風鎧の冒険者   作:天魔宿儺

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アップデート来週ですよ!
楽しみですね!


強襲

初日は問題なく調査完了した。

千風の神殿周辺地域には、アビスの魔術師がいた痕跡はあれど、全くと言って魔術師やその集団、アビス教団と思われるものに関する情報はないに等しかった。

その不気味さから、遺跡守衛に発見されるリスクはあれど、調査は続行、千風の神殿の調査を開始する。

 

「姿を見せよ、オズ!」

『はい、お嬢様、私の役割は上空からの偵察でしたね?行ってまいります』

「ベントは俺と行動してくれ!実力は信頼してるが、相手は元素力を操るアビス教団だ、万が一があってはいけない」

「了解した。フィッシュルは一人で大丈夫なのか?」

「皇女の身を案じるのも無理はない、だけどそれは不要よ!オズは私の呼びかけによって瞬く間に召喚できる、故に私は一人であって一人ではないの!」

 

一人で大丈夫というフィッシュルを置いて、ベネットと共に神殿の先遣に行く。

巡回の丘々人(ヒルチャール)を避け、千風の神殿に辿り着くと、そこには起動済みの遺跡守衛が歩き回っていた。

遺跡守衛は、いつ、誰が作ったのかもわからない、テイワット各地に分布している謎の兵器だ。

 

一部の報告では、アビス教団と結託しているような報告も聞いている。

警戒に越したことはないだろう。

 

「ベネット、どうだ?元素視覚で何か見えるものはないか?」

「あぁ、どうやらアタリみたいだぜ、ここは」

 

ドシン、ドシンと歩き回る遺跡守衛に発見されないよう、細心の注意を払って周囲を見回す。

俺から見たら何の異常もないように見えるが、神の目を持っているベネットには『元素視覚』と呼ばれる特殊な能力が備わっている。

 

元素視覚とは、その名の通り元素の痕跡を視認できる能力である。

基本的に神の目を持っている者は使えるらしい。

 

「あそこにいる遺跡守衛に炎、水、氷元素が複数付着した跡がある。それに……この痕跡は……」

「どうしたベネット?」

「―――まずい!!!」

 

ベネットが叫ぶと同時、遺跡守衛のモノアイが突然光り、背中の射出口から道の追尾弾が発射される。

その軌道はまっすぐとこちらへ向かいーーー"俺達の頭上を通り過ぎて行った"。

あの方向は……まさか!!

 

「――――――――ッ!!!」

 

遠くから聞こえる悲鳴。

確認するまでもない、これはフィッシュルの声だ。

 

「ベネットッ!!」

「ああ!行こう!」

『お待ち頂こう』

 

紳士的なセリフと共に、鎌首をもたげる、竜を模した仮面のようなものが、俺たち二人を三方向から囲みこむ。

そしてカタカタと顎を震わせながら――――その口から炎を噴出させた。

 

「危ねぇ!!」

 

ベネットがタックルし、ベントが大きく吹き飛ばされる。

空中でベントが目にしたのは、ベネットが見えなくなるほどの炎の塊だった。

そのすぐそばには炎元素を操るアビスの魔術師がおり、その周囲には今まで気づかなかったことがおかしいくらいの数の丘々人の集団に取り囲まれていた。

 

『おや、一人取り逃がしましたか、まぁ良いでしょう、元素も使えないのなら、恐れるに足りません』

「YaYa!!」

「Gyanazaza!!」

 

アビスの魔術師がベントに向かって呪文を唱え、周囲の丘々人が弩を構える。

容赦のない戦闘態勢を把握したベントは素早く受け身を取り、弓を引き構えようとするが、それよりも先に炎の中から人影が飛び出してきた!

 

「うぉぉぉぉぉぉおおおおりゃぁぁぁぁあああああ!!!!」

 

ガキン!と金属同士がぶつかる様な音が鳴り響く。

全身に煤を浴びながら全力でアビスの魔術師に突撃したベネットだったが、寸前で大盾持ちの大型ヒルチャールに防がれてしまっていた。

 

「チッ!」

『おやおや、危なかったですね、彼に防がれなければ今頃どうなっていたことやら……まぁ、私と貴方では相性は最悪、彼の守りが無かったとしても、貴方では私のバリアは壊せませんよ、冒険者ベネット』

「そうかい!」

 

ベネットの元素スキルによって大盾が燃え盛る。

しかし多勢に無勢、炎元素付与によって生まれた一瞬の隙でさえ、アビスの魔術師による炎や、弩による攻撃によって埋められ、盾を直されてしまう。

 

「くッ!一人じゃ……いや、俺ならいける、大丈夫だ!ベント!」

 

後方で支援に徹していたベントに呼びかける。

 

「ベント!お前はフィッシュルの援護に回ってくれ!」

「じゃぁお前はどうすんだよ!」

「俺なら一人で何とかなる!フィッシュルは偵察にオズを出しているし、オズはフィッシュル自身が呼ばないと自主的に瞬間移動はできない!現状を見るにフィッシュルも孤立しているはずだ!急げ!!」

「くッ……死ぬなよ!」

 

ベントは素早く木に登り、樹上を駆けて行った。

それを見送ると、ベネットは再びアビスの魔術師に向き直る。

ご丁寧に、アビスの魔術師は待っていたようだ。

 

「待たせたな」

『よろしかったのですか?彼、死にますよ?』

「不幸体質の俺と一緒にいるよりは、生き残る確率はたかいだろうさ!」

『減らず口を……貴方がたはここで死ぬのです、一緒に居ようがいまいが、結果は同じですよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆ける、駆ける、跳び、駆ける。

 

フィッシュルとはこんなにも離れていただろうか

 

足が進むのはこんなに遅かっただろうか

 

宙に浮いた足が枝を踏みつけるまでの時間は、こんなにも長かっただろうか。

 

俺は無力だ。

 

炎に包まれるベネットに対し何もできなかった。

 

それどころか彼に助けられた。

 

そして今は彼の意志に従い他の仲間を助けに向かっている。

 

 

俺に、助けられるのか?

 

 

考えるな、考えるな!

 

今は進むんだ、一刻も早く、孤立したフィッシュルの元へ!

 

 

『相棒を一人にするな、それは困難の始まりである』

 

 

あの偏屈な占星術師の言うとおりだった、何故気付かなかった!?

 

彼女を信頼できなかったから?

 

占星術を信じていなかったから?

 

違う、俺は慢心していた。

 

神の目に信頼を置きすぎていた!

 

それさえあれば何者より強く、何者より頼れる、何物にも勝る戦力であると。

 

信じすぎていたんだ。

 

たとえ神に認められようと、元素が使えようと、それを扱うのは人間だ。

 

時に失敗し、時に力に振り回される人間だ。

 

そして神の目はどれだけ言葉を変えようと、それは道具に過ぎない。

 

それを理解しようとせずに、ただ"選ばれたから"だと思考を放棄した!

 

年端も行かぬ少女でも強大な力を身に着けてしまう、それを元に信頼してしまう。

 

まさに"力の毒"だ。

 

藪を抜け広い場所に出る。

ここは今朝がたまで野営地であり、そしてフィッシュルが安全圏で偵察するために使っていた場所。

数時間前までここにはキャンプ用品が転がり、簡易設営したテントと焚き木によって生活感のある空間になっていた。

だが今は、見る影もない。

地面に広がるのは何かが爆発したようなクレーターと水溜まり、そして凍り付いた簡易テント。

極めつけは、地面におびただしい量零れ落ちた血溜まり。

 

その中心に少女は倒れていた。

 

輝くような金髪は血に染まり、特徴的なツインテールは髪紐がほどけてばらけてしまっている。

ドレスのような衣装も無惨に引き裂かれ、白い肌にはいくつもの傷がついていた。

 

「———ッ!フィッシュル!」

 

彼女のそばに駆けつけ、その身を起こす。

……僅かに、息がある。

まだ生きている。

意識があっても喋れないだけなのか、フィッシュルは弱々しい目で俺を見る。

 

「オズ!オ―――――ズ!!!!居ないのか!」

 

森に声が響き渡る。

それでもオズは反応しない、もしくは、既にフィッシュルの元素力が尽きて消失したのか。

頼れるものはない、彼女を助けられるのは、今ここにいる、俺だけ。

フィッシュルをおぶさり、服のすそを破って作った簡易ロープで姿勢を固定する。

 

「待ってろ!教会まで行けば治療を受けられる!そのあと援軍を率いてベネットを―――」

『させませんよ』

『みすみす対象を逃がすと思っているのか?』

 

アビスの……魔術師!

それも氷使いと水使いで二体も!

そしてその後ろに居るのは―――遺跡、守衛…!?

 

『貴方がたは、ここで死ぬ運命にあるのです』

『それが姫様の、そして俺達の目的だからな』

『---- ・・- -・-- ・・ -・-・・ ・-・・ ・- --・-・』

 

遺跡守衛がモノアイを光らせ俺達に背を向ける。

この予備動作は―――まずいッ!

 

『さぁ、死になさい』

『やれ、遺跡守衛よ』

 

おぶったフィッシュルを急いでおろし、抱きかかえるように防御姿勢を取る。

その直後、俺の背中が―――爆ぜた。




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