この素晴らしい世界に二人の探偵を!   作:伝狼@旧しゃちほこ

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「ようやく色んなことから解放されたな」

「労働からは半永久的に解放されないけどね」

「お前そういうこと言うなよ……」


Dの厄災/要塞・オン・ザ・ラン!

 緊急避難放送が流れる町中。あのデストロイヤーとか呼ばれる要塞の襲来だ。

 

 フィリップの検索で対処方をと案を練ってみたものの、二人だけじゃなんともならなかった。

 

 エクストリームはと思ったが、まずは魔法無効化の結界を打ち破りその後要塞を止める。正面突破なら護衛のゴーレムやらなんやら、別の方法なら……とにかくやることが多すぎる。

 

 照井もいてくれればと、正直後悔してる。

 

 だがここに来て多くの冒険者……主に男達が町を守らんと立ち上がった。動くのがおせーよ。もっと早く行動しろ。

 

 多くの奴らがあのサキュバスの店を失くさないためにだったが、不純であろうとやる気を出しただけで良しとするか。

 

 こうなってくるとやることが分担できるのでまずは誰が何を出来るかを決めていこう。

 

 「結界の突破はアクアなら出来るだろ」

 

 「女神なんだから当たり前じゃない」

 

 水で絵を描く暇をもて余した女神の言葉を信じてみようじゃねぇか。

 

 「次は足止めだな。とは言っても今から罠を張るには遅いだろうし、間に合っても回避される可能性が高いな」

 

 「ここは私の爆裂魔法で引き受けましょう」

 

 「片足はそれでいいが……」

 

 「すみません、遅くなりました!」

 

 駆け込んできたウィズに視線が集まる。魔法のエキスパートとなれば確かにいけるかもしれない。

 

 「それじゃあーー」

 

 「待ってくれ翔太郎。ウィズは残しておくのが僕の意見だ。現状、最高戦力に近い彼女は想定外も意識しておくと残しておいた方がいい」

 

 「じゃあどうする?」

 

 「めぐちゃんを信じよう。あれだけの広範囲なら撃ち漏らす可能性も低い」

 

 相棒歴が長いと分かるが何かを隠している。その何かが分からないが、あいつの言っていることも一理ある。

 

 もう時間もない。ぶっつけ本番で行くぞ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 デストロイヤーが迫り来る荒野にて、ダクネスは一人立ち塞がっていた。

 

 「何をしているのかな」

 

 「フィリップ……指揮はいいのか?」

 

 「翔太郎とカズマ君に任せている。君こそどうしてここに?」

 

 「あれだけ大きなものが相手だとクルセイダーの出番はなかなかない。だが逃げるつもりもないからな」

 

 見上げた騎士道だと感嘆する。彼女がここにいる以上、男として僕も逃げるわけにはいかなーーい?

 

 彼女が少し震えているのが見えた。少し呼吸も荒い。口ではああ言うものの、緊張しているのだろう。

 

 「ダクネスが戦う理由は何かな」

 

 「理由……?」

 

 「以前話したよね。僕は罪滅ぼしの為だ」

 

 「私はみんなを守る義務がある。それだけだ」

 

 「それはダスティネス家の令嬢として、かな?」

 

 誰にも言ったことない秘密をフィリップは口にした。クリスにも言っていないことだ。

 

 「どうして」

 

 その時、スタッグフォンから翔太郎の連絡が入った。作戦開始の合図だ。

 

 すぐさまデストロイヤーに巨大な魔法陣が現れた。アクアちゃんの【セイクリッド・ブレイクスペル】が放たれる。

 

 鬩ぎ合いの末、アクアちゃんの魔法が勝った。続けざまにめぐちゃんの爆裂魔法ーー【エクスプロージョン】が覆った。

 

 だが、近距離で見ると片側に寄っている。これでは左側の脚のみの破壊だ。

 

 しばし様子を見る。片側の四本のみでも無理やり巨大な機体を動かし少しずつ前に進み始める。それを見て僕は唱えた。

 

 

 「【エクスプロージョン】」

 

 

 右手で指を鳴らす。めぐみんとは対照的に冷静に唱えるフィリップの魔法はめぐみんのそれと同等か僅かに上回っていた。

 

 突然の爆裂魔法に間近で見ていたダクネスは大きく目を見開き驚いていた。

 

 「ボードゲームに負けてしまってね。めぐちゃんに負けたと言うより睡魔に負けた」

 

 ここまで来たのも威力重視をした結果、命中率に不安があったからだ……

 

 不意に来る疲労感。なるほど、これは確かに……だが。

 

 踏ん張りを利かせ倒れるのを持ちこたえる。伊達にW(ダブル)として戦って来ていない、が……変身は無理かも。

 

 「無理しなくていいぞ」

 

 「無理をするのが男だろう」

 

 柄にもない事を言ってしまった。翔太郎はこんなことを言っているのかと思うと何だか気恥ずかしい。

 

 「フィリップ、ダクネス!」

 

 翔太郎を先頭に乗り込み組がやって来た。めぐみんはカズマ君におんぶされている。

 

 「後は中の攻略だね。行こう」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 物凄い剣幕の男性冒険者の勢いに軽く恐怖を覚えながら突き進んでいく。

 

 ぶち当たったのは動力源が動く部屋。紅く輝くそれの前に鎮座するのは既に白骨化した遺体だった。どう見ても一年以上は経過している。

 

 バットショットで写真を治め、遺体の様子を詳しくメモしていく。探偵の性とは言わないが何かある時に参考になるかもしれない。

 

 「これ、日記あるわよ!」

 

 「勝手に触るな。一応貴重品だから。読んでみてくれ」

 

 汚い呼ばわりされた気分で損ねそうになるアクアだが、なんだが本格的なミステリーみたいで内心はウキウキしていた。

 

 内容を要約するとこれを開発した科学者は国に言われて作ったが予算に問題がと提示したところ、動力源に【コロナタイト】ーー後ろで紅く輝くものを要求したら持ってきてしまい造るはめになったようだ。

 

 設計は潰した蜘蛛から。そのまま計画続行し、前日にタバコの火で誤って起動させそのまま国を崩壊。現在に至る。ふざけんな。

 

 「でも未練は何もないみたいね」

 

 「そうかよ。で……問題はそのコロナタイトつっーやつだな」

 

 明らかにヤバい雰囲気を醸している。外で待機してるフィリップに聞いた方が早いな。

 

 ウィズとアクア、それからカズマを残し全員を避難させた後、スタッグフォンで連絡を入れる。

 

 『聞こえるか?』

 

 『翔太郎なのか?なんで声が聞こえる?!』

 

 出たのはダクネスだった。あいつ、やっぱり無理してたのか。けど爆発物だしな……俺一人で、なんてことは出来ない。

 

 『そのままフィリップに代わってくれ』

 

 『これを?フィリップに……あ、待て!』

 

 『今変わった。緊急事態かい?』 

 

 『緊急事態って訳じゃねぇけど、コロナタイトについて調べてくれ』

 

 『了解した。終わり次第かけ直そう』

 

 通話を切り返事を待つ。アクアとカズマの視線が気になった。

 

 「なんだよ」

 

 「それ、携帯だよな?なんで通じるんだよ」

 

 「フィリップが代用できるもので電話回線を作った。アクセルの端から端まではいかないけどな」

 

 懐にポケットwi-fiサイズのものが忍ばせてある。

 

 「……マジで?個人で作れるもんなの?」

 

 「俺は詳しくないから知らん」

 

 「あの……なんの話をしてるんですか?」

 

 ウィズの問いかけを遮るようにスタッグフォンが鳴り響く。早いなおい。

 

 『待たせたね。状況は?』

 

 『耐熱性のあるガラスに覆われてる感じだな』

 

 『分かった。巨大なエネルギーを秘めた鉱石だから慎重に行こう。まずは取り出すために外側から冷やしていこうか。強すぎるといけないからカズマ君と翔太郎で【フリーズ】を使って時間をかけて行ってくれ』

 

 『分かった。何か変化があったら連絡する……切る前にダクネスに代わってくれ』

 

 『?今代わる』

 

 『わ、私か?えっと……こうでいいのか?』

 

 『聞こえるならいい。ダクネス、フィリップの奴、さっきの爆裂魔法でかなりきてるはずだ。無理にでも休ませろ』

 

 再び電話切り作戦を伝える。余りに余ったスキルポイントでカズマから【フリーズ】を教えて貰い処置が始まった。

 

 暇なアクアはウィズに宴会芸スキルの練習相手にしながら無情に時が流れていく。これ、終わるのか?

 

 「これいつ終わるんだ?」

 

 「俺もそう思ってる」

 

 問いかけてくるカズマになにも答えられない。そうしてる内にも魔力が尽きかけてきてーー

 

 ビシッと、ガラスにヒビが入った。すぐにウィズにバトンタッチしてガラスそのものを凍り付けにして貰った。このままあんなのが出てきたらまずい。

 

 すぐにフィリップに連絡すると、現状が見たいとのことでダクネスとともに乗り込んできた。

 

 「熱の排出が上手く出来てない……」

 

 その言葉が示す通り、今もじわりじわりと氷が溶け始めてきている。再びウィズが氷の魔法で上書きする。

 

 「待つんだウィズ。今は少しでも熱の排出を優先する」

 

 「さっきと言ってること逆じゃねぇか」

 

 「まだ機械の方が動いていると思っていた。このままじゃ耐えきれず爆発する」

 

 ガチャガチャと密かに忍び込ませていたメモリガジェットのメンテナンス工具を取り出し仕組みを見ていく。多分本人もあれだけの工具で上手くいくなんて思っちゃいねぇ。

 

 「カズマ、お前だったらどうする?」

 

 「俺?……【スティール】で取り出して【テレポート】で人気のないところに遠くに飛ばす、とか」

 

 最終手段だな。どうしようもならなくなったらそれぐらいしかない。

 

 「熱を逃がすのと冷やすので何が違うのよ?」

 

 「逃がすというのは熱伝導率が高い金属を使うんだ。コロナタイトレベルになるとこれも相当のもの、もしくは量が必要だ」

 

 「冷やすだと単純に氷や水でとあるが、機械故に結露が起こると他に問題が発生する。それで余計ややこしくなれば処理に負担がかかる」

 

 作業をしながらたんたんと説明するフィリップにアクアは分かっていない返事をした。まぁ、こいつには無理だろ。

 

 「っと……多少はマシになった。だがまだ弱い。数時間伸びた程度だろう。翔太郎、どうする?」

 

 ここで俺に振るっつーことは決断しろってことだ。男の仕事の8割は決断、あとはおまけみたいなもんだ。

 

 「カズマの案でいく。それ以外マシなもんがねぇ。俺に【スティール】を教えてくれ」

 

 「本当にやるのか?!」

 

 「少なくとも街に被害は出る。なら、僅かの可能性に賭ける」

 

 切り札の実力を発揮するところだ。

 

 「だったら俺でも」

 

 「俺は大人だ。子どもに責任を押し付けるなんてことはしねぇし、万が一が起きた場合の覚悟も出来てる」

 

 ウィズは……まぁ、店舗経営もしてるし大丈夫だろ。

 

 しかしカズマは俯いたまま反応を示さなかった。

 

 「……俺がやる。普段クズマさんだのカスマさんだの言われ未だ上級職におんぶにだっこされてるとか嘲笑われてんのに、同じ冒険者の翔太郎はそこそこ評判なのが腹立つ!」

 

 別に翔太郎に対して怒ってる訳じゃない。確かに比べればぐーたらしてるし、【スティール】すりゃ下着を剥ぐし……

 

 でもな、それだって経験の差だ。探偵と引きこもり、それでも同じ土俵(冒険者)。負けたくねぇ!

 

 「【スティール】!」

 

 翔太郎に構わずコロナタイトに向かって放った。見事にコロナタイトを取り出したーーが、その熱を諸に受け地面に落とした。

 

 騒ぐカズマにアクアは何をやってんだかと呆れながら【ヒール】をかける。

 

 「意外と似た者同士かもしれないね。ウィズ、頼むよ」

 

 「あの……【テレポート】は登録した場所にしか転送出来ないんです。私が登録してるのは人が多い場所ばかりで……【ランダムテレポート】なら出来ます」

 

 【ランダムテレポート】ーー名前を聞く限りどこに飛ぶかわからないのだろう。

 

 単純に考えれば人が住んでいない場所に飛ぶ確率が高い。だが確実を得たい。かといって取り出してしまった以上後には引けない。

 

 爆裂魔法を覚えたおかげでスキルポイントも余っていない。翔太郎も覚えられる分あったとしても町からほぼ出てないから安全な場所はないだろう。

 

 「二人を信じよう」

 

 フィリップに同意し、ウィズは【ランダムテレポート】を唱えた。その場からコロナタイトが消え、ひとまずの不安が消え去った。

 

 それと同時に、まだ残っている排出しきれていない熱がデストロイヤーに出来た亀裂から漏れだしていた。俺達は現状を把握する為に外に出た。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「こりゃ詳しくない俺でも分かる」

 

 ヤバい状況にも関わらず恐ろしい程に冷静……いや、ハードボイルドだから当たり前か。

 

 変身はこいつらがいる手前の前にフィリップの負担が大きすぎる。めぐみんは当たり前だ。

 

 「【インフェルノ】!」

 

 ウィズが火の上級魔法を放った。が、どっちが強いかなんて火を見るよりも明らか……駄洒落とかじゃなくて。

 

 そんなことをしている間に限界が来ていた。フィリップに視線を送ると、小さく頷いた。頼りねぇ相棒で悪い。

 

 ダブルドライバーを取り出そうとすると、それよりも先に透明なバリアが張られた。突然のことに咄嗟にドライバーを隠し辺りを見渡す。

 

 上空にいたのは、同じバリアを足場のようにして立つドーパントの姿があった。自らが上であることを示すような巨大な王冠に宝石があしらわれたドレス。

 

 放たれた爆発がバリアに直撃した。しかしバリアはひび割れることなく受け止めきり、被害を最小限に抑えた。

 

 高い階段から降りてくるように地面に立った。俺はすぐさま身構える。

 

 「せっかく助けてあげたのにその態度?」

 

 聞き覚えのある声に俺は胸ぐらを掴んだ。掴まずにいられなかった。

 

 「お前……!」

 

 ドーパントは翔太郎を突き飛ばす。Q(クイーン)の刻印がされたガイアメモリが排出されーー姿はメリッサへと戻った。

 

 全員が固まった。しばらくの間見ていなかった。が、どうして、どうやって。そればかりが翔太郎の頭に浮かぶ。

 

 何も言わずにメリッサはその場から消え去った。




 実はWのヒートトリガーで終わることを予定していました。

 でもドーパント全然出てないな……せや、ここで出そ!という浅はか且つお得意の見切り発車でこうなった。この先どうなるかは知らない。

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