風鎧の冒険者   作:天魔宿儺

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神の■■

音が、聞こえない。

爆発音で聴覚が麻痺したのか。

目も見えない、これは俺が目を閉じているからか……?

瞼を開けるが、そこにいつもの視界はない。

流血が目にまで入り、赤くなった視界。

意識が朦朧とする中、何とか五感を総動員させて事態を把握する。

 

確か俺は……フィッシュルを庇って追尾弾を受けた。

俺の背中に着弾した弾はそのまま爆発し、爆風によって俺は吹き飛ばされたが、フィッシュルの事は徹底して庇った。

まだ……年端も行かない少女なんだ、こんなところで死んだら可哀そうだ。

 

腕を動かし、抱きかかえたハズのフィッシュルを見る。

意識を狩り取られたのか、彼女は俺の胸の上で寝息を立てていた。

俺は……仰向けに寝転がっているのか。

雨が降っている。

雨水が降り注ぎ、それは俺の胸を通過して地面の血溜まりに落ちる。

 

そうか―――俺はもう―――心臓が―――。

 

瞳孔が開いていくのが分かる。

筋肉の緊張が解けていく。

全身に力が入らない。

 

 

―――知るか。

 

 

右を見れば、そこにあったはずのものは無く、持っていた弓と共に、近くの木に突き刺さっていた。

 

 

―――だから何だ。

 

 

どくどくと血が流れ、その度に体温が下がっていくのが分かる。

俺はもうすぐ死ぬのだろう。

 

 

―――おとなしく死ぬものか。

 

 

俺は無力だ、たった一人の少女さえ守ることができない。

もう、立ち上がれない。

 

 

―――立ち上がれ!

―――立て!立て!

―――お前はなんのために冒険者になった!?

―――何のために努力してきた!

―――何故、その年になってまで、本の中の夢物語(フィクション)にあこがれ続けた!?

 

黙れ、黙ってくれ。

もう嫌だ、いやなんだ。

俺は何もできない、俺は何者にもなれない。

何も成し遂げられないまま、俺は死ぬんだ。

冒険者として生計を立てていても、その人生に満足することは無かった。

俺は英雄にはなれなかった。

 

風が、吹く。

雨が頬に当たり、否が応でも意識が覚醒していく。

自由の風は、こんな時でも空気を読んでくれないのか、俺を、死なせてくれないのか。

 

 

――――――♪

 

 

ライアーの、音が聞こえた気がした。

どうして、こんなことを思い出すんだろうか。

 

『……いい曲だな』

『これはまだ未完成の曲さ、この音に乗せる詩もまだ書いてない。』

『そうなのか、それは完成が楽しみだ』

『完成したら真っ先に君に聞かせると約束するよ』

 

そうだ、まだ彼の、あの曲の続きを聞いていない。

ほんの少しだけ残った心残り。

 

『この詩がみんなの心に届いてくれれば、それで十分さ』

 

届いちまった。

お前の詩は、本当に人の心を奪ってくれる。

心残りを、もたらしてくれる。

 

『ねぇベント、君の冒険譚を聞かせてはくれないかい?』

 

あぁ、聞かせてやるさ、待ってろ、ウェンティ……俺は……―――。

 

 

 

 

 

『やっと死んだか』

『案外、常人の耐久力も侮れないものですなぁ』

 

アビスの魔術師たちは警戒を解き、バリアを解除する。

そして、宙に浮いたまま、倒れて動かなくなった二人の冒険者の元へと近づいていく。

 

『このフィッシュルというガキも中々粘ったが、やはりニンゲン、我々が総力をあげればなんてことはない敵だったな』

『おやおや、勝利を確信するのははやいですぞ?死亡確認をしませんと―――』

 

次の瞬間、ベントの残った左腕に手を伸ばした水の魔術師は、恐ろしい速さで接近する"何か"に心臓を貫かれた。

 

『―――何ィ!?』

 

氷の魔術師は急いでバリアを張りなおしたことが幸いしたのか、次に襲い掛かる何かに反応は出来ずとも防ぐことはできた。

硬い金属同士がぶつかる様な音が鳴り、同時にアビスの魔術師はバリアごと吹き飛ばされる。

 

『ぐぉぉぉぉおおああああッ!?!?!?』

『-・-・・ ・-・-・ -・-・・ -・・-- ・・- --・-・ ・・ -・ ・-』

 

異常に気付いた遺跡守衛がとびかかってくるが、そこには一陣の風が吹き荒れ、足を取られた遺跡守衛はそのまま顔面から地面へと激突した。

吹き荒れる暴風と降り注ぐ雨、天候は悪化していき、雲が太陽を覆い隠し、あたり一面は夜のように薄暗くなる。

 

一瞬にして彼らを吹き飛ばした"何か"は、大きく息を吸い込むと、雨音が掻き消えるほどの大音量で叫んだ。

 

 

『オ―――――――――――――――ズッッ!!!!!!!!!!!』

 

 

意識を失っているはずの、フィッシュルの神の目が光り、同時に"彼"に落雷が降り注いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酷く臭う、鉄のような臭いがする。

 

―――エミ、今日はどんな本を読んだんだい?

 

知ってる、これは血の臭いだ。

冒険者になってから、幾度となく鼻についた、死の臭い。

 

―――そうか、エミはその本が好きなんだね、それじゃあこれからは君の事をフィッシュルと呼ぼう。

 

でもいつも傷つくのは私じゃなくて、仲間だった。

仲間の冒険者たちは、私を尊敬のまなざしで見て、そして守ってくれた。

でも違うの、私が守られるべきなんじゃなくて、私が貴方達を守るべきなの。

 

―――フィッシュルは皇女で、俺の自慢の娘だからな、何があっても崇高な夢を諦めてはいけないよ?

 

私は断罪の皇女、臣民を守る誇り高き、パパの娘。

いつからだろう、その言葉が"呪い"のように私を雁字搦めに縛り付けるようになったのは……。

 

―――エミ、アナタはもう14歳よ、いい加減子供の妄想は卒業して…

 

ママの言葉は、私をいともたやすく"現実"へ突き落した。

その時、パパの声は聞こえなかった、ママに同意していたかもしれないし、私を思って口をつぐんでいたのかもしれない。

優しさからか、厳しさからか、両親から深い愛情をもらっていても、私には判別がつかなかった。

 

そんな時現れてくれたのは、踏みつぶして来そうな現実から助け出してくれたのは、何度も夢に見た黒き翼。

 

あぁ………あれは……———

 

『ま……じょ―――……様ッ……しっかり――――――……お嬢様ッ!』

「———オ、ズ?」

 

紫電の瞳が私を見つめる。

オズは、もう飛ぶ力も残っていないのか、私の前で静かに佇んでいた。

 

『ベント様が助けてくださったのです、なぜベント様が私を呼び出せたのかは分かりません、ですがこれは僥倖、私たちに残された最後の力で、ベント様を援護致しましょう。』

「一体……何が起こったの……?」

 

視界の半分が赤く染まってほとんど見えない。

ぼやけた目は意識が覚醒していくと同時に明瞭になっていき―――私の視界に写ったのは、雷電と暴風を身に纏う、嵐の化身だった。




連日投稿とか初めてですよ。
アプデが待ちきれなくてモチベが上がったからか、今日が休みだからか、それとも感想をくれたのが嬉しかったからか!?
原神タグで一位を取りたい。

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