仮面ライダーウォーレックス   作:マフ30

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皆さま、いつもお世話になっております。
今回はほぼウォーレックスのバトルがメイン。
色々と緩急をつけて書いたつもりですので楽しんで読んでいただければ幸いです。


レコード:02 白鋼の戦竜 ②

 

 竜と蟲の咆哮が轟く。

 荒れ乱された都市公園の一角を戦場にして、ウォーレックスとローリーバーグラーは真正面からぶつかり合うとそのまま激しい肉弾戦へと移行する。

 

『お宝を! 恐怖を! モット欲しい! まだまだ足りぬゥウ!!』

『足りないだぁ? あれだけやってもか? 卑しいったらないぜ――ざけんな!!』

 

 両者の拳がぶつかり合って大気がビリビリと震える。

 堪らず一歩後退するバーグラーに対して、ウォーレックスは形振り構わず前進しながら拳を握り締める。小細工抜きの殴り合いを繰り広げる白き竜騎兵と橙色の蟲人。双方共に怪力自慢のインファイトの応酬は見る者を圧倒した。

 

 先手を取ったのはローリーバーグラーだ。その場で丸まって体当たりを食らわせてウォーレックスを怯ませると両腕を大振りして無数のリングをその全身に浴びせる。

 直撃すればコンクリートも容易く砕くリングの雨霰を食らったウォーレックスは全身から火花を飛ばすが硝煙を払い除けて前進する。

 散弾銃による射撃を思わせる攻撃を何度受けても怯む様子を見せない相手の鬼気迫る姿にローリーバーグラーが僅かに恐怖を抱いた瞬間にウォーレックスの攻撃が異形を捉えた。

 

『だらぁああああ!!』

『アギィ!?』

 

 リングを投げ放った瞬間の伸びきった右腕を掴んだウォーレックスはローリーバーグラーを引っ張り寄せながら空いた片腕による全力の拳打を叩き込んだ。

 吐き出すような悲鳴を上げるローリーバーグラーの硬い甲殻で覆われた胸部が凹んだ。そのままウォーレックスは両手で握り拳を作ると敵の側頭部を左右から挟み込むように思い切り諸手打ちを決める。

 

『二度と丸まれないように平ったく叩き潰してやらぁなあああ!!』

『ツッァアア――!?』

 

 破片のようなものを飛び散らせて顔面がひしゃげたローリーバーグラーは絶句する。恐ろしい攻勢に後ずさるがウォーレックスは逃亡など許さないと大樹を伐るような豪快な回し蹴りを背中に打ち込んで大地に叩き落とした。

 

『覚悟しやがれよ? お団子から五平餅に作り直してやるから――ぬおッ!?』

 

 死角から急接近する別の存在にウォーレックスは攻撃の手を止めて両腕を盾のように構えると深緑の曲刀が凄まじい力で叩きつけられた。

 

『キッシャアアア! 粋がるなよ、下等生物が!』

 

 不意打ちをするほどの心のゆとりもないのか、殺意を剥き出しにして襲い掛かってくるアークスタッグ。得物こそ曲刀だがその攻撃は斬るというよりは相手を殺せれば何でもいいとばかりの力任せの殴打に等しい。

 

『お前を殺したら、次はあの雌だ。もうアレで遊ぼうだなんてつもりはねえ! 腹でも裂いて生きたまま腸を掻き出してじっくりと殺してやるよ!』

『ぐうッ……お前は本当に、他人にご迷惑をかけねえと笑えないと見えるな!』

 

 恐るべき膂力から繰り出される連撃にウォーレックスの口から重苦しい息が漏れた。だが、どんな猛攻に晒されようともその両脚が後ろに下がることは決してない。

 相変わらず暴力と嗜虐しか頭にないような不愉快な言葉を羅列して嗤うアークスタッグにウォーレックスは血液を煮立たせるような怒りを燃え上がらせて反撃を試みる。

 

『我が主! さあさあ! どうか、更なる破壊を! 更なる暴虐を! 更なる強奪を!!』

『のおおっ!? いいぜ……二匹ともまとめて掛ってきやがれですだぁ!!』

 

 だが、アークスタッグの攻撃を弾いて殴り返そうとしたところで今度は反対側から車輪状態のローリーバーグラーに追突されて大きくふらつく。

 一対一ならまだ望みはあったが歴戦の戦士でも無い平良が変身するウォーレックスは二体総出で仕掛けてくるインセクター相手に苦戦を強いられる展開となっていた。

 その動きは戦士としての高い質の持ち主だったクリューと比べるとあまりにも拙く、素人のそれだ。パワーや防御力は高いが動きに無駄が多く、荒削りで気合の叫びで誤魔化してはいるが経験不足が滲み出ている。

 しかし、明らかな不利な状況にもウォーレックスは怯むことなく自身の肉体を頼みに気合を入れ直すと我武者羅に異形の怪人たちを相手に立ち向かっていく。

 

 

 

 

 その頃、街中に密かに設置された監視システムからインセクターの襲撃を察知した吉家たちアナザーアルゴの面々もまた現地にシャロンを派遣すると同時に戦いの様子をモニタリングしていた。

 

「ご主人……あの推定190cm、髪は金、筋肉モリモリマッチョマンの一般人が変身した戦士は?」

「ボクにも分かりません。インセクター以上に正体不明のイレギュラーですよ、彼。そもそも、どうしてウェイクアンバーを個人が所有しているんだ?」

「現在映像を元にリアルタイムであのダイナメイルを解析中ですが先日奪われたものとは明らかに違うようですね」

 

 目覚めの森の博物館地下に設けられた司令室では負傷したクリューを心配する声も当然ながら、謎のダイナメイル・ウォーレックスとその変身者である平良のことで騒然としていた。

 常日頃にこやかで気品のある立ち振舞いがデフォルトであるしおんでさえ、薄らと冷や汗を浮かべて取り乱しているのがそれを物語っていた。

 特に吉家は指揮官という立場から平静を装ってはいるものの、長い年月をかけて世界中を探し回っても数えるほどしか集めることが出来なかったウェイクアンバーを何の変哲もない青年が持っていたことだけでもかなりのショックを受けていた。

 

「彼が何者なのかはこの際度外視でも構いません。いまは彼に勝って、生き残ってもらわないと」

「盗難品を基に犯人が違法製造した最新モデル、というわけでもないようですし……個人的には、こういう言葉を用いたくはありませんがまさに不条理の塊としか表現できませんねえ」

「……それだ!」

「はい? ご主人、私なにか不躾なことを言ってしまいましたか?」

「その逆ですよ、しおんさん。ええ……まさにその逆の可能性がまだ残されていました」

 

 事後処理部隊への指示を送りながら固唾を飲んで戦いの様子を見守る面々。しおんがふと平常心を整えようと冗談半分に呟いた言葉に閃いた吉家は大急ぎで端末から竜童家の個人的なデータベースにアクセスして何かを調べ始めた。

 

「やっぱり……あった。しおんさん、このデータをアナザーアルゴのデータベースに移植および更なる解析をお願いします」

「おやまあご主人。これ、一体どこからお取り寄せしたのです?」

 

 吉家の手でモニターに映し出された年季のあるデータ資料にしおんたちは驚いた。そこには不明瞭な部分も多いが間違いなく、いま都市公園で戦っているあの正体不明のダイナメイルが記されていたのだ。

 

「初代司令の私的な端末の中に隠してありました。見つけるのは思いの外簡単でしたけどね」

「曽祖父様の?」

「悪戯心とかなら洒落になりませんよ。アナザーアルゴの記録には古く価値のないものとして廃棄処分扱いにしていたんですから……まるで宝探しの賞品でも見つけた気分です」

「それであのダイナメイルの正体というのは?」

 

 肝心の答えをせかすしおんに吉家は一呼吸して気持ちを落ち着かせるとウォーレックスの出自について語り始めた。

 

「盗難品でも、違法コピーでも、最新型でもありません。あのダイナメイルこそが全ての始まりだったようです」

「それは……いえ、そんなまさかでしょう? それではあのウォーレックスという存在はプロトタイプとでも?」

「はい。在るはずのなかった空白の竜の鎧。ダイナメイル・ゼロ。それがあのウォーレックスのようです」

 

 吉家の言葉に司令室内に詰めていたアナザーアルゴの面々はざわめいた。

 プロトタイプ――その響きにある者は未知数の可能性を信じて一縷の希望を抱き、またある者は頭を抱えた。そんな骨董品に何が出来るのかと。

 その中でも吉家に胸中に渦巻く疑問と不安は大きかった。

 一族の人間である自分にすら教えられていなかったプロトタイプの存在とそれを持っていた謎の青年。

 様々な人間の思いや疑惑を受けながらモニターの向こう側の白亜の竜騎兵は獣のような雄叫びを上げて果敢に戦い続けていた。

 

 

 

 

 

 

 都市公園にはまるで調子の悪いモーターのような耳障りな羽音が鳴り響いていた。

 そして、白昼の大地を気味悪く照らす謎の強い光もまた羽音と重なり不快な二重奏を奏でている。

 

『キヒャッハハハ!! 俺はこういうことも出来るんだぜ? どうだよ、手も足も出ないだろう?』

『次から次に妙なもん出しやがって……虫が鬱陶しくなるのは夏場だけで十分なのによ』

『オ、オオ……オ宝を我にヨコセェエエ!!』

『てめえの方はそれしか言えねえのか、ったく!!』 

 

 けたたましい音と光の正体は背中の翅で飛翔しながら、頭の角から濁った緑色の破壊光線をウォーレックスに浴びせるアークスタッグの仕業だった。

 地上からはローリーバーグラーが依然としてダンゴムシ特有の丸まった形態からの強烈な体当たりを仕掛け続けて、ウォーレックスの白亜の装甲には汚れや傷が目立ち始めていた。

 一方的な嬲り殺しにされまいと必死で食い下がるウォーレックスは譲れない意地があるのかどんなに攻撃を受けようと決して悲鳴や弱音だけは吐かずにギリギリのラインで二体の怪人と渡り合っていた。

 

「うわっと、あっぶない!? こりゃ、ボクらも避難しないと流石にヤバいな」

 

 ウォーレックスに変身した平良の戦いをずっと見守っていた喜介の近くに戦闘の余波で破壊された遊具の破片が吹っ飛んできた。一瞬で滝のような汗を噴き出しながら目を泳がせる喜介はこのままでは自分の命が危ないし、何より平良の足手纏いになってしまうと気の乗らない決断を迫られていた。すると、喜介に背負われていたクリューがまだ辛い痛みに耐えながらあることを呟いた。

 

「ぅっ……私を下ろして平良と一緒に行ってください。使えるアンバーがあるなら、戦える」

「笑えないジョークだね。ボクは自分のことが一番大事なタイプの人間だけど、そんなナリの女の子を置き去りにして逃げるほどしょっぱい奴じゃないよ」

「あれは……あいつらと戦う事は私の役目なんです。だから――!」

「責任感が強いのは良いことだけど、いま君がすることはそれじゃないんじゃない? ハッキリ言っちゃうけど、そんな怪我した状態で勝てるわけないでしょう」

 

 額の血を拭って自分の背から降りようとするクリューを逃さないとばかりに、喜介は腕に力を込めた。

 

「信じて見守るのも、戦いの一つだと思うよボクはさ? それで勝った平良にスマイルの一つもしてあげてよ。あいつ、安上がりな奴だからさ」

「そんなこと……それに平良は私のように修練も戦う術も心得ているわけじゃないんでしょ?」

「どうかな? どうだろうね? けど、一つだけ平良の相棒として良い情報を教えてあげるよ」

 

 平和を守るための守り手、力なき人々を守るための守り手――それが自分なのに、知り合ったばかりの無辜の人間にそれを押し付けてしまっている自分にクリューは悔しさと罪悪感で押し潰されそうな気持だった。

 だが、彼女の曇った表情を知ってか知らずか遠方にて、気合だけは負けないと大声を張り上げて奮闘するウォーレックスに喜介は勝ち気な視線を向けた。

 

「あいつはバカだけど、気持ちの良いバカさ。だからね、せっかく笑ってくれた君をつまんない嘘で悲しませたりはしないんだ。平良はやってくれるよ?」

「喜介……」

「おーい、平良ぁああ!!」

 

 自分のことのように得意げに話す喜介にクリューは思わずぽけっと呆気にとられた顔をした。期待通りのリアクションをする彼女を小さく笑って、喜介は平良に届くように大声を上げた。

 

『どしたよ、スケさぁん! ご覧のとおりの大忙しなんだけどぉ!?』

「悪いけど、ボクはこれ以上はこの場にいられない! うっかり死んじゃうからねえ!!」

『だろうな! スケさんは賢いぶん、マッチ棒みたいに繊細なんだもん!!』

「お前が丈夫すぎなだけだって! ボクはクリューを連れて公園の外でずっと待ってるから、思う存分暴れてやれ!!」

 

 アークスタッグとローリーバーグラーの猛攻を凌ぎながら声に耳を傾けるウォーレックスに喜介は内心恐怖や不安でバクバク暴れる胸の鼓動を抑えながら、にんまり笑って言葉を届ける。長い付き合いだからこそ分かる、相棒が最大限にやりやすく立ち回れるであろう励ましの言葉だ。

 

『ハハッ……良いんだな? 俺の筋肉を遠慮なくやんちゃ少年みたいに弾けさせちゃってもお構いないんだな!?』

「ああ――やってよしッ!! そいじゃあね!!」

『かしこまぁあああ!!』

 

 細かな説明などしなくても伝わる言葉でズバッとエールを送ると喜介はまだ不安な顔で何か言いたげな背中のクリューを巻き込んで一目散に走って戦場から離れていった。

 

『本当にスケさんはお見事だぜ……なら、俺もやるときはやるってとこお見せしないとな!!』

 

 勝って戻って来い。

 喜介の真意を受け取ったウォーレックスは気合を更に上乗せして全身の筋肉に大号令を呼び掛ける。

 

『なにをゴチャゴチャほざいてやがる!!』

『フウンッ……まだまだァ!!』

『オオォォォン!! 潰れロォ!!』

 

 苛立った叫び声を上げながら上空から急接近してきたアークスタッグがウォーレックスの顔面目掛けて激しい連続檄を浴びせる。それに呼応して、ローリーバーグラーも丸まって高速で転がって真っ向から追突してくる。

 常人なら瞬く間にバラバラの肉片に砕け散ってしまっても可笑しくはない破壊力の洗礼をウォーレックスはまともに食らいながらも尚、一歩として退かずに立ち続ける。

 

『フウゥゥゥ……そいつがどうしたぁ!!』

『この下等生物がぁ! ムカつくぜ、痛みが無いとでも言いたいのかよ!?』

『どうだろうな? ないかも、だ』

 

 痛み? あるに決まってる。痛いのは好きじゃない。いくつになっても慣れないもんだ。

 怖さ? 滅茶苦茶怖いわ、このおバカ野郎め。正直、自分一人なら小便漏らしてる。

 

 だけど――あの子はどうだった?

 クリューだって、怖いはずだ。痛かったはずだ。

 でも、彼女はめちゃくちゃ頑張ったんだぞ。

 

『せっかく、いい顔で笑ってたのによぉ……ッ!!』

 

 まださっきの彼女の痛みに苦しむ叫びが耳にこべりついて剥がれない。

 血を流して、辛そうに顔を歪めて、それでもなんか立派なことを言いながら、人間の悲鳴や恐怖が宝だなんてほざく化け物どもに立ち向かおうとしていた痛ましい少女の姿が脳裏に焼き付いて離れない。

 

『何だかんだで俺の筋肉もスケさんが考えた渾身の芸も見事にたい焼き一個に負けちまってたわけだけど、でもそんなのでもいいさ』

 

 客席に独りでぽつんと突っ立って、なんだか息苦しそうな顔をしていた少女。

 たかがたい焼き一つであんなに無邪気に喜んで、夜空の星みたいにキラキラと笑っていい顔していた女の子がよぉ――あんなひどい目に遭いながらも泣き言一つ漏らさずに必死に頑張ったんだぜ。

 

『あんな良い笑顔されたらよ、幸せ感じてるんなら何だっていいやって思うじゃねえか。だけど……それをてめえら、ふざけた理由で台無しにしやがったよな?』

 

 お前はどうする、鳴上平良?

 俺はどうしなきゃいけない、俺?

 あんなに頑張ってたクリューの痛みも、勇気も、笑顔も――全部ぜんぶ、俺で台無しにするのか?

 

『さっきからブツブツと耳障りなんだよ! もう死ねよゴミカスがあああ!!』

『てめえらなんかを好き放題にしたまま終わっちまったらよ! あの子が背負ってる大事なモンってのを肩代わりするだなんて、口が裂けても言えねえだろうがよおおお!!』

『ガッバ、アァ……アア!?』

 

 怒りを超えた強い想いに満ち溢れた咆哮を轟かせながら、ウォーレックスはアークスタッグの蹴りを掴み取り、またローリーバーグラーの突進も片手で受け止めるとあべこべに吹っ飛ばした。

 

『もっともっとォオオ!! みなぎれ俺ッ!!』

 

 その瞬間にウォーレックスの裂帛の気合に呼応して両腕のオーラム・ディスチャージャーが唸りを上げて高速回転を始め出した。

 

『ソォウリャ!!』

『ぶおっ!? な、なんだ……雷? 晴天の白昼にだあ!?』

 

 立ち上がりかけのアークスタッグの顎下をウォーレックスの鉄拳が打ち抜くと同時に青白い雷光が迸り、痺れを伴った焼けるような痛みを加える。

 

『ガンガンいくぜええええ!!』

『こ、こいつの仕業か!? おっごお、ぉおっ!?』

 

 アークスタッグの腹部に一心不乱に拳の嵐を叩き込むウォーレックスの両腕にはタービンの高速回転から生み出された雷電が纏われていた。これこそがオーラム・ディスチャージャーの真の能力である。

 超硬度のタービンはその回転を時に攻撃に、あるいは防御に活用するだけでなく追加のエネルギーを生成する。この雷電の正体は変身者である平良の意思でダイナメイルのエネルギーであるダイナオーラムを電気エネルギーに変換して戦闘に転用しているのであった。

 

『ゼエ……ハァ……ふざけやがって! この俺が、インセクターがこんな下等生物に後れを取るわけがない!!』

『いいぜ? 俺ももう出し惜しみは無しだ』

 

 サンドバックのように滅多打ちにされて大きく疲弊したアークスタッグだったが自らの尊厳に大きな傷を付け続けるウォーレックスに憎悪を更に膨らませると再び角からの破壊光線を仕掛ける。

 ウォーレックスは再びそれを真正面から受け止めるつもりなのかその場から動こうとしなかった。だが、一つだけ明らかに今までと違う動作が見られた。なんと、仮面の青い双眸が力強い光りを灯して輝きだしたのだ。

 

『こういうのって意味ないかもだけど、健全な男子としては叫ぶのが礼儀だよな?』

『な、なんだ!? 何が来る!?』

『ぶち抜け! ダイナミック・アイザアアアァァァァッ!!』

『イギャアアア――!?!』

 

 青白い二条の閃光が禍々しい怪光を押し退けて、アークスタッグに直撃する。

 それはウォーレックスの瞳から発射された破壊力抜群のレーザー砲だった。

 思いもよらぬ光学兵器による反撃をまともに食らったアークスタッグは凄まじい勢いで壁に叩きつけられると砕けた瓦礫に埋まって動かなくなった。

 

『虫唾が走ることばっかする奴は黙らせた。お次はお前だぞ!』

『オオ……我が主、お救いする!!』

 

 長い持久戦の末についに敵の一方を沈めて、ローリーバーグラーと一対一のぶつかり合いに持ち込むことに成功したウォーレックスはこれまでの劣勢が嘘のような活力に満ちた声で勇ましくぶつかっていく。

 再び始まる拳打の応酬。しかし、今度は様相が違った。

 豪快だが的確な動きでウォーレックスは相手の攻撃を弾きながら、カウンターを次々と決めていく。その動きは戦いが始まった頃とは段違いに洗練されている。

 

『回ればすげえのはな! お前だけじゃないんだぜ!!』

 

雷撃を纏った打撃技サンダースパートでローリーバーグラーを一気にグロッキーになるまで叩きのめしていくウォーレックス。

 僅かな間での戦闘スキルの向上は平良の成長性の目覚ましさもあるが実際のところは彼が周囲に余計な被害を出さないように全力を出すことに無意識の抵抗に近い遠慮をしていたことが大きい。

 生身の頃から備えている己の奇異なほどの力が周りに迷惑をかけないように戒め縛っていたのを先程の喜介の声援とクリューの戦いを無駄にしてはならないと自分を奮い立たせて枷を外したことで爆発的に本来の力を発揮し始めたのだ。

 それは平良自身の技量だけでなく、ダイナメイル・ウォーレックスに搭載された人型城塞さながらの桁外れの戦闘力も例外ではない。

 

『フンヌッ! 捕まえたぞ!!』

『ルオォォォラァアア……アア!!?』

『熱烈的だろ! 俺のファーストハグだぜ、堪能してくださいませよ!』

 

 完成度の高い攻防一体を実現しているローリーバーグラーの車輪攻撃が再びウォーレックスに直撃する。しかし、邪魔なアークスタッグが不在のいまこの攻撃はウォーレックスにとって別段脅威ではなかった。

 攻撃を真正面から受け止めると両腕を回し込んでベアバッグよろしく全身全霊で抱き絞める。すると車輪の回転はウォーレックスの両腕の絞めつけに動きが止り、押し潰されそうな怪力に耐え切れなくなったローリーバーグラーは苦しみながら人型に戻った。

 

『いまの俺はこういうことも出来るんだぜ!!』

 

 身体を真っ二つに圧し折られかけて、ふらついているローリーバーグラーを蹴り飛ばして間合いを取るとウォーレックスはタービンを高速回転させた状態で五指を開いた両手を胸の前で構える。 スパークを起こしながら激しい雷電がその両手の間に収束されていくとやがて巨大な雷の球体が出来上がった。

 

『煌めけ! ライトニング・キャノンボォォォル!!』

『オ、グッギガガ、ガガ!?』

 

 発現させた大雷球をウォーレックスは片手持ちで振りかぶると至近距離から勢い良くローリーバーグラーに叩きつけた。瞬間、鋭く大きな炸裂音と共に稲妻が地上に飛び散って周囲は真っ白に照らされる。光が消え去るとその光源には黒コゲになったバーグラーが棒立ちになって痙攣していた。

 

『そろそろ幕引きってとこか!』

 

 勝機を感じとったウォーレックスはベルトの左サイドにあるボタンをタップ。するとバックルに装填されたウェイクアンバーから光と共に護拳があしらわれた剣の柄が出現する。

 

『オォオオオ!! お目覚めの時間だぜッ! テイルデストロイヤアァァァッ!!』

 

 ウォーレックスは左手でしっかりと柄を掴むと迷い無く光の鞘から自らの得物を引き抜いた。姿を現したそれは刀剣と呼ぶにはあまりにも頑強で無骨だった。

 柄を含めて全長1.5cmはあろうティラノサウルスの尾を模した六角形の金砕棒型の武器。それがウォーレックスの専用武器の一つであるテイルデストロイヤーだった。

 豪快な横薙ぎの一撃が重厚な体躯を持つローリーバーグラーの体を案山子のように軽々と吹っ飛ばす。

 

『俺ながら執念深いと思うけど、きっちりクリューのリベンジはやっとかないとだ!!』

 

 自分で吹っ飛ばした敵を追いかけて力強く駆け出したウォーレックスは片手で構えたテイルデストロイヤーの柄元に搭載されたトリガーを引いた。すると重さと硬さの化身さながらの刃なき刀身がドリルのように高速回転を始めて、激しい螺旋を描き始めたのだ。

 

『ウリャアアア!! ソラソラソラァアアア!!』

『ガッ――!?』

 

 唸りを上げて振り下ろされたウォーレックスの一撃をローリーバーグラーは本能的に両腕で受け止めるがドリルの如く超回転をする刀身に硬質のリングで覆われた腕は容易く抉り砕かれていく。

 ガードが崩れたローリーバーグラーに炸裂する三つの太刀筋はいずれも信じられないぐらい重く強烈だ。そして、攻撃の重さから推察するにテイルデストロイヤーそのものが相当な重量の武器のはずなのに担い手のウォーレックスはデッキブラシでも操るかのように軽々と振り回してくるのだから敵対する者は例え怪物であろうと恐怖を覚えた。

 

『手に馴染むいい感じの重さだぜ! 暮らしの一部ってやつだ!!』

『ウボオッァ!?』

『もらった――ッ!!』

 

 大きな音を立てて空気を裂きながら振り上げられた一閃がローリーバーグラーを宙にカチ上げた。機を見出したウォーレックスは滑らかな動きでテイルデストロイヤーをくるりと逆手持ちに握り直すとそのまま一気にガラ空きなったローリーバーグラーの体に突き立てる。

 

『アギギッギギギイギギ――!?!?』

『破り穿て! オーラムデストロイヤアァァァッ!!』

 

 鼓膜をビリビリと震わせる破砕音と火花が渦巻く中でウォーレックスはベルトのグリップを捻った。するとウェイクアンバーから流れ込んできたダイナオーラムに満たされたテイルデストロイヤーは鮮やかな輝きを放ち、更なる破壊力を解放するとついにローリーバーグラーの胴体を硬い甲殻諸共に串刺しに貫いた。

 そして、静かにウォーレックスが得物を引き抜き残心をするとその背後でローリーバーグラーは爆発して散った。

 

『だっはー……勝てたじゃん、俺』

 

 特大の安堵の息を吐き出したウォーレックスは急に静かになった都市公園を見回して仮面の奥で思わず頬を引きつらせた。

 三者が遠慮なく大暴れした結果、広大な面積を誇る公園の半分が見事なまでに更地に近い荒野に変わり果てていたのだ。

 

『これ、全額弁償はないよね? 修理するの手伝うとかで許してもらえるよな』

 

 戦い直後ということもあり悪くない気分の高揚感を残しつつ、奇しくも手に入れた力の強大さにウォーレックスが絶句していると日が暮れかけた茜色の空にあの耳障りな翅音が聞こえてきた。

 

『やりやがったな! このムカつく下等生物めが! この恨みは忘れねえぞ?』

『てめえ……』

 

 ウォーレックスが翅音のする方角を見上げるとそこにはローリーバーグラーの爆散の衝撃で目を覚ましたアークスタッグが空の上で憎しみに満ちた表情で自分を睨んでいる姿があった。

 

『あの雌のガキ共々……必ず俺が嬲り殺しにしてやる! その日を待っていやがれよ!!』

 

 そんな捨て台詞を残してアークスタッグは背を向けて飛び去っていく。

 だが、このインセクターはこれから待ち受ける思いもよらない自分の運命をまるで知らなかった。

 

『おい』

『イギ―――ッ!?』

 

 夕闇に飛んでいこうとしたアークスタッグの背中に地上から飛来した漆黒の塊――石のように投げ放たれたテイルデストロイヤーがぶち当たった。くの字になるほど仰け反ってから、まるでハエ叩きで潰された害虫のように墜落したアークスタッグは引きずり降ろされた地上で信じられない光景を見て考える思考を失った。

 

『誰が、てめえ独りだけ……帰っていいだなんて言ったよぉおおお!!』

『ヒィイイイ!? こんなバカなことがあってたまるかぁああ!?』

 

 限界突破を迎えた怒りに荒ぶる白き竜の咆哮が大地を震わせる。

 現代に蘇った恐竜に匹敵する凄絶な戦意を剥き出しにしてウォーレックスは怒涛の激走を決めると我を忘れて狼狽するアークスタッグに殴り込んだ。

 

『俺はてめえみたいな自分が笑うためなら、他の誰かが泣こうが苦しもうがお構いなしのふざけた野郎が大ッ嫌いなんだよ!!』

 

 弾丸のような体当たりでアークスタッグに流れ込んで馬乗りになったウォーレックスは怒りが高まりすぎて震え気味の声を上げて、滅茶苦茶に拳を叩き込み続ける。

 

『特にてめえはあの子に向かって人間の悲鳴や恐怖が最高だなんて抜かしやがった! 好き嫌い以前の問題なんだよ!! 論外ってやつだ!!』

『ぐおあ、ああ――!!』

 

 アークスタッグの鎧のような甲殻は見るも無残にベコベコに凹み変形していた。下卑た暴言も吐けないぐらいにダメージを食らったアークスタッグをウォーレックスは乱暴に片足を掴んで投げ飛ばすと壊れそうな勢いで再びサーチドライバーのグリップを捻り、必殺の一撃を繰り出そうと試みる。

 

『俺が――やるぜ』

【ボルテージ・ダイマックス!!】

 

 終わりを告げるかのように、電子音声が冷たく世界に響く。

 大地を力強く踏み締めたウォーレックスが両手を眼前で交差して、恐竜のように爪を突き立てる独自の構えを取るとウェイクアンバーからもたらせるダイナオーラムがその全身をゆっくりと燃え盛っていく火焔のように煌々と輝かせていく。

 

『絶壊――アブソリュート・ブレイク!!』

 

 白き竜騎兵の蒼い双眸が烈火の如き真紅に変わる。

 瞬間――渾身の力で大地を踏み込んだ竜脚は世界を揺らし、太古の神秘を司るエネルギーを纏った強靭な体躯は音を超え、光に迫る速度で大気を貫いて一直線に駆け抜けた。

 

『ウ、ソ、だ……こんな馬鹿な話があるかぁあああああああああああ!?!?』

 

 超電磁加速を駆使して繰り出された地上を裂く流星のようなウォーレックスの飛び蹴りはまさに刹那の技でアークスタッグの体に大穴を穿ち両断すると完膚なきまで爆砕させた。

 バーグラーとその上位存在インセクターの二大怪人を激闘の末に打ち破った白亜の竜騎兵ダイナメイル・ウォーレックス。

 爆発の炎と黒煙を振り払い悠然と仁王立ちしたウォーレックスは一番星が瞬き始めた黄昏色の空に勝利の雄叫びを轟かせた。

 

 

 

 

 都市公園で繰り広げられた激闘の一部始終を密かにビデオカメラのような単眼を持つ地球外の蟲を使役して観察していた者たちがいた。

 

『あらあら、スタッグちゃんったら負けてしまいましたわよ』

『死んだのかい、アイツ? 情けない奴だな。ま、成虫になりたてて図に乗っていたみたいだったし仕方ないね』

 

 仄暗い闇の中で美しく大きな翅を持つ二人があっけらかんと言い放つ。

 その可憐でたおやかな声とぶっきらぼうだが凛々しい声の二色に哀悼はない。愚か者への軽蔑が多少は込められていたがうっかり路上の蟻でも踏んでしまったような些細なものだ。

 

『おっふ……!! 君たちには仲間の死を悼む心は無いのですかな? スタッグ氏は勇敢でござったよ。あの人間の雌の悲鳴などは控えめに言って当方にもかなりのご褒美でしたぞ。デュフフフ』

 

 その場にいる同胞たちを窘めて、アークスタッグの敗死を悲しむ野太い男性的な声の異形。しかし、言葉とは裏腹にそのインセクターは何処から手に入れたのか熱心に漫画雑誌を読み漁っており心はまるで無関心な様子だった。

 

『彼がまだ若く惜しい素質があったかもしれないが身の程を弁えられなかったということだね。そんな半端者ならば居なくても別に困りはしないというものだよ。それにしても、当世の人間は大昔と違って随分と面白い道具を使うようじゃないか、興が乗るなあ』

 

 優雅に足を組んでいた別のインセクターが冷ややかに言い切る。

 華やかで気障ったらしい印象を受ける、颯爽とした喋り口調のものだ。

 

『私は人間たちの文明と言うものを我々も今一度ゆっくりと学ぶ必要があると考えるのだが……君はどう考える、グランディス?』

『いずれは我らインセクターが食い尽くす有象無象だ。お前たちがそういった趣向に興が乗るというのなら、ゆるりと構えて事に当たればいいことだ。俺には関係ない』

 

 気障な声に話を振られたグランディスと呼ばれたインセクターは淡白な声でつれない返事を答えた。頭部に長大で威容を誇る双角を持つ、大戦士の風格を醸し出している。

 

『存外に冷たいな。彼は君の同族のようなものじゃないのかい? アークスタッグ・グランディス』

『戦士の誇りもなく、引き際も見極められない愚者にかける情は持ち合わせていない。恐れを凌駕する勇士をこそ俺は尊ぶ』

 

 にべもなく言い切ったグランディス。

 インセクターの大戦士たる彼の興味はむしろ、粗削りだが不屈の闘志を曝け出して奮闘したウォーレックスに向けられていた。

 

 

 

 

「ん、く……あれ、ここどこ?」

 

 いつの間にか眠っていたクリューが目を覚ますとそこは清潔感のある白い天井が広がっていた。恐らくここは目覚めの森にある医務室なのだろう。

 ベッドに体を横たえたまま首を傾げているとぼやけた視界にシャロンの顔が飛び込んでくる。

 

「おはよう、クリュー。大変だったね、ホントにがんばったよ」

「うん……刺激的な探検だった。都会は怖いところだね」

 

 戦う度にボロボロに傷ついてくる自分を心から心配して、いまもこうして微かに涙目になっているシャロンを安心させようとクリューは彼女なりのユーモアでぎこちなくおどけてみせた。そんな健気な彼女の心を汲んだのかシャロンは小声でバカと優しく零して、クリューの絹のような黒髪を撫でた。

 

「あ……ねえ、ほら! クリュー起きたわよ! あんたも起きなさいよ、渡すものがあるんでしょ?」

「んあぁっ!? しまった……超寝てたわ」

 

 聞き覚えのある声がすると思えばむくりと大きな人影が起き上がったものなのでクリューは目を丸くして驚いた。

 

「た、平良!? どうして?」

「お見舞いの品ってわけじゃないんだけどよ、こいつをどうしてもクリューに渡したくてな」

「これって、もしかして」

 

 そう言って、平良はずっと懐に抱きかかえていた紙袋をクリューに手渡した。

 紙袋の重みとほのかに香る覚えのあるこうばしさに彼女はハッとした顔をして照れ臭そうにしている平の顔を見た。

 

「あの後、たい焼き屋のおっちゃん探し出して作ってもらったんだけど、すっかり冷めちゃったかな。残念なことに俺の筋肉はまだ保温機能を手に入れるまで仕上がっていなかったようで……お恥ずかしい限りです」

「ビックリしたでしょ? 急に飛び出してどこか行ったっちゃと思えば、戻ってくるなりクリューが起きるまでここに居るって聞かなくてね」

 

 冷えて固くなったたい焼きの何とも言えない微妙な味をしっているだけに平良はどことなく筋肉をすぼめてシュンとしている。良かれと思ってやったことが裏目に出たと感じていたからだろう。

 気の利いたことが言えずに言い淀んでいた平良が口をもごつかせているとクリューは静かに紙袋からたい焼きを一つ手に取るとスッと平良に差し出した。

 

「いろいろあって、今日はとてもお腹すいていたので助かります。平良も一緒に食べましょう? もちろん、シャロンも」

「これ……食べ物で良いのよね?」

「はい! お気に入りになりました」

 

 ぐーっと可愛らしいお腹の音を鳴らしながら、クリューははにかみながら微笑んだ。そんな姿に平良はしばらく固まったが穏やかな笑顔を見せるクリューを見て、満足したようで何時ものように堂々と胸を張る。

 

「なんか、長い付き合いになりそうだからよ。これからもよろしく頼みます」

 

 こうして、彼らは出会った。

 役者は揃い、舞台の幕は上がる。

 竜の戦士たちの物語の本当の始まりはこの日――こうして、動き始めた。

 

 

 






そんなわけで少し長めの序章がようやく終わりました。
ウォーレックスのスペックですがバランスの取れた基本フォーム?なにそれな恐竜らしいゴリゴリのストロングタイプになっております。

加えて、一昔前のスーパーロボットよろしく内蔵兵器満載の漢の浪漫仕様でございます。ええ、ついて来れる奴だけついて来い!と言うやつです。

フォームチェンジの方はと言いますと……いまはまだ内緒と言うことで。
それではこれからもよろしくお願いします。
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