプギアが説明すると、「お代はどうしたらいいかねぇ?」と老婆が心配そうに言う。
ネプギアはニコリと微笑んで老婆を安心させると、「領収書を切ってもらいますから心配しないで下さい」と言う。
そして、時計の修理に必要な部品を再チェックしながらNギアにメモをしていく。
****
ネプギアは老婆の家を後にするとプラネテューヌの街のジャンクショップに向かう。
ネプギアがジャンクショップの自動ドアを通ると、少し暗めの店内に鉄の匂いがしてくる。
同時に、眼鏡をかけて私服の上に店の名前が書いてあるエプロンを付けている男性が、「いらっしゃいませネプギア様、今日は何をお探しで?」と声をかけてくる。
機械が好きなネプギアはジャンクショップの常連である。
彼女は女神という立場でありながら贅沢な高級品はあまり使用せず、ジャンクショップに足しげく通ってリサイクルできる部品を探しているのだ。
真面目で堅実な彼女の考え方は作る機械にも表れており、常に最新で最高の性能を有する部品よりも、確実に動作する信頼性の高い部品を選んで使う。
その為、ジャンクショップには思いがけないお宝があることがあるのだ。
ちなみに以前に話した魔改造はするが、無謀な改造ではなく、信頼できる部品で確実に動作する形で作っているので暴走などの危険性はほとんどない。
信頼できる部品をプラネテューヌの最先端技術で改造する彼女の魔改造は、改造後の方が動作が安定することがあるほどだ。
「こんにちは店長さん。今日は歯車を見に来たんです」
ネプギアは挨拶をした後に用件を伝えると、「じゃあ、こちらですね」と店長はネプギアを案内する。
ネプギアは、「ありがとうございます」とお礼を言いながら店長の後ろに付いて行く。
ネプギアが案内された場所には箱の中に大量の歯車が無造作に入っていた。
ネプギアはNギアから取り出した軍手をはめると、それを一つ一つ手に取って状態や寸法を調べ、使えるものと使えないものを分けていく。
「ネプギア様楽しそうですね」
店長は楽しそうに作業するネプギアを見て声を掛ける。
ジャンクショップ自体あまり人が大挙して訪れる場所ではない。
その上に今は午前中ということで、暇を持て余している店長は歯車を選別するネプギアを邪魔にならない程度の距離から眺めていた。
この店長もギルドの受付の同様にネプギアの信者である。
ジャンクショップのような女っ気のない店で、ネプギアのような真面目で朗らかな美少女が常連客ともなればファンになってしまうもの仕方ないことかもしれない。
「はい、私歯車って大好きです。一つ一つは小さいけど、たくさん組み合わせて大きな仕掛け動かす姿を見ると、どんなに大変ことでもみんなで協力すればできるんだって思えるんです」
ネプギアは店長の言葉に嬉しそうにそう答える。
「ネプギア様の名前にも【ギア】って付いていますしね」
店長はネプギアの名前に歯車を意味するギアの文字が入っていること言う。
すると、「はい、私この名前大好きです。私も歯車みたいに、みんなと一緒に楽しくて平和なゲイムギョウ界を作りたいです」とネプギア答える。
「社会の歯車になるのが嫌だって言う人が多い中で、ネプギア様のような立派な考えを持ってる子は貴重だね」
店長はネプギアの考え方に感心したように何度も頷きながら言う。
「ありがとうございます。でも、私は一人じゃ怖くて何も出来なくて、すぐにお姉ちゃんや友達を頼っちゃうから、そう思うだけで立派なんかじゃありませんよ」
店長の誉め言葉に対してネプギアは丁寧に謙遜をする。
店長はそんなネプギアを見ながら嬉しそうに微笑んだ。
ネプギアの言動や行動が彼の琴線に触れたようだ。
先述したが、ネプギアは神次元から戻って来て頻繁に街に顔を出して仕事をするようになった。
それによりG.C.2012からギルドやジャンクショップ等の彼女がよく訪れる場所でネプギアの信者は少しずつ増え始めていた。
尖った特徴は無いが、内面も外面も非の打ち所がない彼女は、この店長と同じように多くの人に好意的に受け入れられている。
逆にネプギアの優等生ぶりが鼻に付く言う人物もいるが、それはごく僅かである。
「あっ、これで揃いました」
ネプギアは会話しながらも歯車の選別をしており、ちょうどその作業が終わったようだった。
ネプギアは歯車を購入して領収書を切ってもらうと、Nギアを操作して、ポケットアプリを呼び出すと購入した部品をインベントリ倉庫に収めるとジャンクショップから出る。