モンドには二つ、酒造業を牽引している酒場がある。
片や腕のいいバーテンダーを雇い、老若男女に好かれる様々な種類のカクテルを提供する『キャッツテール』
片や昔からの伝統の酒から、全く新しい酒まで様々なものを開発、提供している、モンドの大金持ちアカツキワイナリーが経営する『エンジェルズ・シェア』
一口に酒場と言っても、なにも酒の臭いがあふれ、酔っ払いの怒号が響くような野蛮な場所ではない、前述のどちらも、子供用のフルーツジュースや度数の低いカクテルなんかも提供している。
しかし、子供がいる時間だってそう長くはない。
特に決まりがある訳でもないが、大抵は昼から夕方は家族連れが多く、夜には大人が宴会を開くといった、暗黙のルールのようなものがある。
時間帯ごとに雰囲気や表情が異なるのも大きな魅力の一つだろう。
ともかく、これまで色々あった事だし、言い方は悪いがすこしフラストレーションも溜まってきてる。
まだ昼だが、吟遊詩人も酒場にいない静かな時間帯だ。
落ち着いて酒を飲むにはもってこいだろう。
「こんな時間に珍しいな、いつもは夜に来るだろう?」
エンジェルズシェアの前までくると、バイトのパットンが話しかけてきた。
「おかしいか?俺からしたら、一日中店の前に突っ立ってるお前の方がおかしいと思うが」
「好きで突っ立ってるわけじゃない、客寄せしてるんだよ!借金返すために!」
「自業自得だろ、うっかりで高級な酒瓶割るからだ」
以前聞いた話だが、元々パットンはここのバイトではなかったらしい。
だが、客としてこの店に訪れた際、前のオーナー……つまり、今のオーナーの父親に当たる人物が大切にしていた酒瓶を割ってしまい、その借金を返す形で、ここでバイトしているらしい。
給料は出ず、飲み食いも自費、休憩は無しで。
値段の計算をすると、全額返済には、今から働き続けても40年以上かかるようだ。
正直な話、同情はするが自己責任だとも思う。
「いらっしゃい、何を飲む?」
「リンゴ酒を一つ」
「それと、午後の死を一つ貰おうか」
店に入り、赤髪のバーテンダ―に注文すると、それに続くような形で、もう一人、俺の後ろに居た人物が酒を頼んだ。
この軽薄そうな言葉使い、ついさっきも聞いたな……。
「よぉベント、奇遇だな、こんな昼間に、こんな場所で」
「ガイア……つけてきたのか?」
「まさか、偶然さ」
「偶然にしては、遭遇が早すぎるけどな」
「まぁまぁ、そう邪険にしなくてもいいじゃないか、隣いいか?」
「外にしろって言ったら席を変えるのか?」
「これは手厳しい」
俺の皮肉がまるで通じていないようで、ガイアと二人でカウンター席に座ることになった。
時間も時間だが、なぜか店内にはバーテンダー以外に人がいなかった。
まるで、人払いでもされているような。
手元のリンゴ酒の香りを楽しみながら、優雅に過ごしたかったが、そうともいかないらしい。
バーテンダーの男、彼はいつものチャールズじゃない、若く、黒い外套に身を包んだ赤髪の男。
有名人だ、見たことが無いはずもなかった。
アカツキワイナリーの当代のオーナー、『モンドの無冠の王』ディルック・ラグヴィンドだ。
彼は時々チャールズに代わり、この店のバーテンダーを務める事もあるらしいが……流石に、今日はあまりにタイミングが良すぎる。
何か裏があるか……もしくは、誰かが呼び出したか。
「おいおい、そんなに睨まないでくれよ、確かに少し仕込みはしたが、これはお前さんのためでもあるんだぜ?」
「俺のためだって?」
「詳しく話してやるんだな、兄弟」
「お前に言われなくでもわかっているさ」
ディルックはため息をつきながらも俺に向き直る。
「まずは初めましてだな、僕はディルック、エンジェルズシェアのオーナーの、さらに上のオーナーだとおもってくれるといい」
「知ってるさ、このモンドでその名を知らない奴はいない。俺はベント、冒険者だ」
「ああ、知っているさ、君が意識を失っている間、モンド城内は君の話題で持ちきりだった……スネージナヤの外交官も含めてね」
スネージナヤの外交官……たしか、ファトゥスといったか。
力を使い強引に外交を迫り、いざ力を振るうときは外交問題にならないようにもみ消すのがうまいと聞く。
しかも、ファトゥスはどれも実力者揃いと聞くじゃないか、そんなものに目を付けられて、どんな目に合うか分かったものじゃない。
「僕も、過去に彼らに目を付けられたことがあってね、その時も結構な苦労があったよ」
「あぁ、あの時は大変だったな」
「……」
「おいおい、そう睨むなよ兄弟」
この男はいつも誰かに迷惑を掛けないといけない呪いにでもかかっているのだろうか?
それとも、実はちゃんとしていて、裏で活躍しているが、その努力が日の目を見る事はないだとか……どちらにせよ、表面上迷惑ならそれはただ迷惑なだけだろう。
取り繕う努力くらいはしてほしいものだ。
あるいは、そうしてヘイトを受ける役割を進んで担っているのか。
「ただ一つ言えることは、何か大きな力を持つことには、本人にその気が無くとも責任を伴うことがあるということだ。もちろん、ファトゥスだけに言える事じゃない、今後様々な組織が、権力者が、機関が、君の前に現れるだろう。その時のために、君は自分の方針と実績を示す必要がある」
「その実績作りに協力してやろうって事だ」
たしかに、肩書は大事だ。
旅人もトラブルに巻き込まれる事は多いと聞くが、彼には栄誉騎士という肩書もある。
それはつまり、モンドの西風騎士団に権利を保障されているという事だ。
それに対して俺は、騎士団の誘いを断った。
これが意味することは明白だろう。
「……どうしてそこまでしてくれるんだ?」
「もちろん、君を頼るからには理由もある。戦力が必要なんだ、出来るだけ足のつかない戦力がね」
「一体、なんのために?」
「それは、この話を了承してくれたら話すさ」
彼―――ディルックには、悪意や敵意のようなものは感じない。
どちらかと言えば、見定めようとしているような感覚が近いか。
何にせよ、今後の俺の為にもなることのようだし、断るメリットの方が思いつかなくなってきたところだ。
「わかった、何があったのか、話してくれ」
俺は、話に乗ることにした。
「実は最近、風龍廃墟近くで
風龍廃墟―――旧モンド城とも呼ばれるその場所は、かつての災禍、風魔龍が根城にしていたとされる危険領域。
元素濃度、中でも風元素が特に高く、生息する生物はその元素濃度に耐えられる、強い固体が多くいるとされており、冒険者協会の依頼や、騎士団の討伐依頼でさえも、この領域を指定される事がほとんどない程だ。
「俺に、その調査をしろと?」
「君だけじゃない、僕も行く」
つまり今回、その実績作りとやらは、ディルックと俺のツーマンセルで、風龍廃墟で何かをしている愚人衆の調査をするってことか。
まぁ、実績を作ると言い切っている訳だから、少なくともなにかある……もしくは、ある事を掴んでいるという事なのだろう。
しかし、ディルックの方は大丈夫なのだろうか?
線の細い体で、とても戦闘能力があるとは思えないが……。
「言い忘れたが、僕も一応神の目を持っている、あまり大っぴらに話すようなことでもないけどね」
そういって彼は、腰に下げた炎元素の神の目を俺に見せてくる。
しかし、神の目を持っているからと言ってすぐに信頼することは、もうしない。
彼は“彼女”のように子供ではないが、ある程度の危機感は持っておいた方が良いだろう。
神の目は特殊なんだろうが、それを操るのは一人の人間なのだから。
崩壊3rd、スマホの容量の問題でやってないんですがね、識の律者のムービーかっこよすぎてめっちゃ見ちゃうんですよね。
見て無い人は見てみるといいですよ、音楽が重低音でめっちゃかっけぇ