Mercenary Imperial Japan   作:丸亀導師

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傭兵を生業とする軍事国家、日本帝国。
彼の国は、広大な領土を保有する大国ロシアとの戦争を行っていた。

未だ誰も経験したことのない、途轍もない戦い。
要塞に悪戦苦闘しながらも、軍事国家の名に恥じぬ対応の素早さで適応していく。
失敗は糧となる、より強くより凄惨に如何にして敵の心を挫くかただそれだけの為に。



大国として
日露戦争


旅順要塞の攻略。それは近代的な要塞を相手取った、人類で初めての要塞戦。

それは手探りの戦いで、暗闇の中を電灯無しで歩き迷路を突破するようなものだろう。

日本軍は正にその様なものへと、足を踏み入れていた。

 

山の上に築かれた要塞は非常に堅牢で、ただ突撃をするだけでは崩れることを知らず。

砲兵からの支援を願うも、それだけでは瓦解せず。

塹壕を掘り、次第に近付く敵陣地、されども有効打は無くただ突撃するだけと、観戦武官等は考えた。

 

事実一度目の総攻撃の折り、日本軍は多大なる犠牲を払っていた。たった数日で5000名余りの人間が、この世を去ったのだ。正直どうかしているように思えてくる。

しかし、それでも前進出来ている事を考えれば、よくやったのだろう。

 

だが、第二次総攻撃時それに変化が現れていた。日本軍が、何やら不思議な動きを始めた。一心不乱に土を掘り溝を作っているではないか。

 

更に、砲兵火力の届かぬ所に、何故か噴き上がる噴煙は、何やら砲弾の着弾した様にも見えた。吹き飛ぶ機関銃陣地、そして肉片あれは腕であろうか?

何が起きているのか、それは前線部隊を見なければわからない。

 

そこでは何やら筒のような物が地面から生えている、よく見れば下の部分は板状になっていて、恐らくはそれが反動を地面に吸収させているのだと思われる。

要するに迫撃砲である。

 

この時代の迫撃砲は、所謂臼砲という臼のような形状をして、尚且分厚く重く近代戦には一切向いていない、と思われる代物であった。

しかし、ここに至っては既に第一次世界大戦のストークスモーターのものと合致する。

 

はて、ストークスモーターはこの時代には無いのである、では何故これがあるのか…それには一人の一兵のある言葉があった。

 

「砲兵は良いよな、敵を目の前にして殺し合わなくて済む。にも関わらず俺たちに支援砲撃する時は、あんまりにも遅い。そして、俺達がほしい場所に落としてくれない。そんなことなら、俺が花火でも持って、敵陣地を直接焼いたほうが効果的だ!」

 

そんな言葉をほざいていた。

それを一人の将校が、密かにも聞いていた。花火…彼の頭には花火の事でいっぱいになった。

そこで、彼はそれを兵器に転用できないかと、意見書を上申する。勿論、歩兵科の親分の所へ。

 

その意見は意外なことにスルスルと通って行った、そして砲兵科と真正面から激突したのである。

争点は、砲兵でも無い物が砲を扱うというところであった。

だが、その争論も次第に沈静化していく。それは余りにも当たり前過ぎた。

 

曲射しか行えず、山なりでお世辞にも命中精度が高いとは言えない。何より射程が短く、砲兵が扱うにしても余りにもお粗末なものだ。そして、野砲の配備状況もそれを後押しした。

情報による露西亜の兵器は、自らが配備する31年式野砲よりも高性能であるというものだ。

焦ったところで状況は改善しない、付け焼き刃であるが火力増強のためと、渋々了承された。

 

戦争が始まる前に使用用途の具体的なものを取りまとめ、それはドクトリンに加えられる。

さて、こいつが正式に配備される年代は明治30年。したがって名称はこうなった。30年式曲射歩兵砲

 

 

30年式曲射歩兵砲

ストークス式

口径 81mm

仰角 45°-75°

発射速度

毎分 6-8発

有効射程 700m

最大射程 1100m

 

 

 

さて、新兵器が部隊に齎されたがそこで一つ問題が発生した。弾薬を如何にして運ぶかと言うところであろう。

輜重科に任せれば良い、と言う意見が出るがそこに待ったがかけられる。そもそも駄馬が足りないのだ。

 

輜重科の労働環境は非常に過酷となる、最も重要な立ち位置でありながら、矢面に立たないというだけで酷使される。

そんな中、新しく弾薬を運べと、最早怒りは爆発寸前であった。しかし、一つ光明が差す。

 

小さな工場からこんな言葉が入った。「速度は出ませんが、牽引力はかなりあります使えないでしょうか?」と。

そして、件の商品が現れた。モクモクと煙を噴きながら進む姿は、まるで蒸気機関車。だがしかし、そこにレールは無く、代わりにあるのは巨大な後輪である。

 

こいつを持ってきた工場は、主に人力車を作っていたのだが、時代の流れから来る衰退に抗うべく、人力車にトラクションエンジンを搭載すると言うものを行った会社であった。 

だが、起死回生の作も買い手がなければ意味がない。そこでどこからか嗅ぎつけたのか、この輜重科への売り込みである。

 

この改造車、大きな後輪の接地圧を高めて前輪を取り付けたいわゆるトラクターのようなものである。

独自開発したこれをと、売り込みに来た訳だ。もっとも、得体のしれないもので、しかもそれなりに値段が貼る。

 

それでも腐っても輜重科、計算をしていくと、一頭の馬を育てるよりも一台のこれを買ったほうが総合的に安いものと気が付くと、商談を成立させる。

 

これが日本軍初となる自動貨車33年式輜重貨車の誕生である。後にこの会社はこの車両をガソリンエンジンに組み替えたものを開発し、ライン作業を定着させる。

更に馬車鉄は基本これに置き換わっていく、特に路面電車にある架空線を引けない場所ではこれにより置き換えられた。

 

33年式輜重貨車

 

動力

トラクション・エンジン

 

全長6m

全幅4m

全高4m

重量9tn

25馬力

最大巡航速力20km/h

 

燃料 石炭or薪

 

連結機により、専用の荷車を牽引可能。

最大牽引重量5tn

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

そんなもので、集積場へと運ばれていく砲弾、兵糧、防寒具。馬引きよりも遥かに早く、安定している。

無論、騎兵科からは良い顔をされなかった、その煙で馬が驚くからだ。だが、意外なほどに静かである。

 

日露戦争の様相はこれによって大夫、欧州各国の予想とは違うものになりつつある。

進撃速度は予想を上回り史実よりも奉天会戦は一月ほど早くなるのだった。

また、栄養失調等が幾分かマシになっており、ここまで史実の6割に抑えられている。

 

さて、会戦が始まって驚いたのは露西亜軍である。日本軍が余りにも早い展開を見せたのだ、これも輜重科の貨車によるところが大きい。

拝借されたそれは歩兵の足となり、最前線のすぐ近くまで兵員を運んでは下ろし、運んでは下ろす。

 

鉄道でない為、決まった場所しか行けないと言うこともない。裏方に回ったそれは物凄く効果的であった。

 

露西亜から見たら恐ろしいところである。

さっきまで目の前にいた敵が、いつの間にか倍の数に膨れ上がっていたり、砲撃密度が余りにも高く、機関銃陣地は瞬く間に破壊されていってしまう恐怖。

恐怖が蔓延した部隊は非常に脆く、特に旅順要塞を攻略した第三軍を前にした者たちは失禁したものもいたという。

 

そうしている内に勝敗は決した。

日本軍の損害は史実の7割、露西亜軍の損害は4割増しである。

露西亜軍は更に深くへと押し込まれていく。

それでも結局のところ、講和には至らず決着は海戦でなるのだ。

 

海戦模様はもはや語るまい、史実通りにバルチック艦隊は壊滅するのだ。天気の状況も兵の疲弊度も、まるで変わらず。

完封勝利、だがこの海戦により思わぬことが起こる。それは日本の造船の歴史に残るであろう出来事だ。

 

 

 

講和交渉、それも余り違いはない。あるとすれば日本の要求が前よりも強気であるところだろう。

実際、日本はまだ余力がある。全力を出しているが、それでも息切れする程ではない。

 

対してロシアは、現在革命の兆しが見え始めており戦争継続が困難な状況であった。それでも、意地と見栄で戦争の継続も辞さぬと返答する。

 

双方共に、表面上はやる気満々だ。もっとも仲介を行っていたアメリカから見れば、ロシア側が無理をしているように見える。

そこで、アメリカはロシアに進言した。

樺太を譲渡する代わりに、賠償金を払わないこと。

 

今のロシアには極東の小さな島など関係なく、国内の革命分子が余りにも厄介であるために意外にも、アメリカの提案はすんなりと通る。

 

 

結果的に見れば、ロシアと日本は判定勝ちで日本の勝利と言うところであった。

ヨーロッパ各国は7対3で、日本が負けると思っていたがその想定は違っていたのだ。

 

そして、やはり手を出すのは大変な国だということを、再認識(・・・)させられる事となった。

 

西暦1500年後半から世界の海運、そして傭兵として各国から知られていた、傭兵の国。

 

Horror mercenary (恐怖の傭兵)

 

その片鱗が垣間見えたと。

 

 

 




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