この素晴らしい世界に二人の探偵を!   作:伝狼@旧しゃちほこ

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「投稿までに随分間が空いたようだね」

「内容が出てこなかったらしいぜ」

「ミーアちゃんを出したかっただけが仇となったね。エイミーも出てないし、引きずりそうだ」


Bがやって来る/不完全であること

 「最近フィリップの様子がおかしい」

 

 「それだけの為に集められたのか俺達?」

 

 冒険者ギルドにて。翔太郎とカズマのパーティー、そしてデュラハン討伐の時にはクエストでいなかったクリスを交えて会合をしていた。

 

 「おかしいというのは言動がですか?」

 

 「お前じゃないからそれはないだろ」  

 

 「おい、どういうことか教えて貰おうか」

 

 小競り合いを始めるカズマとめぐみんは放っておき詳しく話を始めた。

 

 俺としては評判を取り戻すために依頼をこなす毎日を送っているのだか、フィリップは用事があると言って付き合ってくれない。

 

 それがどうしたと言われると何でもないのだが、時たま夜中にこそこそと何かをしている。またウィズに商品開発でも頼まれたかと思ったけど、本人に確認したら何もないという。

 

 他の冒険者らはほとんどが巣籠もりのようにクエストに行かなくなってる。それもこれもデュラハン討伐の際に出た報酬があるのだが……俺達には関係ない。

 

 というか今のこの状況に慣れつつある自分達もなんとかしなければ。ガイアメモリの詮索と回収、やることもたくさんある。そしていずれは風都に帰る。

 

 デュラハンの奴は持っていなかったが、ガイアメモリが魔王軍の手に落ちてしまっている可能性も考えられる。……あれ、なら【T2ジョーカーメモリ】は俺のところに来てもいいはずだよな?

 

 もう既にジョーカーメモリに関しては誰かの手に渡ってしまっているってことか……?

 

 「翔太郎?」

 

 「ん?ああ、すまねぇ。で、だ。まぁ特に何を手伝ってくれって訳じゃねぇけど、何か分かることがあったらーー」

 

 「翔太郎……」

 

 力なくぐったりとした様子で当の本人であるフィリップがやって来た。

 

 「どうした?」

 

 「実はーー」

 

 「いた!」

 

 獣耳の少女を先頭に後から子ども達が4人程のギルドにやって来るとフィリップに飛び付いた。そのまま下敷きにされ、やがて引き剥がされる。……随分と慕われているようで。

 

 「今度はフィリップ先生が鬼ね!」

 

 一人が言い出し一斉に逃げ出していく。遊んでるのか遊ばれてるのかどっちだ……たぶん後者だな。

 

 「ねぇ、今先生って呼ばれなかった?」

 

 「ああ……実は最近、青空教室を始めてね。最初はミーアちゃんだけだったんだけど今やこの通りさ」

 

 服に付いた埃を払い整えながら立ち上がるフィリップ。青空教室……そんなの始めてたのか。通りで付き合いが悪いわけだ。

 

 「その青空教室とは?」

 

 「屋外で行う勉強会みたいなものさ。教養施設がないなら自分達で何とかすればいいじゃないかと。必要なのは学びたい心構えだけさ」

 

 「その割には遊んでたじゃない」

 

 「勉学ばかりじゃつまらないだろう」

 

 アクアの話にフィリップが当たり前の正論で返してきた。それを聞いたダクネスはうんうんと頷いていた。

 

 「その青空教室とやらにはどれだけの費用がかかっているんだ?」

 

 「費用はゼロだよ。お金を取ることもしてない」

 

 「ならどうやって……」

 

 「砂地に文字を書けば練習になる。計算だってちゃんと教えれば暗算も出来る。紙は僕が持ってる本を使ってる」

 

 フィリップが取り出した愛用の本はもう既に半分以上ページがなくなっていた。それ、検索に必要なんじゃねぇの?

 

 「そろそろ探しに行かないと」

 

 ギルドを出ていくフィリップ。あいつがあんな側面を見せるなんて考えられなかった。成長してるって証か。

 

 しかし、あの調子だと青空教室も忙しそうだ。ここは一人でやれるものを……

 

 「左さんはいらっしゃいますか?」

 

 受付嬢のルナさんがやって来た。ここの職員には割と信頼されている方で仕事があるとよくこうやってやって来る。

 

 「何の用事だ」

 

 「近づいてきている起動要塞デストロイヤーについての調査をお願いしたいのですが……あっ、盗賊職のクリスさんも一緒にお願いできませんか?」

 

 「私?まぁ、構わないけど……」

 

 チラリと俺を見るクリス。別に盗みとかやってなきゃ取っ捕まえたりしねぇよ。

 

 「それよりそのデストロイヤーってなんだよ」

 

 「デストロイヤーはデストロイヤーです。わしゃわしゃ動いて全てを蹂躙していきます」

 

 めぐみんの説明に訳が分からんとカズマと一緒に首を傾げた。爆裂狂とはいえ紅魔族の説明で分からんなら無理がある。

 

 「クリスは分かるのか?」

 

 「当たり前だよ」

 

 「なら大丈夫か。その依頼、引き受けるぜ」

 

 まずは現時点で分かっていることを洗おう。翔太郎は早々に立ち上がりクリスと視線を合わせ行動に入った。 

 

 

 ……盗賊と仕事やるの、割と多くね?

 

 

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 いつもの木陰の下で、ミーアちゃんらの教師をしている。しかし今日は僕以外にもう一人来ている。

 

 「本当に外なんだな……」

 

 僕の青空教室の話を受け、ダクネスちゃんがやって来た。なんでも詳しく知りたいらしい。

 

 「隣のお姉さんはフィリップの彼女なの?」

 

 五人の生徒の内、ミーアちゃん以外のもう一人の女の子が尋ねてきた。

 

 「かの……?!」

 

 「違うよ。彼女も君達と同じでここがどういうところか知りたいから来たんだ」

 

 やんわりと、しかししっかりと断られ若干傷つく。フィリップから見たらそこまで魅力がないのだろうか……

 

 各々が好きなように勉学を始める。教科書も机もない、あるのはフィリップが持っていた本から破いた紙だけ。しかし紙でも貴重なのになぜ最初からあそこまで分厚い本を持っていたのだろうか。

 

 もしかしてフィリップはどこかの貴族出身とか……

 

 「難しい顔をしてどうしたんだい?」

 

 「えっ、いや……紙でもそれなりに高いはずだ。一冒険者がなぜここまでと思って」

 

 「なるほど。まぁ、僕もそれなりに経験してきたからね。君達のところで言うと没落貴族がしっくりくるだろう」

 

 表情は崩さずとも、瞳の奥は悲しげな雰囲気を漂わせていた。まずいところを踏んでしまったと、ダクネスも唇を噛み締める。

 

 「その、すまない」

 

 「謝ることはない。元々特殊な家族だったからね。翔太郎に出会ってなければ今頃もっと多くの人々を悲しませていた。今もその罪滅ぼしの為に僕は生きている」

 

 例え他人から見て極悪非道の家族だったとしても、僕を残してくれた姉さんや両親は大事な家族だ。その分まで生きていくことが僕が出来る恩返し。

 

 「フィリップ、ここが分からないぞ」

 

 「どれどれ……ああ、ここならミーアちゃんが分かるから聞いてみるといい。それでも分からなかったらまたおいで」

 

 生徒は頷きミーアの元に駆け寄っていく。

 

 「毎日こんな感じなのか?」

 

 「新しいことをする時はちゃんと教えるよ。けれどただ教わっただけじゃ意味がない。それがどうしてそうなるのか説明出来て初めて学ぶことに繋がると思ってるよ」

 

 見る限り基本的に野放し状態だ。しっかり取り組んでる子もいればあまり集中していない子もいる。何というか……自由だ。

 

 これでお金を取っているというのなら問題があるのかもしれないが、それもないので何とも言えない。嫌ならば来なくてもいいーーそれがここの基盤なのだろう。

 

 「フィリップ、腹減ったぞ!」

 

 「まだお昼には大分早いよ」

 

 「ならおやつだ!」

 

 「……じゃあこうしようか。今から出す問題に正解したら何でも好きなものを買ってあげよう」

 

 到底子どもに向けるものではない不適な笑みを浮かべる。そのマッドな変わりようにダクネスは思わず身震いした。まさか真性はSなのか……?

 

 

 その後、見事に撃沈した子ども達を宥めながら結局串焼きを買っていた。もので釣ったことを抜きにしてもここまでうち解け合っているのは凄い。

 

 「フィリップは人の心を掴むのが上手いな」

 

 そう言うとフィリップは小さく首を横に振った。

 

 「最初はこんな風じゃなかった。自分の事が最優先のわがままだったよ。僕を変えてくれたのは他でもない翔太郎と、そのきっかけをくれた翔太郎の師匠の鳴海壮吉だ」

 

 「鳴海壮吉?」

 

 「僕が犯していた罪を教えてくれた。『自分で決めて最後までやりきったことはあるか』とね」

 

 フィリップはダクネスの顔を見て話し始める。

 

 「僕があの子達に知って欲しいのは『Nobody's perfect(完全なものはいない)』さ。互いに支えあっていくのが人生というゲーム。勉学よりも大事なものだと思ってるよ」

 

 少年のような屈託のない笑顔だった。完全なものはいない、か……。

 

 自分が間違っていたら誰かが止めてくれる。その誰かが翔太郎なのだろう。それはきっと翔太郎も同じ。

 

 「フィリップ、ダクネス!」

 

 ミーアの呼ぶ声が聞こえる。先にいる子ども達の元へ二人は駆け出した。




雑な終わり方になった。だが私は謝らない

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