この素晴らしい世界に二人の探偵を!   作:伝狼@旧しゃちほこ

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 とりあえず戦闘パートです。一話挟んで原作2巻に行こうかと思います。


Gに気を付けろ/日常を取り戻せ

 「ダブル……ふん、モンスターの姿をして人間の町を守るとは変わった奴だ」

 

 デュラハンは舐めた笑い声を上げる。ま、モンスターじゃないって言うには嘘になっちまうかもしれねぇが。

 

 デュラハンは大剣を振り上げ肩に乗せる。右手には自らの頭を持っているとはいえ、あのサイズを平然と扱うのはさすがとしか言いようがない。

 

 一陣の風が吹く。サイクロンジョーカーは風による素早い身のこなしに加え、ジョーカーの身体能力を引き上げた接近戦タイプだ。

 

 風を纏い先制を取った。徒手空拳でダメージを与えるも、固い鎧も相まって上手く通らない。

 

 一旦距離を取り、今度は赤いメモリを取り出す。

 

 「ここはヒートで」

 

 『待つんだ。このままサイクロン主体でいく』

 

 「何言ってんだ。見ただろ今の」

 

 『君はどうしてヒートを選んだんだい?』

 

 相棒の問いに俺は呆れる。んなもん、火力の底上げに決まってる。今の状態じゃ劣勢ばかりだ。

 

 『僕達はかつて不死身の男と戦った。だがあれは細胞酵素によるもので死体を無理やり動かしているのが正しい見解だ』

 

 不死身の男ーーかつて風都を襲い俺達の前に立ちはだかった強敵の一人。

 

 『でも今回は違う。科学が通用しない世界だ。ここは僕の指示に従って貰う』

 

 「……お前が言うなら。で、どうすんだ」

 

 『検索は完了している。奴の倒す方法は浄化魔法しかない。強化を受けている奴にとって聖水はまず効かない』

 

 つまるところ、あいつらアンデッドは既に死んでいる為倒すことは出来ない。

 

 その代わり基本は浄化魔法で一撃みたいだが、それが不可能となると難易度は跳ね上がってくる。

 

 弱らせることは可能なので一撃で浄化出来るまで弱らせる必要がある。

 

 「どう攻める?」

 

 『弱点は水だ』

 

 「水ぅ?ってことはよ……」

 

 『僕達が有利になることはない。ヒートの攻めよりも風を取り込み体力回復に努められるサイクロンの方が良いと見る』

 

 「魔法使えるだろ」

 

 『体は君のだよ』

 

 「……納得したよ。じゃ、このまま行くぜ」

 

 相手は強敵だが武器はダクネスが扱うより大きな剣だ。それに加えてもう片方には自らの頭を抱えている。大振りの動きなら充分対応出来るはずだ。

 

 問題は唯一突破出来る方法をーー

 

 「【セイクリッド・ターンアンデッド】!」

 

 戦う二人を中心に、後方からアクアが魔法を放つ。魔方陣が地面に描かれ、神々しい光が発射される。デュラハンは苦しい叫び声を上げる。

 

 「容赦無しかよ?!」

 

 『いや、僕達は人間だからほぼ無害だからっ……?』

 

 その時、右半身のフィリップが膝をついた。

 

 「フィリップ?おいフィリップ?!」

 

 『ぐっ……はっ……』

 

 翔太郎は引きずるように体を動かし魔方陣から飛び出す。荒い呼吸が少しずつ整っていき調子を取り戻した。

 

 「大丈夫か?」

 

 『大丈夫だ。きっと彼女の魔法の威力が強すぎたんだろう』

 

 フィリップには精神攻撃に対して耐性を持っている。浄化というのが精神攻撃に分類されるか分からないが、身体的痛みを伴うなら変身している翔太郎にも同じ症状が出るはずなのでまずない。

 

 感覚的には気分が優れないといった感じだ。乗り物酔いを強くしたような……

 

 「お前もアンデッドなのか?」

 

 鎧の隙間からプスプスと黒煙を上げていたデュラハンも修復が完了したのか、ゆっくりと立ち上がる。

 

 「んなわけねーだろ。ちゃんと心臓鳴らしてる生物だ!」

 

 

 

 ダブルとデュラハンの激闘を他所に、めぐみんの回収を終えたカズマとアクア。そこに街中で戦っていたダクネスも合流した。

 

 「無事か?」

 

 「こっちはな。あとはあのダブルとか言う奴がなんとかしてくれるだろ」

 

 「癪だけど私の浄化魔法もあいつに効かなかったし……弱体化なんてめぐみんの爆裂魔法があればいけるんだけど」

 

 当の本人は既に撃ってしまいカズマに抱っこされ使い物にならなくなってしまっている。

 

 「ダブル?まさかあのデュラハンと戦っているモンスターか?」

 

 「そうです。お前の罪を数えろ……なんとも格好いい響きでしょう。名乗りに取り入れましょうか」

 

 「まさかモンスターに町を救って貰うつもりか?ここは私達の町だぞ」

 

 「別にいいだろ。救われるんだったらなんでもよ」

 

 この世界にはチート能力を持った転生者がいる。おそらくヒーロー番組好きの奴が同じ能力手に入れて、正体を隠して活動してるとかそんな感じだろ。

 

 「……それでも、私には守らなければならないものがある」

 

 ダクネスは自らの剣を構え駆け出していく。いくら固いと言っても攻撃はまともに当たらないのに何が出来る。

 

 しかしダクネスは俺の声を聞こうともせず向かっていく。二人の攻防に割り入るようにダクネスはデュラハンに向かって突進をかました。しかし、それは多少緩んだだけで効いてない様子だった。

 

 「低レベルが、邪魔をするな!」

 

 デュラハンの怒りの一撃がダクネスに迫る。が、間一髪に隙を晒したデュラハンにダブルの飛び蹴りが入った。

 

 「ふん……今の行動といい、モンスターの癖に何を抜かしている」

 

 「何も抜かしてないぜ。魔に身を落としたお前よりかは真面目なつもりだ」

 

 「そうか。久々の骨がある奴だと期待したが、早めに潰しておかなければいけないらしいらしい」

 

 抱えていた頭を上空に放り投げ大剣を両手で構える。何かを仕掛けてくるつもりだと身構え、相手の攻撃を避ける。が、まるで動きが読まれていたかのように大剣を振りかざしダブルの脇腹にヒットする。

 

 『ぐふっ……』

 

 「フィリップ!」

 

 先程のも相まってまだ完全に本調子ではないフィリップの息が漏れた。ちくしょう、万事休すか……?

 

 「はぁぁぁ!」

 

 今度は自分の番と言わんばかりにダクネスが大剣を振るう。が、そこはお約束のように攻撃が当たらない。

 

 「しつこい!」

 

 デュラハンの横凪ぎがダクネスを襲う。倒れたと思い再び視線をこちらに向けーー

 

 「ああっ、新調した鎧が!」

 

 不審に思ったデュラハンが振り返る。そこには鎧に少し傷が入った程度でピンピンしているダクネスの姿があった。

 

 自分の一撃を耐えたことを上手く飲み込めていないデュラハン。今だと言わんばかりにダブルは戦線を離脱する。

 

 『少しの間耐えて貰おう。彼女も町を守りたいと思う一人の戦士だ』

 

 素早く駆け抜けカズマらの元に向かう。最低限の情報だけ伝えて復帰しよう。

 

 『君達に頼みがある。先程も見たと思うけど、奴には浄化魔法を耐えるだけの力がある。弱体化の方法は知っているんだが、僕達にその手立てはない』

 

 「つまり、あんただけじゃ倒せないってことか?」

 

 『そうなる。奴の弱点は水だ。水の魔法を使える人達を集めてきてくれ。その間に僕達は奴を拘束する』

 

 カズマの肩を叩き再び戦場に舞い戻っていくダブル。

 

 「行きましょうカズマ!ヒーローに頼まれるなんてなかなかありませんよ!」

 

 紅色の瞳を輝かせ興奮するめぐみんを宥めるカズマ。まぁ、集めるだけならやるか。

 

 「お前は荷物だからここな」

 

 「おい、幼気な少女を地面に放置とはどういう根性してるんですか!」

 

 幼気な少女は自分でそんなこと言わねぇよ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 『翔太郎はさっきのどう思う』

 

 「頭投げたやつか?んなもん剣を操るのに邪魔だったから放り投げただけだろ」

 

 『同じ立場に立ったとして上空に放り投げるなんてことするかい?』

 

 まぁ、単純に考えればしねぇよな。邪魔なだけだったなら他に方法はいくらでもある。それこそ部下のアンデッドに持たせるとか。

 

 何かしら意図してやってるとしか思えねぇ。それが何なのか……僅かに感づいてはいるけれど、決定的じゃねぇ。それさえ分かれば攻略の糸口に繋がるかもしれない。

 

 あいつらに任せとけって言っちまったしな。

 

 攻撃が当たらずただ一方的に攻撃を受け続けるダクネス。鎧もズタズタになりインナーも見え始めている。

 

 「大丈夫か?」

 

 「もう少し時間かけてもよかったぞ」

 

 それは余裕だと言うのか、それとも性癖のどっちなのかはこの際置いとこう。

 

 「てっきり逃げたしたかと思ったぞ」

 

 「逃げ出すなんて一番やらねぇよ!」

 

 再び攻防が始まる。やっぱりヒートメタルで押し切った方が早いと見るか……だがここまで来ると別の手口は最後まで残しておきたい。

 

 サイクロンメタルのチェンジもありだが、お互いの長所を打ち消し会う組み合わせなので出来れば避けたいところだ。長丁場にはいいかもしれんが。

 

 「まどろっこしい」

 

 デュラハンは再び頭を上空に放り投げる。ダブルはそれを見逃さず、今度は攻めずに頭に意識を集中させる。

 

 兜の中から妖しく輝く赤い瞳。何かを発動させているようだった。

 

 ダクネスは今の内だと剣を振るう。デュラハンはそれを防御、簡単に凪払った。

 

 『翔太郎』 

 

 「ああ。なんとなーく、分かったぜ」

 

 吹き飛ぶダクネスを全身で受け止める。

 

 『作戦がある』

 

 「作戦だと……例え味方をしてくれるモンスターでも私は心までは屈しない!」

 

 『どう捉えて貰っても結構だ。聞くだけ聞いてほしい』

 

 「くっ……意見を無視されるのも悪くない」

 

 顔を紅潮させるダクネス。しかしフィリップはそのまま話を続ける。こいつ、もしかしてSなのか?

 

 『出来るかい?』

 

 「勿論、むしろご褒美だ!」

 

 意気揚々と駆けていくダクネス。俺達も立ち上がり準備を始める。

 

 「お前ってさ……」

 

 『なんだい?……しかし、紅潮する程限界が来ているというのに大変なことを頼んでしまった』

 

 「……えっ」

 

 『ところでご褒美とか言っていたけれどどういうことか分かるかい?』

 

 「お前は知らなくていいことだ」

 

 ダクネスの跡を追い駆け出す。さぁ、反撃開始と行くか!

 

 「まだ諦めないか」

 

 「ああ。ようやくお前の弱点も分かったことだしな、覚悟しろよ」 

 

 挑発するように顎を動かす。しかし、デュラハンは舐めきった調子だった。

 

 「弱点だと?馬鹿なことを」

 

 「お前、水が苦手だろ?」

 

 ほんの一瞬だけデュラハンの動きが鈍った。すぐに元に戻るもそれを俺達は見逃さない。

 

 動揺はしているはず。ここで一気に決めてくるはずだ。まずはーーそう、ダクネスに。

 

 俺達よりも防御が高くて厄介なダクネスを狙うはず。水が弱点だと分かっていれば早々に俺達は仕掛けるはず。

 

 しかし、仕掛けてこないということは使えないの一択に絞られる。実際、今まで肉弾戦だったからそう思うはず。

 

 それにその情報が町の奴らに伝えようとしたとて、今の姿の俺達かダクネス、どちらを信じるかと言われたら普段からいるダクネスだ。一応クルセイダーということもある。

 

 ダクネスは剣を振り回すもやはり当たらない。相手の攻撃をガンガン受け、満身創痍のはずだが……

 

 「ええい、面倒だ!一気に片付ける!」

 

 三度目のあれが始まった。先程と同じように妖しく輝く赤い目を察しダブルは動き出す。

 

 全てを狙ったようにデュラハンはダクネスからの攻撃を避ける。その隙に確実に仕留める勢いでダメージを与えた。

 

 ダブルは止めの一撃からダクネスを庇うように立ち塞がる。きっと兜の下もほくそ笑みを浮かべているはすだ。僕達の全てを知らなければ。

 

 

 

【Luna×Metal】

 

 

 

 止めの一撃は背中に背負われるように生成されたメタルシャフトによって受け止められていた。緑と黒のカラーリングとは違う、黄色と銀色のカラーリングにデュラハンは度肝を抜かれていた。

 

 メタルシャフトを素早く引き抜き返り討ちを浴びせる。殴打物の一撃は蹴りとは比較出来ないものだったようで初めてバランスを崩し頭を取り損ねる。

 

 「これ、貰ってくぜ」

 

 「なっーー」

 

 先に拾われてしまった頭。急いで立ち上がり無茶苦茶な剣を振るうも簡単にいなされる。

 

 ダブルは剣の射程外まで距離を取ると、【ルナメモリ】によって与えられた鞭のように伸縮するシャフトでダクネスを寄せる。

 

 『頭を投げる行為。それは相手がこれからする動きを予測する力だ』

 

 「最初に受けた時に違和感があった。まるでここに来ると、多少なり分かっていたような感じだったしな」

 

 見破られると思っていなかったのか、デュラハンの足取りは迷いがあった。ま、ハーフチェンジまでは入ってなかったんだろうな。

 

 「待て、お前はモンスターのはずだろう」

 

 「確かに強い力だ。でも、決まってる未来なんて三流の描くミステリー小説よりもつまらねぇ」

 

 【Metal Maximum Drive!】

 

 「『メタル・イリュージョン!』」

 

 メタルメモリをシャフトに装填し豪快に振り回す。現れた六つの光の輪の内三つがデュラハンを攻撃し、残りは身柄を拘束する。

 

 「裏技ってやつだ」

 

 「バインドか?!しかし、お前では私を……」

 

 『そうだね。後は彼らに任せよう』

 

 譲るようにその場から退くと、背後にはカズマを始め多くの冒険者達が構えていた。それを見て必死に解放しようとするも、先に先制を取ったのは冒険者達だった

 

 「「「【クリエイト・ウォーター】!」」」

 

 一斉に水を浴びせられ、情けない声を上げるデュラハン。こんだけいれば弱体化もやむ無しだな。

 

 頭をダクネスに投げ渡した俺達は逃げるように早々と引き上げる。結構な長丁場になったな。

 

 なにも言わず颯爽と去っていくダブルを見て、ただ一人、それを見ていたダクネスは恍惚のため息をつく。

 

 「まだまだだな、私も」

 

 デュラハンの頭を転がし、ダクネス渾身の一撃が兜に響き渡った。

 

 




「ゲームで切れる奴の気が知れねぇよな。そんなんだったら俺なんて現実で生きていけねぇよ」

「ハーフボイルドと言われて怒る君も大概だよ」

「相棒言えど俺の逆鱗に触れたらどうなるか教えてやる」

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