魔法使いの旅々   作:どこにでもいる名無し

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 今回ある意味国の話じゃない。


とある流浪の料理人の話

「よくぞ来てくださいました魔女様!ささ、どうぞこちらへ」

 

「え、ちょっと待ってください。急になんなんですか」

 

 現在、私は夕暮れで夜に近くなっていたので道すがら通りがかった国の宿に泊まろうとしていました。入国した国の中で二人組の女性に捕まり、今こうして料理店と思わしき店に連れて行かれるところでした。

 その気になれば引き剥がすことも可能ですが、わざわざそこまでする必要はないのでされるがままにされていました。

 見たところ、この国の人たちはコックを思わせる装いをしていています。と言うより間違いなく料理人でしょうね。

 

「魔女様が作る料理に興味があります!作ったら食べられますよ?勿論!使う食材は全て私たちが責任を持ちますのでタダで提供しますよ」

 

「…ほう、それは本当ですか?」

 

 どうやら、この国は料理を重んじる習慣がある模様。とりあえず料理の国とでも呼ばせてもらいましょうか。理由はよくわかりませんが、魔女である私に料理を作ってもらいたいらしく、現在進行形で熱烈な歓迎をされていました。

 

 国に入った途端、急にグイグイ来て失礼な国だなと思っていましたが、中々美味しい話が転がり込んできて私は一気にやる気になりました。元々料理は得意な方です。昔お世話になった師匠の所で作っていた頃があるのでその恩恵でしょう。

 ここは美味しい話に乗って美味しい料理にありつくとしましょう。料理だけに、なんちゃって。

 

「本当も本当!大本当ですよ!!」

 

「語呂が合ってませんが、わかりました。その話乗らせてもらいます」

 

 さて、ここで問題です。

 灰色の髪を靡かせ、その相貌を覗けばあまりの美貌に見る者は腰砕けに、二度見を禁じ終えない完璧な容姿を持って店に入れば全員が注目するであろう美少女は一体誰でしょう?

 

 そう、私です。

 

 ▼▼▼

 

「…なんだここ」

 

 たまたま通りすがった国に入国した俺は開始早々訳がわからない状況に困惑して立ち止まってしまった。だがしょうがないと思う。

 だって目の前の光景には…大勢の人々がコック棒を被り修道服みたいな格好で何かを為祀っているんだから。

 

 いや。

 

 ほんとどんな光景だよ。訳わからなさすぎて見た時声出しちまったわ。でもわかったぞ。

 これアレだ。

 日本にもあった祭りだ。

 なるほどなー、この世界にも祭の文化はあるのか。いや、まじゅ…魔法なんてあるんだから大事の掃除なんて簡単だし、それもそうなのかもしれない。

 にしても随分と奇抜な格好だな。中央には一体何があるんだろうか。

 

「あーと、すみません。今って何をしてるんですかね?」

 

 とりあえず、近くにいた20後半位の男性に聞いてみるとしよう。

 

「ん?見ない顔だな、旅人かな?」

 

「(質問を質問で返すなよ…)…そうですね、旅人です。魔法使いやってます」

 

「そうかそうか!いや何、今ね、魔女達が料理を作って競ってるところなんだよ」

 

 料理。

 まさかの料理。

 こんな何処かの宗教団体みたいな格好した連中がやってる事がまさかの料理を見てるだけ。

 祭りでも何でもなかった。なんか恥ずかしい。

 

 現在進行形で心の内に羞恥心を抱いた俺を他所に男性は何やら上機嫌に。

 

「実はね、この催しで優勝した人の料理はこの国の伝統として残されるんだよ。まぁ言う所のメニューになる感じかな」

 

 魔女の料理。確かにその名前で出されたらインパクトもあるだろう。きっとこの国を通る人がその名前を聞いたら興味も湧くだろう。それほどこの世界にとって魔女という存在は大きいのだ。

 ちなみに俺は出ない。まず俺魔女じゃないし、料理は出来るけどせいぜい元の世界にいた赤髪の少年と肩を並べれるくらいだ。まぁ、あいつの方が腕はいいんだけどな。

 

 しかし興味が無い訳ではない。一体どんな人がどんな料理を作ってるのかとか、どれくらい美味いんだとか、色々気になる。何だったらその料理を見て学ぶ事だってあるかもしれない。

 まぁ、アイツより美味い料理作る人なんてこの世界にいるとは思えないけどな。なんたって味に温かさがあるからなー士郎は。

 

 俺は人混みをかき分けて、魔女たちが料理をしてるであろう場所まで向かう。着いたらそこはまぁなんとも魔女たちが手際良く品を作っている最中だった。

 

 そろそろ終盤に差し掛かった頃だろう。かなりの品が作られ観客も涎を垂らしている。あ、そこでその調味料使うのね。

 そこには知人がいて、あの人も料理できたんだなーと感心したりしてたのは心の中の話。あ、待って待ってそこでそれ使うよりあっちの食材使ったほうがコク出るぞ。

 

 ……ああもうだめだ。

 俺もめちゃくちゃ料理したくなってきた。よーし、そうなったら行動するが吉だな。食材は…まぁ、なんとでもなるはずだ。

 

 ▼▼▼

 

 茜色の日が辺りを照らす夕暮れ。私ことイレイナはある出来事に対してなんとも言えない顔になっていました。

 原因はアレ。

 

『今回の優勝者は〜!名だたる魔女を押し退けて、独自の料理を魅せてくれた魔法使い「ユウヤ」!!』

 

『いえいいえーい』

 

 うるさいわ。違いました。やかましいわ。

 気がつくといつの間にかそこにいる存在に私は内心辟易しながらその時を過ごしました。

 

 そして、今はそんなゴタゴタが終わった後のこと。

 私()は人気のないレストランに赴いていました。日の当たるすみっこのテーブルでコーヒーを頼み、その味をこの国の思い出を振り返りながら楽しみました。

 

「…美味いな、ここのコーヒー。しっかり深みがある」

 

「おや、わかる口でしたか。私はてっきり飲めないと思ってましたよ」

 

「遠回しにお子様扱いするのはやめてくれ。こう見えてじじいなんだ。これくらい飲める」

 

 私との会話はしっかり受け答えしていますが、飲んでいるコーヒーに集中したいのか目を瞑り、その味を堪能していました。その姿勢はえらく様になっていて、…いいえ、見惚れていたなんて思いません。絶対にそんな事ありませんから。

 

「それにしても、イレイナさん料理出来たんだな」

 

「指導者が料理できない方だったので、やってる内にできるようになりました」

 

「ほー、世話になったとなると先立の魔女か。さぞかしボコされたんだろうな。ほら、イレイナさんって結構驕り高ぶりがあるタイプだろうから、昔はもっと酷かったんだろ?」

 

 しばき倒してやりましょうかこの野郎。

 内心少し不機嫌になった私は咳払いをして気持ちを整えます。どんな挑発でもすぐには乗らない、流石私。

 と言っても、彼自身そんな気は無いのでしょうけど。

 

「そんなことはどうでもいいんです。それにしても何だったんですかあの料理。見たことない物ばかりでしたよ」

 

「ん?ああ、あれか。何、故郷の料理を振る舞っただけだよ。たこ焼きだとか、寿司だとか、こっちだと斬新だと思ったからさ」

 

「へぇ…そんな国があるんですね。近いうちに行ってみましょうかね」

 

「あー、うん。行ければいいな」

 

「?」

 

 ユウヤさんはその時だけ目を逸らし、どこか他人行儀な反応を見せました。何かまずいことでもあるのでしょうか。

 ただ、いつも通りの真顔でもわかるくらい不自然な動きをしていました。

 

「…なぁ、ちょっと意味のわからない話をするけど…いいか?」

 

 何かスイッチが入ったのか、急に私と目線を合わせ、何か大事な話をするかのように言い聞かせる様子で話してきました。

 

「…いいですよ。どうせ嫌ですと言っても聞かせてくるでしょうし」

 

 そんな彼とは別にぶっきらぼうに返答する私でした。

 

「じゃあ話させてもらうけど…イレイナさんは()()()()とかあったらどう思う?」

 

「並行世界…ですか」

 

「そう、一人ひとりがそれぞれ違う挙動をしていて、確かにその人だけど性格が違っていたり、境遇が違ったりする。…そんなモノをイレイナさんはどう思う」

 

「…結論から言わせてもらうと、信じてはいます。でも、それに対して何を思ったことは一度もありません。ここはここ、よそはよそ、それでいいと思いますよ」

 

「…そうか。じゃあ仮にもしこうやって話してる相手が俺じゃなくて他の誰かとかだったら…どうする?」

 

「何ですかそれ?」

 

「簡単な話さ。違う出会いで俺じゃない誰かがこうやってイレイナさんと雑談を楽しんでる…例えば、どっかの誰かさんが、それこそ別の場所から不慮の事故とか何かで偶然こっちまで送られてきた人がイレイナさんの幼馴染やってたり、その世界では生まれ出ることはないはずの生命がイレイナさんとイチャコラしてたり、いろんな可能性があるってこと」

 

「イチャコラとかやめてください。顔も見たことない人とそんな運命があるとか嫌です」

 

「ハハハ、あいも変わらず辛辣なイレイナさんで何より」

 

 少し、ほんの一瞬でしかその変化は見れませんでしたが、ユウヤさんは確かに笑っていました。そこには二種類の感情が含まれていて、儚い笑顔と優しい微笑み…そんな矛盾したような雰囲気が彼から発せられて、私は頭ではなく、心の中で理解しました。

 

 …ほんと、不思議な人ですね。

 

「…自然と、理解しました」

 

「ん?何が」

 

「…言葉では言い表すことができない目の前の存在に…ですよ」

 

「なんだそりゃ」

 

 この後も私たちは他愛もない話をしていました。私がこれまで体験した旅の話を少し膨らませて話したり、ちょっとユウヤさんを弄んで楽しんだり、その日が夜になるまで私たちは共にいました。

 

 きっと、彼はこの世界の住人ではないのでしょう。あの並行世界の話をしていた彼は冗談めかしてふざけてはいましたが、その雰囲気から発する感情の波は複雑に感じられて、…とりあえず、ユウヤさんは嘘を吐くのが下手な方でした。

 

 彼の…ユウヤさんの旅は続きます。




 ユウヤ「(うーん、このカッティングも中々…それにしてもこの世界女性人口多すぎるせいでそういう人種見つけるの簡単だな。…まぁいいや、旅楽しもう)」

 どこまでも投げやりなユウヤに対してイレイナさんは。

 イレイナ「(彼はこの世界の人じゃなくて…いやでもそんなことあります…?でも、並行世界とかなんか言ってますし…ああもう!なんで私がこんなに考えないといけないんですか!)」

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