昂次元ゲイム ネプギア SISTERS GENERATION 2 作:ゆーじ(女神候補生推し)
サクラナミキのクエストから一週間後。
G.C.2019年4月12日金曜日。
「ネプギアさん、またファミ通さんの記事でプラネテューヌのシェアが上がりましたよ」
部屋で休憩中のネプギアに、イストワールがホクホク顔で週刊ファミ通を持ってくると、「わーい、本当ですか」と柏手を打って素直に喜びを表現するネプギア。
「どうぞご覧ください」
イストワールはネプギアに週刊ファミ通を手渡す。
ネプギアは先週と同じように付箋の張ってあるページを黙々と読み始める。
そこには先週のサクラナミキでのネプギアの多彩な活躍と女神化した時の圧倒的な戦闘力。それに初心者のファミ通に対する気配りの他に、お弁当の椎茸おにぎりが美味しかったなどと細かいことまで書かれていた。
「いやー、自分の才能が怖いなー」
ベッドから飛び起きて、腰に手を当てて誇らしげなポーズをとるネプテューヌ。
ネプギアとネプテューヌは相部屋なのでネプテューヌがいるも当然ではある。
「シェアが上がったのはネプギアさんのおかげです。何度も同じことを言わせないで下さい」
鼻高々に腰に手を当てるネプテューヌにイストワールは冷たく言い放つ。
ちなみにネプテューヌは相変わらず遊んでばかりだった。
「いーすんのいけずー。繰り返しはギャグの基本じゃん」
イストワールの態度に口を尖らせるネプテューヌだが、「私、ネプテューヌさんと漫才をするつもりはありませんから」とイストワールの態度は変わらず冷静なものだった。
「もー、いーすんってば。私達は某派出所の主人公と部長のようなコンビじゃん」
「それ、あんまり仲が良くないようなコンビな気が……」
ネプテューヌのボケにすかさずツッコミを入れるネプギア。
「それより、ネプテューヌさん。体重は落ちたのですか?」
イストワールが訝しげな視線をネプテューヌに向ける。
教祖として先週のネプテューヌの体重増加が気になるようだ。
「バッチリだよ。わたしの変身ダイエットはいつも完璧だよ」
ネプテューヌはVサインを決めて堂々と言い放つ。
変身ダイエットとは、変身しては戻り変身しては戻るを繰り返してカロリーを消費する方法である。
「……以前にも言いましたよね? 女神化はシェアエネルギーを消費すると……」
イストワールは怒りに肩を震わせて静かに言う。
女神化で消費されるのはカロリーだけではない。国民から得たシェアエネルギーも消費するのだ。
その為、女神化はゲイムギョウ界及びそこに住む人々を守る為に使う切り札であり、個人的なダイエットに使っていいものではない筈だ。
と、言うかこんなことするのはネプテューヌぐらいなので、こうしている間に他国とのシェア差が更に開く一方だろう。
「いやー! こんな簡単なダイエットが出来るなんて女神って得だね」
ネプテューヌがイストワールの言うことなど聞いていないかのようにお気楽に言う。
「ですから! 女神化をダイエットなんかに使わないで下さい! ただでさえプラネテューヌのシェアは低いんです! そんなことに使っている余裕なんて無いんです!」
イストワールが激しくまくし立てて言う。
すかさずネプギアが間に入り、「えーと……お姉ちゃん、ダイエットなら一緒にクエストに行こうよ。カロリー消費するし、シェアも上がるよ。ね?」とネプテューヌに提案する。
「えー、ムリムリ。疲れるし、足の裏痛くなったり、筋肉痛になったりするし、それにわたし、まだ積みゲーが山ほどあるし」
ネプテューヌは面倒くさそうに手をひらひらと振りながらネプギアの提案を却下する。
イストワールは、「はああぁぁ……」と盛大に溜息を吐きながら、「こんなことでは本当にシェアエネルギーが尽きてしまいますよ」と呆れかえってしまう。
「大丈夫大丈夫。何があろうと、わたしの溢れだす主人公補正で切り抜けられるよ」
ネプテューヌはあっけらかんと言い放つ。
彼女は主人公を自称しており、何かにつけて自分の主人公補正で何とかなると考えている。
ちなみに主人公補正とは、何が起ころうが最終的には主人公が勝つというご都合主義な展開である。
ネプテューヌはその主人公補正ありきで人生生きているのだ。
「よし! 決めた」
イストワールとネプテューヌの会話をよそに一人ネプギアが決意を固めたように言う。
「決めたって……何をですか?」
イストワールが不思議そうな顔でネプギアに問いかけると、「わたし、お姉ちゃんの為に脂肪吸引装置を作るよ!」とネプギアは力強く宣言する。
脂肪吸引とは皮下脂肪を特殊な吸引管で取り除く手術のことを言う。
「え……? それって【ブサッ】って管を刺すヤツだよね……」
ネプテューヌは顔を青くしながら恐る恐る尋ねる。
彼女は子供のごとく注射や歯医者などの類が苦手である。
今、ネプテューヌの頭の中には巨大な注射器をお尻に刺される自分の姿が浮かんでいた。
「うん! 【グサッ】って刺して【ジュルルルルル】って脂肪を吸い出すんだよ」
ネプギアはネプテューヌの青ざめた顔など気にせずに、効果は抜群と言わんがばかりに擬音の部分を強調する。
「じゅ、じゅるる……る?」
ネプテューヌは生唾を飲み込みながらつぶやく。
想像は巨大注射器から巨大掃除機にランクアップした。
掃除機の太いホースをお尻に突き刺され、勢いよく脂肪を吸い出されてる様は想像を絶する痛みを連想させた。
「わ、わたし、痛いのはちょっと……」
やる気満々のネプギアに対してネプテューヌは顔面蒼白で後ずさる。
「大丈夫! 麻酔とかちゃんとするから」
ネプギアはネプテューヌの態度を気にもせずに自信満々に言う。
ネプギアは機械に詳しく色々な機械を作るのが大好きである。
また姉に対する強い想いと、女神としてこの事態を何とかしようという思いが重なって、このような少し暴走気味な結論に至ったようだ。
「いやいやいや! それ以前にネプギア医師免許とか持ってないよね? 危ないって危険だよ。デンジャーだよデンジャー!」
流石のネプテューヌも本気のネプギアに危険を感じたのか慌てて止めようとする。
機械には詳しいが医者ではないネプギアには当然のように医師免許がない。
「大丈夫だよ! 世の中には医師免許はないけど、凄腕の闇医者とかいるし」
ネプギアは両手で小さくガッツポーズをしながら自信満々に言う。
時間が惜しいようで医師免許を取ってからという選択肢はないようだ。
「それ漫画の話だよね!?」
ネプテューヌは有名な闇医者の漫画を思い出して指摘をするが、「今から設計図書くから待っててね」とネプギアには聞き入れてもらえないようだ。
「そういえば、脂肪吸引には死亡事故のリスクがあると聞いたことがありますね」
イストワールは慌てるネプテューヌを冷ややかに見つめながらそうつぶやく。
「脂肪吸引で死んじゃったー。これが本当の脂肪事故。てへっ」
ネプテューヌは一転して横ピースしながらにこやかに笑うと、「もー、いーすんってば、ブラックジョークが上手いんだから」とイストワールに素早くツッコミを入れる。
「……って違う! ちょっと、いーすん! 見てないで止めてよ!!」
ネプテューヌとしては精一杯のノリツッコミだったのだろう。
一瞬で顔を青くするとガタガタと震えながら、イストワールを非難する。
「大丈夫ですよ。何があろうとネプテューヌさんの溢れだす主人公補正で切り抜けられますよ」
イストワールは先程ネプテューヌ自身が言った台詞を冷たく言い返す。
「それとこれとは話が別なんだよー! 痛いのイヤーーーーー!」
部屋中にネプテューヌの絶叫が響き渡る。
その後、ネプテューヌはもう変身ダイエットはしないとの約束で何とかネプギアを静めたのだった。
***
イストワールはネプギアの気が静まったのを確認するとにこやかに微笑む。
そして、「ネプギアさん、ここ最近のご活躍は見事なものです。私から何かご褒美を差し上げたいのですが、欲しいものはありますか?」と優しげな声で話しかける。
イストワールは前回と今回のネプギアの活躍でシェアが上がったことに対してネプギアに何かしてあげたいようだ。
「そんな、ご褒美なんて……私は女神として当然のことをしただけです。それにシェアが上がって、いーすんさんやお姉ちゃん、そして国民のみなさんが喜んでくれればそれで充分です」
遠慮もあるのか、ネプギアは丁寧に辞退する。
だが、「本当に欲しいものはないのですか? 何でも言ってみて下さい。前向きに善処しますよ」とイストワールは何か要求をして欲しかったので、考え直すよう勧める。
「ネプギア、遠慮せずに言いたいこと言っちゃいなよ」
ネプテューヌもネプギアに好きなものを頼むよう勧めてくる。
ネプギアは少し考えた後に、「でしたら、プラネタワーをロボットに変形するように改造したいです!」と目を輝かせてとんでもない提案をする。
「そ、それは少しスケールが大きすぎて……」
困り顔で冷や汗を流すイストワール。それほどにネプギアの目は純粋に輝いていた。
明らかに本気である。
許可しようものなら、今から着工してしまいそうな勢いだった。
「でたー! ネプギアの数少ない特徴の一つメカオタ属性!」
ネプテューヌはネプギアの要望で、ハの字眉毛になって困り顔のイストワールが面白かったのか、茶々を入れてくる。
その属性のおかげで、先程大慌をしてネプギアを説得していたのは既に彼女の記憶には無いようだ。
「ダメですか……」
本気で肩を落としてしょんぼりしてしまうネプギア。
イストワールはハンカチで顔の汗を拭いながら、「もっとスケールの小さいものでお願いします」とネプギアに再度お願いをする。
「じゃあ! 手! 手だけでもいいですから! 勿論ロケットパンチにしますから!」
「スケールが小さいと言うのはそういう意味では……」
ネプギアの再度のお願いに、困り果ててしまうイストワール。
真面目で良識のあるネプギアだが、機械のことになるとタガが外れてしまうのは悪い癖であった。
逆を言えば、それほどまでに機械のことが好きなのである。
「うーーん……でしたら、お母さんとして褒めて欲しいです」
考え直した末のネプギアの要望は随分とスケールが小さくなっていた。
「それで良いのですか?」
一気にスケールダウンした要望に疑問顔のイストワールに、「はい」とネプギアの迷いなく頷き、以前のように頭を突き出す。
「ネプギアさんは本当に良い子ですね。お母さん嬉しいですよ」
イストワールは要望通り母のような優しい微笑みでネプギアの頭を撫でると、ネプテューヌが、「おおー! いーすんがバブみを発動してる!」と二人の姿に茶々を入れる。
「バブみ? 入浴剤がどうかしたの?」
【バブみ】の意味が分からず首を傾げるネプギア。
「年下の女の子に母性を感じちゃう萌え要素だよ」
ネプテューヌが簡単に説明するが、ネプギアは不思議そうな顔で、「年下って……いーすんさんは年上だよ?」と言う。
遥か昔からプラネテューヌの歴史を見守ってきたイストワールはネプギアどころかネプテューヌよりも年上である。
「そっか、いーすんってロリババアだったよね」
ネプテューヌは悪びれもなくイストワールに向かってそう言うと、「ババアは止めて下さい」とイストワールは顔をしかめてネプテューヌを注意する。
ちなみにロリババアとは、見た目は少女の様であるが、実年齢はずっと上である人物のことをさす。
「ロリババアは褒め言葉だー! 永遠の幼女はロリコン紳士の夢! いーすんってばルウィーに行ったらモテモテだよ」
ネプテューヌはイストワールをからかうように笑うが、「いーすんさんがルウィーに行ったら一番困るのはお姉ちゃんのような……」とネプギアはイストワールに撫でられながらもツッコミを入れる。
「それもそっか。それより、ネプギアは本当に甘えん坊さんだね」
ネプテューヌは話を切り替えて、ネプギアの甘えぶりを呆れたように言う。
「だって……」
自分でも自覚しているネプギアは恥ずかしそうに両指をいじりながら俯いて黙ってしまう。
「ルウィーと言えば、先日ブランさんから抗議文が来ていました」
イストワールが思い出したかのように言うと、「わたしの妹に余計なことを吹き込まないで欲しい。先週から楽器楽器ってうるさい……とのことです」と続けて言う。
「あはは……ロムちゃんもラムちゃんもおねだりしてるんだ……」
ネプギアが少し責任を感じたように困った顔で言う。
ネプテューヌが不思議そうな顔で、「なにかあったの?」と尋ねてくると、ネプギアはネプテューヌとイストワールに日曜日の出来事を話す。
「ふーん。でも、楽器ならさ、カスタネットとかトライアングルでも良くない。それにルウィーの紳士はそっちの方が萌えると思うよ」
ネプテューヌにしては気が利いたことを言うが、「それが、ネプギアさんとプラエさんが本格的な演奏をしたものですから、そういう小さい楽器じゃ満足しないそうなんです」とイストワールが答える。
「いーすんさん、お願い聞いて貰っていいですか?」
ネプギアは少し控えめにイストワールに尋ねる。
イストワールは母親のような優しい微笑みで、「何でも言って下さい。お母さんにお任せですよ」とすこしおどけたふうに言う。
成り行きで認めた母親の真似だが、イストワール的にも気に入っているようだ。それだけ彼女もネプギアを我が子のように愛しているのだろう。
「えっと……ブランさんを何とか説得できないでしょうか? ロムちゃんもラムちゃんも私とバンドを組むって凄く楽しみにしてて……ユニちゃんも方向性は違うけど凄くやる気だし」
ネプギアがそう言うと、「実はそう言うと思っていまして、既にブランさんとノワールさんに話を通して、女神候補生でバンドを組む計画を発案しています」とイストワールが微笑みながら答える。
ネプギアは驚いた顔をすると、右手を口に当てて、「流石はいーすんさん、スゴイです!」と声を上げる。
「ネプギアさんはとても良い子ですから、お母さんついつい応援したくなってしまうんです」
イストワールが優しく言う。
母親役もノリノリである。
「いーすんってば、ネプギアにばっかり優しいんだから~~!」
ネプテューヌが不満そうに口を尖らせると、「わたしは長女だから我慢できたけど次女だったら我慢できなかったよ」と続けて言う。
「どちらかと言うと、我慢しているのは私の方なのですが……」
イストワールが呆れたように言うと、「と、言いますかネプギアさんの母には喜んでなりますが、ネプテューヌさんのような子の母親役はお断りです」と続けて言う。
「ひどっ!?」
目をバッテンにして叫ぶネプテューヌ。
「と、言うことで楽器を見に行く日時を皆さんで決めて下さい。アドバイザーの5pb.さんも同行しますので」
イストワールがネプテューヌを無視して話を進める。
「5pb.さんも来てくれるなら心強いです。いーすんさん、本当に何から何までありがとうございます」
ネプギアが頭を下げてお礼を言うと、「実は以前からリーンボックスから似たような計画を提案されていたのです。女神候補生をアイドルとしてデビューさせたいと」とイストワールが答える。
「そうなんですか!?」
ネプギアが両手を口に当てて驚くと、イストワールが少し困った顔をして、「以前にリーンボックスで行った女神候補生のライブが非常に好評で十年経った今でも再度開催して欲しいとの要望が絶えないだとか」と言う。
女神候補生のライブと言うのは、正確にはリーンボックスで行われたあるライブが大失敗に終わりそうだったところへ、ネプギアが他の女神候補生を連れて急遽ステージに立ったのだ。
踊りを踊っただけではあったが、その美しさに観客は魅了され、ライブの大失敗は回避され大成功に終わった。
「うっわー……。ベールの下心が丸見えだよ。自分だけ妹がいないから、そういう形で接点を持とうなんて必死過ぎ~」
ネプテューヌが呆れたふうに言う。
彼女の言う通り、リーンボックスだけ妹である女神候補生がいない。
その上、リーンボックスの守護女神であるベールはお姉さんキャラで、年下の子を可愛がるのが好きなので、妹が欲しくて仕方ないのだ。
その為に、ことあるごとに女神候補生達に対して姉のように接している。ちなみに一番のお気に入りはネプギアのようだ。
「ベールさん個人の欲望があるのは否定しませんが……」
「否定しないんですか!?」
イストワールの言葉にすかさずツッコミを入れるネプギア。
「ベールさんなりに、妹のいないハンデを埋めようと国策に奔走しているのですよ。ネプテューヌさんも少しは見習ったらどうですか?」
イストワールが諭すようにネプテューヌに言うが、ネプテューヌは心底嫌そうな顔で、「ちぇー、ヤブヘビだったな~」と言うだけであった。
イストワールはネプテューヌの予想通りの反応に、「はぁ……」とため息を吐くと、ネプギアの方を向いて、「そういうことで、ネプギアさん達の頑張り次第では大規模なライブ等も開催される予定なので頑張って下さい」と励ますように言う。
「何だか大きな話になっちゃいましたね……」
ネプギアは話がトントン拍子に進み過ぎて、やや呆然としているが、直ぐに表情を引き締めて、「でも、ゲイムギョウ界の人達が私達のライブを心待ちにしてると言うなら全力で頑張ります」と言って両手で小さくガッツポーズをした。
「頑張ってくださいね。音楽とゲームは密接な関係にあります。音楽を学ぶことは女神として決して無駄にはならないでしょう」
イストワールが期待を込めた表情と声でそう言うと、「はいっ!」と元気よく頷くネプギア。