ひぐらしのなく頃に 時   作:ののいののい

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最近は更新頻度が遅くて申し訳ありません。ついに蒼馬と瀬奈は疑惑の三人と対峙します。


其の二十二 読み合い

 

 

「ちょっと蒼馬!」

 

耳元で僕の名前を強めの口調と声で呼ぶ声に僕の意識は覚醒した。声がした方を振り返ると、瀬奈が如何にも『しっかりしなさいよね』とでも言いたげな目付きでじっと見ていた。

 

「なにボーっとしてんのよ?まさか……女子小学生の梨花ちゃんに顔近づけられて、緊張したとかじゃないわよね?」

 

瀬奈が中々鋭い指摘をしてくる。確かに梨花ちゃんに顔を近づけられて緊張したのは確かだろう。だが、その緊張と言うのは、瀬奈が想像しているような微笑ましさとは一切無縁。

 

むしろあれは恐怖心によって芽生えた緊張感だったのだから。

 

「い、いや別に。り、梨花ちゃんに怪我が無くて良かったね、ハハハ……」

 

「何よその、無理に取り繕ったような笑い方は。こんな時にやましい事とか考えてるんじゃないわよ」

 

これからレナ達と対面だと言うのに、またしてもあの梨花ちゃんと相まみえてしまうとは、これは何か不吉な予兆なのだろうか?

 

僕がそんな不安に感じて身震いしていたところで、時間は確実に進みその時はやってくる。

 

「あ、あの三人って……来たわよ!」

 

瀬奈が僕の肩を少し強めにポンっと音が鳴る位に叩きながらそう言い聞かせる。顔を上げてみるとその先には三人組の人影が見えてきたところだった。徐々にその姿がハッキリと見えるにつれて、その三人が間違いなく圭一、レナ、魅音の三人である事は疑いようがなくなる。

 

ついに来た、来てしまった……僕はこれからあの三人に聞きたくもない事を聞かなくてはならない。出来れば外れてほしい事を……

 

「あれ~、蒼馬君と瀬奈ちゃんじゃんか~!!」

 

やがて、自分の学校の前にボーっと立っている僕と瀬奈にも魅音たちが気が付き、魅音が大きな声で僕らの名前を呼びながら手を大きく降って駆け寄ってきた。

 

 

もう、後戻りはできないのだろうか……

 

 

「ちょっとちょっと、二人して家の学校の前でどうしたってのさ?自分たちの学校は家出の末にサボってるってのに、他所の学校の……態々ウチの学校を見学だなんて物好きな事やってるねぇ、いやはやおじさんにゃ理解できんわ~☆」

 

魅音が愉快そうに僕と瀬奈の傍から見れば確かに理解しがたい行動を笑い飛ばしながら何時もの陽気なテンションで接してきてくれる。

 

「なんて言うかね、あんまりサボりが長いと学校が恋しくなっちゃうのよね~。」

 

瀬奈、内心では結構緊張してるはずだと思うのに。それを奥底に隠して、堂々とそんな軽口の冗談を言えるのか……本当に図太い神経だよ。

 

「な~にが学校が恋しくなっちゃうだよ。そう思ってんなら自分の学校に行けば良いじゃねぇかよ!普段通りかかる事すらねぇ、ウチの学校に来たところで感慨深さも何もあったもんじゃないだろうが☆」

 

圭一も瀬奈の言動に対してノリの良い口調と言葉で言い返していた。こうして話していて見て、この三人に挙動不審な部分何て一切見当たらない。

 

僕はふと、そんな様子をぼんやりとした表情で見守っていたレナに目を向けてみると、レナは僕の視線にすぐに気が付き、目をキョトンとさせて……

 

「? 何かな蒼馬君?レナの顔に何か付いてるのかな、かな?」

 

前にゴミ山で会った時のような薄気味の悪さなんて一切感じさせず、ごく自然な竜宮レナとして、僕にそう声を掛けてきた。

 

「あ、いや……レナってなんか何時もふわふわとした感じな表情だな~って思ってね」

 

自分で言ってて何が言いたいんだとツッコミを入れたくなる。もうちょっとうまい切り返しができないのか僕って奴は……

 

「レ、レナがふわふわ~?……はう~、レナがふわふわ、レナの顔がふわふわのもっふもふ……はふぅ」

 

あれ、もしかして割と的を射た指摘だったのだろうか?レナが頬を赤く染めて、ボーっと目をとろんとさせていた。

 

「あっちゃ~。蒼馬君、意図せずにレナのスイッチを押しちゃったかな?」

 

「みたいだな、レナの場合俺達が何気なく言った一言でこんな風にボーっとしたり、かぁいいモードになったりするから油断大敵だぜ」

 

魅音と圭一から茶化されると、僕の緊張感は自然と和らいでゆき、本当に僕はただ単に魅音たちとこんな他愛のないやり取りがしたいがためにここに来たんじゃないかと錯覚に陥ってしまいそうだった。

 

「てか、そろそろ教室に行った方が良くないか?今度また知恵先生より遅れちまったら、遅刻はいけません!って感じのお叱りから更に話が飛躍して、カレーの何たるかを延々と聞かされる羽目になっちまう」

 

が、そんな下らない妄想は圭一のその一言ですぐに終わる事となった。

 

「おおっと、そりゃ大変だね……おじさんまだ自分を失いたくないからこれ以上は遅刻しちゃいけないや、と言うわけだからお二人さん、また今度会おうね」

 

魅音はそう言うと、僕と瀬奈に対して『よっ』と挨拶するような感じで手を振り上げる。

 

「ほら、俺達も行くぞレナ。いつまでもふわふわとしてる場合かよ!」

 

「は、はぅ~。もうふわふわしちゃいけいないのかな、かなぁ~?」

 

三人がそのまま校舎に向かって駆け足で立ち去ろうとする。……このままあの三人を黙って行かせるわけにはいかない。だから僕は意を決して三人を呼び止められる言葉を発する。

 

「あ……ちょ、ちょっと良いかな?」

 

決意した傍から、お世辞にも大きい声とは言い難い声量で、そんな相手の出方を伺うような口調でそう言っていた。

 

「ん、まだ何かあったのか?」

 

幸いにも三人には僕の言葉が届いたようで、少し距離は開いたけど、取り合えず三人とも足を止めてこちらを振り向いてくれた。

 

「あのさ」

 

聞くんだ……けど何から聞けばいい?よもや直に北条鉄平と間宮律子の失踪に関わっているんじゃないか?なんて事を聞くことなんて出来ないし。

 

僕が口籠っていると、魅音が頸を小さく傾げる。

 

「? ええっとさ、さっきも言ったけどおじさんたちこれ以上遅刻すると色々と不味いからあんまり時間取れないから早くしてもらえないかな~」

 

そして魅音からそう急かされる。

 

「先週の木曜日……」

 

瀬奈の声だった。そして彼女のその第一声は先週の木曜日と言う単語。先週の木曜日と言えば確か……あ、あの日はそうだ。

 

「アタシと蒼馬は雛見沢をじっくりと自転車で見て回ってて、そしたら途中で少し道に迷って、夜になっちゃったのよね」

 

「あれま、そりゃ大変だったね~。雛見沢って夜になるとやってるお店も少ないし、そもそも土地の広さに対して人がかなり少なくて誰かと出くわしたりって事も中々ないから気を付けないとだね~」

 

この時点では魅音も、そして圭一もレナも瀬奈が何の話をしようとしているのか流石に気が付く余地は無いのだろう、特に表情に戸惑いや警戒心を感じさせる事は無い。

 

だが、瀬奈はもう止まらない。瀬奈は興味本位で雛見沢の歴史の事を調べ回って僕らをフィールドワークに半ば強引に巻き込んだり、昭和58年にタイムスリップしてからもなんだかんだで過去の雛見沢と興宮を楽しんでるように見えて、ここぞと言う時の決断の速さは僕とは一線を課していた。

 

「夜中に谷河内を彷徨ってたら、貴方達三人を見たのよね。リヤカーを引いた後ろ姿だったけど」

 

その決定的な一言を告げてから、空気が変わったような気がした。事実目の前の魅音も圭一もそしてさっきまでふわふわしていたレナの目付きまで鋭い警戒心を帯びた眼光に代わっていた。

 

「あれって、何を運んでたのかしら?」

 

「部活で使う小道具だよ」

 

瀬奈の問い詰めに対して、魅音は部活を引き合いに出して即答していた。

 

「部活に使う道具って……あそこってこの学校から結構離れてたのに?」

 

「いっしっし、瀬奈ちゃん。我が部活動を甘く見てもらっちゃ困るね~」

 

魅音は人差し指をちっちっちと振りながら楽し気な笑みを浮かべた。

 

「我が雛見沢部活動では課外活動も盛んに行われているのだよ。谷河内の方の森での部活動はそりゃ熾烈極まるサバイバルになる事が必須だからね、そりゃ入念な準備が必要になるわけさ~」

 

魅音がそう言うと、今度は圭一もそれに同調するように口を揃えて。

 

「あそこは沙都子のトラップが所狭しと仕掛けられてる危険地帯だからな、お前らも興味本位で近づくのは良いけど、うっかり油断して引っかかったりしないように気を付けろよ~」

 

魅音も圭一も全くブレる様子がない。この三人にとって、あの木曜日に谷河内でリヤカーを運ぶ姿は決してみられたくない、見られたくない何かを運んでいたと思いきや、部活動を引き合いにして知らぬ存ぜぬを通すとはね……

 

いや、本当に単に部活動の為の小道具を運んでいたのだとしたら僕としてはそっちの方が良かった……

 

「他にもね、他にもね、冬になったら雪がい~っぱい振るからね、お外で雪合戦が恒例なんだよ、はう~☆」

 

「あ、うん。確かに雛見沢と興宮は大して離れてないのにそっちは山間部なだけあってよく積もるんだっけね」

 

レナまでもが魅音の言い分に乗るかのようにかぁいいモードの如く表情でそんな事を言うので、僕は興宮と雛見沢の積雪量の差を知っている事もあり、そんな当たり触りの無い相槌をうっていた。

 

「……あのね、皆」

 

けど瀬奈だけは三人の言葉にそのまま飲まれる事もなく、凛とした表情と眼差しを保ったまま。

 

「あの時アタシ達さ、アンタ達が何してるのか気になっちゃってね。悪いとは思ったけど付いて来ちゃったのよね」

 

そんなカマを掛けるかのような嘘を吐いて見せたのだった。

 

「…………」

 

魅音は瀬奈の言葉が嘘か本当か、計りかねるかのように息を飲む音を鳴らしながら無言で瀬奈に対して視線を返す。

 

「へぇ~、瀬奈と蒼馬が一体どこまで付いてきて、何を見たのか知らないけど……逆に聞いていいかな?おじさん達が谷河内をどんな風に進んで最終的にどこまでリヤカーを運んだのかをさ」

 

今度は魅音の方から瀬奈の言葉が嘘か本当かを確かめるべく問いかけてきた。

 

「…………」

 

当然瀬奈は答えられるわけがない。僕も瀬奈もリヤカーを運ぶ魅音、圭一、レナの後ろ姿を目の当たりにしただけ、しかもそれもほんの数十秒程度の事で、あれ以降三人がどんな道順を辿り、最終的にどこまでリヤカーを運んだなんて知るわけがない。

 

「どう、答えられないかな?それは一週間以上も前の事だから覚えてないだけ、それとも実は後を付けてたのは嘘で、本当は少し見ただけとか……じゃないのかな?」

 

魅音との腹の探り合い……もうお互い後に引けないところまで来てしまった。疑う僕と瀬奈、そしてそれをのらりくらりとかわそうとする魅音達。

 

僕は本来疑いたくない相手に対して殺人の証拠を掴もうと躍起になりつつあるのかもしれない。


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