Mercenary Imperial Japan 作:丸亀導師
なんかモチベーション下がってます。
1943年6月
俺がその塹壕へと侵入し、ソ連人と組み合うとそのソ連人の腕がポキリと小気味良い音を立ててへし折れる。
何事か?と、首を捻れば何とも脛の骨が足から飛び出ているではないか。
ギョッとして目を剥くと、あちらこちらでそれと同じような現象が巻き起こりふと敵を見れば、目は虚ろで頬は痩け歯はボロボロとしている。
そして、それを冷静に見るに塹壕のあちらこちらでそんな死体が散乱しそこに蛆が涌いていた。
蝿がたかり、それぞれの死体は真っ黒に彩られその光景はまさに地獄のようであった。
しかし、それはあくまで俺の目の前だけにあったように当時の俺には感じられた。そして俺は、その死体に向け剣を突き刺し見るも無惨に切り刻んだ。もはや決して生きている筈のない、それを。
ここはモスクワ、革命によって多くの血が流れた悲劇的なこの場所も、今となっては瓦礫の山か。
嘗てあったであろうモスクも、教会も何もかもが破壊し尽くされ見る影もない。それでも、赤軍は抵抗を続ける。
あぁ見ろ、今部隊の人間の頭が吹き飛び脳飛沫があたりを染める…俺はいったいなんの為にここにいるのか。
故郷のバイエルンが恋しい、何故東部戦線等にいるのかこんな、こんなところなら西部戦線の方が良かったのに。それでも、今日も生き残れたことに安堵する。
俺の隊は連合国混成特別旅団、多数の国々の人間が集まって作られた何かよく解らない組織だ。
『おい、大丈夫か?』
エスペラント語で話しかけてくるのは、俺の直の上司。生駒 和義と言う、日本人の大尉殿だ。
『大丈夫じゃない、大問題だ。』
『そうか、なら大丈夫だな』
軽口をよく叩くそんな奴だ、軍人特に中隊長としての腕としてはかなりなものだと思う。何事にも模範的で、何より最低限の犠牲で俺達を導いてくれるのだ。
頼もしい隊長さんだ。
『敵は後退して体勢を立て直しているみたいだ、地の利が向こうにあるのは確実だからな。内部分裂して抗争しているとはいえ、どちらを信用して良いのやら。』
『撃ってきた相手を撃つだけですよ、それより煙草をいただけませんか。少しだけ休憩がしたいです。』
中隊の小隊員も集まってきて、人数がますます増え周囲の警戒を強めているとき声が聞こえた。女の声だ、ロシア語で助けを呼んでやがるが、良くある手だ。大方女兵士だろう、この手で何人の兵士が死んだ事か。
『なあ大尉、あんたの親父さんならこの戦況をどう打開する?』
『ああ?あの怪物なら、街そのものを地図から消し去ろうとするんじゃないか?犠牲を少なくするためなら、やりかねない。
最善手だと言ってね。さ、休憩は終わりだ行くぞ。』
塹壕を抜けた先、瓦礫だらけの街を進む。
焦げたような煤けた色の街並みは、嘗ての繁栄を伺い知れるものもなく、ただただ生き物の気配もなにもないそんな、灰に包まれた世界。
時折あるのは、殺し合ったと思われるソ連軍服と平民服の死体。
ああ、きっと粛清とそれに対する反感がそれをさせたのだと理解しつつも、こんな守るべき者を殺して軍人は何になるというのだろうか?
隊で固まりつつも、上部の警戒をしながらひたすらに前進を続けると、広場に到着する。
通称『赤の広場』、そう呼ばれた場所には夥しい数の死体が山のように積み上げられ、死体の服には一様に『Контрреволюционный』と書かれたものが着せられていた。
死体の中には女・子供までいるのだ、反対するものを家族諸共皆殺しにしたのだろう事は、容易に解る。
これが、共産主義の成れの果てか、はたまた限界に突入した国家というものは統制のために、こうもなるのだろうか?
いや、俺が少年であった頃に聞いた世界大戦とは嫌というほどに違い、こんな馬鹿みたいなことをするのが人だと言うことを拒みたくもある。
だが、逆にこういう事を阻止しようと動く者たちもいるのだ。
例えば、現在共産党は2つに分裂しているという片方は、連合国の降伏文書を受け入れる者たち(以後新ロシア)。
片方は、徹底抗戦を掲げる者たち(以後ソ連)。
そして、戦争は既に次の段階に移行している。俺達、通称国連軍の仕事は、内戦に介入し新ロシアを支援する事。
つまりはあえて国際連盟としての紛争解決の一貫という建前で、戦後処理を済ませようとしていたのだ。
ソ連はこの時点で穴だらけの虫食いだらけ、木という体をなさず。
東からは正統ロシアを掲げるロマノヴァ大公国軍が押し寄せてきている為に、彼等は焦っている。何故かって?ここの民衆は皇帝派ではないからだ。
もしもロマノヴァが来ても、徹底抗戦するのは間違いない。
それはさておき、いい加減まともな標識を用意してほしいものだ。これまで遭遇した連中が誤射によって、死んだなんて笑えない事が出てきているのだから。
2000年7月
今年ロマノヴァ大公国とロシア連邦の間で、とある取り決めがなされた。
それは、互いの国境線において設置されている常備軍の順次撤退、と言うものだ。
世紀末に入ってからというもの、次々と両国間の関係改善を行っているのが今時両政権。
これが出来るのも、世間一般的に言えば世代交代の為せる技とかそういう所だ。
両国の軋轢は基本的に共産派と王党派とも言える構造から、2つの国家へと分裂した。
互いが互いを見下し、罵りあって競争するかのように片や欧州へ擦り寄り、片や大日本帝国へと最接近した。
第三次世界大戦がもし起こるのであれば真っ先にぶつかり合うと言われた2国。
ちなみに、ロシア連邦の構成国は殆どがソ連の当時のままの国名であるから、相当ロマノヴァを嫌っていたらしい。
特に最後の攻防とも呼ばれた、モスクワ攻囲戦後。各国の軍隊はそこで足を止め、ソ連の内戦の行くべきようにただただ睨みを効かせていた。
そして、当時の連合国の参加国には停戦命令が出ていたようであるのだが、ロマノヴァはそれを無視して侵攻を続けた。
その点がロシア連邦との軋轢を産んだのだろう。
それがよくえがかれているのが、ノンフィクション作家であるロバート・デニール氏の著書、『モスクワの夜』という体験を元にした作品だ。是非読んでもらいたい。
さて、私がなぜこんな事を書いているのかといえば、やはりロマノヴァとロシアの間での軍の撤退以外何者でもない。
ロマノヴァ関係者として、結構ニュースで取り上げられているのだ。
正直嫌だ、そんなに目立ちたくないそれに私の研究分野とは少し違うのだから詳しくはないのに。
だから私は抗議しよう、私にそんなことを聞くなと。
聞くのなら私の祖父か、大伯父に聞いてくれと。だって、この作戦に参加したのは、二人の父親である私の曾祖父なのだから。
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