鬼殺の世に召喚されし暗黒の太陽   作:ナイ神父

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2 対峙せし獣と鬼

 先に動いたのは無惨の方であった。

 先ほどの言葉に怒りを覚えながら、意外にも慎重にもう一度高速で道満を切り裂く。が…

 

 「…やはりまた偽物か!!」

 「ええ、勿論でございますとも!得体も知れぬおぞましき化生、いや、自称『鬼』でございましたか?それに無策にも近寄るなぞ低能の極み。このリンボ、そのようなことはいたしませぬぞ?」

 「小賢しい真似をォ!!」

 

 再び切り裂いた影はまたもや悲鳴を上げ消え去り、何処からともなく三度現れた道満は涼し気な様子で、無残へと首を傾け煽りを口にする。

 これこそが生活続命の法、輪廻転生の紛い物、式神に己の命を転写し生き永らえる蘆屋道満の奥義の一つ。かつてクリプターの一人スカンジナビア・ペペロンチーノの修験道により破られたこの術であるが、それが無ければ永遠に生命が続くこの外法。

 だが、道満にとってもこれは異常事態に他ならなかった。

 

 (…この一瞬、この短時間で一撃ずつ。その一撃だけで拙僧の式神を既に2体葬る…ですか。ええ、ええ、これは予想外にて。)

 

 そう、式神といえど能力自体は本来の道満と大差は無く、道満にしてみれば過去の異聞帯での活動と一つ大きな違いがあることが問題点であった。

 

 蘆屋道満の()()が、この地に居ることだ。

 かつて異聞帯、及び特異点にての活動の際は本体である蘆屋道満自身は違う世界、地獄界曼荼羅におり、そのため式神が敗れようと本体に害が届くことは基本的に無かった。

 だが、今回は居る。そう、彼はこの地に居るのだ。具体的にはこの場所より数km先に、結界を張りながらこちらへと式神を送って来ている。

 式神といえど自らの転写、移し身たるモノをいとも容易く唯の紙のように破りさる力。英霊の攻撃を受けようとも大抵の場合は防ぐことが出来る程の力を持つ式神が、回復すら出来ない程の圧倒的な一撃。

 

 (いけませんねぇ、このままではいずれ気が付かれてしまう。それは駄目です。あの純粋な暴力の塊ともいえる力はこの儂にも届きかねない。)

 

 事実、既に無惨は新たな道満を無視し、気配を察知したのか道満のいる場所へ向かって駆け出して来ている。

 視界が塞がるほどの大量の妨害役となる式神を送ってはいるが、術を発動するより速く、背中から伸びた鞭の様な器官に総て一撃で破壊されている。このままでは一刻を待たずして辿り着かれてしまうだろう。

 

 (鬼、最初は単なる妄言かと思いましたが…いやはや、あの異常なる姿、戦神たる力、正しく鬼に違いなく。)

 

 事実、もし蘆屋道満が直接対峙した場合、敗北か、万が一勝利を収めたとしても、大幅な犠牲は避けられないだろう。

 

 ──そう、()()()()ならば。

 

 (…仕方無し、この地の情報を集め終えるまではと考えておりましたが───()()()()()、ええ、()()()()()!)

 

 

 ▼▲

 

 

 

 「見つけたぞォ!!そっちの方角か貴様が居るのはァ!!」

 

 無惨は駆けていた。あの男の気配を感じられなかった理由がわかった以上、この偽物に構っている時間は無い。

 背中から触腕を生やし、それを振るい木々をなぎ倒しながら山の中を駆ける。途中から細々とした見たこともない妖怪の様な物が視界を遮るが、その様な有象無象に費やす手間も勿体無い。触腕で散らし破壊し自らは先を急ぐ。

 

 道満には道満の理由があるように、無惨にも急がなければならない理由があった。

 自らを愚弄した男に対する怒りもあるが、それ以上に今の状況が問題だ。現在既に黎明、即ち夜明けまで1時間も無い。彼ら鬼たる者共の頂点無惨ですら抗う事ができぬあの憎き太陽が顔を見せるまでの時間が無いのである。

 万全を期して逃れる為に最低30分は残して去らねばならぬと云うのに、何故あの男のもとに足を進めているのか。それは────

 

 

 「鳴女ェ!!何故鬼血術を使わない!早く無限城に──」

 

 【も、申し訳ありません無惨様!先程から発動しようとしているのですが、何かに弾かれて扉を繋ぐことが出来ません!!】

 

 「なんだと…?あのリンボとか言う奴の仕業か!!」

 

 

 そう、声をかける前、男が姿を見せる前に既にこの周囲の地へと術式を仕込み終えていた。

 リンボを名乗るあの男は、最初から知っていたのだ。無惨が人では無い何らかの怪異であることを、声を掛けた時点で争いの準備は整っていた。であれば最初から滅するつもりで近付いたのだろう。

 それを知った無惨は最初の問答すらただの自らを辱める行為と理解し、額に血管が浮かぶほどに怒りを覚えた。

 

 

 『ええ、無論拙僧の術にて。まさか戦の中で敵に背を向け逃走を図るとは…お許しくだされ、拙僧は貴方を見誤っていたようですねェ!!落胆の方にですがネェエェェェ!!』

 

 

 突然、漂う式神の一つから声がしたかと思えば、耳に届くは煽り、煽り、煽り。そのまま切り裂かれた式神からも笑い声が響き、辺り一面にリンボの声が響く。

 

 

 『『『『アハハハハハハハハハハ!!!!』』』』

 

 「貴様アアアアァァァァ!!!この私に何処までも巫山戯た真似をォ!!許さん!!」

 

 【…追加でご報告を、今この山に人が侵入して来ました。一人は子供、気に留めることは無いでしょう。ですが────】

 

 

 

 【───鬼殺隊、それも()()3()()、一直線で無惨様の下へ向かって来ております。】

 

 

 

 「…ッ!!それは───」

 

 

 之こそ無惨の焦燥、急ぎリンボを排除しなければならない理由である。

 通常時にならば鬼殺隊の柱程度どうということも無い。多少時間を取られるだろうが、それだけだ。だが、この状況においてはとてもマズい。

 鳴女による移動を封じられ、日の出まで後一時間。全力で逃走しようにも、何処からともなく現れるリンボの式神。もしリンボと柱が手を組み無残にかかってくる様ならば、それは非常に危険な刃となり、無惨の命を脅かしかねない。

 

 柱が無惨の下に到着するまで恐らくどれだけ時間が早かろうとも30分は掛かるだろう。それは即ち、それ迄にリンボを倒さなければならないということだ。

 故にそう判断した無残は他の物に目をくれることも無く、一直線で気配のする方角へと駆けていく。

 

 半分の距離を過ぎた辺りで、無惨は辺りの様子に違和感を覚える。

 急に開けた場所に来たかと思えば、先程まで夏の夕刻に立つ蚊柱の如く集っていた式神が、一枚足りとも見えぬのだ。

 罠かとも考えたが時間が無い、そのまま進もうとした無惨の眼前に─────

 

 

 

 

 ───暗黒の死神が、立ち塞がった。

 

 

 




互いの勝利条件としては、
道満 無惨の殺害、又は日の出までの足止め成功、鬼殺隊が来るまで持ちこたえる
無惨 道満の30分以内での殺害、鳴女の能力が通るようにする、逃走できる状況を作る
このどれかが成し得た側の勝利ですかね。

次回、道満のマスターが判明します。
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