Mercenary Imperial Japan   作:丸亀導師

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遺骨無き墓

墓というものは現代で一般的には、そこには火葬されれば骨が、土葬されれば朽ちる肉体が土の中に埋められるものだ。

だが、例外として戦地に赴き失意のまま息を引き取りそして行方の知らぬ骨というものがある。

基本的に、そう言った墓には骨が入っておらず何かしらの遺品があったりするものだ。

 

私は今、高祖父の墓の前にいる。立派な墓だ、土葬ではなく火葬であるからこんなに大きくする必要はないのだが、何やら高祖父の元部下だとか言う偉い議員たちの手によって、そんな墓が建てられたという。実にありがた迷惑な話だろう。

 

私がなぜ、こんなところに来ているのか。それは、祖父に呼ばれたからと言うところだ。

私は前に、軍人としての高祖父を研究テーマにしていた事があった。実際に研究をしていたのだが、途中でその消息が忽然と掴めなくなった。手記にも載っていない、彼の部下だったという人を当たってもわからなかった。

 

そこから、研究テーマを1から練り直し現在では一応の世界歴史学者の一人として、大学に勤めている。

そんな私は、この目の前に鎮座する嘗ての研究対象である人物の墓にいったい何があると言うのか。

 

線香を焚いて手を合わせていると、後ろから人の声が聞こえてくる。見知らぬ人達だ、歳格好背格好は私と同じくらいか向こうのほうが少し上。髪色も烏の濡羽色とでも言えるような、髪は肩まであるようなそんな女性。

 

彼女をまえにしたとき、祖父から彼女を紹介された。どうやら私の再従姉妹に当たるらしい、今まであった事がないのが不思議だが、祖父の人間関係上どうやらそこで揉め事があったようだ。

彼女は祖父の2つ上の姉の家系らしい。 

 

それと同時にどうやら、この墓の管理者でもある。つまりは、この寺の住職の娘ということになるわけだ。

祖父が彼女に依頼したことは、単純な事であり難しいことである。それは、この墓の中身を見せて欲しいと言うところだ。

 

それを住職は快く受け入れているようで、彼女が監視人としてここに来たと同時に私との初めましての挨拶をしに来たようでもある。

そこで、墓の中を見せてもらった。骨壷がいくつか並んでいる中で、一つだけ異様を見せつけられている。

 

蓋が閉じていない、そして中には何も入っていない。その骨壷には名前が彫ってあり、生駒 徳久 と読める。

つまりは、骨が何一つ入っていないのだ。どういう事か、高祖父は戦後日本の地で骨を埋めたのではないのだろうか?祖父の話は偽りだったのかと。

 

そうでもないようだ。高祖父が死んだ年齢は76と言われているのだが、実際これは高祖父が失踪してからというのが正しいようだ。祖父がロマノヴァへ逃げるように移住してから二年後の事で、葬式の概要もあまり良く知られていない時だったのだ。

 

それでも、どうしてこんなにも時が経って言う事にしたのか、それは政治的なものが絡んでくるらしい。当時の冷戦下、英雄が突然失踪したなんてものが流れたら、軍としては嫌なことがあったのだろう事は想像に難しくない。だとするならばいったいどこへ行ったのだろうか?

 

そう思ったとき、祖父と再従姉妹の彼女から依頼をされた。高祖父の足跡を辿って欲しいと言う事だ。私には別の研究があるから、暇な時になってしまうが。という事を言って了承してもらったが、果たして私が目をつけたのは世界の内戦を記した手記だ。

これを書いた人ならば、当時どこで日本人が多くいたのかがわかる筈だ。

 

と、そうだとすれば善は急げと言ったところでマッタがかかった。他愛のないことだが、再従姉妹の彼女が私と話をしたいと言い出したのだ。まあ、別に悪いことでもないので了承したのだ。

 

彼女の話の内容は、許嫁の事だった。私には到底関係のないものだが、もしも祖父がロマノヴァに行かなければ私もこうなっていたに違いない。

どうやら、彼女は既に婚約まで進んでおりあと2ヶ月もすれば結婚をするのだという。

 

私ももう27なのだから少しは浮ついた話をしたいのだが、私の周りにはそんな人誰もいない。そんな事を話したら、逆に羨ましがられた。自由な恋愛を行える私の環境、自由な職に付けると言う事の偉大さを改めて感じると共に、彼女に同情した。

 

同情こそすれ結局それに対して反証とかそういう事をすることは、私には出来ない。だってそれは他人の家のことだから、だから自分で解決しなければならない事。だから、彼女に言った。

『貴女が動かなければ何も始まらない、何かを学びたいのならば正直に告げてみればどうだろうか?』

 

そう言うも、それは無理だと言われた。それでは何も変わらない、それこそ自分で道を開くことができなければ前に進むことさえ出来ない。それを彼女はわかっていないのか、解っていても雁字搦めに絡め取られて出来ないのか。それでも、私からの助言はそれだけしか出来ないというと、わかってくれたのかそこで話は切り上げた。

 

後日聞いた話であるが、彼女はその後直談判したらしく許嫁との結婚はすれど、勉学は続けても良い事になったようだ。それがどういう道になるのかは当人たちの問題だ。ともかく、私は自分の研究を続けつつ高祖父の事を調べ始めた。

 

 

 




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