呪詛師は悪なりや?   作:呪詛師です

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呪詛師は悪なりや?

 呪術師の対とも言える呪詛師の存在。

 一般人を呪殺した場合に置いて、呪術師は呪詛師とされ処刑対象としてその命を狙われるようになる。

 

 そんな彼らの収入源と言えば、一般的に裏から回される仕事に限定されるというもの。

 その内容は、どす黒いばかりであるし。後ろどころか前まで真っ黒と言わざるを得ない程に黒い仕事ばかり。

 

 地獄しか広がっていない。

 

 

 

 

 

 

「………クソだりぃ」

 

 欠伸を零して、背伸びを一つ。

 とあるビルの一室。このフロアで生きているのは、彼一人だけだ。

 骸、骸、骸。仕立ての良いカーペットの上に転がるのは、全て骸。共通点と言えば、等しく()()()()()()()()()()()()()にされている点だろう。

 犯人でもある彼の手にあるのは、一振りの日本刀。特殊な仕込みと言えば呪霊が斬れる事と、その頑丈さ位のもの。

 そんな業物を彼は血払いを軽くする程度でろくに手入れする事も無く鞘へと収め血生臭い空気にもう一度欠伸を零して、足を動かした。

 

「クソだ。等しく、クソだ。クソッタレだ。汚物のバーゲンセールかこの野郎」

 

 フロアを抜けて階段を下る彼の口から垂れ流される罵詈雑言。その内容の大半は、今回の仕事に対する不平不満。飛躍して、この業界そのものに対する恨み言へと変わっていく。

 余程のストレスが溜まっているのかいつ息継ぎをしているのかも分からない程に続く、クソの嵐。

 階段と靴裏の打ち合う音に加えての、クソのオンパレード。聞いている方が鬱になりそうなものだが、この場合厄介なゲストを引き付けてしまったらしい。

 

「クソクソクソクソk………あ゛?」

 

 彼の足が止まる。見つめる先は、階段の丁度踊り場となっている部分。

 非常灯に照らされるだけの薄暗いその場所に、ナニかが蹲っていた。

 

「アア………ア………ア……」

 

 接近に気づかれたのか、そのナニかはゆらりと立ち上がる。

 凡そ三メートル。猫背で頭の先からくるぶしまでまるで襤褸布でも纏っているかのように黒い布を被りジッと男を見つめているのか動かない。

 男は徐に、左手に持った刀の鯉口を切った。

 小さな小さな金属音。しかしそれは、この静かな階段室に嫌に大きく響いた。

 

「アアアアアアアアアアアアッーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」

 

 絶叫。叫ぶのは何か。

 上体を逸らし、黒い布のような物を突き破るように現れる六本の細く、鋭い爪を備えた腕。そして、正中線で真っ二つに裂けて現れる巨大な口。

 言うなれば、ハエトリグサを縦にしたような、そんな口だ。中は粘液で粘ついているのか、糸を引いていた。

 グロテスクなこの怪物こそ、呪霊だ。どうやら今回は、仮想怨霊の一部も入り混じっているのか実にグロイ。

 

「………クソが」

 

 対して、男に一切の動揺はない。

 身構える事も無く、左の親指を鍔へと添えて鯉口を切ったまま淡々と階段を下り直し始めたのだから。

 襲い掛かる呪霊。その体格からリーチは圧倒的に上だ。何より男は、その進行上どうやっても呪霊の側を通らなければならない。

 自然、距離が縮まる。

 

「アアアアアアアアアア―――――」

「―――――ウルセェ、クソが」

 

 頭の先から噛り付けそうなその瞬間不自然に止まった呪霊。その前を男は悠々と通り過ぎて、そのまま階段を下っていく。

 小さく、鍔が鳴った。直後、呪霊の十字に切り裂かれる。

 消えていく呪霊。崩れ落ちたその体は、瞬く間に消えていった。

 呪霊が消え去ったことを確認し、男はもう一度溜息を一つ。

 

「はぁ…………クソ」

 

 悪態は、誰にも聞かれる事無く空気に溶けていく。

 

 男の名は、愛川春一(あいかわはるいち)。職業、()()()。未だ成人もしていない子供であった。

 

 

 

 

 

 

 春一にとって、人生の始まり即ち物心ついた最初の記憶はゴミ溜めの世界であった。

 間違いによって生まれた子供。それが彼。

 母は常に化粧や酒、タバコのニオイに(まみ)れており、父の顔は見た事も無い。

 赤子の頃はどうあれ、物心ついてから世話をされた覚えは殆ど無い。

 一日の食費は500円玉一枚のみ。それ以上は見込めないし、仮にそれ以上の金を求めようとすれば酷い目が待っている。

 何より地獄だったのが、母が夜遅くに男を連れ立って帰ってきてそのままおっぱじめる事。その時には、どれだけ寝ていようとも春一は家の外へと追い出された。因みにその時は、彼は路地裏のごみの中で眠っていた。地面に直接寝るよりも、段ボールなどが積み重なった場所の方が幾分マシであったからだ。

 そんな生活を続けて三年。彼が六歳になった頃、事件は起きた。

 

 経緯はこうだ。半年前、薬物に母が手を出した事により始まる。

 元々、色欲に(まみ)れ自制心の欠片も無い母は一切のブレーキを掛ける事も無く、中毒の虜になり転げ落ちていった。

 薬物の売人と言うのは、一定の量を買わせると途端に値を吊り上げてくる

 当然だ。彼らの目的は金稼ぎであるのだから。そして、中毒者たちはどうにかこうにか金を工面して一瞬の快楽に溺れ、再び金を集めて、快楽に溺れ、この繰り返しに沈んでいく。

 薬に手を出した事からクラブを首になった母は、性病も厭わず体を金を稼いでは薬に溺れる生活に浸っていた。

 春一にこの薬の被害が及ばなかったのは、偏に母の愛―――――ではなく、単に母親が薬の快楽を誰かにとられることを嫌った為。美談など、無い。

 

 そして、運命の日。

 母は質の悪い輩に金を借りてしまっており、その額は膨れ上がる一方であった。

 やって来る取り立て屋。叩かれる扉。

 薬の幻覚によって半ば妄想に憑りつかれていた母は、不意に部屋の隅で膝を抱えていた春一を見咎めたのだ。

 

 結果、彼は借金の返済代わりに充てられる事になった。

 どんな場所にも、()()()()趣味の輩は居るものなのだ。それも、春一はこの時六歳。未だ男女の性差と言えば性器程度のもので、残念な事に需要があった。

 果たしてやって来るヤの付く自由業の方々。

 幼心に、母がクソな人間で自分が底辺の生活をしている事を知っていた春一。当然ながら反抗する。

 ここで彼にとっての不幸が重なった。

 

 一つ、彼は呪術に関する知識が無かった

 二つ、幼心であるが母や自分を回収しに来た男たちに対して嫌悪感を抱いていた

 三つ、彼は呪術師としての才能があり、術式を有していた

 四つ、その発動条件に必要な刃物を有していた

 

 以上四つ要因が重なり発動した春一の術式。

 不幸な事故と言う外ない。言う外ないのだが、その結果出来上がったのは母含めて四つの死体である。

 意図しなかったとはいえ、部屋は血塗れ。春一自身も赤くなっており、部屋には異臭が漂っていた。

 

 そして、彼は逃げ出した。刃物を片手に、血に汚れたままただ只管に逃げ出した。

 

 もしも、彼がその場に留まっていたならば。そして警察に保護されていたならば。

 もしかすると、彼にはもう少しだけマシな未来が待っていたかもしれない。

 ただ、それはどれだけ妄想したところで“もしも”の域を出ない埒の開かない想像でしかないのだ。

 

 かくして彼は転げ落ちていく。泥沼のような闇の中へと。



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