Mercenary Imperial Japan   作:丸亀導師

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溝と軍拡

1995年夏

あちゅい、暑い、すごく暑い。この気温なんとかならないのかしら?なんて言えば良いんだろ、サウナ?嘘でしょ、こんなにも暑くなるなんてノリリスクってもしかしなくても涼しいんだなぁ。

あ~、溶けちゃいそう。

『ニーナ、大丈夫かい?そんなにぐでっとしてしまって、熱中症じゃ無いだろうな?ほら、スポーツドリンクを飲むんだ水分補給は大切だぞ。』

 

『ありがとう「おじいちゃん」…それなに?』

 

手を見ると何やらビニールに入っているものが、何それ?

 

『ねぇ、それなに?』

 

『これかい?これは小豆○ー、アイスキャンディだ。食べるのは初めてかい?向こうは寒いからなぁ。』

 

甘い、それになんだろう?ザラザラ、サラサラ?そんな食感だ。

 

『兄貴が贈ってきてくれたんだ、ニーナの欲しがっていた資料と一緒にね。どうだ、美味いだろぅ?』

 

と言いつつ一つの本を取り出して、机の上に置いた。

 

『俺の死んだ爺さんの手記だ。もっとも、お前に読めるかは解らないけどな。勉強がてら読んでみるのも良いかもしれんな。』

 

そう言うのを尻目に、本を開けてみる。何やら書かれている文字は馴染みの薄い、漢字と呼ばれるものがちらほらと…読めない。

そこでふと?ヂェードゥシィカの顔を見た。

 

『ヂェードゥシィカって、日本出身だったの?』

 

『おやおや、この顔でわからないか?』

 

いやいや、だってその顔どちらかと言えばダビデ像とかローマ彫刻みたいな顔だから、てっきり。

 

『ずっとラテン系の血筋だと思ってたのに。』

 

『おやおや、名前はトシオ ペトロフだぞ?確かにロシア語明記にして、意味も若干変えているがわからなかったのか?勉強不足だぞ!』

 

ウ~ン?いやいや、こっちでの名乗りはアレクサンドル ペトロフでしょ?表札にもそう書いてあった筈、まさか。アレクサンドルってセカンドネーム?いやいや、常識外を付いてくるのか。

 

『そうだ、俺は日本人だったんだ。父親と離縁してね、その後、お前のお婆さんとであったんだ、爺さんだけは俺を庇ってくれたようだけどな。』

 

私にも日本人の血が流れている?ヂェードゥシィカ、冗談は言わないよね。

 

『さ、お勉強の時間だ。』

 

 

 

 

 

1933年夏

あれから一段落したと言う所だが、問題はそう単純なものではなかった。対立構造が完全に露呈し、国連内での軋轢は想像以上に浮き彫りとなった。

基本的には植民地を持った国やそれに迎合する国と、連邦制ないし帝国制を制定し見かけ上の独立を行わせた国の対立。

 

要は

 

日英+ヨーロッパの中小国

      対

仏ソ米+ヨーロッパの中小国

 

である。

 

ここでもっとも大きな問題は、ヨーロッパ中小国というものはバルカン半島の国々だ、彼等はあまりにも対立しすぎていた。

その為、この後に待ち受けた戦争は非常に苦しいものとなる、この時はまだ誰もがあんな事になるとは思わなかった。

 

まあ良い、対立はハッキリとして仏米ソの接近が表面化し日英はそれに対してさらなる力を求めた結果、一つの解答を出した。

独逸への経済、軍事等あらゆる方面からの支援である。

これより始まるのは、軍拡競争。止め処なく走り続けるしかないマラソン…

 

国連の内部は紛糾していた、誰が悪いだ悪くないだと議論の内容はまるで学校のお遊戯のように移ろう。

そして、軍縮を進めようとすると反対意見が飛び出しそれに悪乗りするかのように、国連を脱退する者たちも現れる。

最早それを止めるすべはなく、世界は二分化していくもしも次に戦争が起きたなら、それは一度目の比にならないほどの被害が出る。

 

誰もがそれを予想する、それでも歩みは止められない。絶対的な力を持つ神という存在が、本当はいないと誰もが知っているから、天罰は来ないと誰もが知っているから。

そう考えれば、中世はどれ程〘平和〙であったことか。

 

 

 

そんな中、海軍の軍縮は明け各国は戦艦の建造を始める。それは日本も同様で、新型の戦艦の建造が開始された。

全ての国がほぼ同時に建造を開始する姿を、当時の人々はこう評した。〘鱒の産卵〙

 

何故今になって戦艦を建造するのか、一つは石見型の老朽化と戦力としての火力の不足に起因する問題。

そして、もう一つが最重要であった。この戦艦は新機軸の技術のテストベットであるという事だ。

 

レーダー開発は着々と進んでいたが、それを搭載するには巡洋艦では小さ過ぎた。そのためには、大型艦が必要となった時たまたまこいつに白羽の矢が立った。

世界初のレーダー搭載艦、だが正直な話このレーダー厄介物である。

 

何処がどう厄介かと言えば、全てにおいてであろう。大電力を喰う割には、その探知距離は30kmに満たずお世辞にも目視より良いものではない、それに壊れやすいと来た。だが、コイツのおかげ後に製作されるものの性能は格段に良くなるのだから侮れない。

きちんとしたテストベッドとしての戦艦がそこにあった。

コイツは1936年末の完成を目標とされた。実験艦という側面からか、その建造数は2隻に留まり海軍はその影で空母研究をより加速させる。

 

 

 

その最中、特に艦載機分野に置いて複葉機の限界というものが見られ始める。そこで海軍は、艦載機の全面的な単葉機化を推し進めていく。

一方で陸軍は成約の少ない中で、航空機の開発が進み海軍用機よりも、幾分か性能の良いものが誕生しつつあるものの、未だ満足するものは出てこず、正式となったにもかかわらず量産が取り止めになった機体も出ていた。

 

そのおかげか旅客機開発を行っている民間企業は、払い下げられてくるそれらの新機軸の国内での安価な特許料から、様々な物を作っていくのだが、あいにく私には専門外のためわからない。

 

 

 

航空機がそんな感じで加熱している中、我々車両開発陣もまた先の戦闘から戦車の限界を痛感していた。

メキシコと言う山岳地において、戦車はその重量からか?いや、〘車両〙と言うものの特性だろう。そこから、進軍時の制約を露呈させた。

 

ありとあらゆる地形を踏破出来る人間の足と違い、あまりにも急な勾配は登ることは出来ない。そのため、進軍速度が低下するのは仕方のないことであった。

これはサスペンションの地形に対する追従性の問題と、出力に対して過大な重量からの問題であった。

 

とは言え、エンジンと言うものは早々改良が効くものではない、何より大きさが違うものを積めば逆効果になることもある。

だが、サスペンションの方は研究が大分進んでいたからか、代替えのものが直ぐにも開発されると、生産はそちらに向いていく。

リーフスプリングから独立懸架式へと変更となった。

 

車内容積は圧迫されるだろうが、被弾には強くなるし地形の追従性は良くなる。

原型はあまり無いが、これが良いというのが用兵側なのだから仕方がない、だがコイツは主力には成れないだろう。用いるならば、歩兵直協用だなと。今でもその判断は正しいと言える、コイツはしっかりと歩兵と共にあったのだ。だからこその、臨時量産型の94式、だが時代には確実に取り残される。

 

ならばと、割り切った設計にしよう。装甲?戦車とは戦うことを想定しない、ならば脚だけを強化しよう。本来の構想とは違うものだが、それを担う者は既に形が出来ていた。

後は砲塔だけだと。

それから出来たのが95式である。

 

 

【挿絵表示】

 

 

割り切るのが一番だ、中途半端は事故のもとだ。

どうせアレが完成すれば、対戦車戦闘はアレが肩代わりする限定的な能力さえあれば良いと。そう一人つぶやいて。

 

 

少々熱くなってしまったが、まあ陸軍で出た問題は後を言えばやはり一人一人の戦闘能力の向上だ。

それには大きな問題がある、軍隊の格闘技はきちんと整備され最早強化しようもなく兵器も、不具合と言えるところも次第に更新されていく。

 

ただ一つ残るのは、防御面だが果たして方法が無い。有るにはあるが費用対効果は限定的で、さらに意味がないと言える。

材質はシルク、絹で出来た防弾衣正直言って腐る、倉庫の肥やしになると言うよりも保存していると、虫食いだらけになる事から誰も軍事用として正式採用しなかった。しかも拳銃弾しか防ぐことは出来ないのだ。こんなものどうすれば良いと?

 

諸外国でも似たようなものだ、防弾衣の開発は我々の世代の最後の課題だろう。金に物を言わせても作れないものは作れないが、そんな中アメリカだけがとある化合物を作り出す。恐らくは偶然の産物だったのだろうそれは、ポリアミドと言われる。

 

 




誤字、感想、評価等よろしくお願いします。

風邪って怖いですね、コロナと同じ症状だったからヒヤヒヤしました。

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