太陽は沈み、空には眩しい位のまん丸の月が輝いていた。
この世界は太陽の神と月の神が多く信仰されてるらしく、例年の儀式も満月である日に行われるのだ。
昨年のこの時期にシアンは体調を崩してしまい、シアンの体力が回復した時には月の影響が少なく、判神の儀が行えなくなってしまった。
ちなみに、新月の日は悪魔の月とも言われているらしく、縁起がよくないという風潮がある。
ぶっちゃけ俺はどうでも良いのだが、祭りの日はこれくらい明るい月の方が映える。
仕込みを終え、準備の出来た人々は祭りを始めていた。田舎村の小さいながらの祭りは個人的に好感が持て、俺の楽しみのひとつであった。
少ないながらも賑やかな祭りではやはり、一人一人が楽しんでいるように感じられた。
豪華ではないが幾つか屋台も並んでおりそこで買いものをしている人もいた。
かく言う俺も、シアンが寄りたいと言った屋台で物色をしていた。
「ねえねぇ!お兄ちゃん。私あそこ行きたい!」
昼方冒険者のおっちゃんが食べていた果物を手頃なサイズに調理した物を片手にもう片方の手でシアンが俺の手を振りながら頼んでくる。
いや、行くに決まってんだろ!
お兄ちゃんだからなぁぁぁ!
黒と青を基調とした礼服は普段のシアンのイメージとのギャップがあってそれはまた可愛らしい姿となっていた。
そんな可愛い妹に頼みを断っちゃあ兄が廃る。その後、俺は速攻で母に土下座し、この店に辿り着いた。
隣にいた父の可哀想なものを見る目は気にしないことにした。
最近土下座の精度が上がった気がする。
俺達が寄ったのは雑貨屋で俺の横では母が何かの本をペラペラと読んでいた。
恐らくこの店のものだろう。
意外なことに、母は勤勉な人間だ。母は村でも珍しい女の働き手で村の狩人として生計を立てていた。
魔法に心得のある母は魔法を使って近隣の森での狩りに勤しんでいる人だ。
「…………………。」
熱心に読んでる様子だ。
俺はこう言う物が得意ではない。と言うか嫌いです。
前世の時の勉強が嫌いだったし、この世界の読み書きに関しては日本語と似ている部分があったため簡単に出来るようになった。
そんな俺もさすがに暇なので母に倣って物色を開始した。でも、娯楽の少ないこの村で欲しいものなどないのだが、見る分にはただである。
うわっ、なんだろこれ。俺は月明かりに照らされ眩しいくらいに輝く宝石らしき石ころを手に取る。
『ん?なんだこの辛気臭そうなガキ?』
いや誰だこの失礼なやつ。
俺が手を付けたのを見るや否や何処からか俺への罵詈雑言が響いた。
誰かと思い周りを見ると目の前には滅茶苦茶胡散臭そうな店主らしき男がいた。
詐欺師だろうか?なんかよく分からん高そうな壺があったりしたから、もしかしたらそっち系か?
こっちだってこんなゴミみたいな石には用はないのだ。
俺は何も言わずすっと石ころから手を離す。
『あ!おい、ゴミとはなんだ!ゴミとは!オレは大悪魔サースコリアだぞ、なんだこの糞ガキは!』
瞬間俺への罵詈雑言バージョン2が放たれる。また反射的に俺は石ころから店主へと目を向ける。
店主は何食わぬ顔で顔でこちらをみてくる。
は?何だやるのか。
言っとくけど、俺の右手を舐めない方がいいぜ?
いい歳こいたやつが厨二病拗らせてるんちゃうぞ?
『いや、お前だって自分の事が特別とか思い込んでる痛いやつだろ。ていうか、オレサマは別にちゅーに病なんて変な病気にはかかってねぇよ!』
終いにゃ『悪魔舐めんな!』とか言ってくる店主。
おいおい、言っちゃいけないこと言っちまったなぁ!ソイツは俺には禁句だぜぇぇ!
『はん、所詮ただのガキだろ、お家に帰りな。』
「てめぇ!やってやるよクソ野郎がぁぁ!」
こいつは、こいつだけは殺らなくちゃだめだぁ!
俺は禁じられた右手を解放し店主へと放つ。
飛んできた拳に驚く店主。お前は少しばかり俺を怒らせた。
喰らえ!スーパアルティメットライトTheパンチ!
ゴチン!
店内には酷く響きのいい音が響いた。
店の利用者は全員こっちに視線を寄せており、それらは全て同じ場所に集まっていた。
俺の後頭部に。
「バカやってんじゃないよ。ほらシアン行くよ。」
俺の渾身のアルパンは母によって防がれた。
やっぱり母には勝てなかったよ。
戸惑うシアンと俺を抱え母は店を後にし、店に謝罪をいれている所を目撃した。
『あ!おいガキ!待てよお前オレの声が聞こえるってことはー』
くそがァ、あの店主ただじゃおかねぇ。
俺は店主の言葉をそっくりそのまま母に伝えるも母は「アンタ、熱でもあるのか?」と全然信じる様子がない。
俺の必死の熱弁も届かずシアンにはよく分からないものを見つめるような目で「お兄ちゃん何言ってるの?」とか聞かれる始末。
もうやめて!シンタのライフはゼロよ!
俺は酷く傷ついた心にあの店主への復讐の炎をメラメラと滾らせた。