事故に遭い死んだと思ったら、TSされ、魔法少女にされ、戦わなければ生きられないと言われた。   作:きし川

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抜刀の魔法少女

「ふっ!」

「うお……っ!」

 

 抜刀の魔法少女が振るう刀をしゃがむことで避ける黒い魔法少女。そして、すぐにその場から飛び退き、抜刀の魔法少女の間合いから離脱しようとする。

 

「おっと、逃がさないよ?」

 

 抜刀の魔法少女は踏み込み、黒い魔法少女が刀の間合いから出ないように近づく。

 

「はっ!」

「うぐ……っ!」

 

 上段から振り下ろされた刀を黒い魔法少女は腕のプロテクターで受け止めた。

 

「いき、なり、なにするんすか……!」

「だから、先も言ったろう? 仕合をしようってね」

「俺は応じてないっすよ……!」

「そうだね。だから、強引にやらせてもらってるよ!」

「ぐぅ……っ!」

 

 抜刀の魔法少女がさらに力を込め、押し切ろうとする。黒い魔法少女も踏ん張りなんとか耐えるが刃がプロテクターに食い込んでいくのを見て冷や汗を流す。

 

「こんな、事して……なんの意味があるんすか……!」

「確かに、この仕合に意味はないよ、どっちが勝手も負けてもこの世界になんの影響はない」

「じゃあ、なんでこんな事を……!」

「なに、簡単なことだよ。私はね、強そうな奴と戦うのが好きなのさ」

「はぁ!?」

 

 抜刀の魔法少女の語った理由に黒い魔法少女は驚愕する。黒い魔法少女が他の魔法少女の存在を知ったのはつい最近だったが、先輩である聖剣の魔法少女との交流によって魔法少女同士は協力し合うものだと思っていた。

 その為、そんな理由で同じ魔法少女と戦おうとしているとは思わなかったからだ。

 

「あんた、あれかよ……! 戦闘狂とかいう奴か……!?」

「そうともいうね。自分ではその自覚はないんだけど、周りの知り合いにはそう呼ばれてるよ」

「こんな事、許されるの思ってるのかよ……!」

「もちろん、許されないことだろうね……だけど、そんなことはどうでもいい、私は強い奴と戦って自分の力がどこまで通用するのか知りたいのさ!」

 

 嬉々としてそう語る抜刀の魔法少女に黒い魔法少女は話し合いではこの状況を打開できないと判断する。が、先程のムカデを一撃で倒した実力から自分では抜刀の魔法少女をどうにかすることはできないと思い、望み薄だが聖剣の魔法少女の到着を待つことに決める。

 

「ん? 聖剣の魔法少女が来るのを待っているのかな?」

 

 どういう訳か抜刀の魔法少女は黒い魔法少女の目的に気づいた。

 

「っ……なんで、分かった……?」

「私の使える魔法のうちの一つに刀を通して相手の心中を知ることができるものがあってね。こうやって、鍔迫り合っていると相手の考えが頭の中に流れてくるのさ」

「ふざけんじゃねぇぞ……! なんだ、そのインチキな魔法は……!」

 

 抜刀の魔法少女の魔法に黒い魔法少女は戦慄する。

 急いで作戦を考えたとしてもこの鍔迫り合いの状況では抜刀の魔法少女に筒抜けであり、抜刀の魔法少女から離れようとしてもそう易々とさせてはくれないだろう。

 それでも、なんとかこの状況を脱しようと黒い魔法少女は考えを巡らせる。

 すると、悪戦苦闘する黒い魔法少女が面白いのか抜刀の魔法少女がクスリと笑いながら、言った。

 

「それと、もう一つ教えておこう。聖剣の魔法少女ならここには来ないよ」

「……なんだって?」

「ここに来る前に彼女と一緒にいたんだけどね。君の戦いぶりを見て、君と戦いたいってお願いしたら断られちゃってね。邪魔されると面倒だから、ちょっと動けなくさせてもらったよ」

「あんた、先輩にまで手を出したのか……!」

 

 黒い魔法少女の目付きが変わる。

 黒い魔法少女にとって聖剣の魔法少女は頼りになる先輩であり、自分の窮地を救ってくれた恩人でもある。そんな、聖剣の魔法少女に何ならの害が及んだのだとしたら刀を受け止めている腕に力を込める、腕のプロテクターに刀の刃がさらに食い込むが無視して押し返す。

 

「お? 怒ったかい? いいよいいよ、もっと怒れ。君がやる気を出してくれると私も嬉しいからさ!」

「うるせぇな……ちょっと、黙ってろ──よッ!」

 

 黒い魔法少女が渾身の力を込め、抜刀の魔法少女の刀を上に弾く。

 そして、がら空きの懐に一瞬で踏み込んで抜刀の魔法少女の胸部に拳を叩き込んだ。

 

「──かはっ」

 

 黒い魔法少女の拳を受け、吹き飛ばされた抜刀の魔法少女は後ろにあった建物に突っ込んだ。

 

「……いやぁ、油断したなぁ。まさか、攻撃が当たるとは思わなかったなぁ」

 

 しかし、抜刀の魔法少女はまるで効いていないかのように平然と立ち上がり、建物の中から出てくる。

 

「嘘つくんじゃねぇよ。あんた、わざと受けただろう」

「……バレた?」

 

 片目を閉じ、小さく舌を出しながら惚ける抜刀の魔法少女を黒い魔法少女は睨む。

 黒い魔法少女は気づいていた。抜刀の魔法少女が問題なくあの攻撃に対処できたことに……

 なぜなら、あの一瞬、拳を打ち込もうとする自分を見ながら抜刀の魔法少女は笑っていたからだ。

 

「バレた? じゃねぇよ……自分が殴られようとしてるのにニヤニヤしやがって、ちょっと怖かったぞ、オイ」

「いやぁ、申し訳ない。一方的に屠ったところでそれでは、探求になり得ないし、何より私がつまらないからね」

「……とことん狂ってんな、あんた」

「フフッ、まぁいいじゃないかこれも一つの経験だよ」

「こんな事、経験したかねぇよ!」

 

 黒い魔法少女は叫んだ。好き好んで狂人と戦いと思う人間などいないのだ。

 

「……さて、これで私が切りかかった分はチャラになった。ここから正々堂々やり合おうじゃないか」

 

 そう言って、抜刀の魔法少女は刀を鞘に納め、構えた。

 

「さぁ、カードを抜くといい。それぐらいは待ってあげるからさ」

「っ……」

 

 黒い魔法少女は険しい表情をうかべながら、腰のケースに手をかけた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「っ……やっぱり、動けませんね……」

 

 抜刀の魔法少女が黒い魔法少女に襲いかかっている頃、聖剣の魔法少女は抜刀の魔法少女の魔法“影縫い”を受け、ビルの屋上で動けなくなっていた。

 

「抜刀さん……どうして……」

 

 抜刀の魔法少女の戦闘狂っぷりについては聖剣の魔法少女もよく知っていたが一年前に一身上の都合で第一線を離れていたことでその性格も直っていると思っていた。

 しかし、抜刀の魔法少女は一年前と変わっていなかった。いや、むしろより凶暴に成っていた。

 

「このままじゃ、ナナシちゃんが──っ!」

 

 なんとか抜け出そうともがいているその時、聖剣の魔法少女は見た。抜刀の魔法少女が刀を鞘に納め、構えるのを……

 

「まずい……!」

 

 今の黒い魔法少女の実力では抜刀の魔法少女の魔法にはかなわない。それが分かっている聖剣の魔法少女は影縫いから抜け出すために魔法を行使する。

 

「セイクリッドバースト!」

 

 

【Sacred Burst】

 

 

 聖剣の魔法少女が魔法を詠唱すると聖剣の魔法少女を中心に白い光が広がり、周囲の物体を消滅させていく。自分の影すらも飲み込んで消滅させ、聖剣の魔法少女は上半分が消滅したビルに着地する。

 

「……動ける!」

 

 一度、影が消滅したことにより影縫いの魔法が解け、聖剣の魔法少女の体が動くようになる。

 問題なく動けるのを確認すると聖剣の魔法少女はもう一つ魔法を行使する。

 

「フラッシュムーヴ!」

 

 

【Flash Move】

 

 

 聖剣の魔法少女の体が光輝き、直線的な軌道を描きながら光の速さで空を駆ける。

 

「そこまでです!」

 

 そのままの勢いで抜刀の魔法少女と黒い魔法少女の間に降り立つ。光速で着地したため、聖剣の魔法少女を中心にアスファルトが蜘蛛の巣状に割れ、粉塵が舞う中で、聖剣の魔法少女は剣先を抜刀の魔法少女に向けながらそう言った。

 

「聖剣先輩!」

「ごめんね、ナナシちゃん……! 来るのが遅くれてしまって……! 後は、任せてください!」

 

 降り立った聖剣の魔法少女を見て黒い魔法少女が声をあげる。聖剣の魔法少女は肩越しに後ろにいる黒い魔法少女に申し訳なさそうに言った。

 

「……どうやって、影縫いから抜け出したんだい? いくら君でもそう簡単に抜け出すことは出来ないはずだけど?」

「影縫いは対象の体をその場に固定する魔法であって、魔法の使用を制限する物ではありませんから、高威力の魔法で強引に突破しました」

「……相変わらず、規格外な魔法を使うね、君は」

 

 そう呆れるように抜刀の魔法少女は呟くと刀から手を離し、構えを解いた。

 

「今日のところは、ここまでとするよ」

「逃げるのですか?」

「さすがの私も光を切ることは出来ないからね、じゃあ、またね新人さん?」

「いや、二度と来んな!」

 

 二人に背を向け、去っていく抜刀の魔法少女の背中に黒い魔法少女は怒鳴った。

 

「ったく、なんだったんだあの人……」

「……ごめんね、私のせいでナナシちゃんにすごく迷惑をかけてしまって……本当にごめんなさい」

 

 聖剣の魔法少女は深く頭を下げて黒い魔法少女に謝罪する。

 

「いやいや、別に先輩が謝ることないっすよ。あの戦闘狂が全部悪いんで……というか、先輩はあの人知ってるんですか?」

「抜刀さんは私と同じ時期に魔法少女になった人でして……魔法少女になった時からさっきみたいな感じで先輩の魔法少女によく喧嘩を吹っ掛けてる……その、変わった人です」

「いや、変わった人で済まされないっすよ! 完全にヤバい奴じゃないっすか!」

「ごめんなさい! 彼女は魔法少女の戦いから一年も離れていたので、もう大丈夫だと思ったんです!」

 

 再び、聖剣の魔法少女は頭を下げる。それを聞いて黒い魔法少女は昨日、聖剣の魔法少女が言っていたことを思い出した。

 

「先輩。昨日、俺に会いたいって言ってた魔法少女って、もしかして、あの人ですか……?」

「…………はい、そうです」

「……もし、また俺があの人に襲われたら、その時は直ぐ助けてくださいよ……?」

「はい、もちろんです!」

 

 よくもあんな危険人物を連れてきたなと内心で思いながら黒い魔法少女は聖剣の魔法少女を見てそう言った。

 聖剣の魔法少女も責任を感じているのか何度も頷いて承諾した。




残り寿命、1501日

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