この素晴らしい世界に二人の探偵を!   作:伝狼@旧しゃちほこ

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「なろう」から始まり「このすば」完結から数ヶ月。
我が国は「カズめぐ」、「カズダグ」、「カズアク」の三つに分かれ混沌を極めていたーー


本編
新たなるT/名探偵は何処へ


 「なぁ、フィリップ。俺達はどうしてこんなところにいるんだ?」

 

 「概ねあのドーパントの力だろうね。戦闘力から見て大したことないだろうと思っていた僕達の油断だ」

 

 俺の相棒のフィリップは冷静に状況を見ながら見解を述べる。瞳に映る景色は風都の見慣れたものではなく、ヨーロッパーーしかも中世とか一昔前のものだった。

 

 俺は左 翔太郎(ひだり しょうたろう)。極めてハードボイルドな探偵であり、風都を守る仮面ライダーだ。

 

 四年程前、風都ではミュージアムと呼ばれる秘密結社が暗躍し、ガイアメモリという人を超人に変身させるアイテムを製作し、その実験と称し多くの犯罪者が街を泣かせていた。

 

 その悪行を許さず、俺とフィリップ、そして風都に住む仲間達の活躍もありミュージアムは壊滅。街は悪夢から解放された。

 

 しかし、未だガイアメモリは過去の遺産として風都に遺されている。俺達の戦いは全てのメモリを狩り尽くすその日まで終わりを迎えることはない。

 

 ミュージアムに代わり新たな勢力も現れたが、接戦の末に勝利をもぎ取り、今となってはドーパント絡みの事件はほとんどなく、一月に一回あれば珍しい程までに収まっていた。

 

 そんな時に現れた一通の依頼。それには【彼女の痛みを癒してほしい】とだけ記されていた。具体的な内容は全くだったが、こういった匿名は割とある方な上に、何より誰かが傷つき泣いている。そんなことあってはならない。

 

 調査に乗り出したのはいいものの、有益な情報を掴むことはなかった。しかし、あの手紙から三日が経過したぐらいから事態が急変する。

 

 新種のドーパントーー世界の記憶を冠するワールド・ドーパントが現れたからだ。

 

 こいつが何か企んでいると踏んだ俺達は容赦なくエクストリームで対抗し、このまま押しきれるとお互いが確信を得たところで奴は異次元ホールらしきものを出現させた。

 

 あとは先程フィリップが言ったように、俺達の油断のせいでドーパントは取り逃がし見ず知らずの町に送られてしまったんだが……

 

 「大方、転送とかなんかだろ。ドーパントに関してはときめから亜樹子と照井にも伝わるだろうし、なんだったら少し観光してから帰るか?」

 

 「……いや、どうやらそういうわけにもいかないみたいだよ」

 

 冗談交じりで提案するも、フィリップは神妙な顔つきをしていた。こういう時はだいたい考え事か興味のあることが見つかって止まらなくなる時だ。後者はもっとマッドな部分も見せるが。

 

 一抹の不安を抱えながらフィリップが見ている先を見ると、長い金髪の女性が見えた。まぁ、普通に綺麗な人だ。THE・外国人と言え、ば……

 

 俺は途中で言葉を失った。長髪に隠れていた耳が見え隠れしているが、それは明らかに人のそれではなかった。異様に長く先端は丸みどころか少し鋭利になっている。

 

 「見間違いだと思ってるかもしれないけど、彼女だけじゃなくああいう人物を見かけている。ほとんどは僕達みたいな人間ばかりだけどね。それにあの看板。見たことのない文字だ」

 

 「記号みたいな文字の国もあるだろ」

 

 「建築物の様式から見て少なくともヨーロッパ圏内だ。それなのに記号文字はないだろう」

 

 ああ言えばこう言う。だが間違いではないのは確かなうえにそう言われるとテレビでも見たことない。もしや未開の地にでも飛ばされちまったのか?

 

 「まずは情報収集としゃれこむか」

 

 「そうだね……ところで英語は喋れるのかい?」

 

 「喋れたらタイプライターもそれで打ってるよ」

 

 「だろうね」

 

 小さく笑うフィリップ。どんな困難も必ず二人で乗り越えてきた。だから今回も大丈夫だ。俺達二人なら絶対に。

 

 

 

 

 

 情報収集は難航を極めていた。

 

 街は石造りの外観。田舎町といった感じだ。店も服屋に雑貨屋、屋台なんかもあった。

 

 ただ、本当に言葉が分からない。俺どころかフィリップでさえ知らない言語を話している。当の本人は興味津々で暴走しかけているが……

 

 「どうするよ」

 

 「どうしようか。……あの建物、他の物より少し大きい。街である以上、市役所みたいなものもあるはずだ」

 

 フィリップの提案に乗り建物に入ると、若い女の子のアルバイトが元気に挨拶をしてきた。多分いらっしゃいませとかそんなのだと思うが、続く言葉は分からない。

 

建物内を見ると片方は飲食スペース、もう片方は窓口がある。飲食スペースは大衆食堂という形だが……

 

 ふとフィリップを見ると、再び一点を見つめている。これ以上こいつの興味をそそらせないでくれと思い見ると、俺もそれに固まった。

 

 派手な水色の髪をした高校生ぐらいの女子の隣に座る男子。見た目は完全に日本人に一致していて、なおかつ日本のジャージを着ている。

 

 俺達はお互いに見合い、一か八かを賭けて二人に対面する形で座った。

 

 「お前、日本人か?」

 

 「は?まぁ……」

 

 言葉が通じる。なんて素晴らしいことだろう。俺はこれまでにない程の安堵を覚えた。

 

 「俺は左翔太郎。こっちはフィリップ。ここについてお前が知ってることを教えてくれないか」

 

 俺の言葉に疑問の表情を浮かべている。すると隣にいた女子と耳打ちを始めた。

 

 「お前が転生させたんじゃねぇのかよ」

 

 「いちいち覚えてるわけないじゃない。それに本の方はともかく帽子の方は若くないでしょ」

 

 しっかりばっちり聞こえているが相手はまだ高校生だ。ここでいちいち怒っていてはハードボイルドが廃る。

 

 俺は帽子を整え、ドーパントや仮面ライダーなどといった専門用語をぼかしながら現状の説明をしていく。

 

 「つまり、夜道を二人で歩いていたら光に包まれて、気づいたらここにいたと」

 

 「まぁ、そんな感じだ」

 

 フィリップの視線が刺さる。分かってる。自分でも見苦しい言い訳だってことはな……でもそれ以上になんて言えばいい。

 

 「まぁ、死んで転生なんてもんもあるし無くはないかもな」

 

 「信じるのかよっ!……って、は?」

 

 彼が吐き出した言葉にフィリップは興味を持ったのか、椅子を詰めて俺と同じように話を聞き始める。

 

 「ここは日本じゃなくて異世界だ。科学じゃなくて魔法も使える。俺はトラックに轢かれそうになった女子高生を助けたらそのままーー」

 

 「トラクターと勘違いして、しかも轢かれたと思ってのショック死だったけどね」

 

 余分なことを言うなと言わんばかりに隣の女子にゲンコツを放った。死んで違う世界?じゃあ俺達はあの時やられたのか?

 

 混乱している俺の肩にフィリップは冷静に右手を添えた。そうだ、ここで焦っていてはハードボイルドに傷がつく。

 

 俺の代わりに今度はフィリップが話を始めた。

 

 「勘違いとはいえ、君は誰かを助けようとしたのは間違いない。称賛に値することだ」

 

 「気休めなんかいらないぞ」

 

 「そんなことは思ってないよ」

 

 年が近いからか、端から見れば友達同士で喋っているようにしか見えない。俺はゆっくりとその場から離れ、隣にいる女子から情報を得ることにした。

 

 「君も転生とかいうやつか?」

 

 「私はカズマに連れてこられたのよ。転生させる時に好きなものか強い能力を授けるんだけど、それで無理やり連れてこられちゃったの。全く、女神を連れてくるなんてあり得ないわよ」

 

 女神とかその辺りは置いとくとしよう。ガイアメモリ絡みでシンパとかそういう奴等の相手はよくしてきた。

 

 「帰る方法とか知ってるか?」

 

 「魔王の奴を倒せば私は天界に帰れるけど、あんた達みたいなのは分からないわ。天界に帰ってから私が調べることも出来るけど、それだけじゃねぇ?」

 

 悪い顔するなぁおい。その年からそれなんてろくなことにならねぇぞ。

 

 「言っとくが今は無一文だ。文字も読めなけりゃ話も出来ねぇ」

 

 「恩は売っておくものよ。そうね、まずはーー」

 

 「いくよ翔太郎」

 

 話を終えたフィリップが遮った。俺はそれに連られて立ち上がる。難癖つけられずに助かったぜ。

 

 「あー、色々と迷惑かけたな。困った時はなんでも言ってくれ、必ず力になる。俺達は探偵だからな」

 

 最後にさらっと宣伝し、俺はフィリップの跡を追った。

 

 

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 日本人ーーサトウカズマとアクアの話から、まずはこの場所にある窓口がでスキルカードと呼ばれる、いわゆる免許証を発行した。衣食住も大事だが、まずはこれがないと始まらない。

 

 職業はもちろん探偵……のはずが、ここでは探偵という概念がないようだ。こんなにかっこよくてハードボイルドな仕事がないなんておかしい。広めなければと使命感を覚えた。

 

 フィリップはカズマが教えてくれたこの世界の言葉を理解し状況を改めて整理していた。一方の俺は全然分からず、とにかくフィリップに従うしかなかった。

 

 帰り方が分からない以上、その方法を得るまでこの町で過ごして行かなければいけない。風都がどうなってるか不安だが、ときめ達を信じるしかない。

 

 異世界だということは割とすんなり受け入れてしまった。裏風都のこともあるうえに、実際異なる世界を旅する男と交流があった。その事実を踏まえると並行世界と考えれば納得してしまう。

 

 「アクアの奴が魔王を倒せば自分が帰れて、そうすれば方法も分かるかもしれないとか言ってたがどう思うよ」

 

 「そこら中に空想上の生物がいる以上、彼女が女神かどうかはともかくあり得ない話じゃないね」

 

 寝泊まりとして提供されている馬小屋でこれからの相談をする。時期的には秋ぐらいで通り抜ける風が少し冷たく感じる。

 

 「それからダブルの力を使わない方がいいかもしれない。地球の本棚(ほしのほんだな)によれば科学より魔法が発展した世界のようだ。ここでガイアメモリを使えば事態が余計ややこしくなる」

 

 「そうだな……本棚使えるのか?」

 

 「問題なく作用はしている。けど言語がこちら側に対応しているから暫くは解読に時間が生じる」

 

 「そっか……慣れたら俺にも教えてくれ」

 

 「了解した。要領を得るために暫く読んでいるよ」

 

 フィリップは壁にもたれかかり眠るように地球の本棚にダイブした。さて、俺が出来ることは……あれ?なくね?下手に外出して迷ったら帰ってこれなくなるだろうし……

 

 その時、遠くから轟音と地響きが聞こえた。どうやら事件発生のようだ。




前書きは関係ないです。

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