Mercenary Imperial Japan   作:丸亀導師

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南米領海戦

1941年9月

 

バルバドス島

 

英連邦に属していたこの島は、今や米国の航空基地としてその役割を担っている。

南米大陸において、我々の南米掃討軍に対して唯一の空からの戦闘を仕掛けてくるのは、数少ない彼等の機体だ。

 

今の所カリブ海は完全に奴等の手中に落ちている為に、パナマを使用してでの英国への支援は行うに行えない。

ただ、パナマ周囲の制空・海権の守備は万全であるがゆえに、だからこそそこから艦隊をカリブ海へと入れたいのだが、大和が問題だ。

 

そこで、ブラジルを南回りに回ったのは良いものの大規模な艦隊を整備可能な港湾が少なすぎるのが問題になっている。

特に大和型が問題だ、吃水が深くあのままではまともな港湾にたどり着けない。

そこで、水郷県(ガイアナ)までの道のりを給油艦帯同のもと進めせることとなり、現在水郷県に駐留している。

 

艦隊としてはそれ程大規模なものではない、

 

戦艦2

 

巡洋艦2

 

駆逐艦8

 

の編成であったが全く危険な道のりではないようである。

それはそうだろう、制空権は我等に有りと言うのが我々の基本方針であるが故に取られないのが大前提だ。

 

 

さて、バルバドス島の攻略であるが戦略上通らずにはいられないであろう。

実際のところ、偵察もまともに行えない現状どのような戦力が駐留しているか検討もつかない。

 

戦艦による陸上構造物に対する艦砲射撃を行うのが望ましいと考えているが実行に移すかどうか。戦力も抽出しなければならないし、どこから戦力を持ってくればいいのか…一体誰がこんな大将軍なんてものを作ったのか。今の時代には実にそぐわない、手が足りんよ。

 

 

1941年10月

 

本国からの連絡があり、戦力の拡充が行われた。全体でおおよそ一個軍団と本国の艦隊の大凡3割がこちらへと派遣されてきた。なんとも、大げさなほどであるが米国艦隊を相手にするには些か少ない。米国は現在グリーンランドをその手中におさめている。

 

その為、カナダが降るのは時間の問題であるため一刻も早く、本格的な攻勢に出ろと煩く言われた。

政治の問題というものはつくづくこちらの足を引っ張ろうとするものか。

 

既にカナダの亡命政府は我々の方面にいるのだ、今更東部を占領したとて寧ろ好都合。その間に、攻勢を始めてやろう。

各部隊戦力が整い次第、次の防戦後逆襲する事となっている。後は追い越し殲滅するのみである、機械化した部隊の燃料は無尽蔵に送られてくるというのは良いものだ。何も考えずに済む。

 

 

1941年11月

 

米国による4度目の大攻勢、前回の反省をしたのか航空戦力を充実させたらしい。こちらの航空戦力といい勝負をしていたようだ。もっとも、前回の反省はそこまでのようだ練度が足りていない。

 

歩兵の動きも前よりも鈍く、どちらかと言えば訓練不足が垣間見える。どうやら、人的資源が枯渇してきたのだろうだが逆に装甲戦力は見違えている。

 

M4とか言う新型の戦車が確認された、機動力もこちらに劣らず寧ろ装甲では向こうが上か?だが、背が高いせいかよく破壊されている事を耳にする。

既に攻勢を開始した北米南部方面軍はメキシコ国境へと突撃するかの如く向かっている。

メキシコと陸路で繋がれば、米国は戦線の拡大を無視できないだろう。

 

同時に海軍陸戦隊をバルバドス島へと派遣することが決定された、これにより派遣された艦隊を動員しての攻略戦を行える。

まったく、このままでは情報過多で私の処理能力を上回りそうだ、全ての戦線の面倒など見きれぬぞ?やはりその場その場での、指揮官の指名がもっとも楽だなと独りごちる私がいる。

 

 

1941年12月

バルバドス島攻略が開始されるが、なにも無理に落とす必要はないようだ。

基地の規模が数週間前に海底ケーブルを介して、なんと写真が送られてきた。電気信号を使ったファックスなるものらしいが、便利なものだ。

 

戦略偵察機によると、航空基地としての規模はそれなりのようだが、自活出来るようなものでもない。

貯水槽を破壊すればあっという間に水に困ること請負だ、なにより住民をどこへやっているのかと言えば、そのまま住居に押し込んでいるようで、こちらからはあまり攻撃をさせたくないようだ。

 

ならばと、潜水艦と駆逐、巡洋艦による水攻めが好ましい。既に数回の空爆によって、滑走路は破壊されているし貯水槽もまたバラバラだ。

その事から長くても一月、と言うところだろう。もしも、住民に手を出せばそれでお終いだ、基地の規模から数千人がやっとなのに1万程の人口を抑えられるか?無理だ。

 

食うものに困った者たちは略奪を始めるだろう、それを征する武力を持った少数が彼等を止めようとすれば、必ず武力を行使せざる負えず。従って我々は、攻略せずもはや体制は決しつつある本大戦に、無理な出血は意味のないものだ。たとえ外道と罵られようとも、勝ってしまえば良いのだから。

 

ふとそこまで考えたあたりで、情報が入ってきた。バルバドス島が降伏した、思わず手を握る。

こんなにも上手くいくのは久し振りだ、だが米軍が救援に駆けつけないのは不可解だ、いや戦略上の放棄だろうか?

戦力の温存か、確かに艦隊が出張ってこないのは色々と困るな。

 

 

 

 

2000年10月

 

私やその他の研究者による南方戦役の調査は大凡2年という間に終わり、私は論文に名を連ね晴れて研究者の一人として歩み始めた。大学から大学院へと行かないかと言われたあたり、私は喜んでそれを承諾した。

学びながら給料も貰えるだから、大学院に誘われるものは殆ど断らない。そんな事が一段落あった頃、一つの事柄を耳にした。

 

とある古戦場の映画を撮るという事だ。場所はバルバドス島、島民たちにとっては史上最悪の出来事、『飢餓の刑』と呼ばれる出来事の話だそうだ。それの協力をと、私は頼まれた。

何故あの古戦場が『飢餓の刑』と呼ばれているのか、それを調べ始めると高祖父の手記にそれの本当の意味が解った。

島民たち当時の生き残りの人々の記憶、それには深い深い傷が残っていたことに。

 

高祖父は勝つために、あらゆる手段を模索して戦争を行い、たとえどんな手段を使用してでも戦争に勝利しようとする。非情な面を抱えた軍人だった。いや、どちらかと言えばもしかすると高祖父の世代の軍人には、このような性格の人物が多数いたその可能性が多く見られる。特に、この戦闘に対して賛否が全く出ずに即座に決行されていたあたり、集団としてそのような傾向があったのだ。

 

さて、ここ数年の間に、前大戦の被害者等の証言をもとに作られた映像などが一つの流行を生み、地上波では大々的にこのような映画やドキュメンタリーが撮影されたりしている。

その中には連合国の行ったことも、勿論洗い浚い出されていてある意味、現在の国際的な問題になっている。

 

国家の威信だとか、連合国の行った非道だとかそういうのを嫌う人達は山ほどいる。

それは、現在の社会に不満を持っている人々であり当時の負けた側の主張を丸呑みする者もいる。

 

だが、そんな主張をする人々に私は映画を撮影するとき合点がいくように、この真実を丸ごとやっても良いものだろうか?

言ってはなんだが、彼等は非常に暴力的で現行の秩序を暴力で変えようとする、暴力革命思想の持ち主たちだ。

 

だからこそ、私はこの映画を作るのならば片方のイデオロギーのみを入れるべきではないと主張するつもりだ。もしそうなれば、彼等の暴力性は更に激化するだろうし、逆に少な過ぎればそれもまた激化する。非常に困ったものである。

 

それ故に、私は手を抜くわけには行かない高祖父の数ある資料の全てを総動員しなければならないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いつもお読み頂きありがとうございます。最近、私個人のモチベーションが下がっており、投稿が不安定になっております。
ですので、2週間に一話だとか、そう言うのが増えるかもしれません。

誤字、感想、評価等宜しくお願いします。

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