Mercenary Imperial Japan   作:丸亀導師

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敗れた者は棒で叩け

欧州では没落した国を死体蹴りするのが、文化的なことである。際限無く賠償を払わせ、その国の内部がズタズタであろうとも何の感情も無く、ただただ自らの欲望のためだけに全てを喰らう姿は、聖書の神のように自分勝手だ。

 

自ら血を流したものは別に良い、何より他の国を助けた国ほど選り好みをしても良い筈…なのだが、どうやら会議が紛糾しているようだ。原因を作り出しているのは、東の大国ロシアである。

 

ロシアは、ポーランドのドイツ側領地の帰属問題を持ち出してきたのだ。

要するに自分達が占領したのだから、そこを自分達に渡せと言うことだろ。それに、念願の不凍港をバルト海に持つことが出来る事から、躍起になるだろう。

 

それに対して真っ向から反対したのは、日本帝国だ。今回の戦争、ポーランドは陰ながら連合の勝利に起因していた。

ドイツ国内に潜り込んでいるスパイにはポーランド出身のものも多く、日英はそれ等と協力し内部から同盟軍を崩壊に導いていた。

 

流石の英国も欧州の国々との約束事はある程度護らねば、次は我が身の可能性すらあるのだから、ロシアに反対を表明する。

それに、日英にとってロシアは仮想敵国であり一時だけの協力など、最早この時に必要ではないのだ。

 

だが、ロシアの後ろにはフランスが存在しこのままでは第二ラウンドを始めるのでは?と周囲がピリピリと警戒している。

日英としては、それでも構わない。やるなら徹底的に、ロシア内部で革命を起こす事など容易い。

その時は、未だに力が残っているオスマン帝国を引っ張り出して、挽回の機会を与えてしまえば良い。

 

そうやって、日英が考えている事を知ってか知らずかルーマニアが話を始める。 

オーストリアの突出し、国土に食い込んでいる部分の割譲を、要求するようだ。それくらいなら別にどうでも良い、喜んで切り取りしてもらおう。

 

各国もさながらパイの取り合いのように、切り取りを行うかと思うだろうが、同じ欧州。民族的な対立を嫌という程知っている。故に、それぞれ自分たちの民族が住む場所を切り取った。 

 

日英に旨み無し、対立構造など殆どの民族とは無い(直接的な関わりが薄い)故に技術や特許等をとってしまうか、と考える。

二国ともどちらかと言えば、技術者等の間接的国益となるものが、欲しかったりするわけだ。

 

さて、それぞれが欲望を満たした後次に賠償請求と言う事となる。

早速フランスが法外な額を提示すると、我先にと賠償金を積んでいく。

あれよあれよという内に、国家財政の数百倍という財政破綻待った無しと言う状態になっていく。

しかも、何の役にも立たなかったどころか、戦争にすら参加していないスペインがちゃっかりと混ざっているではないか。他には清やポルトガルまで。

 

流石に日英はふざけるなと、何もしていない連中はここから出ていけと言い放つ。血を一滴たりとも流していない奴らに、そんな資格は1厘も無いのだ。特に清、何の関係もないのにこんなところに来るとは、一体誰が招待したのか?フランスだ。

 

ドイツをそれ程憎んでいるのか?完全に立ち行かなくさせる腹積もりであろう。

だが却下である、どうせ清からも色々な方向から毟り取るための準備であろうが、あそこには絶対に進出させない。

結局、スペイン等の非戦闘国は辞退した。

 

結果としてドイツは2270億マルクの賠償金を、オーストリアは国家の解体、オスマン帝国は領土の縮小を余儀なくされる。

特にドイツの賠償額は払いきれるものではないため、無期限にする事を日本が提案しそれを議決する。

 

 

1919年8月・後にヴェルサイユ条約と呼ばれるこれは、次の戦争の引き金になるが、それは当時の人々には解らない。

 

 

ヴェルサイユ条約発行後

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

さて、世界に次の難題が降りかかろうとしている。

それは、オランダに駐留していた米軍の一兵卒がとあるバーによった時の事だ。

友人と共にそこに入った彼等は、カード等の賭博をやりつつ酒を煽っていたのだ。その時、彼は倒れた。駆けつける友人、彼は途轍もない高熱に侵され数日後命を落とす。

歴史の深いその土地の名をとって〘ホールン風邪〙と呼ばれるこれは、世界に広まった。後のA型インフルエンザである。

 

勿論日本帝国軍の者も感染し、発症する前に帰国の途に就いている。シベリア鉄道経由で帰還途中、車内で倒れ意識不明となるも回復する。

同じ部屋を割り当てられた者達は一週間の内に発症するが、皆対処療法にてなんとか持ち直す。体力に余裕があるからこそ成し遂げられた。

 

更に季節が味方をする。彼らが帰国の途に就いたのは、4月である。季節として、次第に暖かく湿度の高くなる時。従ってインフルエンザウイルスは、そこで押し止められる。

勿論数名に感染者が出るものの、本国に到着したらすぐに化学兵器研究所によって、研究のサンプルが採られる。そう、古くからの防疫拠点であった四方の出島で。

 

では、日本国以外の国はどうだったのだろうか?

それはそれは猛威を振るった。発祥地である米国では、短期間の内に数百万の感染者が出ていたという。もっとも、風邪との見分けはあまりつかないため治るものもいれば、そのまま絶命するものもいる。終息するまでに200万人が命を落とした。

 

英国では島国であったが故に、隔離という方法をとって感染を最小限に留める。

それだけではなく、ワクチンの開発を進めていた。

 

フランスやドイツ等の大陸国では酷い有様だ、人の口に戸は建てられない。比較的乾燥している地域に、クシャミや咳等で感染は容易に拡がる。

医療崩壊が起きていたドイツ国内は地獄のようなもので、道端に死体が置いてあるのが常態化した。人口の1割が死亡したと言われている。

 

当時まだヴェルサイユ条約の製作中であり、そんな議論の中に起きた出来事だった。無垢の民が病死していく姿に、征服者としての日本は酷く心を痛め(少ない人の心)、統治するのならば妥協せねばならぬなと、ヴェルサイユ条約の内に、日本から同情の意を込めた賠償金の無期限というものができたのだろう。

 

地獄のようなドイツから更に東に向かうと、半分ほど復活したポーランド。そこもまた、同じく地獄である。だが、彼等にとっての天国がこの後に始まる。

 

ロシアで大量の死者が確認された。

そこまでは良い、それからが問題であった。

最初は小さな集会があった、そこから集会は徐々に人が増えていき、そして一隻の戦艦が反乱を起こした。そこから反乱は軒並み拡がっていき、1920年3月には内戦が始まった。

 

自然に始まった内戦はロシア各地に拡がり、多くは皇帝派と共産派に別れ互いに血を流した。

だが、そんな血が流れても地獄のような風邪は留まるところを知らない。

 

ロシアがそんな中、ポーランドはこれぞ天命かと地獄の中に活路を見出した。

ポーランド国内には、意外にも優秀な医者などがいたのだろう、インフルエンザの影響はロシアほど受けていなかった。

 

ロシア領内のかつてポーランドであった場所を一挙に占領していく。他の国々、特にルーマニアは好気と捉え、ポーランドを支援する代わりに、共に領地を広げた。

多くの雑多な勢力が乱立する中、皇帝ニコライ二世とその家族はソヴィエト社会党に捕まり、数日後射殺されるも一人だけ姿を発見されなかった。一人、アナスタシア王女だけがいない。

 

それもそのはずその時、アナスタシア王女はウラジオストクにいた、もっと言えば船の上。日本への訪問へ行く途中にこの革命が起きたがために、彼らの思惑は惜しくも中途半端なまま進む事となる。

 

 

1920年11月革命時勢力

 

 

【挿絵表示】

 

 

日英は、これを好気と捉えた。どちらに味方するか、得体の知れないソヴィエトか?はたまた傀儡にしやすい王女か?

それとも両方に付いて、内乱を長引かせて少しずつ搾取するか?

 




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次回長門型戦艦(長門型とは言ってない)出します

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