Mercenary Imperial Japan   作:丸亀導師

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列島を横断せよ

1996年5月

ウラジオストク空港では、国際的な行事が開かれた。世界各国の大型の空港では、この月に航空ショーを開くこととなっている。

今年はここ、ウラジオストク空港が選ばれたのだ。

 

駐機場には多種多様な古今東西様々な機体が所狭しと並んでおり、時折その中から機体が前に歩み出ては滑走路から飛び立っていく。

その中で一際注目の的となっていた2機があった。

日本大空のA-34と

 

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北畑航空のNE-3だ。

 

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この2機実は因縁があると言う、片や技術の進歩について行けず、十数年で退役した国際線機。片や国内線の主力として数十年年間改良を加えながらも飛び続けた古強者。

全く違う用途で使われたこの2機、祖父は航空機が好きだからこう言うものにわざわざ連れて来られて見せられている。

 

熱く語る姿には、まるで少年の頃を思い出すかのように目を輝かせ、時折息を荒くしている。

祖父が言うにはこの2機は、元々ベルリンオリンピックに間に合わせるために創られた、国際線機だったという。

 

A-34は、当時の航空力学と風洞実験から得られたデータによって形造られ、大凡双発機としてはかなり上等な航続距離を叩き出し、他国の航空産業を驚かせたそうだ。

幼い頃、祖父に連れられてアレの試作機に載せられたことがあったらしい。今は搭乗できないそうだから、周りの人達から見れば羨ましいだろう。

 

『懐かしい、あの機体。胴長だろ?実はアレでたった20人しか載ることが出来ないんだ。空力学的に優れた形というのは、機体をより細く空気抵抗を少なくするために、あのような形にせざる負えなかったと。

その分シートはリクライニングしたし、アレでいて予圧機能があるんだ。流石に高度1万を翔べば、耳が痛くなったりしたからそこは不完全だったんだろうな。』

 

長い話が始まりそうだ、そう言えば高祖父のあの本にもアレに対して何か書いてあったような。愚痴みたいな内容だったけど、果たして確認してみるか。

 

 

 

 

1934年5月

また、呼び出しを受けた。今度は何だと、聞き返せば遂にオリンピック用の機体が完成したのだ、試験を行うからお前見て来いと言うのだ。戦術研究科よ、自分で見て来なさいと言おうと思ったのだがそういう前に「もちろん私も行くぞ」と言われ、書類を片付けて行くことにした。

 

「家族同伴で来る事」なんて言われてもそもそも既に息子共は結納を終えて仕事に行っている。暇になる奴らではない、どうして私の日程が空いているのか計られたな…

孫達、特に末の子が今6つで、ちょうど暇なようだから私が連れて行こうと言うと、義娘はどうぞと言って私にお守りを任せた。

 

この子は少々気難しい性格ゆえ愚図らないか心配であったが、ずっと車や電車に夢中だ。

学校の授業が簡単過ぎてつまらないらしいのだが、友達もあまり見かけない事だし、少し心配でもある我儘に育っていない事だけは確かだ。

 

最新のディーゼル寝台特急車に乗り、御殿場へと向かう。そこからバスに乗り換えて演習飛行場へと到着すると、一際目立つ銀色の機体が2つの見えてくる。塗装を施されていない、無垢の飛行機。

 

『お祖父様、アレが飛行機ですか?』

 

『そうだよ、アレが新しい旅客機だ。この国の威信をかけたより良い機体であるはずだ。』

 

ほぇ〜と言っている。将来はパイロットになりたい、なんて言いそうだな。軍人にだけはなって欲しくないが、もしその間に軍人になるなんて言ったら、私はこの子を叩き斬ってでも止めてみせる。

 

『おお、これはこれは生駒少将お久しぶりです。』

 

後ろから声をかけられた

 

『桑名か?そうかお前が日大空側の開発責任者か。』

 

『そうです、どうですかこの機体は美しい流線型でしょう?これで北畑をギャフンと言わせてご覧に入れます。

そちらのお子様はお孫さんで?』

 

後ろに隠れている、この子はこんなにも社交的ではないのか。それともこれが普通なのか?

 

『こら、挨拶しなさい。そうだ、孫の俊雄だ以降よろしく頼む。』

 

『そろそろですので、私はこれで失礼します。』

 

そう言うと何処へとも行ってしまった。指定された席に付けば陸海軍のお歴々が並んでいる、その中で私だけ軍服を着ていない。浮いていると思うが、それで良いのだ。

こんな堅苦しい所では、この子も泣いてしまうからな。

 

機体を後ろにそれぞれ写真を録りいよいよ競技会が始まった、まずはそれぞれの機体のコンセプトから始まり、自ら工夫した場所等をツラツラと語っていく。

 

私の第一印象として、NE-3は前型であるNE-2の拡大発展型なのだというのが、ひと目で判別できた。キャノピーの形状と翼を少し伸ばしたようだが、その他の部分は一目では判断が難しい。恐らくは、内部構造を一新しているだろうと思われる。

 

NE-2

 

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NE-3

 

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対してA-34は葉巻のような独特な形状と、その機体に対して異様に長い胴体が特徴だ。

その機体形状から恐らくは、人員の輸送能力よりも空気抵抗を極力減らした事による、燃費の向上を意図した設計であろう。

何処と無く軍用機の雰囲気を漂わせている辺り、日本大空は軍人の設計技師達の集まりだという事が伺える。

 

A-34

 

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既に双方は実機としての試験を終え、搭乗可能ということで乗り心地で決めてもらおうと、どうやらそう言う話になっていたようだ。そこで、どちらにも依怙贔屓しない人物が必要だったのだろう、だからこそ私が選ばれたと。

 

直接的な関わりが無くて、なおかつ機体等にある程度知識があり、社会的地位の高い人間。

こんなの軍人の中を探した方が楽だったというわけだ、実際この旅客機の姿だって始めて見たからな。

 

まず最初にNE-3に搭乗すると、まあ豪華ではないもののゆったりとしたシートが目に入る。

搭乗可能人数は大凡30人程だろうか?極めて普通だ、改めてNE-2の拡大だと言うことが目に見えて明らかとなる。

 

飛行を始めると揺れの少ない良い飛行をしており、まあ旅客機なのだからと思うが高度が上昇するにつれ次第に機内の温度が下がっていく。

寒いというのが正直な感想だろう、未だに与圧技術というものが完成していないのだと言う。国内産ならばまぁまぁ我慢できるだろうが、欧州までは流石に嫌だと思うな。

 

2時間の飛行が終われば、そこから大凡一時間の休憩時間と30分の記入を行い機体の良し悪しを行う。その後、A-34へと登場する。

 

想像通り内部は狭く立って歩くには少々手狭か?いや、私の身長が高すぎるだけだ。

それでも狭い事に変わりはなく、旅客機と言うには少々難ありか?

 

それでも離陸は非常に滑らかで、騒音もNE-3よりも少なく振動もあまり無い。

振動計数に非常に神経質に作られたのだろうか?少しずつ高度が上がっていったのだが、不思議と息苦しさや寒さをあまり感じない。

 

なるほど、とこの機体には与圧装置があるのだ。どうやって作ったかは解らぬが、正に昨今の機体には無い全く新しい物だ。確かに座席の緩やかさは無いものの、そこは座席を減らすことによって補えるか?長距離の旅にはある程度通用するだろう。採算が取れるか解らぬが、どうせ高給取りしか乗れまいて。

 

そして、また戻ると休憩と総評を書かされる。

そのうちに孫は眠ってしまった、疲れたのであろうスヤスヤと寝息を立てる姿には、本当に私の孫なのだろうか?と思う程に、静かな子である。

 

その日は、それでお開きとなり最近普及したダイアル電話で、明日の夕方頃に帰宅する事を話、ここで一夜を過ごす。

次の日の夕方に帰宅すれば、大きな見出しが出された新聞が居間に置いてある。

 

《大空は誰の手に》

 

と大げさな見出しだ。もっとも、そこからが本番なのだ。双方の航続距離が本当なのか実際に飛ばしてみなければ解らぬもの。

従って荷重最大値で、それを行う。

 

結局の所2機共採用されたのだが、A-34は皮肉にもその航続距離からか軍用に転用されるも、機体設計の余裕の無さが祟り採算の取れたものではない。オリンピックには活躍したが、結局帰りは船舶へと変更になるなど、その後ろ姿はお世辞にも良くは無かった。

もうそろそろ退役と言われ、この話を書くことに決めたのだがいい思い出でもあったな。

 

ちなみにだが、島嶼部には滑走路が少ないため飛行艇が今でもよく飛び交っている。

連絡機としてはもってこいだ、これも一度行ったことがあるが正直陸上機とは勝手が違い過ぎるのか、良く解らななかった。だが、川西航空は今でも盛況であのときも非常に好評だった事を、思い出す。戦争のときは、良く使用されていた対潜哨戒で。

 

あいつと一緒に乗りたかったな…まさか、家を飛び出すと思わなかったからな。身体は大丈夫だろうか?便りが無いのは元気な証拠というが、心配だ。

 

 

 




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現在この作品が終了後、この作品の前日譚となる作品を書くべきか迷っています。
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