インフィニット・ストラトス〜Realistic world〜   作:しおんの書棚

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幼馴染だから同じ部屋、高校生の男女で現実的には倫理観から言ってもアウトです。
もっと良い解決策があるのは皆さんにもわかると私は思います。


ep07:ルームメイト?協奏曲

 一夏は待機形態の白式、白いガントレットを身につけて千冬・箒と移動している。

 真耶はと言えば職員室に戻り、残務整理を行うため既に別れていた。

 

「織斑、今日から寮で生活して貰う。

 最低限必要な物は、既に部屋へ運び込んでおいたから安心しろ」

 

 一夏は当初、しばらくホテル暮らしと聞いていたが、何か理由があって変わったのだろうと納得した。それは千冬を信頼している証拠であり、今更何か言った所で変わらないと理解しているからだ。

 

「わかりました、織斑先生。ありがとうございます」

 

 そんなやり取りをしながら寮に入ると部屋へ向かう一同。周囲から視線が集まるのを無視して歩き、辿り着いたのは……。

 

「ここが織斑の部屋だ」

 

 千冬がドアの前で宣言する、そこは確かに“織斑”の部屋。ただし一年の寮長で教員、織斑千冬の部屋だった。

 唖然とする二人に千冬は説明する。

 

「ここは女子寮。織斑が男である以上、女生徒との相室は認められない。

 部屋に余裕があればよかったんだが、急な話のうえ空きが無いとなれば、姉である私と同室にするが当然だろう?」

 

 二人とも、なるほどと納得する。

 

「ところで篠ノ之、今日のところは二人きりにして貰いたい」

 

 箒は言葉通り、家族で過ごしたいと受け取ったが、一夏は理由を察した。

 

「わかりました、織斑先生。

 

 一夏、私の部屋は1025号室だ、覚えておいてくれ。

 では、失礼します」

 

 そう言った箒が去ると千冬は安心したのか息を吐いた、そして一言。

 

「一夏、すまんが片付けを手伝ってくれ」

 

 そう言ってから入った部屋は、散らかり放題だった……。

 

 

 1001号室、部屋では宙と楯無の話が続いていた。

 

「願書提出の時点で、あそこまで決めていたなんて書類を見た時には驚きました。

 それが織斑一夏君の発見前、加えて先程の事情が重なって今に至るという訳ですね」

 

 楯無は書類の内容を思い出す。

 

 1.空天宙は男でISを動かせるが何の後ろ盾も無いため非人道的扱いを受け取る可能性が高い。

  よって、人道的見知から3年間で後ろ盾を得るために入学を許可する。

 2.空天宙を受け入れるにあたり、無用な混乱などによるIS学園の被害を避けるため女性として

  正式に受験し、その結果に関係無く合格とする。

 3.空天宙は在学中、男性であることを確実に隠し、女性として振る舞うものとする。

 4.IS学園は空天宙を命の危険から守るため、信用できる専属の護衛をつける。

  また、男性であることは信用できる者にだけ開示し他言を禁ずる。

 5.IS学園は4.と同じ理由により、万全な対策を施した部屋を用意する。

 6.IS学園は4.と同じ理由により、男性と判る一切の情報収集及び公開を禁ずる。

 

 他にもまだあるが、主な物はこんな所だ。

 

「そうですね。あの、更識さん、一ついいでしょうか?」

「なんでしょう?」

 

 楯無は、今度もとんでもない爆弾発言が出て来るのではと戦々恐々とした。

 

「勘違いならいいのですが、話し方に違和感を感じるのです。

 私の年齢を気にして口調を変えているなら普段通りにしませんか、更識さんも疲れるでしょう?

 ルームメイトとしても、守ると約束してくれた護衛としても、更識さんに申し訳無いんです」

 

 楯無はまた一つ宙を知る。鋭い洞察力と観察眼、性格から出たであろう発言。他人を気遣う優しさが感じられたからこそ、楯無は笑顔で了承し提案する。

 

「空天さんがいいなら遠慮なく、私のことは楯無でいいわ」

「では、私のことは宙と呼んで下さい」

 

 そして、そう答えた笑顔の宙は嬉しそうだった。

 

 楯無はそれを見て安堵する、まだ環境にも自分にも慣れる訳が無い。けれど、笑顔を浮かべる程度には受け入れられたのが実感できたからだ。

 

 それと同時に楯無は、自分を偽るのは辛いはずだと思い、宙の口調や女装が気になった。

 

「宙さんも、この部屋でだけは素の口調でいいんじゃない?」

 

 そう楯無は気遣うも、宙は悲しそうな表情を浮かべながら答える。

 

「……私は半生を女性として生きて来ました。

 戸籍上も女ですし、名前は当然変えています。

 

 男だった時、どんな口調だったのか……もう覚えていないんです。

 服装もよくて中性的、女性物を着ることは当たり前になりました。

 

 ですから、これが私の素、もう過去の自分には戻れないんです。

 お気遣いありがとうございます、お気持ちとても嬉しかったですよ」

 

 楯無は失言を悔やんだ。

 

「ごめんなさい、配慮不足だったわ」

「いえ、気にしてませんから」

 

 そう言った宙の儚げな笑顔が楯無の心を締め付けた。

 

 楯無の様子からその心境を察した宙。

 しかし楯無に非は無く、宙の事情に巻き込んだことが、そもそもの原因。だからこそ、この空気を早急に変えるべきだと考えた。

 

 ふと時計を見る宙、食堂が閉まるまであと一時間少々、方針は決まった。

 

「楯無さん、夕食は摂りましたか?」

「いえ、まだよ」

 

 予想通りの答えに宙は続ける。

 

「よかったら一緒にいかがですか? 親睦も深まると思いますし」

 

 宙の言葉に楯無も意図を察した、だから笑顔で返答する。

 

「じゃあ、一緒にいきましょうか、案内するわ」

「ええ、よろしくお願いします」

 

 そう言うと二人は一緒に食堂へ向かう、他愛無い雑談をしながら。

 

 

 一夏と千冬は部屋に入ってすぐ鍵をかけた。流石にこれは酷い、他人には見せられないなと一夏は呆れる。

 

「千冬姉、幾らなんでもこれは酷すぎじゃない?」

「しかしだな、一夏。お前の入学が突然の話だったのだ。

 ただでさえ忙しいのに膨大な仕事が増えたんだぞ」

 

 一夏の指摘に千冬は反論する、しかし主夫一夏の目は誤魔化せない。

 

「食事だけだったらまだわからなくも無いよ、千冬姉。でも、お酒とツマミは関係無いよね?」

「いや、それはストレス発散にだな……」

 

 段々と小さくなる千冬の声、そして止めの一撃が一夏の口から放たれた。

 

「どっちにしてもゴミ袋に入れれば問題無し。

 家の部屋でもこうだったんだから、きちんと捨てない千冬姉が悪い」

 

 そして、千冬は床に両手をついた。ゴミ山に崩れ落ちた千冬、まさに完敗である。

 

 そして、汚部屋に一夏のメスが入った。

 こんな状況など実家にある千冬の部屋で数えきれない程経験している一夏、その手際の良さはまさに主夫だった。

 

「千冬姉は、空き缶を袋詰めして」

「ああ、わかった」

 

 千冬は知っている、こう言う時の一夏に逆らってはいけないと。

 一夏は黙々とゴミを分別しながらゴミ袋へ。千冬が空き缶を集め終わった時には、既にキッチンの清掃を始めていた。

 

「一夏終わったぞ」

「それじゃあ千冬姉は掃除機をかけて」

「あ、ああ」

 

 別に一夏は強く言った訳では無い。しかし、主夫一夏が纏う何かを千冬は感じ取り気圧された。

 

 部屋に響く掃除機の音、キッチンの清掃・洗い物を終えた一夏は、拭き掃除に移る。

 

 そして千冬が掃除機をかけている間に、一通り清掃を終えた一夏。

 きっとビールが詰まってるんだろうなと予想したが、念のため中を確認しようと冷蔵庫を開ける

 

 ……確かにビールは入っていた。

 だが、それなりの食材が揃っているとは想像もしていなかった一夏。何故なら千冬が自炊出来ないことをよく知っているからだ。

 そういえばと一夏が時計を見るれば夕飯時、なるほどと納得して夕飯の支度を始めた。掃除機をかけ終えた千冬に、テーブルの清掃を任せて……。

 

 

 和やかな雰囲気で食堂に来た二人、宙はその広さと時間の割りに女生徒が多いことに戸惑っていた。

 

「宙さん、こっちよ」

 

 そう言った楯無は食券の券売機へ案内し、手本を見せようと宙の手を引くが、動く様子がない。

 

 どうしたのかと周りを見れば、注目を集めていることに楯無は気づいた。

 楯無は生徒会長で今更こうはならない、なら理由は宙と言うことになる。

 

 そこでやっと気づいた、改造制服の宙は学園で珍しいパンツルック。しかも、宝塚の男役に見えるほど容姿が整っている。

 その手を引く楯無はスタイル抜群の美少女だ。そんな二人が手を繋いでいる姿を見て、見惚れるなという方が難しい。

 

 しかし、楯無は手を離そうとはしなかった、宙の手が震えているのに気づいたからだ。

 

 ……忘れそうになるが男であり、学園との契約もある。あれだけ注目を浴びれば、女装がばれる可能性に不安がってもおかしく無いと思う楯無。

 

「安心して、宙さん。ちょっと待ってね」

 

 そう言うと楯無は生徒に向かって告げる。

 

「食堂が閉まるまであまりが時間ないわよ? 余所見して間に合わなかったら一年の寮長、織斑先生が……」

 

 そこまで聞いた女生徒達は慌てて食事に戻る。必然的に視線が外れ、宙の震えも収まっていた。

 

「ね? さ、行きましょ? 私達も間に合わなくなるわ」

 

 今度は抵抗無く手を引かれる宙に楯無はホッとする。

 その後は説明しながら、スムーズに食事を受け取って、人目に付きにくい席へと楯無は案内した。

 

「お手数をおかけしてごめんなさい。

 実は部屋で安心した後、自己暗示を解いたままだったんです。

 それで女性ばかりなのはともかく、あれだけの視線を近距離で注がれると色々怖くなって……」

 

 宙は謝罪と共に心境を吐露する。楯無はと言えば、自己暗示までかけていた事実に内心驚いていた。

 

「大丈夫よ、わかっているから。

 私だって逆の立場ならきっと同じことを思うわ。だから、謝らないでいいのよ。

 

 それより暖かいうちに夕食をいただきましょ?」

 

 楯無は緊張をほぐす様に労った。

 

「ありがとうございます、では早速。「いただきます」」

 

 そんな気遣いに暖かい気持ちになった宙と楯無の声が重なって……。

 

「ふふっ」

「息ぴったりね」

 

 そんなことで笑いあう二人、それからは楽しそうに談笑しながら食事を共にした。

 

 

 実の所、千冬は心配だった。宙の懸念は一夏にも該当するからだ。

 強いて言えば自分と束が後ろだてになっている分、マシと言うのが千冬の認識。だからこそ自分で守るため、一夏を同室にした。

 

 今、一夏は買っておいた食材で夕飯を作っている。久しぶりに一夏の手料理が食べたくて準備した物だが、汲み取ってくれた様だ。

 

 そんな中、千冬は思い出していた。白式が搬入された時のことを。

 

「まさか篝火が倉持の所長とはな、クラスにいた天才が二人共ISに関わってる……か。

 

 しかも更識妹のIS開発を白式開発に変更せざるを得ないタイミングで束が現れ分業を提案。

 凍結中だった白式は一度束が引き取り手を加え、仕上がった物が倉持技研に届けられた。

 その結果、更識妹のIS打鉄弍式に篝火が専念できて、こちらも入学前に仕上がった、と。

 行方をくらましてから私以外には接触して来なかったお前が何故だ? 束……」

 

 ビール片手に千冬が呟く。キッチンで料理する一夏には聞こえないと判断し、態と声に出してまで考えるが答えは出なかった。

 

 

 宙と楯無は、夕食を終えて部屋に戻っていた。

 

「楯無さん、実は協力をお願いしたいことがあるんです」

「どんな?」

 

 宙は楯無にクラス代表決定戦について説明する。

 

「確かにアリーナは埋まっているわね……、でも手はある」

「ええ、予約を入れている方々に、端で構わないので場所を融通していただこうかと」

「それも一つの手ね。でも、もっと良い手があるわ」

 

 楯無は、そう言うと説明を始めた。

 

「一般生徒や代表候補生が使えるのはアリーナなんだけど、教師と国家代表だけが使える特別な地下施設があるのよ。そこで私から提案があるわ」

 

 宙は既に察していた、そこを使える条件を。

 

「IS学園の規則によれば、全生徒がなんらかの部活に所属することとなっていますね」

「流石ね、私の提案は宙さんと織斑君が生徒会に所属することよ」

「護衛ができて、生徒会は後々起きる織斑君の部活所属問題を解決できると言うことですね。

 さらにいえば楯無さんが護衛を務めて生徒会を離れると職務が滞る。それを踏まえて、生徒会で実務を行う人員確保と護衛を同時にできると」

 

 宙の言葉にどこからともなく取り出した楯無の扇子には正解と達筆に記されていた、扇子に隠れた楯無の口元は予想以上の洞察力に引くついていたが。

 

「わかりました、織斑君には私の方で説明しておきます」

「ちなみに宙さんの事務処理能力は?」

 

 楯無は、なんの気無しに問いかける。

 

「そうですね……、篠ノ之束博士程度でしょうか」

「は?」

「ふふっ、冗談です。ですが、期待していただいて結構ですよ」

 

 冗談にしても楯無は素直に笑えなかった、比較対象が規格外すぎる。

 

「と、とにかく相当自信があるのね」

 

 若干引き攣った表情で問いかけた楯無、宙はただ穏やかに微笑んで。

 

「ええ、楯無さんの想像を超える位には」

 

 そう告げた。




2022/11/20 改訂

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