この素晴らしい世界に二人の探偵を!   作:伝狼@旧しゃちほこ

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「チャイナウィズが天井で出やがったぁぁ!」

「チャイナ……?どうしたんだ急に」

「分からない……なんか乗っ取られたような感覚だった」



Uが欲したもの/苦労人の辛さ

 翔太郎がクリスとともにデストロイヤーに関する調査の長期クエストに出て数日、一方の俺達は未だ底を尽きない借金に悩まされていた。

 

 【雪精討伐】という比較的安全なクエストを受けたつもりがどこかの同郷のバカによって産み出された【冬将軍】なるモンスターに首をはねられ死んでしまったり。

 

 ダストのパーティーと一日交代してあいつらの面倒を見るのがどれだけ大変かを知らしめたり。そして俺の有能さがどれだけ凄いかを見せつけたり。

 

 死んだので借金も何もかもリセットなんてそんな都合よく行くわけもなかった。

 

 そこで導きだした答えは一つ。火力がめぐみんの爆裂魔法に片寄っている俺達のパーティー。自分で言うのもなんだが貧弱な俺が渡り合っていくには下手に強くなるよりも相手の弱体化を狙った方がいい。

 

 「というわけでやって来たんだが……」

 

 「やけに繁盛してるわね。店を燃やして消火のふりして浄化させちゃおうかしら」

 

 物騒なことを言うアクアにチョップを入れる。二人でやって来たのはとあるマジックアイテムショップ。あのリッチ-のウィズが経営してると聞いてはいたが、あまりの繁盛ぶりに開いた口が塞がらない。

 

 普通に考えてリッチ-が店をやってるってだけで問題があるはずなのになんでなんだよ。

 

 人混みを掻い潜り窓から内部を見るとウィズに加えてこの間知り合った獣人のミーアともう一人、癒し系のお姉さんがエプロンをして店番をしていた。ああ、こりゃ流行るわ。よく見たらほぼ男だし。

 

 やっとの思いで入店すると三人に歓迎される。ああ、俺に足りなかったのってこれだったんだな……めぐみんの代わりにウィズ、ダクネスの代わりに防御は割くけど攻撃が当たるミーア、そんで……

 

 「貴方がカズマ君ね。フィリップ君のお友達って聞いてるわ」

 

 このほんわかした感じはヒーラ-だな。パーティー総入れ替えしようやマジで。

 

 「私はエイミー。ミーアちゃんのお姉ちゃん。血は繋がってないけどね」

 

 血の繋がらないお姉ちゃんとかもう完璧じゃねぇか。あれ、もしかしてここが楽園……?

 

 「いい加減戻ってきなさいな。あんたには女神がいるのに何が不満なのよ」

 

 「全部」

 

 「上等じゃないのよクソニート!」

 

 魔法を唱え始めるアクアを見て一斉に逃げ始める客ら。悲壮感漂う声を出しながら崩れるウィズらに俺は急いでアクアの魔法を止めた。あの悲劇(洪水)を起こしてはならない。

 

 「んで、ミーアとエイミーはなんでここに?」

 

 「ミーアちゃんもしばらく面倒見て貰ってたし、彼もそろそろクエストに動かないと金銭的にも困るようだから」

 

 「野菜もほとんどが売り切ったからな。恩返しだ!」

 

 ミーアの頭を撫でながら笑顔で答えるエイミー。ウィズの商品開発にミーアの面倒とか、あいつ意外と色んなことやってたんだな。

 

 「ところでカズマさんは何を?」

 

 「ああ、ウィズにリーースキルを教えて貰おうと思って」

 

 思わずリッチ-スキルと言いそうになった。俺とアクアは知っているが……危なかった。

 

 「この間約束してたやつですか。魔法にしますか?それともリッチ-スキルも便利ですよ」

 

 自分から言うのかよっ?!すぐに二人を見るとしっかり聞こえていなかったのかこれといった反応は見せていない。

 

 「あんたリッチ-なんかに教わるつもりなの?止めときなさいな、ただでさえナメクジみたいな場所に住んでる奴に」

 

 「ひ、ひどい!」

 

 おい、俺の配慮を返してくれ。

 

 「リッチ-ってなんだ?」

 

 「リッチ-って言うのは凄い魔法使いのことよ。でもあまり言いふらしたらだめよ。ウィズさんに迷惑かかっちゃうからね」

 

 「分かったぞ」

 

 「ちゃんと分かってくれるミーアちゃんも可愛いわ」

 

 こっちもこっちで勝手に納得しちゃってるし、過保護発動してるし……普通に見えたけど、これ対象が恋人とかだったらヤンデレになる可能性が出てきたな。

 

 それはそれ、これはこれと置いといて。改めて本題に入るとするか。第一この街にリッチ-がいるって噂が広がったところで誰も信じないだろう。

 

 「ウィズの話通りだ。なにかいいスキル持ってないか?」

 

 「そうですね……ドレインタッチなんてどうでしょう。相手の体力や魔力を吸って自分のものにしたり仲間に分け与えることも出来ますよ」

 

 タッチというからには直接触らないといけないのが難点かもしれないがいいかもしれない。ダクネスを囮にした隙とか、爆裂魔法で撃ち漏らした敵の止めとか。

 

 「じゃあそれをーーの前に実際に見ないといけないのか」

 

 スキルを覚えるには実際に見る必要がある。【エクスプロージョン】や【デコイ】はもう習得しようと思えば出来る。前者は圧倒的にポイントが足りないし後者は使おうものならすぐにやられる。

 

 アクアは断固として拒否を示す。まぁ、お前とウィズじゃ逆にウィズが危なくなりそうだからあり得ないだろう。ダクネスを連れてくるべきだったな……

 

 「少し魔力を吸われるくらいなら私がやりましょうか?」

 

 名乗り出たのはエイミーだった。

 

 「いや、関係ないのにそんなこと……」

 

 「困った時はお互い様、ね」

 

 柔らかい指が俺の鼻先に触れる。ヤバい、心臓バクバク鳴ってる。もしかして殺しに来てるのか?

 

 落ち着かせて俺は本当に申し訳なくお願いすることにした。二人は向かい合いウィズがエイミーの手を重ねる。出来るならその間に挟まりたいです。

 

 とまぁ、半分本気の冗談は置いといて。スキルカードを見ると【ドレインタッチ】の文字が記載されていた。

 

 それをタッチすると【スキル欄】に新しくドレインタッチが記載される。これで完了だ。

 

 「ウィズさんはいらっしゃいますか」

 

 扉を開けたのは五十代ぐらいの男性。とても冒険者には見えなかったので商人か何かだろうか。

 

 「どうなさいました?」

 

 「実は私が管理してる屋敷に幽霊が出ると……高名な魔法使いでアンデッドに強いウィズさんなら何とかしてくれると聞いたものですから」

 

 高名とは聞いていたが、アンデッドに強いというのはリッチ-に尾びれが付いたんだろう。迷える魂を導くとか言ってたし。

 

 「分かりました。今準備をーー」

 

 「待ちなさい!アンデッドに関しては私の方が上よ。ウィズ、どちらが先にその幽霊を浄霊できるか勝負よ。私が買ったらあんたには借金の全額を肩代わりしでっ?!」

 

 「そんなバカな勝負乗るか。ウィズに利点がないだろ」

 

 「だって翔太郎もあれ以来全然手伝ってくれないのよ?!アクシズ教の女神として司祭ぐらいの地位をあげようと思ってたのに!」

 

 司祭ぐらいの地位ってなんだよ。貰ってもはた迷惑なだけだし、あっちはそんなつもりもない。

 

 「お前がちゃんと報酬を……」

 

 ふと周りを見ると既に男性はおらず、ウィズとエイミーもミーアを抱き抱えて距離を取っている。

 

 「アクシズ教徒は頭がおかしい人ばかりなので関わるなって長老に言われたぞ」

 

 「その長老って誰よ!私の可愛い信者をそんな……ほ、本当にいい子なのよ?ただ少し過激なだけで」

 

 過激って自覚あるなら何とかしろ。

 

 「俺はアクシズ教じゃないからな」

 

 いや本当だって。信じてくれよ。

 

 

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 町の人達に聞いてみると、どうやら幽霊屋敷として元から噂されていたらしいが、最近より多くの幽霊が集まり始めて遂にクエスト規模になったようだ。

 

 しかしこちらにはそれの元締め的なウィズと滅法強いアクアがいる。途中でめぐみんと、フィリップのクエストに同行していたダクネスと合流したし大丈夫だろう。

 

 「クエストに行くなら一声かけてくれてもいいじゃないですか」

 

 「先に出ていってしまったのはめぐみんの方だろう」

 

 二人の言い合いを聞きながら幽霊屋敷にたどり着く。確かに立派な屋敷だ。遊園地とかの舞台で出てきても差し支えない。

 

 「ところであのまま付いてきたけれど、僕はどうして呼ばれたのかな」

 

 「それはねフィリップ。貴方に相談があるからよ。ま、その前にちゃちゃっとそこのリッチーと一緒に浄化しちゃいましょ」

 

 「ひぃ?!」

 

 冗談でもそういうこと言うな。……いや、こいつの場合冗談じゃないか。

 

 「フィリップはこいつがウィズに手を出さないか見ていてくれないか」

 

 「了解した」

 

 屋敷の幽霊退治ーーいや、蹂躙が始まった。

 

 

 

 その日の暮れのこと。

 

 無事にクエストを終えて帰還した翔太郎とクリス。偵察は探偵の基本というが、対象がデカすぎる。数十キロ離れてても確認できるレベルだった。

 

 しかも通った場所は建造物から木々から何まで残らない始末。こんなのが一週間もしない内にやって来るのか……偵察じゃなくて作戦を立てろ作戦を。

 

 「こういうのって普通こっちの描写しない?」

 

 「何の話してんだ。報告書は出しとくからどっか座ってろ」

 

 色々とあるが今回に関してはクリスの盗賊スキルが役立った。確かに尾行とか便利は便利だった。なんで探偵スキルじゃないんだよ。

 

 窓口に向かった翔太郎を見ながらクリスは適当な席に座ると早速シュワシュワを頼んだ。こっちに付いていけば私のメインの話だと思ったのにとんだ仕打ちだよ。私だって出番が欲しい!

 

 「なんて嘆いても書いてる人の力量じゃ私の本領を表現しきれないか」

 

 メタとかではなく純粋にそっちの視点から見てるからね。彼が仮面ライダーWだと言うことももちろん知ってる。あんな堂々と教会で変身したら丸分かりってことで。

 

 問題はどうやってやって来たのかってこと。詳しく知るなら本人に聞くのが一番だけどこっちの正体がバレる可能性がある。

 

 「依頼した人(・・・・・)はどうしてるかな……」

 

 アクア先輩は何でも好きなものをってルールに決めたけど、流石にあのレベルは不味すぎる。そんなものが26本、果てしないものだ。

 

 「うぃーす……お前、酒頼んだだろ」

 

 「シュワシュワはお酒じゃないでーす」

 

 「ノンアルコールでも未成年が飲むな」

 

 これでも貴方より歳上ですけど?!

 

 「そんなこと言ったらダクネスは18歳で生き遅れって言われてるんだからね!」

 

 「誰が生き遅れか教えて貰おうか」

 

 背後からのダクネスの手がクリスの頭を掴んだ。隣では付いてきていたフィリップもいる。

 

 「いだいいだいすみませんでしたぁ!」

 

 「全く……本当に生き遅れじゃないからな?」

 

 むしろまだ早いから安心しろ。

 

 「で、お前らはどうした?」 

 

 「翔太郎に話があってね。実は今日、アクアちゃんが幽霊屋敷で幽霊退治をした際に持ち主から噂が無くなるまで住んでみないかと言われて」

 

 「いいんじゃねーの。俺に何の繋がりが?」

 

 「住まわせてあげるから報酬金無しにしろと」

 

 「なるほど。お前は?」

 

 「いい話じゃないかな。それにカズマ君も肩身が狭くなりそうだしね」

 

 報酬金無しってのはあれだが、悪い話じゃない。そのまま家賃に消えてったと思えばいい。 

 

 「まだ大元が消えていないようだからポルターガイストに注意なのが欠点かな」

 

 「はっ、今さら幽霊程度にビビるかよ」

 

 その日の深夜。予想以上のビビらせ具合に俺はどうすることもできなかった。




クリスの立ち位置がメタ視点になるぅぅぅ!

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