Mercenary Imperial Japan   作:丸亀導師

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中華内戦

皇居の周辺は皇宮警察によって監視されている。日夜巡回が不規則に行われ、不審者が居れば場合によっては直ぐに捕まり、警視庁の方へと連行される。

そんな場所に、一人の黒髪のゲルマン系の男が平川門の方から、風景画を描いている。今や写真のある時代、風景を映し出すだけなら写真でも充分な筈なのだが。

 

そこへ一人の青年が話しかけた。

 

「こんなところで絵を描くなんて、変わっていますね」

 

『何を言っているのか解らないが、私の絵の批評をしているのか?』

 

互いの間に沈黙が訪れる。

 

『これは失礼しました。ドイツからお越しになられたので?』

 

いきなりドイツ語を、話し始めた青年に目を向けびっくりしたかのような表情をしている。

 

『そうだ、私達が負けた国を見てみたいと思ったのでね。この国は、建国以来負けたことがないと聞いたが?』

 

『厳密に言えば、自国の領土を失うような敗北はしていない、です。負けたことが無い国なんて、この世には存在しません。

それにしても、少しノッペリとした絵ですね、もっと奥行きが欲しいんじゃないですか?』

 

その言葉を聞いてギロリと彼は青年を睨む

 

『やはりそう思うか、絵描きは向いていないか…昔ウィーンの学校でも同じ事を言われたよ。君は画家よりも建築家の方が向いているとね、中等学校を卒業しておいて良かったと思うよ。

そのおかげで、今もこうして絵を描ける。』

 

「あっそう『建築家さんですか、では仕事でこちらに?』

 

それを聞いてクシクシと頭を筆の軸で掻く、何やらここにいる理由があるようだ。

 

『それがですね、元々は清国で建築物の設計を頼まれていたのですが、内戦になったとか。それならば、安全な方へと言うことでこちらに…もう、戦争はコリゴリだ。自国の化学兵器にやられましてね、あれは酷かった。』

 

『大変だったのですね、どうでしょうかこれから何処かへお茶でもしに行きませんか?私もこうやって誰かと話すのは久しぶりですので。』

 

青年の挙動は少々おかしかった。目深にハットをかぶり、スーツでこんなところに長居するには。

 

『良いですね、では少し待っていてください。』

 

『ありがとうございます。江戸、案内させていただきます。』

 

二人は何処かへと消えていく、そんな中皇居の中では大騒ぎが起きていた。迪宮様が何処かへ消えてしまったと。

 

 

 

清国は滅んだ…内部の腐敗によって自壊したのだ。力を失った皇帝よりも、軍閥の発言力は上昇し各地で暴動をお越し、警察力の無くなった清国内は、深刻なまでの治安の悪化が起こった。

 

それはそうだろ、まともな統治機構が崩壊したのだから治安を守る者も無く、犯罪を取り締まることが出来無い。

それに、法もなにもないのだから正しく無法地帯と言うわけだ。

では何故そこまで深刻な事になったのか、それを説明していこう。

 

 

その昔、日明との戦争に破れ東南アジアでの求心力を手にしそこねた清、経済的にも貿易はシルクロードを介するものしか無く、海洋進出は日明の影響もあり、その殆どが行われなかった。

そこからして財力は少なく、外国からの圧力へ屈しやすかった。

 

時代が進むにつれ内部腐敗が始まると、そこへ来て北からロシアが攻め寄せる、最早これまでか?と、清国は覚悟を決め戦争を始めようとしたとき、突如として進軍は止まり幸いにして侵攻は満州までで済んだ。

 

この時、ロシアが止まったのは日本国との間に武力衝突が起こったからであり、本当に偶然の産物出会ったと言えよう。

だが、清国の民たちはこう思った『我々には、天帝様がついている。だから、奴等は止まったのだ。』

なんとも中華思想らしく、自分たちの理想を押し付けるような考えだ。

 

力は無いが、人口だけは多いため英国が商業を持ち込んだ。

だが、長い間対外的な大口貿易を行ってこなかった為か、英国に対して自分たちの利益が多いように通商契約を取ろうとする。

税金ばかりが高く、旨味が少ない貿易に英国の商人は次第に足を止めなくなっていく。

 

これでは不味いと、税率を大きく下げて止めようとするがそれがいけなかった、英国はドンドン税率を下げていく。終いにゃ関税自主権を握りつぶされ、銀の流出が始まった。(アヘンを一切売ってない)

 

そのまま1860年ごろ、太平天国の乱が勃発した。太平天国軍を前に清軍はまともな対応が不可能となった。そして、日英に泣き付いた。この時、太平天国軍は明に対して宣戦布告なき攻撃を行った。それに対して明は、清国に対して武力介入も辞さぬ事となりでは自分もと、日本は介入に関して前向きであったこともあり、清へと進駐していく。

 

その過程で英国は自国の勢力が及ぶ経済圏を、自国の植民地に指定し、清国から割譲すると経済政策を始めた。

結局、そこから清国の外貨獲得手段は少なくなり経済は最悪の状態となった。しかも、穀倉地帯を失ったことにより経済の低迷は加速していく。

 

その不満があったのだろう、各地の種族主義が加速度的に増え今度こそ止められないこととなった。これが、清国の空中分解した理由であった。

なにより内部での諜報活動は張作霖によって行われ、実質的に日本の工作によるところも大きい。

 

 

 

日露戦争の頃から日本との協力関係にあった張作霖は、北洋軍閥

の内部に浸透後、袁世凱の後を継ぎ北洋軍閥のトップへと躍り出ると彼は兼ねてからの計画の素清朝に対して反旗を翻した。

 

内戦前

 

【挿絵表示】

 

 

 

内戦中

 

【挿絵表示】

 

 

 

自らの統制する北洋軍閥の力により、瞬く間に北京〜満洲迄を勢力圏に治め、実質的な大陸の覇者ではあるが思想的なぶつかり合いの前に、纏まるものも纏まらず。戦線は膠着状態となる。

そこで、張は日本国へ支援を要請した。

 

もっともまともな思想を持っていた張であるが、日本は彼へ一定の警戒をしてきた。

更に先の条約後の影響もあり、直接的介入に世界的にいい評価を得られない可能性があった為に、手を上げて支援を行うことは出来なかった。

 

そこで、退役軍人を中心に設立された民間軍事会社

「Road guide」

に、張作霖軍に対して戦術の教授。いわゆる戦術顧問団として、雇われる形となる。

 

日本の戦闘方法の殆どは、高い識字率と教養の名の基に行われる非常に高度な浸透戦術である為、最初の内はその成果を疑問視する声があった。

それは、そうだろう。なにせ、中国の軍閥は今の今までまともに戦争を経験するどころか、対外戦争を行ったのは1860年が最後。

実戦経験を積んでいる者たちは皆無である。

 

彼等が到着したときまず最初に始めたことは、日本の保護国に対する行いのそれであった。

 

まず、識字率を上げる事に努めたのだ。中国語は皆漢字であるため、非常に覚えるのが非効率であった。そこで、音読みに相当する部分にカタカナを、名詞に相当する場所に漢字を割り当てる事によって学習の簡略化に努めた。

 

数年の内に識字率が50%に達すると、機動戦闘が可能となっていくがそこはまた別の話だ。

 

張作霖は喜んでこの支援を受けたのだが、彼の参謀たちは気を良くしなかった。

相手は軍人崩れ、即ち正規の軍人ではないのそれに従う通りは無い、それでも『張さんが言うのなら…』と言う事で渋々従っていた。

 

中国国内の内戦は、意外なことに大規模な戦闘に発展していない。これは張の後ろに日本の影を見たが為か、それとも何かしらの支援を受け取っている可能性があるためか?

だが、誰が支援をする?既に東アジアは、日本と英国の分割によって成り立っているというのに、少しずつ英国への不信が積もっていった。

 

日本が東部でそのような事をしているのとちょうど同じ頃、一つの国がその生涯を終えた。

ホイ共和国…ホイ族が中心となって作られた多民族国家が、この中華内戦の煽りを受け、チベット王国に併合された。

 

これは、両者合意の上の出来事である。互いに中華内戦に巻き込まれた場合、生き残る確率を少しでも上げるために行ったのだ。これに口を出す国は皆無であり、大局への影響はそれほどあるものではなかった。

 

 

 

 




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