「・・・うぅ~ん・・・どうにかこうにか、予定通りに第二の秘鍵は回収できたな。城主様が椅子の後ろの小部屋にしまってたけど、第一の秘鍵もあそこにあるのかな・・・」
「その通りだ。つまり、森エルフ達に城の五階まで攻め上がられたら、秘鍵を奪われてしまう可能性が高いと言うことだな。ヨフィリス閣下はレイピアの名手なれど、ご病身の閣下に御自ら戦って頂くわけにはいかないからな・・・」
「大丈夫よキズメル、五階どころか桟橋にも上げないから」
「そうだよ?敵の船が十隻来ようと二十隻来ようと、片っ端から撃沈してあげるから。ワンちゃんと一緒に!」
「はは、頼もしい限りだ!」
そして、二日で僕等は秘鍵の回収を終わらせた。
「・・・キリト、アスナ、そして、カヴァス。たった二日で封印の迷宮から瑠璃の秘鍵を回収できたのは、お前たち自身の力はもちろん、お前達の性能に依るところも大きい。そして、私が何より嬉しいのは、あの美しい船に、妹の名前をつけてくれたことだ・・・妹は、幼い頃から水遊びが好きだった。九層にある都では、よく私と一緒に遊覧用の小舟に乗ったものさ。ティルネル号を見ていると、忘れていた思い出が甦ってくるよ」
「・・・」
その回収で一緒に乗った僕等の船を船につけた名前をキズメルさんはすごく喜んでくれた。
「あのさ、キズメル。ひとつ、お願いがあるんだ」
「私に出来ることならば」
それで、僕等はある相談をした。
「ええと・・・俺達の≪幻書の術≫は、船みたいに大きなものは収納できないし、だからと言って船を担いで≪天柱の塔≫を上がるわけにもいかない。次の五層に行く時には、ティルネル号をこの四層の何処かに置いていかなきゃならないんだ」
「だからね?キズメル。私とキリト君、カヴァスが五層に上がる前に、ティルネル号を、貴女に預けていきたいの。このヨフェル城の桟橋に泊めておいてくれるだけでいいから・・・」
「・・・もちろん。もちろんだとも。お前達の大切な船は、私が責任を持って預かろう。だが、一つ約束してくれ」
「なあに、キズメル?」
「また何時か、この城に来て、ティルネル号に乗せて欲しい」
「「「もちろん!」」」
それは、キズメルさんに船を預けると言うことだ。
それを受けてくれたことを、僕は、とても嬉しかった。
「ところでカヴァス」
「何?」
「あの子の名は決めたか?」
「!?」
そこで、話は、ワンちゃんの話に切り替わった。
「・・・考え中」
「そうか」
これは、キズメルさんが僕に出した課題と言うか、なんと言うかだ。
僕は、ちゃんとキズメルさんに聞いたワンちゃんの名前は何か?と。
そしたら、キズメルさんは、僕が新しくつけてやれば良いと言った。
その時から、ワンちゃんの名前について、どうして良いのか悩み中だ。
「とりあえず、ワンちゃんには悪いけど、明日のが終わったら、考える」
「・・・そうだな」
とりあえず、何もかもは、明日の事が終わってからだ。
◇◆◇◆◇◆
「キリト君!左から来るよ!!」
「ぬぉぉぉっ・・・!」
翌日、予想通り、攻めて来た森エルフとの戦闘。
「アスナ、キズメル、カヴァス、ワンコ、突っ込むぞ!」
「解った!」
「解った!」
「ワフッ!」
「了解!」
キリトさんのその合図で、しゃがんでしっかりワンちゃんを片手で抱え、船の縁をしっかり掴むと僕等の乗る船は、敵側の船の後ろに突撃した。
その結果、森エルフが十一人が乗る船が沈み、湖面に投げ出される森エルフ達は口々に喚きながら、泳ぎ去っていく。
「よし!二隻目!」
「左後ろに敵船!こっちに後ろ向けてるからチャンスだよ!」
「ら、ラジャー!!」
戦闘開始は、十六隻対八隻で始まった。
そして、今は、味方の黒エルフ側は六隻、敵側は十二隻とまだ敵側が倍ほどいた。
「カレス・オーの勇敢なる兵士達よ!卑劣なダークエルフどもを、湖の藻屑と変えてやれ!奴等は、人族と手を組んで、我らの城を攻め落とすための船を造っていたのだ!幸いその企みは破れ、船は我らのものとなった!この機を逃してはならぬ!!!」
「・・・」
そこで敵の指揮官らしき人が叫ぶ。
自分達がフォールンエルフに頼んで、船を造らせていたくせに何を言うんだって僕は、思った。
「キリト君、気付かれたよ!」
「三隻目っ!!」
その間も敵の槍を払いのけつつ、敵の船を僕等のティルネル号に付いた衝角を使って、沈めていく。
「まずいな・・・」
「そこの小舟!ぐすぐすしてないで、敵の別働隊を止めろ!」
「な、何よその言い方!」
けど、やっぱり、数の違いは歴然で、とうとう、三隻ほどの敵側の船を城の桟橋への接近を許してしまって、こちら側の指揮官から怒号がこちらに飛ぶ。
「くそっ、やるしかないか!」
「構わんキリト、真ん中の船に突っ込め!」
「り、了解!」
それと、キリトさんとキズメルさんの判断で猛スピードで三隻横並びに並ぶ敵の船の真ん中の船に突っ込んで、その船を沈めた。
「キリト、アスナ、右の船に飛び移って漕手を叩き落とせ!左の船は私とカヴァスに任せろ!」
「うえ!?」
「了解!?」
そして、キズメルさんの指示で、残りの左右の二隻の敵船に、右にはキリトさんとアスナさん、左には僕とワンちゃん、キズメルさんがほぼ同時に飛び込んだ。
◇◆◇◆◇◆
「キズメル」
「ああ」
僕等は敵船に乗った人達を湖に叩き落としたり、櫂を破壊したりしたは良いけど、まだまだこちらの不利な状態は変わらなくて、このままでは、お城に攻め込まれるのも時間の問題だった。
「キリト!作戦変更だ。沿岸から上陸して城門で迎え撃つ!」
「迎え撃つにも数が・・・城内の神官達は戦えるのか?」
「戦闘を一度も経験していない奴等だ。難しいだろうな」
そこで、船に戻った僕等。
キズメルさんはキリトさんに作戦の変更を伝え
「三人とも聞いてくれ!」
「・・・」
そして、キリトさんは新たな作戦内容を僕等に伝えた。
「私は大丈夫だが・・・」
「僕も平気!アスナもキズメルもワンちゃんもいるから!」
「ワフッ!」
「私も平気よ!」
「無理はしないでくれよ?一か八かの賭けみたいなものだから、危ないと思ったら、迷わず逃げるんだ」
「わかったわ。」
「よし!飛ばしていく!振り落とされるなよ!!」
で、キリトさんが僕等に伝えた作戦と言うのが、桟橋で、キリトさんが援軍を呼びに行ってる間、僕等、三人と一匹で、攻めて来る森エルフ達の攻撃を耐え凌ぐことだった
◇◆◇◆◇◆
「悪い、ちょっと遅れた!」
「キリト!」
「こっちは大丈夫!でも、船の方が・・・キリト君の方はどうだったの!?」
それから五分。
森エルフを十八人から十人まで減らしたところでキリトさんは戻ってきた。
その間、一緒に戦ってくれていた六人の黒エルフは三人に、船の方も一応、四隻残ってても各船三、四人ほどしか残っていなかった。
「私は、リュースラの騎士にしてヨフェル城主、レーシュレン・ゼド・ヨフィリス!!」
「!?」
「リュースラの兵士達よ!私は、いまこそ長きにわたる不在を詫び、そして、そなたらに、こいねがう!この戦いには、王国の未来が懸かっている!女王閣下のために、友と家族のために、いまひとたび立ち上がり、私と共に戦ってくれ!」
そんな状況下で、僕等の後方から、その声が響いた。
聞き覚えは、当然ある。
キリトさんが援軍として呼んだのは、このお城の城主さんで、その声が響いたとたん、一瞬、この場は静寂に包まれ、雄叫びのような歓声が広がっていった。
そして、僕等のHPバーの上に、剣マーク、盾マーク、黄色い爆発マーク、四つ葉のクローバーのマークが、浮かび上がり、なんだか、身体の奥底から、力が沸いてくるような気がした。
「よしっ!いくぞアスナ、カヴァス!!反撃の時間だ!!」
「ええ!」
「うん!いくよ!ワンちゃん!」
「ワフッ!」
自分でも厳禁だなって思うけど、そのお陰で、負ける気なんか一切しなかった。