Mercenary Imperial Japan   作:丸亀導師

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棋譜はピヨ将棋を使用しています。

何故家康は、名人制度を創ったのか。私なりの帰結です。


軍事と将棋

1995年1月、駒台の上にパチンと1六に桂馬が打たれ、後手はうめき『負けました』とハッキリとした日本語で負けを認めた。

第50期王将戦、遂に4冠王は負け王将はそのタイトルを防衛した、こんな事もう二度と起こらないだろうとコメンテーターが話し始めたところで、テレビを消した。

 

私が何でこんなものを見ているのか、それは単に暇だからだ。私が住んでいるここ、ノリリスクは人口が3万程度の都市だ。

冬場は太陽が殆ど登らず、基本的に12月の後半からは学校が休みになる。友達の家に行くのも良いが、一人で行くことはあまりお勧めされない。凍死のリスクがあるから、自然と近場の友人宅に行くことが多くなるのだ。

 

だからこうしてテレビを見てたんだけど、今日の番組はちょっと変則的で将棋特集だらけ。

どうやら、4冠王と呼ぼれている人が最後の5つ目のタイトルを掛けて、タイトル保持者と最後の戦いをするとかで大日本帝国加盟国の間では大変な騒ぎとなっているらしい。もっとも、私はあんまり知らないけど、アチェーツは気になっているようで、早く書類を片付けようとしていた。

 

バタバタと音が聞こえバンッと言う音と共にドアが開く。

 

『どうだ!間に合ったか!?』

 

私は無言で首を横に振る、ガックシと項垂れるアチェーツ。

 

『えっとじゃあ、どっちが買ったんだ?』

 

『王将』

 

『まあ、無理だろうなぁ。気迫が違ったもんな、地震からこんな立ち直り方をさりちゃあ、勝てないよ。』

 

ふぅん、そんなに面白いのかな?ボードゲームって古臭いイメージがあるし、学校の必須科目でやってるから難しいのは知ってる。

 

『ねえ、棋士ってさ何の仕事してるの?』

 

『あ?そうだな、例えば4冠王は軍事作戦における戦術と、それの対応策に関する研究とか、後は野戦における簡易要塞線の構築なんて論文を発表したりしてるな。』

 

 彼等棋士は軍師の役割を担う日本独自の官位のようなものだと言う。

基本的に師団規模での運用を考案し、平時には研究者や研究の責任者をやらされている人達だ。参謀もそれに該当するらしい。これがプロ棋士。

 

その実力を試すために、タイトル戦なんかも開かれていて短期的な脳の瞬発力を測る10分将棋後30秒の天将戦。

長期的な集中力を必要とする2日制の名人、王将。

平時の通常戦闘を想定した、一日制の棋聖、期王戦。

なんかがあるらしい。将棋人口は6億人、その中でプロだけがなれるらしい。実際アマチュアと戦えばまず、負けない。

 

『4冠王は万能型だ、もしかしたらと思ったけど。流石に無理だな。』

 

もしも、戦争中にそんな人が戦っていたらどれ程強かったのだろうか?

 

 

 

 

 

1931年

将棋大会が毎年開かれる。

軍師会と呼ばれるそこには、陸海問わず尉官から将官まで様々なものの姿がそこにあった。

基本的にはそれぞれの科の仕事をしながらも、実践を想定しつつ将棋でそれを試すと言うのが、この会の主旨なのだが昨今は少し状況が違う。

 

時代の流れによって兵種が増え、結果的に対応不可能なものが出てくる。そのため昨今では完全な力試しのための競技となっている。

その為勝つための研究にも余念の無いように、仕事そっちのけで考えてくる始末。正直考えどころの多いものだ。

 

パチパチと周囲から聞こえてくる音を聞きながら、私も席に座るとどうやら相手方は若い尉官のようだ。

この場では、どちらが強いかと言う真剣勝負を行うためいかに上官と言えど加減無用である。

 

因みにこの大会で負け越すと、師団や連隊等の部隊長から引きずり降ろされる弱い奴は必要ないと言う事だろう。

もっとも、実戦でそれが出来るかどうかはわからないが、実際に200年以上行われているのだから、あながち間違いではないのかもしれない。

 

っとどうやら先手の彼が仕掛けてきたらしい。急戦模様か、急戦は得意だ。

因みに、急戦が得意な奴は基本的には前ならば騎兵科に配属になっていた。今では歩兵科の戦車部隊、もしくは機械化歩兵と言ったところだろう。

 

 

ただ、昨今の情勢から将官クラスよりも参謀として、つまりは佐官としての実力が試されると言うのが大きい。

将官はもっと大きな目線が必要となる、それこそ国家間のやり取りを前提とした戦略だ。そこにボードゲームが介在する余地はない。寧ろ、全体的に平均値よりも上でなおかつ周囲の意見を取り入れられるかが、鍵となる。

 

私は将官になったが故に本来はここにくる必要は無いが、こうやって若手と戦うことでどれだけの実力があるのかを見て、誰がどんなものに適しているのか?何てのを見る指標にできるというわけだ。

 

さて、彼から仕掛けてきた将棋だが中盤まで私は押され気味であった。

 

【挿絵表示】

 

 

しかし、彼は焦っていたのか暫く進めていくと彼の駒が足りず私に手が届かない。

そこで私の反撃が開始され、次第に形勢はこちらが良くなっていく。

 

次に私は6七馬と成り駒を陣に寄せていった。ここで彼は歩を打ってそれを止めようとしたが、それは悪手だ。

 

【挿絵表示】

 

 

次に8七歩から詰み筋が存在している。その事に気が付かなかったのだろう。そこから私は1分事に寄せて行き、最後に7八産まれたと玉に当て投了となった。

 

序盤は彼に主導権を握られる形となっていたから、慢心さえなければ勝てただろう。まだまだ、若いのだ。

それに、これだけ出来れば同じ歳の頃の私よりも強いのは明白であるから、これからが楽しみというものだ。

 

もうすぐ夕方となる頃に将官達が集まって優勝者に表彰を行う。金一封だ、私は一度も貰ったことがない。

(※軍師会が後に天将戦と呼ばれる事になる、短期型の戦いである。)

 

これが終わると数日後に机上演習が行われる。優秀者と我々の全面戦争だ。基本的には、我々は完膚なきまでに潰すように戦術を練っているので、何処まで粘る事が出来るのか。そして、自分たちに足りないものは何か、それを見つけ出す事が出来る。

この年もまた、良い方向に向かえば良いと思うばかりだ。

 

 

 

 

名人戦というものもあるが、現在は形骸化している。国土が広すぎて、そんなに時間を裂く事ができないのだ。

いずれ航空技術が発達すれば、自ずと行えるようになるやもしれない。

 

 

まあ、何にせよこれで軍部の流れが全て決まる訳でもなく評価の一形態に過ぎないのだから、各々の仕事をするのが好ましい。

それに、平時には必要なものは研究者や軍政家であって、戦闘のプロである必要はないのだ。

 

その時はその時で、階級を速やかに与えられるようにするのが、私は好ましいと思っている。なにより、そう言う軍師タイプのものは基本的に野心を持って行動するものが多い、それを抑止するためにも構造改革が必要ではないか?

 

提案をしてみるのも良いだろう。何、階級はあるのだ後は人脈で出来るところまで、やってみるのもいいかもしれない。

アマチュアの参入も考えてみれば良いな、互いに切磋琢磨出来るならば一石二鳥だろう。

 

と、そこまで考えて1932年の1月頃中央アメリカに位置するメキシコと合衆国の間に緊張が高まり、戦争一歩手前になってくる。

原因は何かと言えば、合衆国内での株価暴落であろう。もっとも世界的な企業が無いので、世界にこれが波及することもなく日本は平穏無事であった。

 

目出度く大会は中止、これ以降準戦時体制へと移行することとなり完全に無くなる。

大会の再開は戦後以降で、その時には私は60を超える。

フェイドマスター制度を取り入れ、4つの区分に分けそれぞれの場所でタイトル名を決める。難易度は非常に高くなるだろうが、全てを征する者が出てくる事を願う。

 

名人・天将 日本

棋聖    北米

王将    南米

期王    ユーラシア中央

 

 




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