Mercenary Imperial Japan   作:丸亀導師

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世界大戦

1940年3月世界のあちらこちらで戦争をしていた頃、ある国際法がもはや形骸化している国際連盟から発布された。

「戦時下における中立国と交戦国との貿易の禁止条約

訳すと中交貿易禁止条約」

というものだ。

 

正直に言えばまあ、巫山戯ているような文章だ。中立国はすべての国に対して平等に扱う。つまりは、どちらにも物資を与え供給していた。それを無くして有利になるのは我々、連合軍だがそれでもこの条文は荒れるだろうと誰もが思った。

 

中立国としての立場を持っていたのはスイスだけではない、米国もまた一応の中立国としての立場があった。

勿論、鉄鋼資源などを英国に輸出していたし仏国にもまた輸出をしていたのだ値段を別にして。

 

それが出来なくなるというものは、経営を成り立たなくさせるものであったのだ。だから、米国はこの条文の一切を無視した。無視をして仏国に輸出をひたすらに続けていた。対仏貿易が国益の中心とすら言えるほどに。

 

だが、1940年5月に悲劇が起きる。輸送に従事していた船が何者かの雷撃により爆沈したのだ。

これに対する米国の声明は英国を避難するものであった。

英国は前述の条約内の規定である、「協定違反の場合の措置」を守った。撃沈されてもしょうがない、と言うところだろう。

 

実際はどうであったかは私にも解らないが、一つの言える事は英国は当時そんな潜水艦をそこへ展開していなかった。と言う事だけは確かだ。

 

確かに英国がそれを行う可能性は高い、そう対仏に対する戦闘があまり芳しくないのが要因であった。

独国は板挟みにあい、防戦で手一杯。東欧はソ連と、バルカンでのいざこざで泥沼化。

おまけに輸送は、仏領のおかげで滞っている始末。大西洋航路しか無くなり、非常に困った状況だ。

だからこそあの条文を通させたのだろう。

 

だが、だからといって攻撃するほど馬鹿ではないし、やるのなら裏で動くのが英国流であるのだ。あまりにもスマートではない為に、昨今ではやはり米国の策謀であると言われている。

今の3勢力による冷戦構造には、もはや関係のないことかも知れないが、そういう事があったとだけここに記しておこう。

 

さて、この事件の後米国はこの言葉を合い言葉に連合各国へ宣戦布告をした「リメンバー・ビスケー」と。

これに対する我々の反応は酷く冷静であった、宣戦布告を待っていたのだ。いずれこうなる事を我々は、予見していた。

 

私は直ぐ部隊の展開を行うよう指示を飛ばした。米国との国境線そして、カナダへと軍を進駐させここに世界大戦が文字通り始まったわけである。

だが最初から攻勢に出る事は勿論のこと、戦線の範囲を知ることは不可能であった。

 

何せ北米大陸は広大で更に米国はその凡そ半分を、領土にしている。攻勢するだけでも広い戦線を抱えてしまう上に、山脈を超えての攻勢には必要な山道が欠けているため、結局北部と南部からしか攻撃は、出来ない。

 

しかし、我々は攻勢に出るにはその人員が明らかに不足していた。いかに我々が戦闘に精通しているとしても、3つの大規模な戦線へ軍を同時かつ大量に配置する事は非常に難しい。経験したことのない大規模な戦線は、正直に言って私の指揮能力の限界を痛感させられるものであった。

 

米国はメキシコへも侵攻を行うも、先の戦訓からメキシコ軍は頑強な抵抗を見せ一進一退の攻防を繰り広げている。

逆にカナダは主要都市のみの防衛、つまりは、大西洋に面した都市部やハドソン湾に面した東部のみの防衛に徹することで、米国の攻勢を部分的に緩和した。

 

西部は我々に一任される形となったが、やはり部分的な山脈の途切れた場所を中心に、防衛戦を形作り攻勢を押し留める方策を取らざる負えなかった。

攻勢側である米国も戦力の大規模な移動には苦労したであろう事は容易に考え付いた。

 

北米大陸中央部は山脈からの枯れた風のせいで砂漠となっている。その土地を横断するかのように来る部隊には必ず給水が必要不可欠であるが、残念な事に我々との関係があまり良くないからか重要施設を中央部に作らなかった彼等。

最初から戦線が伸び切っている、弾薬の運搬ですら可能な道が無いのだからますます大変だったろう。

 

これ程大きな戦線は人類史上類を見ないものである、従って一つ一つに巨大な穴が出来てしまう。攻勢側も守勢側もだ、そうなるとより地形を上手く利用し、兵器をより効率よく運用して方が有利となる。

 

私はこの分野ではあまり得意なものではないと自負していたのだが、幸福な事にまだまだ米国の練度は高いものではない。

勿論我々と比較した場合というものが付くが、平押し一辺倒では戦争は始まらないのだ。

 

地の利を活かすことのできるものは、大概が守勢でありこの時もまた我々が活かすことによって数を覆していた。

最も、攻勢に出られないというところに弱みがあったが、それでもうまくやったであろう。

 

そして、もし攻勢に出る場合どのルートが良いのかというものがあった。

まず、中央部の山脈を越えての中央部殴り込み、これはリスクが大きく見返りも少ないので却下された。

次に、北部と南部の同時攻勢、これは作戦に対して人数の少なさ故に却下された。

次に、南部のみの攻勢。これは、メキシコと協力体制での攻勢となるのが特徴であったが、時期が悪かった。春先、中南米のこの地域は竜巻が良く発生する為に進軍に適していなかったのだ。

 

消去法として北部からの攻勢が企画立案され、それを実行に移した。

第1段階として後方の敵兵站集積所の偵察及び空爆。

第2段階に鉄道線への空挺降下と破壊工作。

第3段階に準備砲撃とそれに付随する装甲戦力による機動的浸透戦術。

第4段階に歩兵機動戦力による迅速なる占領。

第5段階に補給路並びに簡易鉄道線の布設である。

 

全てが上手くいくか?と言われれば不可能なもので、正直言えば絵空事だ。

私自身上手くいくなど露ほども思っていなかった、実際鉄路は布設されなかったのだから。

 

その変わりと言えばいいのだろうか?ただグダグダと続く戦闘を続けていくうちに、そこまでの鉄路が出来ていた事だろうか?

カナダ領内に、我々の鉄道路線が出来るということは即ち戦後に問題を残すことに他ならないのだ。

実際国際問題になっているのは皮肉なものだよ、私の責任だろうがな。政治的にすまないとも言えない、だからせめてここだけでも謝ろう。すまなかったと。

 

さて、これよりの戦闘で艦隊を使用した米国への攻勢が入っていないと言うものもいるだろう。

これは、米太平洋艦隊が数年前のメキシコ侵攻の折に艦隊が消滅していたという事が原因である。

また、これによる強襲揚陸は不可能な自体がある。

 

南方戦役で使用した艦艇は軒並みドック入りであるのだ、帰還途中に強烈な暴風雨に見舞われ、溶接によって建造された者たちは、大規模な損傷すらあった。

また、占領地の維持のために輸送船等を使わざる負えずそれを動かすのは不可能となった。

 

では、東太平洋艦隊艦隊を動かせるのか?と言われれば、パナマ運河を安全に通過するにはブラジル内戦を先に終わらせなければならずこれもまた、時間のかかるものである。

また、大西洋を使用するにも港が無い以上海上作戦は敢行できない。

 

結局の所、戦争を早く終わらせようなどどはなから成立しないことに労力を割くものなどいなかった。

因みにだが終戦は知っての通り1945年7月となるのだが、私の記憶は間違っていないだろう?

 

 

 

 

 

 

1998年

 

ここまで高祖父の記録を読んでいて、現在の私達の生活の中にある諸問題がこの時出来たのだなといくつか思い当たるものがあった。

三国冷戦または暗闇のマラソンと言われた、静かな技術による戦争。

 

敵基地を直接叩くべく、多くの国が独自の兵器を開発し人工衛星等の宇宙開発に注力した。

勿論、それぞれがそれぞれの形でその技術を作り上げたのはそうだろう。

 

例えば

大陸間弾道弾、一番最初に開発したのは独率いる欧州連合戦争に間に合わせるべく造られたそれは、戦後数日後の昼間打ち上げられた。

 

次に開発したのが英国連邦、欧州連合とたもとを分かち独自の路線で進めたそれは、欧州連合のそれを遥かに上回る飛翔力により、より大型の物体を打ち上げられるようになっていた。

 

一番遅れていたのが大日本帝国、なまじアジアという技術力の低い地域である。一国でその全てを賄わなければならず、英国から遅れること5年それは空を舞った。しかし、それは遥かに小型でまるで潜水艦にでも搭載するのかと言われ、実際それを初めて行った。

 

そんな技術的な争いを高祖父は、たぶん英雄としての目で見て現状を憂いていたのかもしれない。自分の無力感というものを、文字が震えているものもあった、冷戦というものがどれ程恐ろしかったのか、想像するのも大変だ。

 

今だって何故か冷戦が集結したことになっているのだから、もしかすると水面下で何かがあるのかもしれない。それが良いことならば良いのだが、何よりも不穏なのだ1980年政府間で一体何が起こったのか私達は、何も知らされていないのだから。

 

 




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