【彼女の痛みを癒してほしい】という匿名の依頼を受け調査を始めた翔太郎とフィリップ。しかし、二人に待ち構えていたのは未知なる世界だったーー
轟音がした場所に駆けつけると、そこは一部が焼け野原に変貌していた。
3m以上はあるであろう巨大なカエル達が次々と地中から這い出ている。季節からみるにそろそろ冬眠を始めるだろうが、先程の轟音で起きてしまったようだ。
「こりゃWの力は必要になってくるみたいだぜ……」
使用を控えようと提案していたこの場にいない相棒に呟いた。単純に考えてこんな奴らと相手してる冒険者ってのは普通に強いんじゃねぇのか?
「さっきの探偵!」
「お前は……一体何がどうなってやがる?!」
「後から説明するから今はアクアの救出を頼む!」
先程の高校生、サトウカズマが指差す方向に視線を向けると、モゴモゴと補食しているカエルがいた。飛び出している脚……マジか!
俺は急いで走りだし、巨大なカエルに向かって飛び蹴りを放った。しかしその腹は弾力性に優れており、まず打撃が効かないであろうことを悟る。
そうしてる間にも捕食は進んでいる。俺は左手首にした腕時計型のガジェット、スパイダーショックを発射して脚に巻き付けると、精一杯の力で引き上げる。
意外にも簡単に抜け、粘液を纏わせながら俺の元に落ちてくる。これが潤滑油になったおかげか……って、それより速く逃げねぇと!
半分べそをかいているアクアを抱き抱え走り出す。すげぇ臭いけどここでそれを言ったらダメな気がする。
「こっちは大丈夫だ。そっちは?」
大きな三角帽子を被り杖を握った女の子をおんぶしサムズアップで無事なことを示すカズマ。その手には短い剣が握られており、どうやら救出は間に合ったようだった。
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探偵が来なかったら多分どちらかは完全に喰われてた。それほどまでに今の俺のパーティーは絶望的だ。
ただ、こっちもめぐみんを助けるのに必死だったので武器も無しにどうやってアクアを助けたのか気になる。もしかして結構強いのか?
「サッパリした。あら、さっきの探偵は?」
「風呂から出たら帰ってった。俺が勝手にやったことだって、報酬もいらないとさ」
ちゃんとした依頼の時に貰うと言っていたのでプロ意識は強いようだったけど、かっこつけて帰っていく姿は言葉では言い表せない……中途半端?みたいな雰囲気があった。
アクアはふーん、と半分どっちでもいいような返事をすると席に座ってギルドで働く店員さんに注文を始める。お前がその態度はまずいだろうが。
「たんていとはなんですか?」
めでたくパーティー入りを果たしたダメなアークウィザードのめぐみんが聞いてきた。この世界の職業って言ったらスキルカードに書かれるものしかないし、探偵は多分盗賊職向きになるんだろうか。
「人探しとか、調査とか、事件の火種になるものを取り扱って未然に犯罪を防ぐ仕事かな……有名になれば警察の協力者になったりするんじゃないか?」
「分かってないわね。探偵っていうのは誰も解けないトリックを暴き犯人を逮捕するのよ。真実の名に懸けて!」
有名どころの二つの台詞が混ざっているし、そんな
しかし、俺と違って転生じゃないってことは特典も無ければもちろん言語も読めないんだよな。読めたら聞いてこないだろうし。
そんな状況に置かれたら俺だったらまずふざけんなって思うが……それ以上に技術があるんだろうか。
「ほら、シュワシュワが来たわよ!」
「なぜ私はジュースなのですか!」
こんなお荷物に比べたらものすごく頼りになるんだろうな、きっと……そう思いながら深いため息をついた。
翌日。皆より遅れて活動を開始した俺達パーティーがギルドに行くと、既に二人組の探偵が掲示板を見ていた。
「今ある仕事で僕達がやれそうなのは警備員の仕事ぐらいだね。あとは土木関係かな」
「その仕事らがどの張り紙かすら俺には分からないけどな……まずは土木関係から始めるか」
「それなら俺も以前やってたし手伝うぜ」
迷っている探偵に土木工事の張り紙を剥がし差し出した。同じ日本人同士、しかも俺並みに不憫な奴を見過ごすことは出来ない。何よりカエルより安全だ。
「何を言っているのですか!これからクエストに行くと言ったじゃないですか!」
「誰もそんなこと言ってねーだろ」
「サトウカズマにアクアちゃんか。あと……君は?」
尋ねるフィリップにめぐみんは待ってましたと言わんばかりに腕を振り上げる。
「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、爆裂魔法を極めし者!」
「僕の名はフィリップ!同じくアークウィザードにして、やがてこの星の全ての知識を得る者!」
めぐみんのよく分からない名乗りに合わせるように同じテンションで自己紹介する。隣の探偵もぽかんとしている。
「紅魔族はこういう名乗りをすると書いてあったから並べてみたけど、違ったかな?」
間違ってはいないんだろうけど、初見で合わせられるのは相当な変人なのかもしれない。めぐみんはなぜか少し悔しそうだし。
「あんたもアークウィザードなのね」
微妙な空気をぶち壊していくアクア。いつもはフラグしか立てないくせに今回ばかりはナイスプレイだ。
「魔法が気になってね。他にもソードマスターも勧められたよ」
「超ハイスペックじゃねぇか!じゃああんたは?」
「俺は冒険者っつーのを選んだ」
「そ、そうか……なぁ、試しにカードを見せてくれないか?」
探偵は快くスキルカードを渡してくれた。……見間違いじゃなければレベル1なのにレベル4の俺より幸運値以外高いのはなんでなんだ?
「冒険者ってのはなんでも覚えられんだろ?あんまりこういうの知らねぇけど」
「確かにそうだけど、覚えるには相当なポイントを持ってかれちゃうわよ」
「ポイント?」
話を聞いていなかったのか、それともシステムがいまいち理解していないのか……多分後者だろうな。探偵が話を聞かないなんてダメだろ。
「カズマカズマ、彼は何を言ってるんですか?」
「え?ああ……あいつは俺と同じ日本っつーとこの出身なんだけど、訛りが強いみたいだな。」
「なるほど。探偵さん、魔法なりスキルなり覚えるためにはスキルポイントが必要になります。冒険者は確かになんでも覚えれますが、例えばウィザードが5ポイントで覚えられる魔法を冒険者は10ポイントかかったりします」
アクアとめぐみんの説明についていけない様子だった。……あ、アクアはともかくめぐみんの言葉はわかんねぇのか。うわぁ、めちゃくちゃ不便。
「要するに器用貧乏ってことだ」
「そっか……ま、受付嬢に勧められた盗賊職よりかマシか。探偵が盗人どころか犯罪者なんて洒落になんねぇからな」
「おっと、聞き捨てならないことが聞こえたね」
割り入るように介入してきたのは銀髪の少女だった。明らかに日本語だったがこの女も同じ転生者なのか?その割りには異世界成分が強めだ。後ろには鎧を着込んだ金髪美女もいる。
探偵は銀髪の少女を見るなり自らの黒ベストを脱ぐとさりげなくかけた。
「……何なの?」
「若いのにそんな肌出すもんじゃないぜ」
「これは正装だよ!盗賊がゴタゴタしてたらダメでしょ!」
そりゃそうだ。アニメでもシルクハットとかスーツの奴をよく見るけど絶対動きにくいと思う。
銀髪の少女はベストを脱ぎ突き出すように返し説明を始める。
「盗賊職はね、別に盗みしかしてない訳じゃないの。【敵感知】とか【罠発見】を覚えるからダンジョンの調査には必要だし……【スティール】!」
右手が光ると探偵の被っていた帽子が消え、いつの間にか少女の手中にあった。
「おまっ……返しやがれ!」
「こうやって相手のものを奪ったりして状況を変えることも出来るんだ」
自らが帽子を被りかっこつけるのを見て探偵は追いかける。この構図、よく見かけるよなぁ……それより【スティール】か、面白そうだし試しに覚えてみるかな。
二人の争奪戦をよそにもう一人の探偵……こっちは同世代っぽいし呼び捨てでいいか。フィリップは話を進める。
「僕はフィリップ。君の名前は?」
「私はダクネス。あっちはクリスだ」
「ダクネスちゃん。差し支えなければ僕達に協力してくれないかい?」
「誘いは嬉しいが、私はその男に用事がある」
金髪美女はどうやら俺に用事があるようだ。え、俺に?
「分かった。翔太郎!」
「はぁ、はぁ……どうしたフィリップ?」
ようやくの思いで捕まえたクリスを抑え帽子を取り戻していた探偵。やっぱり大人げない。
「やはり別行動で行こう。僕は他のパーティーに混じって魔法を教えて貰うよ」
「じゃあ俺は一人でバイトだな。こっちも情報網を広げておくからそっちは頼むぞ。あと、周りをちゃんと見ろよ」
お互いに目で確認すると、フィリップは付近にいる冒険者達に交じっていく。
「一緒じゃなくていいのか?」
「言葉が通じねぇってのは不便だけど、それだけでいちいち折れてたらダメだろ。探偵に必要なのは忍耐だからな」
俺から土木関係の張り紙を取り窓口に向かっていく探偵。忍耐というより慣れろってことか。でもあのままじゃいつまで経ってもだろ。
俺は一つ妙案を思いつき、まだパーティーが見つかっていないフィリップの元に駆け寄った。
「昨日は助けて貰ったし、俺があいつを見てやるよ。その代わりあいつらのめんどう見てやれないか?」
「でも君もやることがあるだろう」
「急ぎじゃないしな。それに冒険者はアークウィザードと違ってレベルが上がりにくいことはないしな」
ポイントの消費が多い分レベルアップは早い。上級職は最初からポイントがある分スキルを覚えられる。バランスは大事だ。
「それならお願いしようかな」
俺はクリスに【スティール】などの盗賊スキルを教えて貰い探偵と一緒に土木工事のアルバイトに。フィリップ達にアクア達を任せて行動を始めた。