この素晴らしい世界に二人の探偵を!   作:伝狼@旧しゃちほこ

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 「スーパーヒーロー戦記まで一週間を切った訳だが、なぜ投稿がここまで遅れたか教えて貰おうか」

 「お仕事とゲームとウマ娘とこのファンやってました!」

 「つまりはゲームばかりしていたと。この間のアンケートでも投稿頻度増やせが4択の内2位だったことを忘れたのかな」

 「その辺りは本当にすいません。でもひとつ分かったことがあります」

 「それはなんだい?」

 「オリジナルの話、考えるもんじゃねぇなと」

 「「だったらさっさと書け!」」



悲しみのPへ/切り札の怒り

 テレポートで逃げ出し王都に到着し、俺達は自らの技術を活かして僅かながらも情報を得た。

 

 俺とフィリップの事件解決はまず俺が街を駆け巡って僅かな情報を集める。そこから更にフィリップの手によって候補を絞っていくスタイル。今回は最初から犯人が割れているのでフィリップの力は無くても何とかなりそうだが……

 

 「なんか雲行きが怪しいわね」

 

 「ああ。俺は職業柄、直感で人を見るんだがどうも見誤ったかもしれねぇ」

 

 「あんたに言ってないわよ。本当に雨が降りそうってこと」

 

 確かにさっきまで晴れていた空が急に曇りにはなったが……まぁ、それだけで全てが決まるなんてことはない。

 

 「それで何を調べてたのよ。早くしないといけないんでしょうに」

 

 「ああ、少しだけな。引っ掛かったことがあって」

 

 もちろんウェザードーパントの助けを呼ぶあの声。そして、警戒体制だったにも関わらず他所の冒険者である俺とアクセルハーツを城内に入れたこと。

 

 いくら娘さんがファンだからと言って、こんな時にわざわざ入れるなんてこと俺だったらしない。つまり、あの四人の中で何か狙いを付けた奴がいたってことだ。

 

 加え、俺を真っ先に処刑しようとしたってことは俺が狙いじゃない。ならアクセルハーツの三人の内誰か。

 

 もし何かあるならあいつらは抵抗するはず。一応グループ組んでるんだから見放すなんてことはしない。

 

 「最短ルート、分かるか」

 

 「ちょっと道筋荒いわよ」

 

 道中とは外れたところを二人は駆けていく。テレポートを使ったからスキルはもう使えない。

 

 「まず、メリッサはアクセルハーツの三人の救出を頼む。相手は腐ってもメモリ使いだ、俺が対処する」

 

 「あんたに命令されるのもその作戦も気に食わないけど今回は多めに見るわ。秘策もあるみたいだし、バレると色々面倒なんでしょ」

 

 「……つくづくなんでトレジャーハンターなんてやってんのか分からなくなってくるぜ」

 

 たまに妙に、いや異常に優しいというかそんな場面を見る。メモリの強大さは身に染みて知ってるから当たり前っちゃぁ当たり前か。

 

 それにーーなんだか妙な、嫌な胸騒ぎがする。まるで最悪の展開を迎えそうな感じだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 時を戻し現在。カルナレルンに再到着しそのまま棒立ちのウェザー、謎のアクセルの背後に立つお妃。少し離れて王がその場から動かない。

 

 「罪を数えろ……つまり私達は犯罪者だと言いたいわけね」

 

 「ああ。まず、始まりはこの街に魔王軍が攻めてきたこと。話によると付近に活発化してる王都もある関係で逆に攻められるなんてことは少なかったらしいな」

 

 「そこに起こる突然の進行。しかしそれを破ったのがそこにいるウェザードーパント。以来そいつは神と呼ばれるようになった……そこまではいい」

 

 「問題は誰が変身しているか。今のところこの渦中でも姫様が見えないのはなんでだ?」

 

 「病弱だと言いましたが」

  

 「そうだ。でも同時に俺はメリッサからあることを聞いてる。死んだと思われてる姫様が生きてるかもしれないってことを」

 

 ウェザードーパントを見る。しかし反応はない。恐らくここで動けば都合が悪いと思っているのだろう。

 

 この時点で殆どの場合、ウェザードーパントは姫様が変身していると思う。でも俺はさっきの王都であることを聞き出していた。

 

 この世界に置いて病は寿命であり、それで死ぬと蘇生魔法での生き返りは出来ない。

 

 元々病弱な姫様にウェザーの力が手に入ったからといって死ぬまで戦わせる親がどこにいようか。

 

 平和だったからこそ無事だったこの街に危機が迫ったとて、酷使する必要性はない。

 

 もし戦いで死んだとして、それなら蘇生が可能なはず。そうさせないのはなぜか。

 

 「姫様は死んでる。戦いでじゃない。ましてや病でもな。恐らくメモリの毒素で倒れた」

 

 毒素による中毒死ーー一種の麻薬性に気づかず乱用した結果に倒れ、それを病で倒れたと勘違いし、世間に死んだと公表した。

 

 完全に予想だが、蘇生が出来る境界線は医療技術でいうところの薬で治るかどうかだと思う。手術でしか治らないものは病、風邪や怪我はそれに分類されない……かな。

 

 今回は毒による死亡なのでギリギリ蘇生魔法が適用される範囲だったのだろう。それが判明したのは恐らく公表した後ーーメリッサの言う姫様が生きてるかもしれないという情報は何処からか漏れたものだろう。

 

 「一端の冒険者にしてはなかなかね」

 

 「これでも探偵だからな。まぁ、これが分かったからなんだってところだが……」

 

 俺はウェザーを見て歩み寄る。何かを仕掛けようとするお妃にアクセルは先手を打つように妨害する。

 

 俺が目の前まで来ても動く素振りすら見せなかった。

 

 「あんたの声はちゃんと届いてる。まるで事務所の扉を必死に叩くような感じだった」

 

 安心させるような口調で諭す翔太郎にウェザーは震えていた。自分の意志で変身しているなら喋らないなんてことはまずないはずだ。

 

 ウェザーはいよいよ両手を振りかざす。怪しかった雲行きが更に黒くなり、いよいよ雷とともに雨がポツポツと降り始めた。

 

 雷はお妃とアクセル、そして翔太郎の間に落雷する。激しい音とともに地面が割れ、崖が崩れるように落ちていきウェザーだけがその場から退避する。

 

 「しまっーー」

 

 アクセルがお妃を突き放し崖下を覗く。しかし、そこには何もない。

 

 「……なぁ、もっと安全なやり方ってなかったのか」

 

 「無駄な推理を聞かされるこっちの身にもなってみなさい」

 

 少し離れた位置で【バインド】で帽子を抑え縛られながら宙ぶらりんになる翔太郎と真下にメリッサとリア達がいた。

 

 「ま、予想通りだったのは褒めてあげるわ」

 

 「分かったから早くこれほどいてくれ」

 

 縛られた縄をほどかれ地面に着地する翔太郎。三人は怪我もなく無事なようだ。

 

 ウェザーがあの時に助けを求めた時点で催眠術にはかかってないと断言できた。フィリップや照井の持つ精神耐性だ。

 

 なら第三の選択肢。誰かに体まるごとを操られてる可能性が高かった。それが出来るなんて【P(パペティアー)】のメモリぐらいだ。

 

 問題はどっちが持ってるかってことだ……どっちもドーパントになっていないのを見るにハイドープの可能性がーーいや、待て。

 

 そもそもハイドープの能力でそれが手に入っちまったらメモリの存在意義がなくなる。つまり催眠術とメモリ、どっちかが両方を持ってる。

 

 「お妃さんよ。あんた犯人だろ」

 

 隠す気もなく言いきった。

 

 「何を根拠に?」

 

 「まず、国の一大事に俺達四人をあっさりと城の中に通したこと。姫様が死んでることが分かった今、ファンだからなんてのはおかしい。何か狙いがあったはずだ」

 

 「俺は殺されそうになったから実質三人に絞られる。だがアクセルハーツはまだ駆け出しのアイドルグループ、王族のあんたらに耳が入るなんて珍しい」

 

 あの時の僅かな会話を思い出す。リアとシエロに関しては名前程度だったにも関わらず、エーリカは少し知っている様子だった。

 

 いわゆる推しというものならまだ納得出来る。が、こんな案件が出てきた以上全てを候補に上げないといけないのが探偵だ。

 

 誰かからエーリカ個人に関しての情報を得ていた……

 

 なんでそんなことが必要だった?あいつらが今、必要としているのは……

 

 細い線が繋がった気がした。

 

 「まだ伝えたいこと、あるんじゃねぇの?」

 

 俺の言葉にウェザーが反応する。拘束を振り切るように暴風を巻き起こしこっちに近づいてくる。俺以外の全員は身構えるが、手前で止まった。

 

 「エー、リカ……」

 

 胸元からゆっくりと排出されるウェザーメモリ。光に包まれながら人に戻るそれは、同じピンクの髪ながらどこか気品があった。

 

 よろよろと拙い足でエーリカの元へ歩み寄る。困惑しながらも倒れ混む彼女を受け止めた。

 

 「ごめんね……ひとりぼっちにさせて……でも一目で分かったから」

 

 「ママ、なの……?」

 

 彼女に詳しかった理由がこれだ。身内、ましてや母親がいるなら話を聞き出すこともある。一度姫様の件で毒死してるならいずれ限界が来ることを分かっている。

 

 さっきのメモリの抜けかたから見て不調ーーいや、仮にもT2だ。それはあり得ない。ならば過剰適合によるメモリの排出拒否と見てもいい。

 

 助けを請うあの声が似ていたのも、お妃らが狙ったのも理由がつく。親子だからといって適正が合うかと言われたら別になるが向こうは素人。遺伝的なものもあると多少踏んでいたのだろう。

 

 「貴方を人殺しの娘にしたくなかった……今でも脳裏に叫びがこびりついて離れない……私はもう会わないって、決めたの」

 

 抱き締めようとする素振りを見せるもそうしない。どこかで血塗られた自分に抵抗があるからだろう。

 

 「早く、逃げて、じゃないとーー」

 

 瞬間、黒い腕が彼女の胸元を貫いた。その手にはウェザーメモリをしっかりと握りしめ、やがて引き戻される。

 

 黒い腕についた鮮血は翔太郎の手の甲に、メリッサの頬に飛び散った。

 

 一層に強くなる雨が彼女の抜ける微かな呼吸を消していく。最後の言葉も聞こえぬまま、ただエーリカの泣き叫ぶ声が響く。

 

 「いや、助かったわ。挿入したら出てこなくなっちまったからよ」

 

 いけしゃあしゃあと、お妃がさっきとは全く違う口調で喋り始める。その右腕は黒いものへ変化していた。

 

 「探偵もなかなかだったぜ?色々してくれたおかげだ。せめて教えてやる。私は魔王軍幹部、傀儡と復讐を司る邪神、レジーナを崇拝するダークプリーストのセレナだ」

 

 禍々しい黒い腕は自らを邪神で示すように蠢いている。基本回復魔法が主な手段であるプリーストにとってあれはいわゆる攻撃手段なのだろう。

 

 「メモリ、とか言ったな。どっちがどっちなんてのは関係ないぜ。私達魔王軍と手を組もうと乗ってきたのはこの名前だけの王だ。だから私は悪くない。そいつ毒に苦しみながら死んでいくのも辛いだろ?これは慈悲なんだぜ。非道だなんて思うなよ」

 

 そう説明してる間にもシエロは蘇生魔法を試みる。しかし甦る気配はなかった。

 

 「……リア、シエロと一緒にエーリカを連れてここから離れろ。依頼人のお前らを傷つけるなんてことは出来ない」

 

 「私も冒険者だ。引けないときだってある」

 

 槍を構えるリアに俺は何とも言えなかった。自分だって同じ状況なら同じ選択をする。

 

 「ならもっと分かりやすく言ってあげるわ。足手まといになのよ。相手が相手なら尚更ね」

 

 メリッサがいつもの高圧的な態度で言いはなった。しかしそれにも怯まない。

 

 俺は追討ちをかけるように頷いた。それを見たリアはハッとした表情に変わった。

 

 「頼む。俺達の言うことを聞いてくれ」

 

 リアは一瞬目を泳がせる。そして俺の背中を軽く叩き、シエロと一緒にエーリカを連れてその場から離れた。

 

 残った俺達はそれぞれに付いた血を拭う。そしてーー豪雨に紛れて紫色に光るそれが俺の手元に収まる。また、メリッサの元にも同じものだが違う光を発するそれがやってくる。

 

 帽子の役割は男の涙と優しさを隠すため。そしてもう一つ。

 

 抑えきれないこの感情(怒り)を悟られないようにするためだ。

 

 【Joker(ジョーカー)!】

 

 【Queen(クイーン)!】

 

 俺は懐からおやっさんの事務所から拝借してきたロストドライバーを装着、ジョーカーメモリを装填する。メリッサは上空へと放り投げる。

 

 それを見たセレナはやる気だと感じとり、持っていた杖を叩く。多くの衛兵が数を連ね立ちはだかる。

 

 「……変身!」

 

 俺は仮面ライダージョーカーに変身、メリッサはクイーン・ドーパントに変わる。俺は左手首を鳴らし迫り来る衛兵に立ち向かう。

 

 留まることのない怒り。クイーンドーパントもシールドを使って弾き飛ばす。見守っていたアクセルも思い出したかのように戦いを再開する。

 

 衛兵全員を薙ぎ倒し、残るセレナと王に向けて人差し指を示す。それを見てセレナは合図を出した。

 

 地ならしが起こる程の揺れ。俺とアクセルはクイーンドーパントが生成したシールドに乗り空中を漂う。

 

 「すまねぇ」

 

 「ここで取り逃すぐらいなら助けるわ」

 

 どうやらあいつもご立腹のようだ。

 

 姿を現したゴーレムは城の半分以上はあるであろう大きさを誇っていた。頭部頂上にセレナと王は立っていた。

 

 「紅魔の里での侵略用だが、開発途中でどれ程かな」

 

 鉄槌がクイーンに向かって振り落とされる。シールドを発生させ受け止め、手を振り返す。

 

 「砕け散りなさい!」

 

 防御だけでなく、反射の閃光が胸部に突き刺さる。一つ一つが確実に装甲を削るが再生されていく。

 

 アクセルの追撃によるロケットミサイルも目立った損傷はない。それほどまでに修復スピードが速かった。

 

 ゴーレムは腕を振りかぶりアクセルを殴り付ける。元々魔力の高い紅魔族対策で造り上げたものだ。まだ未完成いえど物理威力は充分な上に魔法耐性も高い。

 

 「流石、ウォルバグの爆裂魔法を耐えるだけあるな……あとはどのメモリをどう使うかーー」

 

 その時、ゴーレムの体全体が揺れる。危うく落ちそうになるもギリギリで堪えた。

 

 右膝部分が消し飛んでいたのが見える。空間まるごと消されたのか……?

 

 小さく見える黒い人影。あの探偵が変身した奴だった。特殊な能力や武器を使った様子もない。

 

 まさか拳一発で?いくら魔法耐性に多く振っているとしても物理耐性も並の攻撃はビクともしないはずだ。

 

 再生に間に合わないと理解し強引に指令を出す。ジョーカーより巨大な拳が迫るも、避ける素振りもなく振りかぶり拳同士がぶつかり合う。

 

 拮抗するも数秒も持たずしてゴーレムの右腕が吹き飛んだ。完全に立てなくなったゴーレムはその場で崩れ去る。セレナと王も地面に落下し砂埃にまみれる。

 

 目の前に立ちはだかるは、怒りを現すように体から煙を噴き上げるジョーカー。

 

 【Joker!Maximum Drive!】

 

 「……ライダーキック!」

 

 飛び上がり背後にあったゴーレムの残骸を完全に吹っ飛ばし、その衝撃で中心部の動力源が破損する。今度こそ耐えきれなくなったゴーレムが崩れていく。

 

 「お、お前!いったい何なんだよ!」

 

 「仮面ライダーだ」

 

 「仮面ライダー……?はっ、何だか知らねえけど、お前もそのメモリを使ってるってことは俺達とそう対して違わねぇだろ。結局正義面しても変わらないもんだな」

 

 セレナの言葉にジョーカーは動揺することはなかった。それどころか変身すら解除してしまう。

 

 「何が正義で何が悪だとか、そんなのもう考え尽くされた」

 

 「探偵っつー仕事をやってる以上、遥かにどす黒い人間の腹の中を見ることもある。」

 

 「確かに同じ力を使ってる。だから自分もその内悪になっちまうかもしれねぇ。そんな恐怖に怯えることもある」

 

 「でも今は……まだ自分が悪になってない今は、もう既に悪になった奴らを止めるために、この力を使う」

 

 「さぁ、お前の罪を数えろ!」

 

 セレナの胸ぐらを掴む。しかしセレナは笑みを浮かべていた。

 

 「私は赦す側なんだぜ」

 

 勢いのままに翔太郎を突き放し、セレナは魔方陣に纏いその場から姿を消した。さっきの黒い手と同じ邪神とやらの力か。

 

 「私ならあのままやってたわ」

 

 「それじゃあやってることはあいつと変わらねぇ」

 

 変身を解除するメリッサ。残りは気絶して動かない王とアクセル。

 

 「便宜上アクセルって呼ばせて貰うが、お前が依頼を寄越した。それで合ってるな?」

 

 頷くアクセル。翔太郎は頭を掻いて帽子を整える。

 

 「せめて顔ぐらい見せてくれねぇか。それじゃなきゃこっちも信用できない」

 

 翔太郎の提案にアクセルは変身を解除する。排出された【D(ダミー)】のメモリを握りしめ、見せたその顔に二人とも驚愕する。

 

 「どういうことかしら?」

 

 「……」

 

 「黙ってても分からないけど」

 

 「待てよメリッサ。これは俺とそいつの問題だ。……でも気にはなるな」

 

 「今は話せないの」

 

 その一言に翔太郎は納得したように頷いた。

 

 「依頼人は全員訳ありだ。お前もその一人ってならそれで構わねぇ。ちゃんと整理がついて話さないとって思ったらまたアクセルに来てくれ。その代わり、ちゃんと風都に帰れる方法、探しておいてくれよ。それが報酬だ」

 

 少女の謝る声を聞き、俺は去っていく姿を見届けた。

 

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 王の話によると初めに起きた侵略の際、魔王軍が攻めてきたのではなく近隣の町が団結して攻め混んできたらしい。

 

 しかしその出来事は当時王都で担当していた大臣が嘘で塗り固め報道したことがきっかけだった。曰く、魔王軍との混戦が続くなかで人間同士の争いがあったとなれば余計に混乱を招くとのことだった。

 

 街を傷つけられ、挙げ句命を奪った奴等はのうのうと生きているのに堪えるのが必死だった王に対し持ち掛けてきたのがあいつーーセレナだった。

 

 身に覚えのないことを擦り付けられ迷惑している、第二拠点として城の地下を貸してくれるなら復讐の手伝いをしてやると悪魔の囁きに乗ってしまったらしい。

 

 

 そして、肝心のエーリカはというと……

 

 「さ、早く行くわよ!」

 

 母親であろう人を目の前で殺されたにも関わらず、いつもの調子だった。遺体は派遣に来た王都の連中が責任を持って埋葬するとのことだったがーー

 

 「その、大丈夫か?」

 

 「何がよ?」

 

 「だって……」

 

 リアとシエロの両方が口ごもる。

 

 「……平気、なんて言えないわよ。正直な話、本当にママだったのか分からないとこもあるけど、あれはきっと本当のママ」

 

 「どうして置いていってしまったのとか、色々知りたかった。でも一番知りたかったことーーちゃんと愛されてたってことは知れたから充分よ」

 

 その弾ける笑顔は何よりも可愛らしく眩しかった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 「ちっ、あの探偵とか名乗るわけわかんねぇやつのせいで台無しだ!」

 

 何とか脱出に成功したセレナだったが、急激な魔力の消費でしばらくは動けそうにない。

 

 そもそもプリーストは前線で戦う職業ではない。この力もレジーナを崇拝しているのが自分のみであるから使えるだけであって、黒い腕ーー【邪神の腕】やテレポートの代わりでもある【邪神の脚】も切り札的なものだ。

 

 秘密裏のゴーレムも壊されちまったし、あの街も見捨てるしかない。幸運にもメモリとやらを回収出来たのが救いか。

 

 「失敗したようだな」

 

 「これはこれは魔王様。大変失敬致しました」

 

 「お前の素性など分かっている。……何があった?」

 

 「左翔太郎と名乗る冒険者によって邪魔されてしまい……しかし排出不能になっていましたメモリは回収出来ました」

 

 「メモリ……その小箱の総称か」

 

 「男曰く、ですが。少なくとも詳しい事情は知っています故、一度交えましたが魔道具を使用していました」

 

 「魔道具……毒素を打ち消すものだろうな。メリットがなければ使う必要もない」

 

 セレナは納得しながら回収したウェザーメモリを献上する。次の使い手を見つけなければならない。

 

 【Xtream(エクストリーム)!】

 

 魔王がエクストリーム・ドーパントに変身して妖しく瞳を輝かせる。能力は味方を強化させること。そして最近目覚めたもう一つの能力(ハイドープ)ーーメモリ適正のある者を見つけ出すこと。

 

 あの街を狙った最大の理由。それは姫が適正持ちであったこと。しかしいきなり押し掛けたところで意味はない。あくまでもこちらに引き入れることだ。

 

 セレナはレジーナの力によって人に洗脳する力がある。近隣の町の冒険者を操り襲わせ、そのメモリの力がどれ程のものか確かめた後、交渉に向かわせた。

 

 結果は予想通りだった。あとは同情し迷惑を被っていると唆せばいい。失敗したら次のプランだ。

 

 しかし、あのゴーレムまで破壊されるとは……相当な力を持つメモリか、余程の相性がある人間か。

 

 「この世界の命運を分けるかもしれんな……」

 

 ぽつりと魔王は呟いた。




 「こってり作者へ説教しておいたが、ひとつ翔太郎に伝えてくれと言っていた」

 「なんだよ」

 「原作四巻が終わるまでこれから君の出番はない」

 「……マジかよっ?!」

 マジの予定です。今回の終わりかたが投げやり過ぎたことは謝る。作者も心ではそう思っている。

 思ってねぇ!勝手なこと言うな!

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