インフィニット・ストラトス〜Realistic world〜 作:しおんの書棚
では、その後をお楽しみ下さい。
追伸
今日は頑張りましたよ、マジで。
まだ寝てなかったりしますw
ラウラが目を覚ました時、目に入ったのは白い天井だった。
「起きたか、ラウラ」
その声に向き替えるとマドカが。
「……マドカ? 此処は……それに私は何を……」
「此処は保健室だ、そしてお前は宙に一撃でのされて此処に運ばれた。
宙に感謝しろよ? 怪我も後遺症も無い一撃だったんだからな。
此処にお前を運んだのだって宙だ」
そこでやっとラウラは思い出した。
「A.I.Cで捕まえて……」
そこで記憶が途切れている。
「あれは捕まえたんじゃない、お前が捕まったんだ。
宙はISを解除して、“生身の一撃”でお前を倒した。
油断して話なんかしているから隙を突かれた訳だ」
マドカは他にも理由があるがなと思いつつ、敢えてそれは口にしなかった。
プシューと音がして誰かが保健室に入って来る。
ラウラとマドカは足音が此方に向かって来ていることに気付いた。
「やっと起きたか、この馬鹿者が」
そう言ったのは千冬だった。
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「織斑先生、少々お時間を頂けますか?」
職員室を訪ねた宙はそう千冬に声をかけた。
「なんの件だ、空天」
「デュノア君とボーデヴィッヒさんの件でご相談が」
「ついて来い」
その名を聞いて思い当たること、此処では話せないと察した千冬はお馴染み生徒指導室へと移動する。
「で、どんな話だ」
「一つ目ですが、シャルル・デュノアと言う男性操縦者は存在しませんね?
本名は知りませんが女性である事は見ただけでわかります。
喉仏がありませんでしたから。
また、セシリアに伺いましたが……。
社交会で両親には幾度も会ったそうですが子供については話題にすら上らなかったと。
私が思うに学園は知っていて泳がせている、如何ですか?」
千冬はまさか初日から気付くとは思っていなかった。
「ああ、空天の予想通りだ。入学にあたって検査を行おうとしたんだが……。
国際IS委員会から検査済としつこく連絡があってな。
態と織斑と同室にして様子を見ている、動きがあれば即座に更識が対応する体制だ」
「では、そちらの件。
私とセシリアは注視する程度に留めます、大方予想通りでしたので。
それと私個人が持つ情報ですが、デュノア社は業績不振に陥っています。
特許使用料が確実に目減りしていますので。
イグニッションプランの話はご存知でしょうから省きます」
宙の言葉に千冬は頷くと次を即す。
「まずは、これをお聞き下さい」
宙が取り出したのはボイスレコーダー。
シャルルの失言を狙っての物だったが別件で役に立った。
そして、それを聞いた千冬は頭を抱えつつも一夏の成長を喜んだ。
「今、ボーデヴィッヒは?」
「保健室でマドカさんがついています。
マドカさんの時同様、一撃で気絶させましたので怪我も後遺症もありません」
「わかった、空天の出した条件を履行させる。それにしても洗脳とは……」
「正直なところ、これは織斑先生にも原因があると私は思っています。
どの様な教導をしたのかわかりませんが、タチの悪い宗教と変わりありません。
力の信奉者、織斑先生への妄執、もっとハッキリ言えば独占欲です。
これから彼女が織斑先生に何を話すかわかりませんが……。
対応を誤れば後悔することになるかと」
千冬は既に十分後悔しているのだが、それ以上になる。そう告げた宙の言葉が胸に刺さった。
「若輩者が余計な事をしたならこの場で謝罪を」
「いや、その必要はない、よく最小限に食い止めてくれた。礼を言う」
「いえ、私はクラス副代表です、どちらも放置できませんので。
それでは失礼します」
そう言って宙は退室した。その後、千冬は大きな溜息をついて呟く。
「過去のツケが巡り巡って返って来たか。
やはり私は教育者には向いて無い様だな、空天……」
そんな言葉が生徒指導室に響いた。
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「教官……」
「教官ではない、此処では織斑先生だと何度言ったらわかる。
あれだけ問題を起こすなと言っておいたのに早速か。
しかも生身の人間に向かってレールカノンを撃ちおって。
空天だからと言う判断だろうが、それでも許される事では無いぞ。
ともかく私闘と危険行為は禁止だ。
それと本来なら処分が必要だ、しかし今回は特例でお咎め無し。
詳しい理由は話さんが“温情”とだけ言っておこう」
「はい……」
流石にこれはラウラでも頷くしかない。
どう言い訳しようと完敗だったうえに千冬から念を押されれば。
「ところでボーデヴィッヒ、私はお前に悪いことしたと思っている。
お前が這い上がり幸せになって欲しくて厳しく鍛えた。
だが時間が足りず心を鍛えられなかったんだ、ずっと心残りだったんだぞ?」
千冬は胸の内をさらけ出す。
「心を鍛えられなかった……ですか?」
ラウラには意味がわからなかった。
兵士になるべく生まれ育ち、強かった自分。
ある切欠で障害が発生してからの転落、蔑まれた自分。
千冬に出会い鍛えられ、障害を乗り越えて部隊最強に返り咲いた自分。
自分の価値は強さだけ、それを取り戻してくれた千冬に落ち度など無い。
なのに千冬は心残りがあったと言う。
「ああ、そうだ。肉体的強さ、ISでの強さは教えられた。
だが1番重要な心の強さを教える時間がなかった。
いや、言い訳だな……空天なら一緒に出来た筈だ」
また、宙。それを聞いて落ち着いていたラウラに火が着いてしまった。
「空天宙は関係ありません!
織斑先生は誰がなんと言おうと私を救ってくれた、なら今度は私が救う番です。
織斑先生の居場所は此処じゃ無い。
最強の力を振るえる場所に、私と一緒にドイツへ帰りましょう!」
「本人が望んでいないのにか? ボーデヴィッヒ。私がいつ力を振いたいと言った?
織斑も言っていたが私は望んで此処にいる。
特に今は教えることの難しさと楽しさを実感しているんだ。
なあ、ボーデヴィッヒ。もう一度私にチャンスをくれ。
今度こそ心を鍛えて本当の意味で救わせてくれないか?」
千冬はそう訴えたが……。
「では、こうしましょう。
織斑先生が言う空天宙。
奴に学年別トーナメントで私が勝てばドイツで心とやらを鍛えて頂く。
負ければ此処で織斑先生の思う様に私を鍛えればいい。
私は織斑先生を変えた空天宙が許せない、必ず目を覚まして頂きます!」
「待て! ボーデヴィッヒ!」
ラウラは起き上がると千冬を無視して立ち去った。
「今の貴女は本当の織斑千冬じゃない」
そう言い残して……。
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「早速問題を起こしてくれたわね、ラウラ・ボーデヴィッヒちゃん。
お姉さんはお冠よ」
生徒会室で楯無は呟く。
「外面は代表候補生、でも内面はまだまだ子供ね。
宙さんだったからアレで済んだけど他の子なら大惨事。
お咎め無しを申し出るなんて優しい宙さんらしいわ。
けど二度目は私が許さない、覚悟してなさい」
そう言った所で紅茶と茶菓子が差し出される。
「お嬢様、気持ちはわかりますがこれを飲んで落ち着いて下さい」
「悪いわね、虚ちゃん。ちょっと熱くなり過ぎたわ」
そう言って紅茶を飲む楯無。
「ふう、それにしても宙さんの観察力と洞察力。
そして情報収集能力と独自の情報網。
正直言って脱帽よ、あっさり見抜かれちゃったわね。
あれなら更識の情報を知ってたのも頷けるわ。
性格的には無理だけど……。
それさえ問題無ければカリスマも申し分ないし更識の当主勤まるわよ。
私より向いているんじゃないかしら」
「性格的に無理な時点で候補になりません」
虚がもっともな意見を述べる。
「それはそうなんだけどね、それにしても学年別トーナメントは大荒れになりそうよ。
優勝候補筆頭の宙さん、続いてマドカちゃん、ここまではいいのよ。
次に来るのが問題児ラウラちゃん。しかもドイツよ、ドイツ。
どう考えてもこの三強は勝ち上がってくる。
問題は亡国機業の動きといつもながら胡散臭いドイツ、どっちも危険だわ。
人の出入りも多いし、更識から動員するしかなさそうね」
そう言った楯無は紅茶を口にして考えこんだ。
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「おー、凄いな。皆はこんな部屋で過ごしてたんだな」
一夏は感動していた。
「本当だね、僕もそう思うよ」
シャルルも同意する。
こうして2人が部屋を与えられたのは例のアクシデントで退学者が出たからだ。
そしてもう一つ、シャルルの動向を探るためでもあった。
「それにしてもさっきの宙さんは凄かったね、一夏」
「ああ、俺も驚いたぜ。まさかISを生身で倒すなんてな!」
未だ興奮冷めやらぬ一夏の鼻息は荒い。
「でも、どうしてISを使わなかったんだろう?
腕も良さそうだし、普通に勝てたと思うんだけどな僕は」
シャルルはもっともな疑問を口にした、首を傾げながら。
「ああ、そっか。シャルルは知らなかったよな。
宙さんはISを戦闘に使うのが嫌いなんだ。
だから宙さんのISに武器はプリセットされていない。
今まではずっと当日の手持ち武器だけで、しかも殆ど攻撃しないで勝って来たんだ。
本当に強いって言うのはああいう事なんだろうな」
これにシャルルは驚きを隠せない。
「え? じゃあ、どうやって勝つの?」
「相手に戦闘では勝てないって証明する。
その上で武術だけの一本勝負を申し出て、寸止めで一本を取る。
確か今まで当てた攻撃は3戦でセシリアに一発、簪さんは零。
俺がまあ1番情け無いんだが自分の武器でやられた、実質1度だな。
映像があるから見てみるか? ホントに凄いぞ」
「是非!」
こうして一夏とシャルルの共同生活は始まった。
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以前とは逆に箒が鈴を屋上へ呼び出していた。
「決まったみたいね」
鈴は箒に向かってそう告げる。
「ああ、ハッキリしたのは昼の事だがな。
鈴の言う通り理想の一夏が好きだったのは否定しない、だが私は“今の一夏”が好きだ」
「そんなところだと思ったわ」
鈴の意外な言葉に箒は鈴を思わず見た。
「だって昼休みに良い顔してたじゃない、あれを見れば吹っ切れたのはわかったわ。
一夏じゃないんだから気づくでしょ、特に私達はお互いの気持ちを知ってるんだから」
「……言われてみれば確かにな」
「で、いつ?」
「ああ、それなんだが……」
2人の声は風にかき消された……。
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まだ楯無が戻る前の自室に宙はいた。
(ウィステリア、改修型A.I.Cの装備はいつ頃になりそうですか?)
(3日もあれば十分です、あれはとても良い機能ですから最善を尽くします。
また、サイレントゼフィルスから得たデータで並列処理の負荷軽減が可能になりました。
こちらは私の判断で既に実装済です)
(ありがとう、ウィステリア。いつも助けてくれて感謝していますよ)
(いえ、此方こそ大切にして下さって感謝しています。
ただ、これだけは言っておきます。
確かに私も貴方も戦闘は好みません。
ですがラウラ・ボーデヴィッヒと戦うことになれば本格的戦闘は避けられないでしょう。
その時はお互い覚悟するしかありません。
好まない戦闘ではありますが私にとって貴方の命より重いものはありません。
場合によってはワンオフアビリティの使用も視野に入れる必要があります)
(出来れば避けたいのですが学年別トーナメントを考えれば仕方ないかも知れませんね。
ありがとう、ウィステリア。その気持ちが1番嬉しいわ)
宙とウィステリアの双方向会話、その後も打ち合わせは続いた。
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「むっふっふー、ゆーくんの事ならなんでもお任せの束さんにはわかってるよ。
今、双方向会話してるね? 今日の一件もあるし学年別トーナメントもある。
優勝はゆーくんだろうけど、あのドイツの子も結構強い。
まあ、ちーちゃんが鍛えて弱かったら話にならないんだけどさ。
どっかで必ず当たる、間違いなくね。
まーちゃんが仕留めてくれるのが理想的だけど、くじ運次第。
こう言う時って悪い方にしか行かないんだよね」
モニターしていた束が話しているとクロエがやってきた。
「あ、そうだ。クーちゃん、きっとドイツの子はくーちゃんの妹だよ」
「妹という事は完成品という事ですか?」
「そそ、あの眼帯の下はクーちゃんと同じだよ、きっと。
でも不具合抱えてるから眼帯で制限してる」
束の話にクロエは考える。
「姉としてはなんとかしてあげたいところですが……」
「んー、今後の展開次第かな。
心を入れ替えたら考えてあげよう、可愛い娘の頼みだしね!」
「ありがとうございます、束様」
それにしてもと束は考える。
「いっくんと同室になったフランスの子。
ゆーくんの言う通り、女でデュノア社絡みなのは間違いないんだよね。
でもさ、白式のデータを持ってっても作れないんだよ。
ブラックボックスにしておいたからさ。
もし作れるとしたら、ゆーくんなんだけど作らないしね。
そうなるといっくんのデータって事になるけどリスキー過ぎるんだよね、どっちにしても。
ちょっと調べてみようか、ゆーくんの助けになるかも知れないし」
そう言うと束は早速調査を始めた、恐ろしい速度で……。
千冬の気持ちも宙の名を出したことで無になりました。
ラウラちゃん、結局誰かに喧嘩売るんですね。
楯無は厳戒態勢でしっかり生徒会長やってます、仲直りとマドカが来たお陰ですね。
そして初登場、ウィステリアのコア人格。双方向会話によるISの随時更新が行われています。
脳の負荷軽減は必須でしたし、A.I.Cは上手く使えば宇宙において最高の防御になりますから当然ですね。
加えて本格的戦闘の可能性、あの状態のラウラ相手なら十分考えられる話です。
一夏はついに織斑部屋を脱出、シャルルと新生活を楽しんで下さい。
では、次回もお楽しみに!